クラークとゴードン
「「ずびばぜんでじだ」」
鍋いっぱいのスープをやっと平らげ、唇をぷっくりと膨らませた二人は平伏しつつ謝った。声がかすれているのはハンバネロンの辛さのせいだろうが、命に別状はないので治療しない。
きつい香辛料の入った湯気のせいで目が痛む。聞けば村で魔物を追い払うときに使う辛子丸と同じ量のハンバネロンを10人前ほどの鍋に入れたらしい。10人分と言うと屋台にしては小さい鍋だが、料理人が試行錯誤を重ねた本人曰く「至高のスープ」だったそうで、店に出す前の試作品として料理人仲間から感想をもらうためにわざわざ自宅から持ってきたものだったと言う。
「屋台の鍋というから一番大きい100人分の大鍋に入れたのだと思っていたよ」
「……、ボクにはそんなことできません……」
クラークはしょんぼりとうなだれている。ただ、毒物混入による殺人未遂に規模の大小は関係ない。一人でも千人でも同じことだ。
鑑定スキル持ちのルイスが確認した結果、赤い袋に入っていた丸薬は摂取すると全身の血液が固まらなくなって流れ出てしまうと言う猛毒だった。ただしそれは傷や粘膜から入った時で、経口摂取ではほぼ効果がないという。要するに鍋に入れたところで食べた者にはさほど害はないが、料理人の指のささくれについたり虫歯のある料理人が味見したりしたら危険だったらしい。
「なんだそりゃ」
「不思議な毒だな」
「鍋に入れさせる意味あるのか?」
騎士たちも首傾げている。
「本当は井戸に投げ込めって言われていたんです」
掠れた聞き取りにくい声で言うクラークはギュッと目を閉じて首を振った。
冒険者たちの一群が町で騒ぎを起こすように言われていた時、ゴードンとクラークは呪い師から赤い袋を渡されたそうだ。もう一人、イーノスという男と三人で町の水場に毒を投げ込むように指示されたと言う。
場所はエルファリア商会の井戸、冒険者ギルドの井戸、広場の噴水の三か所。毒は呪い師が直々に作ったそうだ。
「だが、グレースさんから毒をもらった後、イーノスさんはオレたちに毒の袋を渡し、二人だけで回れと言ってさっさと戻ってしまったんだ。町の水に毒を入れるなんてごめんだ、犯罪者になるなら降りるってな。オレたちだってそんなの嫌だから、後を追った」
「イーノスさんはボクたちを退治派の皆さんに引き合わせてくれた人だし、ブルータスさんとも仲が良かったみたいだったから毒のことを抗議しに行ったんだと思ってた。そしたら……」
二人はそろって体を震わせる。
「ほどなくしてボクたちはイーノスさんがブルータスさんと話をしているのを見つけた。なんとなく隠れて見ていたら、二人の声が聞こえた」
「イーノスさんは明らかにブルータスさんを脅してたな」
「あんまり聞こえなかったけど、殺すとか何とか言ってたよね?」
「言ってたな。そうしたら、ブルータスさんはにやりと、すごく楽しそうに笑ったんだ」
その顔を思い出したらしく、二人の震えが増す。後ろにいたルイスがそっと肩を叩くと、勇気づけられたように話をつづけた。
「ブルータスさんがただ手を一振りしただけで、イーノスさんは裏返ったみたいになった。それ以外、ボクには表現ができない」
「オレもうまくは言えないが、なんというか、袋に切れ目を入れてひっくり返したみたいになった。体の中身が全部出て、それでも生きてるらしくてずっとなにか叫んでた……」
「もう一回手を振ったら何事もなかったように体は元に戻ったけど、イーノスさんはぐんにゃりと崩れ落ちて、粘液みたいになって、そのまま溶けてしまった」
「固まって見ていたオレたちを見て、ブルータスさんは言ったんだ。やらなかったら次はオレたちだって。それで……」
ゴードンの目から涙が落ちる。
「それで、オレたちは指定された水場を回ることにした。最初に噴水に行ったけど、小さな子どもたちが楽しそうに水浴びをしていたのでとても毒を入れる気にならなかった。冒険者ギルドに向かったら、先ほど騒ぎを起こせと言われていた奴らがたくさんいて、ギルドに助けを求めに行くのだと言ってた。騒ぎに紛れて毒を入れられるかとも思ったけど、見つかった時のことを考えたら怖かったんで後回しにした。エルファリア商会の井戸は料理人がたくさんいていい匂いで溢れてた。みんな笑顔で楽しそうで。自分がみじめになって、ここなら入れてもいいかと思ったけど、入れてしまったらますますみじめになる気がしてダメだった……」
「ゴードンは毒なんてどっかに捨てようって言ったんだ。ボクもそうするつもりだった」
泣きながら鼻を啜る二人が言うと、料理人はまなじりを吊り上げた。
「じゃあなんで捨てなかったんだ!? 俺の鍋に入れたら同じだろう!?」
二人は実を竦め、頭を床に押し付けた。
「「ごめんなさい!!」」
額をこすりつけながら、クラークが言う。
「やめようとすると頭の中にブルータスさんの声が響いて、全身が焼けるように熱くなって、ものすごく怖くて……。それに鍋の中身はすごい色だったし、ニオイもすごかったから、ネズミゴロシだと思ったんです……」
クラークが言うには、屋台の端のほうで小さな炉にかかっていた鍋は見たことのない緑がかった黒で、泥水のように大きな泡をボコンボコンと噴き上げていて、得体のしれない骨が浮いていたのだと言う。食べ物とは思えない悪臭を発して周りの料理人に嫌がられていたので、スープだとは思わなかったらしい。
「ボクらの村ではネズミを殺す毒、ネズミゴロシを鍋で煮て作ります。だからてっきりそれかと……」
ネズミゴロシだったら毒が少しくらい増えても問題ないと思った、クラークはそう続けてうつむいた。
それを聞いた料理人は喉の奥で呻き声をあげた。
「あれは、……、薬膳風なんだ。バルーブの葉とかマトマの茎とかナッツピーとかテニベング茸とかいろいろな食材を毒消し草と一緒に煮込んでな……」
それを聞いた騎士がこっそりとお代わりしていた癒し水を吹き出した。
「ちょ、お前、それ全部毒草じゃないか!騎士団の遠征でも食べちゃダメ言われてるぞ!」
「馬鹿だな。毒ってのは薬にもなるし、うまいのもあるんだよ!だからちゃんと毒消し入れてな……」
「いやいやいやいや、まずスープに毒消し入れたらだめだろう」
「っていうか、毒消しだけで毒性なくならんわ!煮詰めたらむしろ増すんじゃ?」
騎士たちは全員で料理人に詰め寄っている。料理人が言った食材は俺は知らなかったけど、クラークたちはよく知っているようで顔を上げて口を押えていた。たしかに、大量に飲まされていたね。
「凡人にはわかるまい!あれは俺の渾身のスープだ!」
「そんな毒のスープ誰が飲むかああああああああ!!」
胸を張り、何が悪いと威張っている料理人を騎士たちが全員でどついた。抵抗する料理人が暴れて乱闘になる。
毒草スープと聞いて前のめりに倒れた二人を痛ましそうに見つめているルイスと、複雑そうなリックの横で、俺はそっとため息を吐きながら癒し水を勧めた。
結果的にゴードンとクラークは無罪放免となった。鍋に毒を入れたことは大罪だが、毒薬ではなく手持ちの食材のハンバネロン(食べる人は少ないが一応嗜好品のスパイスと認められた)だったので罪に問えないと言う。また、明らかに鍋の中身が食べ物ではなかった(料理人はあくまでもスープだと言い張っていたが)ことも決め手になった。彼らが勘違いしたように鍋の中身がネズミゴロシならそもそもネズミ駆除の毒薬なので毒を入れても人を害さないからだ。
さらに、ほかの水場に毒を入れなかったこと、脅されて命の危険があったこと、何より殺されかけたことなど、情状酌量の余地がたくさんあった。本人たちも反省しており、これ以上罪を重ねることはないと判断されたのだ。
癒し水を飲んで一息ついたクラークは涙を流して謝った。ゴードンも同じだ。がっくりとうなだれ、何度も頭を下げている。
「オレたちが知ってることなら何でも話す。本当に申し訳なかった」
そう言った後、ゴードンは大蛇退治派に行ってからのことを話し始めた。
二人がイーノスという男に連れられて大蛇退治派の集会に行ったのは昨日が初めてだった。
昼間、冒険者ギルドで二人を誘った男はイーノスと名乗り、自分は歴戦の冒険者だったが体を壊して引退したのだと言った。今はとある商店で働いているが、元冒険者として町の危機は見逃せないのだと、歩きながら熱く語ったそうだ。さらに先行投資だと笑いながら食事をおごってくれたり宿代を立替てくれた恩人だと言う。
その後、二人が連れていかれたのは商業ギルドで行われていた集会だった。
大蛇退治の話は出てまだ日が浅いとのことだったが、そこにはたくさんの人がいた。クラークは100まで数えて挫折したと言っている。ゴリの村人より多い人々に囲まれ、めまいがしたそうだ。
そのうちの半分は自分たちと同じよう若い冒険者で、皆くたびれた顔をしていたように見えた。二人と同じくナナトで足止めを食って辛い思いをしていたらしい。隅に固まっていたところに合流すると、無言で場所を空けてくれたので、会が始まるまで少しだけ話したと言う。
「ボクがスカウトだと言ったら今度パーティを組もうって言ってくれた人たちもいました。同じような目に遭って同じように勧誘されてここにきている人が多かったな。大蛇を退治する組と町で人々に警告をする役に分かれたとき、ほとんどが町に残る組になってた。ボクらも始めはそっちだったんだけど、朝になってイーノスさんと三人だけ呼ばれたんです」
クラークたちは気絶していたので知らないだろうが、たぶんその時の冒険者とはもう冒険できない。ルイスの話だと全員魔石になってしまったから。
「それから、町に行く組はグレースさんに、大蛇を退治しに行く組はブルータスさんについて行きました。グレースさんはとてもきれいな笑顔でボクらを祝福してくれました。遠い国の呪いだと聞きましたが、祝福されたときになにかがするりと入り込んだ気がして、すごく力が湧いたような思いました。その後、町に行く前にブルータスさんに呼び出されて、毒を渡されて、あとはお話した通りです」
クラークが話し終えると、続きをゴードンが引き取った。
「オレは端のほうにいたので大河に行く組の話も何となく聞いてた。あっちはゴロツキっぽい目の者が多かったが腕に覚えがありそうな男ばかりでな。戦士職のオレとしてはなんだか羨ましかったんだ。町のほうについてたビキニアーマーの女戦士も同じだったみたいで頬を膨らませていた」
それはきっとルイスに聞いた最後に魔石になった女戦士だろうな。そこそこ強い冒険者だと自称していたそうだから、さぞや悔しかったろう。
「彼らは夕方、暗くなる少し前に迎えに行くからこれで英気を養ってくれと言われてた。その後、オレたちは再び全員集められて、裏通りにある酒場に連れてってもらった。ブルータスさんの振る舞いで散々飲み食いさせてもらったよ。今まで鬱屈していたのが吹き飛ぶくらい、みんなで大騒ぎした。そのあとでこんなことをさせられるとは思ってなかったし、同じような冒険者ともたくさん話をして本当に楽しかったんだ。みんなで魔物を退治する、人々のために命を懸けて戦う、これが冒険者の醍醐味だ、そう思った」
その時のことを思い出しているのだろう。クラークが腰のポケットのあたりに手を置いてうつむいている。
「いい気分のまま、酒場の隅っこで一晩明かした。酔っ払ってぶっ倒れている男もいたが、大体が浮かれていたな。そんな中で、ブルータスさんが夕方になったらまたここに来ると告げて出ていった。ちらりとオレたちを見た顔は、その時は恩人だったのに、なぜか化け物みたいに見えたよ。それからはクラークが話した通りだ」
ゴードンは話しながら何かを堪えるように目をぎゅっと閉じていたが、終わると顔を上げて俺をじっと見つめた。
「なあ、教えてくれ。オレたちはなにをしたらいい? 協力できることがあったらさせてくれ。オレたちは悪いことをした。未遂とはいえ毒を入れようとした。クラークのミスはたまたまだ。それにもしクラークが毒を入れたとしても、止めなかったオレの責任は重い」
「違うよ、ゴードン!ボクは……!」
「違わない。むしろクラークに毒を入れる役を押し付けたことを考えれば、オレのほうが罪は重いと思う」
二人はじっと俺を見つめてくる。困ったなあ。
彼らがよかれと思い行動したことはとてもよく分かった。結果だけ見たら失敗だし、そそのかされて連れていかれただけだけど、彼らなりに考え、できることをしようとした。
その気持ちは認めてあげたいと思うけど……。
リックに助けを求めると、渋い顔を向けられた。自分の仕事は果たせと言われてるようだ。確かにリックは護衛であって責任者じゃないもんな。ちょっと頼り過ぎたか。
彼らにできることを考えていたらルイスがこちらを見ているのに気づいた。そういえばルイスは表の仕事を担当していたっけ。ありがたく丸投げさせてもらおう。
「じゃあ、ルイスから町のことで仕事をもらって。たしか冒険者たちに仕事依頼してたよね。清掃だっけ?」
言うと、二人は首を横に振った。
「そういうのでなくて!」
「もっと皆さんの役に立てるようなことで!」
二人は必死になって自分たちは役に立つと訴えてくる。少しでも自分たちが犯した罪を償いたいと言う二人を見て、俺は苦いものがこみ上げるのを耐えられなかった。
「申し訳ないけど、俺たちの仕事で二人に任せられることはない」
つい、口調が荒くなる。二人は驚いた顔で俺を見つめた。
本当は手が足りないから二人が協力してくれればありがたいだろうな。ブルータスとグレースの二人は紫黒同様に強い力を持っているのはわかったし、その二人がナナト様を害しないようにするための手段は二人を殺すことしかないのも何となく気づいている。リックやドアラが力を貸してくれるとしても、俺の力では難しいと思う。
でも、彼らには任せられないと感じた。冒険者として大事なものがまだ育っていない気がしたんだ。
「俺も同感だ」
今まで黙っていたリックが口を開いた。
「お前らは冒険者としてしてはいけないことをした。それだけじゃない。お前らは冒険者としての自覚が足りないんだ」
リックの目がさらに冷たくなる。
「そして、自覚したなら冒険者をやめたほうがいい。お前らには向かない」
「な、なんでですか!?」
「確かにオレらが悪かった、でも!」
「でも、なんだ? 勇者にでもなりたいってのか?」
二人はリックの迫力に声を詰まらせている。
一緒に来ていた騎士たちはそんなリックを驚いた顔で見ていた。騎士団でのリックは顔が違うんだろうな。でも、俺はあの顔を何度か見たことがある。俺にも一度向けられたことがあった。あれはたしかグリフォンに襲われたパーティメンバーのジャクリーンの前に飛び出して大怪我した時だったっけ。無駄な自己犠牲は足手まといって怒られたなあ。
しみじみと思い出にふけっている間も、リックたちは話し続けている。
「俺はな、冒険者ギルドでお前らがエセ戦士の男について行ったとこを見てた。都合のいい条件を出されてホイホイついていき、いいように使われて、今に至るんだよな?」
「……、はい」
「金をばらまかれていい気持にさせられて、楽しかったろうな。魔物退治? 命がけで戦う? 冒険者の醍醐味だ? ふざけんな!結果的には冒険者全体に泥を塗るようなことをしたんだぞ。脅されたとはいえ不特定多数の他人を害しようとしたことのは事実だ。たとえ間違えて毒でないものを入れたとしても、入れた鍋の中身が食べ物でなかったとしても、だ。何事もなかったのは幸運だっただけだ。受け取った毒物を入れ、鍋の中身が外見に反しておいしいスープで皆が飲んだとしたら死者が出ていたかもしれない。冒険者が毒をばらまいたなんてことになったら、俺たち冒険者はこの町で活動できなくなる。冒険者ギルドも撤退、ドアラは責任を取らされるだろう。お前らにその責任は取れるのか?」
「そんな……」
「自分で責任も取れないようなことをしておいて、脅されていたので仕方なかったんです、か。で、次はごめんなさい、自分らが悪かったです、なんでもします、教えてくださいってか? 無駄な反省ポーズはやめろよ」
「そんなこと!!」
「反論するのか? 町の仕事だって立派な依頼だ。現にたくさんの冒険者が町で働いて依頼をこなしている。そんな依頼は嫌だって? ボードに貼ってある仕事を請け負うならともかく、直接された依頼を選り好みする冒険者に仕事は任せられない。さらにいうと自分の能力以上のことを請け負って失敗する冒険者など必要ないし、教えてもらえないと動けない冒険者なんて論外だ」
これ以上言っても仕方ないと呟いてリックは俺を見た。
ちゃんと説明してあげるリックは優しいなあと思う。いちいち説明しなくてもわかることばっかりだ。
たしかに『これぞ冒険者!』みたいな仕事はある。多くなった魔物を間引いたり、ダンジョンから溢れる魔物から町を守ったり。そういうのはCランク以上の冒険者しか依頼をもらえないし、華々しい活躍が歌になったりもするので憧れる冒険者は多いけど、リスクは高い。呪い師にナレノハテの元をつけられても気づかない冒険者には死しか待っていないだろう。
でもまあ、そういう仕事に憧れる少年たちがいるから冒険者って危険な仕事になり手が多いのも事実なんだよね。最初は下請けで地味だからやめちゃう人も多いけど。
魔物退治なんて、実際にやるとかなりの汚れ仕事だし、精神的に追い詰められる。実際に病んでやめる人も多いんだけど、その辺は歌にならないから知らないよね。
やがて、ゴードンは俺を睨みながら言った。
「わかったよ。あんたらは自分たちが特別だって言いたいだけなんだろ? 田舎者のオレたちを見下してるんだ」
腕を取っていた騎士の手を振りほどいて立ち上がり、座っている俺を見下ろす。驚いたクラークが手を伸ばしたが、ゴードンは邪険に払った。
「さっき王子さまって呼ばれてたよな。どこぞの貴族様なんだろ? 自分たちの手柄は他人にやらない。そうなんだな。えらい人のやり方がよく分かったよ」
「ゴードン!?」
「行こう、クラーク。オレたちには掃除がお似合いだそうだ。騙された被害者だから無罪放免、さっきそう言ったよな? これ以上話すことはない。オレは出ていく」
「ゴードン!! ボクらは酷い怪我を治してもらったんだよ!」
「はっ! そんなん貴族様の自己満足だよ。なんせ王子様だ。オレたちとは住む世界が違う。オレらがありがたがって平伏して涙するところを見たかったんだろう。たしかにもう痛まない。とても感謝してる。だが、もう礼は言ったし、情報も渡した。お相子だ」
「ゴードン!!!」
「クラーク、オレはもうこいつらに協力しない。こいつらはオレたちを馬鹿にしたんだ。駆け出しにだって意地はある。何が冒険者の自覚だ。なにが必要ないだ。失敗を取り返したいってのが無責任だってんなら、責任なんて放棄してやる!」
火が出そうな目を向けて叫んだあと、騎士たちが止める間もなくゴードンは部屋を飛び出した。もうどこも痛くないと言うのは本当のようだ。
「ゴードンが心ないことを言いました。でも本心じゃないんです。許してやってください」
立ち上がったクラークはとても申し訳なさそうな目をこちらに向けた。
「いろいろお世話になりました。皆さんの言葉はわかりました。ボクらは本当に悪いことをした。考えなしだった。ちゃんと胸に刻みました。でも、駆け出しにも意地がある。それもわかってもらいたい。だからボクにはみなさんの言葉よりゴードンの気持ちのほうが大事です。ボクはゴードンと行きます」
何度も頭を下げたあと、膝をつき、両手で俺の手を握ってくる。思ったより弱々しい手だった。クラークもゴードンと同じような気持ちなんだろうな。
「ボクらは貴方にとても感謝しています。貴方の命令なら命だって捨てられると思ったのも事実です。拒まれたのは残念ですが、いつかきっとこの恩を返します。ありがとうございました」
俺の手を包んだ両手に額をつけて深く一礼したのち、クラークは急ぎ足で出ていった。
俺はクラークの手の温かさがまだ残る手を見つめて呟いた。
「命を捨てろなんて命令しないよ」
良かれと思って治療したけれど、逆に重荷になったのかもしれない。
考えなしにしたことが余計なことだったのは自分も同じだなあと思ったら、いたたまれない気持ちになった。
読んでいただいてありがとうございます。
区切りがうまくいかなくて長くなりました。
誤字報告と感想などありがとうございます。とても励みになります。また何かありましたら教えていただけると嬉しいです。




