率直な意見を言う
遅くなったと言いながら戻ってきたライルと紫黒と共に、ガイたちが待っている指揮官用の天幕に行ったのは、伝言をもらって一時間ほど経った頃だった。
夜も更けていたので申し訳ないと思いつつ声をかけると、先ほど調理を手伝ってくれた騎士の一人が入り口の布を開けた。あっさりした造りの天幕の真ん中で、ガイが片手をあげている。ビルはそれと同時に立ち上がって、入り口まで来て出迎えてくれた。
「悪ぃな。今ちと手が離せない。見てもらいたいもんがあるんでこっち来て座ってくれ」
ガイが怒鳴ると、メルルが伸びあがっておいでおいでと手招きした。不躾で申し訳ない、と言って身を縮めるビルに問題ないと返し、中に入る。
天幕は思っていたより広かった。真ん中に厚手の布が敷かれており、その上に書類や地図を並べ、座り込んで話をしていく形のようだ。訓練なので机を使わないんだろう。冒険者仕様なんだなあと思いつつ、開けてくれた場に座る。
ガイと俺の間には大きく広げられた地図があった。ガイの両脇にはビルとメルルが、俺の両脇にはライルと紫黒が、それぞれ座っている。まあ、俺のほうは過保護な紫黒が俺とライルをひとくくりにくるっと巻き付いて、体を支えてくれてるだけなんだけどね。
「いい椅子だなあ、殿下」
「あげないよ」
どうやらガイは冒険者ではなく第二王子に用事があるようだ。騎士団に関することは一介の冒険者に漏らすことができないし、まあ、正しい判断かな。
俺は紫黒に合図して体をほどいてもらい、姿勢を正して座り直した。口調も冒険者のベルから王弟のベルグリフに戻す。ライルも紫黒も同じように姿勢を正して俺の横に控えてくれた。心強くてありがたい。
「これが現在の訓練の経過かい?」
「そうだ。率直な意見を聞かせてくれ」
地図には俺たちが来たポータルから今いるゼブラシア山脈の山肌までが載っていた。パスコー辺境伯が治める街ももちろんある。線がたくさん入っている付近は急こう配の崖が多いところで、ある一点を中心にして赤と黒の×印のついた石が円を描くように置かれていた。その周りには青い△と×の印が付いた石が点々としている。青い石で×が付いている者の半分は村のマークがある場所からそう離れていない場所に固まっていた。
「黒い石があるところは魔獣を見つけた場所、赤は団員がケガを負った場所です」
ビルが指をさしながら説明する。
「青は?」
「そちらは先ほどパスコーの街の冒険者ギルドが送ってきた冒険者が魔獣と会った場所と死体が見つかった場所です。×が死体のほうですね」
「ふうん」
青い石は赤と黒よりはるかに多い。さすがに×より△のほうが多いが、思っていたより数が多い。これはちょっと、いやかなり、めんどくさそうだな。だけどこれだけ冒険者がいるなら、ランクに合わせた依頼を出せば薄い魔獣を減らすのはそこまで難しくないかもしれない。
「殿下が来る前に、ちょうどギルドから連絡が来てな。山にこもってるなら冒険者たちの安全のために魔獣狩りでもしろと来た。まったく、あのギルマスは人使いが荒い」
「魔獣狩り? 討伐依頼が出たのかな?」
「いや、単に騎士団は国がやってんだから魔獣くらい狩れよってことだろう。ったく腹立たしい。冒険者の安全ってなんだよ」
ちっ、と舌打ちしながら、ガイは円の中心の一点を指した。
「まあそれは今はいい。ライルが知らせて調査することになってたドラゴンの巣、どこにあるか知らんからまずは見つけるところからだろう? さっきまではここだと睨んでて、明日からの訓練はここを目指そうと思ってたんだが」
指をツーッと移動して、トン、と青い×がたくさんたまっている場所を叩く。
「ギルドからの情報を地図と合わせてみたら、どうも違う気がしてな。これを見た殿下がどう思うか、聞いてみたくなったんだ」
ガイがトンと指で叩くたびに石が少しずつずれる。ビルが困った顔で直す端からずれていくのを見ているライルが『副長って難儀だな』と呟いた。きっと第一騎士団団長の父親も似たようなものなんだろうな。
俺はふう、と一息吐き、ずれた青い△の石をそっと戻してガイを見た。
「ガイの読みは正しい。ドラゴンの巣はそっちじゃなくて、村の近くにある、たぶんここ」
黒と赤の×がなく青い×の石と△の石から少し離れた隙間のところに指を置くと、ガイの片眉が上がり、メルルが口笛を吹いた。
「なぜ断言した?」
「キーさんに聞いた話とこの地図を見て」
キーさんから話を聞いただけだと場所がつかみきれなかったけど、こうして地図を見せてもらうと、情報が整理されて見えてくるものがある。
指の先には霊峰マクフェイルからナナト大河に注ぐ清流があり、山肌を抉って深い谷を作っていた。
あの辺り、以前行ったときは飛竜の住処だったが、去年の大雨で一部が崩れ、その時住んでいた飛竜たちはマクフェイルの奥に逃げたと聞いている。あのとき会った飛竜は山のヌシと間違うくらい神気溢れた銀色の大きな飛竜だったな。元気にしてるといいけど。
「まあそんなことがあってね。力の強い魔獣が住んでいた場所なので、それより弱い薄い魔物のドラゴンたちが巣を作るのに適していると思ったんだ。ドラゴンたちは自分の巣の周りでは狩りをしないから、冒険者が死んだ情報がないならさほど間違ってないと思うよ」
そう話すと、ビルは目を丸くし、メルルはへ~と感嘆の声をあげ、ガイは唸った。
「そんな情報来てねぇぞ」
「冒険者ギルドにはあるはずだよ。俺は大雨が降る前に飛竜の巣に行ってるから」
「……、マジかよ」
「まあ、その時は挨拶だけしてすぐ戻ってきたんで、騎士団に知らせるほどの情報じゃないって判断されたのかもしれないね」
それに、あのときはリックを含むパーティメンバーがすごかったのと、巣にいた飛竜たちが人に敵意を向けなかったから、俺がCランクでも無事に戻ってこれた。あの辺りの魔獣はそんなに強くないとはいえ、運はよかったと思う。
「あれはここにあるサワイ村からの依頼で、村の近くに住む飛竜が何頭いるかを数えることだった。村の脅威になるようなら適当な場所に移動させる依頼を出す予定だったみたいなんだけど、話し合いの結果、そこまでしなくてよくなってね。俺もほっとしたんだけどなあ」
冒険者として慣れ始めたころで、いろいろと失敗して叱られたっけ。ゴブリンを撃退したのもこのころだったな。
懐かしく思い出していたら、ガイが変な顔でこっちを見てるのに気付いた。
「話し合いってなんだ?」
「え、飛竜と村長の話し合いだけど」
「飛竜が人とか?」
「そうだよ。谷の飛竜たちは人間をそんなに好きじゃないけど、それは人間も同じだろうってちゃんと理解してくれてて、5年に一度はサワイ村の村長と会談してる。そこでその年に人が採れる山の幸や、飛竜が駆除する魔獣の数を大体決めてるんだけど、……、まさかこれも知らなかった?」
「……、知らなかったぞ、コンチクショウ!」
やり場のない怒りは隣にいたビルにぶつけられていた。慣れているのか動じてないビル、すごいなあ。
「クソギルマスめ! 戻ったらただじゃおかん! 記録庫全部漁ってやるからな!」
「あ~、きっと~、それ私の仕事になる~。ギルマス~、呪う~」
笑顔のメルルから黒いオーラが出ている。隣にいたライルがヒッと喉の奥で悲鳴をあげていて、ちょっと笑ってしまった。
少し和んだ空気の中、紫黒がシャッと鋭い息を吐く。いい加減にしろ、と俺とライルにだけわかる声で叱られてしまった。たしかに、今は昔話をしてる時じゃなかったね。
俺はパンと手を打って、全員の目をこちらに向けた。
「ガイ、とりあえず俺の意見はもういい?」
「あ、ああ、そうだな」
「じゃあ、次は俺の話を聞く番だよ」
にこりと笑って言うと、ガイはわしゃわしゃと自分の頭を掻き混ぜ、口をへの字に歪めた。
「すげえ嫌な予感がする」
「そんなことない、って言いたいけど、間違ってないかな」
俺は青い×の石がたくさんある場所をトントンと叩きながら、先ほど紫黒がまとめてくれたことをそのまま話した。
山のヌシのこと、キーさんのこと、薄い魔物のこと、人里近くに魔獣の巣ができたことなど、なるべく話が飛ばないように気をつけながら説明をする。
「というわけで、ドラゴンの巣の調査は引き続き頼むつもりだけど、できれば訓練は中止して、俺に手を貸してほしいんだ。まあ調査と違って、俺への手は個人的なお願いになるから強制はしないけどね」
目の前の三人はそれぞれ違う方向を見ながら声をあげた。
「なるほど、山のヌシの代替わり期だったわけか」
俺の前でちんまりと座っているガイが腕を組んで唸った。ガイは精霊の血が混じっているからか、ここにヌシと呼ばれる守護者がいることを知っていたようだ。
「それを聞いて質の悪い魔物素材が出回ってることや魔獣が増えてるのも理解できた。ったく、アホな冒険者が余計なことしやがって。こりゃ、近々スタンピードが起こるぞ。楽しいことになりそうだ」
簡単な説明だったが、ガイはきちんと現状を把握してくれた。訓練の話をしていた時とは別人のように生き生きとした顔になる。
俺は軽く肩を竦めた。ガイは嫋やかな見た目に反してかなりの武闘派だと聞いている。説得はできないだろうが、こちらの状況をきちんと話して理解を得られれば、心強い戦力になってくれる、と思う。
「キーさんは最大で9体の分身を作れるけど、力も分散されるから全部は作らない。だけど手伝ってくれるなら一体は騎士団とともに動いてくれると言ってくれた。だからもし俺に力を貸してくれるなら、ガイたちはキーさんに協力し、増えた魔獣を間引きつつ、人里近くにできたドラゴンの巣の調査をしてほしいんだ」
「魔獣のほうはどうする?」
「そっちは無理にとは言わない。薄い魔物と言っても生命力が少ないだけで危険度は同等だからね。身を護ることを第一に考え、今の人数で難しければ第三騎士団の本部に連絡して増援を得ることも視野に入れてあたってほしい」
いのちだいじに、そう言うとガイもビルもふっと薄く笑った。
「体張って国を護るのが騎士の役目だから盾になれっつー貴族はたくさん見たが、死にそうになったら国なんかいいから逃げろって言う王族は初めて見たな」
そんなことを言われても、本心なのだから仕方ない。冒険者になって人は簡単に死ぬものだと改めて知ったからこそ、命を無駄に散らさないでほしいと思ってるだけなんだけどなあ。
「第二王子殿下は自らの命を顧みずに人助けばかりして何度も死にかけていると聞いたが」
まあ、そういうときもたまにあるからあながち嘘じゃないけど、肯定するのは癪だから黙っておいた。いいんだ、傍から見た俺はちょっと頑張ったらすぐに倒れるひ弱な王子なんだし。うう、自分で言って悲しい。
紫黒が隣で身を震わせる。こんな時に笑うなよ、と俺は軽く蛇の体を叩いた。
「俺はこうして生きてるよ。ガセを本気にしないでくれる?」
「そういうことにしてやるよ。それで、冒険者たちはどうする? 統制なくわらわらいるだけの役立たずに好き勝手されると、死者が増えるだけで邪魔なんだが」
うん、わかってる。冒険者と騎士団のやり取りがうまくいけば、ことはすぐに終わりそうだけど、こじれたらかなり厄介だ。それぞれバラバラに動かれて、たくさん死者が出て、腐魔が増えたら、薄い魔物はどんどん増える。キーさんが今以上に走り回ることになるのは避けたい。山犬神が戻ってきて話に応じてくれるのが一番ありがたいんだけど、キーさんがどこにいるのかもわからないって言ってるから難しいかな。
でも、そっちは妥協案がある。
「それなんだけどね」
俺は地図上にある△がついた青い石を人差し指でつついた。
「辺境伯に頼んで冒険者ギルドに依頼を出してもらおうと思う」
「依頼か。対象を限定することで相手にする魔獣の基準を決めるんだな」
「うん、冒険者ランク以上の魔獣と当たらないようにね。どこでどの魔獣に当たるのかがわからないのはネックだけど、まあそこは何とかしてもらおう」
冒険者は自己責任、そう言ったら、ガイを含む騎士たちが意外だなって顔して俺を見る。いや、俺だってこれでも冒険者だからね。その辺はちゃんとわきまえてるよ。
「問題は、金か。奴らは報酬がないと動かないぜ」
だね~と言いながら、メルルが人差し指と親指で輪を作る。
「わかってる。だから引き受けてくれた冒険者限定で、素材の買取価格を以前の相場に戻すつもりだよ」
「資金はどこから出すんだ? パスコー辺境伯は金に関してはシビアだぞ」
「心配ない。俺の私財から出すから」
「足りるのか?」
「さあ? でも、それを聞くのは野暮だよね」
「……、たしかにな」
ガイは苦笑して肩を竦めた。
正直なところ、俺の私財なんて微々たるものだが、ナナトの復興用にと思っていた分を国庫から出してもらえたので買取の増額分くらいなら何とかなる。それに足りなくなったら貯めている稀少素材をパスコーの冒険者ギルドで換金して資金に充ててもらえば済むことだ。
「俺が言うのは何だけど、冒険者は報酬があれば大抵の仕事はしてくれる。パスコー辺境伯に頼むのは依頼に箔をつけるためだよ。今回は高位ランクの冒険者にも頼らざるを得ないだろうから」
高位ランクの冒険者は癖がある者が多いが、筋を通せば難しい依頼でも受けてくれることが多い。待遇やら報酬やらでもめるのは二流だ。そういうのは依頼の途中で死ぬかケガをして再起不能になる者ばかりだから、できるだけ今回は避けたい。殺されて薄い魔物の餌になるだけだ。
「これで俺の話は終わり」
俺はきっちりと姿勢を正し、深く頭を下げた。
ガイは苦虫を噛んだみたいな顔になったが、黙って俺を睨んでいる。ビルはとても困った顔になり、メルルはひゃーと小さく呟いた。
「俺が頭を下げたくらいじゃなんの益もないのはわかってる。もちろん王命じゃないから、断られても仕方ないと思う」
「……」
「なんて、きれいごとを並べたが、正直なところ、助けてくれればありがたい。俺にはライルと紫黒とキーさんっていう味方がいるけど、そこに第三騎士団の猛者が加わったら、すごく助かる」
俺の横で、ライルと紫黒が同じように頭を下げてくれた。俺にだけ責任を負わせないぞって言う二人の気持ちが伝わってきて嬉しい。
「なら、助けて、って言え」
対面にいたガイが俺の横に来て、俺の顎を下からグッと上げさせた。至近距離にあるガイの顔はなんだか楽しそうにニヤついている。
「第三騎士団のかっこいい団長様、お願いだからひ弱なボクを助けてください~、って言えよ」
裏返った高い声は俺の物まねらしい。そんな声してたっけかな?
ライルと紫黒がすごい勢いで立ち上がったのと、ビルとメルルがこっちに走ってきたのが、ガイのニヤニヤ笑いでいっぱいになってる視界の隙間から見える。ライルはともかくビルとメルルからも怒りのオーラを感じた。紫黒までシャーシャーと息を鳴らしている。
何がそんなに逆鱗に触れたのかよくわからないけど、とりあえず言えばいいんだな?
「第三騎士団のかっこいい団長様、お願いだからひ弱なボクを助けてください~」
ガイの声を真似てみたら、場の空気が凍った。なぜかガイまでニヤニヤ笑いのまま固まってる。その頭にビルの大きな手のひらが直撃した。続けて見えない大きな何かで敷物の上に押し付けられる。
「あんた! 自分以外のモノのために誠心誠意頭を下げてる一国の王子に何してくれてるんですか!!」
「というか~、元気ないのにここまで来て~、肉と癒し水までくれたベル様に~、すっっっっごく失礼で不快だあっ!!」
メルルの語尾が伸びてないのにびっくりしていたら、ライルが来てさっと俺を立たせた。ものすごく冷たい目で潰れているガイを見、すぐに目を反らす。
「ベル様、行こう。ここにはもう用はない」
「まったくだ」
紫黒まで鼻息が荒い。
「騎士だというからどんな輩かと思えば。鉄黒並みにこすからい奴だ。こんなのを頼るな」
「どうしたんだよ、紫黒?」
状況が呑み込めなくて困る。隣では地面に押し付けられてるのにゲラゲラ笑ってるガイをメルルとビルがガシガシ踏んでいた。団長を踏む副長と団付き魔術師、なんかすごい絵面だな。
苦笑していると、ライルが大きくため息を吐いた。
「ベル様、少しは怒れよ」
「なんで?」
「なんでって……、うう、そうだった。ベル様はこういう人だった」
怒りのやり場がなくなったのか、ライルはその場にしゃがみこんだ。なぜか紫黒がよしよしと言いつつ尻尾の先で背を撫でている。
「ベル、主はな、そこの小さいのにバカにされたのよ」
「え、そうだったんだ?」
「ベル様……」
ライルは頭を抱えて唸っている。紫黒もライルも、俺のことなのに自分のことよりも怒ってくれたんだな。ビルとメルルも、ガイが俺を馬鹿にしたと思ってああなったんだ。そう思うとなんだか嬉しい。
俺はライルの隣にしゃがむと、ツンツン立ってる真っ赤な髪をくしゃっと混ぜた。
「ライル、紫黒、勘違いだよ。ガイはそんな男じゃないと思う」
「……」
「こんな風にプライド捨てて頼み込めるくらい本気なのか、そういう意味だよね、ガイ?」
「もちろんだ!」
ガイはビルとメルルの足を払いのけて飛び起きた。多少足跡はついているがダメージは受けてないようだ。きっと部下の態度を面白がっていたに違いない。
「これくらい遊んだって文句ないだろう? 俺の精鋭たちをタダで貸せって言うんだから」
そう言うと、ガイはしっしと手を振ってビルとメルルを遠ざけ、俺の右手を思い切り掴んで笑った。
「悪かった。完敗だ。ベルグリフ殿下、全面的に力を貸すぜ。よろしく頼む」
いい笑顔なのに、まだ怒りが収まらないビルとメルルに頭をビシビシと平手打ちされている。そこに紫黒とライルまで加わった。それでいいのかと心配したけど、ガイが二人に謝ってるから大丈夫なんだろう。それにしても騎士二人と魔術師と蛇に叩かれても微動だにしない小さな団長ってすごいな。
やがて、疲れた~と言ってメルルが離脱し、話は終わった。
無事に話ができてほっとした俺は朝からの疲れで動けなくなってしまい、そのまま指揮官用天幕の隅を借りて休ませてもらうことになった。キーさんの結界があるから外でもと固辞したが、地面からの冷えは体に良くないと返され、分厚い敷物の上に寝かされた上に毛布でぐるぐるに巻かれてしまったんだ。
「ありがとう。ガイたちもゆっくり休んで……」
心遣いに感謝しつつ半分落ちた意識の中で言うと、小さく笑い声が聞こえた。
そして俺は大きくなった紫黒の背に寄り掛かり、朝までゆっくりと休んだ。
読んでいただいてありがとうございます。
苦労性のおじさんは結構好きです。ビルさん、絶対禿げるな。




