喧嘩
「え?ナニコレェ」
みえの右腕が切断されていた。M19を握ったままの手がロケットみたいに飛んでいき、銃口が徳四郎の口にねじりこまれた。
「ムググーッ!」バアン!「うぎゃ!」
銃が口の中で暴発した。徳四郎の頬が大きく膨れ上がって白い煙を吐き散らす。
だが、それでも即死はしなかった。この後すぐにみえと共に死ぬことになったが。
「ぎゃああああ!」
休憩所のテーブルには牛肉を赤ワインで煮込んだ料理とお茶が並んでいた。施設内にあった非常食の物を克政が開封し、調理したのだ。
見た目は非常食らしくなく、香りも良かった。
やってきた人物に食べてもらうために綺麗にセッティングされたそれには克政の支給品の青酸カリが入っている。
克政はメンバーを騙して毒入りの非常食を食べさせるつもりなのだ。滝斗以外には全く信用されていないとも気づかずに。
案の定、殺人者から逃げるために休憩所に逃げ込んできたオトミがそれを口にすることはなかった。
いかにも「食べてください」と言わんばかりに並べられた料理に疑いを持ったからではない。彼女は姿を隠すのも忘れて居合わせた克政に口汚く文句を言い始めたからだ。
徳四郎を射殺した(それは正確には違うのだが)ばかりのみえが追ってくるかもしれないのに。それも大声で早口で。
「大体私達がこんなゲームに選ばれたのはお前が反魔法技術同盟の女とヤったからだろ!」
克政も負けてはいない。
「あの女の事を嫁にばらすと脅迫しておいて今更何を言うか!何度も金をせびりやがって!お前が言える立場か!」
「脅迫されるような事を散々やってきたお前が悪い!叩けばホコリが出るようなお前を脅して何が悪い!」
「悪事をネタにかすめとる一番汚いお前に言われたくねえよ、このゲームに選ばれたのもお前の態度が悪すぎるからだろ!このクソ女!」
「お前の方が汚い!ファンのメスガキを食い物にして自殺にまで追い込んだ外道が生意気な口をきくなよ」
オトミは上着の内側に隠し持っていた写真を取り出して、ぶちまけた。
それは克政に人生を振り回されたあげくに飛び降り自殺した少女の写真だった。克政とのデートの隠し撮り写真だけでなく、ビルから落ちていく場面それから地面に叩きつけられた遺体の写真すらもある。
オトミはその少女が自殺するのをわざと止めず、真っ先に死体を撮影しに行ったのだ。
「弱味を握るために目の前で人が死ぬのをじっと観察してたのか…」
克政は彼女の性格の汚さに恐ろしくなり、顔面蒼白になった。
しかし、その少女が自殺するまで追い詰められたのは全て克政のせいである。それをまるで自分と無関係の人が死んだかのような態度で絶句している克政も性格がネジ曲がっている。
少女の自殺に対する罪悪感がまるでなかった。
そこまで言った時、休憩所の扉が乱暴に開いた。
オトミだけはみえが殺しにやって来たのかと思い、身構えた。しかし扉の向こうに立っているのは由加里だったので、ほっとした。
由加里は外でずっと二人のおぞましい喧嘩を聞いていたらしかった。