数年前の出来事
深夜の公園、お笑い芸人を目指して一人練習していた柵木滝斗は奇妙な声を聞いた。
女性が一人で漫才の練習をしているらしかった。
だが、その内容が凄かった。言葉のセンス、テンポそしてギャグの掘り下げがとんでもなく素晴らしかったのだ。
「お笑いの天才が現れたぞ…!」
滝斗はその透き通るような声に引き寄せられるように走った。
そして、廃ビル「菊池ビル」の屋上に誰かが立っているのを見つけた。声の発生源はその人物らしい。
美しい声でギャグを連発していたのは声に負けないほどに美しい少女だった。一瞬だけ髪が緑に輝いたような気がするが、その光はすぐに消えた。
「リレリウム人なのか?でも支配者の彼等がこんなところに居るわけないし…」
何より彼女には体の縞模様が無かった。髪の色も元に戻っている。
月明かりに照らされながらギャグを繰り出す彼女はファンタジーな絵画から飛び出した女神のようであった。
彼女はビルの下から見つめる滝斗に気づくと驚いて逃げ出してしまった。素晴らしいギャグの数々は中断された。
「なんて素晴らしい才能なのだろう。また会いたい…会って彼女と共にお笑いの道を進んでいこう!」
滝斗の決心はそれから数年後、見事に達成される。