真っ先に発砲したのは…
みえの前にも武器の入った鞄が投下される。
みえはそれを取ろうとして気づく。今日履いている靴が歩きやすいと評判のモリエンテスの靴だったから良かったものの、ヒールの高い靴だったらいざという時に逃げられなかったかも…。
みえは履き心地のいい靴に感謝をした。無意識のうちに仲間が殺しに来る前提で思考しているのには気づいていない。
みえは、まず休憩所の様な所にこもって体力の消費を抑えようと考えた。鞄から武器を取り出す。
M19コンバットマグナムが姿を現した。日本ではまず見かけない武器だった。
ちょうどM19に弾丸を込め終えた時、遠くに誰かの姿が見えたのですぐそばの柱に隠れた。
徳四郎だった。彼はみえと同じく休憩所を目指しているらしかった。
まずい、このままでは奴と鉢合わせになる。
みえが徳四郎を奴呼ばわりするのにはきちんと理由があった。
みえは徳四郎の中に邪悪なものを見ていた。証拠は全く無い。とにかく「善人で信用出来るリーダー」の皮を被った化け物と認識していた。
それならさっさとグループから出て行けばいいのだが、そうしなかった。
逃げだせば徳四郎は確実に自分を潰しに来るだろう、という恐怖があったからだ。オトミもただでは済まさないに決まっている。
徳四郎はみえを恐怖で押さえつけ、指揮下に置いている。
みえはずっと逃げられないまま、お笑いグループの一員として嫌々過ごしていた。
それは誰も知らない、熱心なファンもメンバーも。元凶である徳四郎ですら気付いていない。
徳四郎は周囲を警戒しながら歩いている。手には支給武器のマジックウォンド。よく手品で使われる、両端に白いカバーを付けた黒の短いステッキだ。
こんな物が武器になるものか、リレリウム人みたいに魔法でも使う気か。
みえは自分でも驚くほど冷酷になった。ガラ空きの背中にM19コンバットマグナムを向ける。
元から暗殺者だったかのようだ。引き金を引く。
だがどうやら銃の腕は暗殺者とはほど遠かったようだ。
狙いの心臓では無く、右ふとももに着弾した。
「ぎゃーっ!」
あの完璧なリーダーが悲鳴を上げて崩れ落ちる。彼が手にしていたマジックウォンドは飛び、集光パネルに突き刺さった。
いい気味だ、とみえは思った。
邪悪な心を完璧に隠し支配していた男が、こうも簡単に私の前で転げまわるとは。みえは自分が徳四郎よりも優位に立てたように感じた。