ゴードンとクラーク
「ベル様!」
大きな樽にもたれかかってぐったりしている俺を見たルイスはすごい勢いで走り寄ってきた。相当慌てていたのだろう、ベル「様」になってる。殿下って呼ばれなかっただけいいのかな。
「大丈夫、ただの魔力切れだから」
2回目だけどね……。
テーブルに並べられた魔力ポーションをもらい、一気に飲む。うん、不味い。しかも続けて飲んだせいか気持ち悪くて吐きそう。
「おひとりですか?」
「今はね。さっきまでは出来上がった水を運んでもらうのにピータが人手を集めてくれてたからそこそこ騒がしかったんだよ。ジャスもいたんだけど、仕事があるからってジェロームの部屋に戻ったんだ」
「そうでしたか。紫黒殿は?」
「灰青に用事があるってジャスについて行った。俺も何かしようと思って、できることをしながら待ってるつもりだったんだけど、ちょっとやりすぎたな」
よほどひどい顔色なのか、ルイスは心配げに覗き込んでいる。魔術師のくせに魔力切れで何度も倒れるなんて、冒険者として危機管理が足りない。余力を残せるように自制できないとだめだなあ。
反省しつつ、出来上がったばかりの癒し水を試飲する。小さいグラス一杯で吐き気が取れ、気分がすっきりした。よかった、これなら役に立てそうだ。
水で満たされた樽を見たルイスは納得したように目を細めた。
「これが癒し水ですか?」
「うん。たくさん作ったけど運んでもらったからこれが最後の一樽。ルイスも味見してみて」
使い終わったグラスに水を注いで渡すと、ルイスは嬉しそうに口をつけた。そういえばルイスに癒し水を飲んでもらうのは初めてだったかも。
「ありがとうございます。とてもおいしいですね。正直朝から走り回ってくたくただったのですが、楽になりました」
ルイスはゆっくりと味わうようにグラスを空け、にっこりと笑った。気に入ってもらえて嬉しいな。本人は怖がられるって言ってたけど、ルイスの笑顔はなんだか頼もしくてほっとする。
一緒に笑うと、扉の近くに立っていた少年たちが青ざめた顔でヒッと声をあげた。何故……?
「彼らは?」
見たことのない少年たちだ。商会の店員見習いかと思ったけど、少年たちの後ろにはショーンがいて、隙の無い目を向けているし、制服を着ていないところを見ると違うらしい。
目で尋ねると、ルイスは二人を近くに呼んだ。
「巡回しようと店先に出たところでナレノハテに乗っ取られそうなところを保護しました。初級冒険者だそうです。名前は、えっと……」
「ゴードン」
「クラークです」
二人は恐る恐ると言った顔で頭を下げる。見たところ10代半ばくらいかな。ちょうど学院に入ったのと同じくらいだろうか。あの頃は毎日忙しかったなあ。何だか懐かしい。
俺は樽に背を預けたまま二人を見上げた。
「初めまして。今魔力切れなんで、こんな格好でごめんね。俺はベル。魔術師で一応Bランク冒険者」
Bランク冒険者と名乗ると二人の顔がますます強張った。無言でじっと見つめられる。
ああ、こっちのパターンだったか。失敗したかも。
冒険者のランクはS+、S、A、B、C、D、E、F、F-とある。F-は登録したギルドのある街中かその周辺のみ限定で活動する特殊なクラスで町の便利屋さん的な立ち位置なので除外するとして、それ以外はSに向かうほど上級冒険者だ。俺はBで中堅より少し上で上級より少し下くらい。リックは次の認定通ったらAに上がるって言ってたな。
多分彼らはFか行っててEランクだろう。装備はなくしてしまったようで簡単なシャツとズボンを身に着けているだけだから職種はわからないけど、冒険者が長いほど身に着くニオイみたいなのがない。
冒険者になったばかりの人って、大体がランクを言うと冒険話を聞きたがってにじり寄ってくるか顔をこわばらせて逃げ出すかどっちかなんだよね。経験上、前者だったらすぐに打ち解けてくれるんだけど、後者は難しい。
黙り込んでしまった少年たちを見たルイスは事情を説明してくれた。
なんというか、俺が少し休んでいる間にいろいろあったのだな……。
冒険者ギルドでの話はあまりに凄惨で胸が痛んだ。それぞれに事情はあったんだろうし、冒険者は命がけの仕事だからそういう結末も仕方ないんだろう。それでも絶望に叫びながら人以外のモノになるのは……。
「ということで、事情を知っているだろう彼らを連れてきました。ここまでの道のりで彼らは黒い魔術師と呪い師のことを話すと誓ってくれています」
話が終わると、ルイスは二人の背に手を置いて後ろに回った。
いきなり前面に押し出された少年たちは戸惑った顔でお互いを見ている。
「ごめんね、まだ立てないんで、俺の横に座ってくれる? お互い首が痛むでしょう?」
警戒心が解けてくれるといいなと思いつつ提案する。二人は戸惑いつつも頷いて座ろうとしたが、腕を動かした途端に体を強張らせた。
「すみません、ベル様。二人の腕にいたナレノハテを無理に剥がしたのでまだ痛むようなのです」
「治療しなかったの?」
「したのですが完治はできませんでした。冒険者ギルドのナレノハテたちを救ってくれたサムスン医師もさすがに魔力が持たなくて、最初に治療しただけなのです」
サムスン医師はずいぶん前に冒険者を引退して医師になったと聞いたが、現役の時はSクラス冒険者だったと聞く。それでも半端な存在であるナレノハテ多数を一瞬で魔石に変えるほどの範囲治癒魔法には膨大な魔力を要したのだろうな。もう一人、女冒険者とも対峙したと聞くし。
先ほど飲んだ魔力ポーションが効いて回復したら治療魔法使えそうだけど、二人分の回復まではもう少し時間かかりそうだし、そもそもどのくらいのケガかわからない。俺の魔法では難しいかもしれないしなあ。
そうだ、今作ったばっかりの癒し水があるんだった。飲めば少しは楽になるかも。
「そしたらそこの水を」
「ベル、ダメだ」
ふいに、扉が大きく開いた。
言葉をはさんだリックはツカツカと足音を立てて歩いてきて、ルイスと俺の間にいる少年たちをつかむ。後ろには騎士団員が4人いて、全員が険しい顔で少年たちを見ていた。いつになく厳しい顔をしたリックは騎士団員の顔で少年たちを睨んでいる。
「貴重なダシを犯罪者に与えるわけにはいかん」
「ダシじゃない、って、犯罪者? 彼らが?」
「ああ」
リックは後ろの騎士団員たちに目で合図をし、少年たちを拘束した。腕をひねられた少年たちは悲鳴をあげたが抵抗はせず、がっくりとうなだれている。
騎士団の後ろから走ってきた男が少年たちを指さして怒鳴った。
「こいつらは俺の大事なものを殺した!」
ルイスが息を飲んだのが聞こえる。
リックは冷たい目で少年たちを一瞥したのち、俺に向かって言った。
「この二人には屋台のスープ鍋に毒を入れて不特定多数の人々を毒殺しようとした容疑がかかっている。証人もいるし証拠もある。速やかに騎士団に引き渡してもらうぞ」
リックの言葉に、少年たちは膝から崩れてへたり込んだ。
詰め所に連れていくと言うリックに頼み込んで、ここで二人から話を聞いてもらうことにした。二人が知る事情は俺も聞きたかったからね。
リックは渋ったけど、ルイスも一緒に頼んでくれたのと、少年たちが抵抗せずにおとなしくしているのとで許可してくれた。
「ま、どのみち騎士団詰め所はパンパンで、どこの部屋も空いていないからなあ」
一緒に来ていた騎士団員もあきらめ顔で頷いてくれた。よく見たら昨日一緒に食事をした仲の団員だったので、樽を運び終えて戻ってきたピータに頼んでグラスを用意してもらい、それぞれに水をふるまった。袖の下みたいになったけど、喜んでもらえたからいいことにしよう。
少年たちは痛みに顔を歪めているが、無言でうつむいている。ルイスからは初級の治療魔法は受けていると聞いた。初級にもいろいろあるからどの程度かはわからないが、たぶん表面を塞いだだけだろうな。
少しだけ目を閉じてポーションの効き目を確認する。紫黒が持ってきてくれた魔力ポーションはジェロームが用意してくれたもので、普段使っているものより質が良いからか効き目がいい。早くも半分くらいは回復してるようだ。ありがたい。これならジャスにかけた治療は無理だけど痛みを軽減するくらいはできそうだ。
俺はそーっと上目遣いでリックを見上げた。樽にもたれて座り込んでいる俺と仁王立ちしているリックの視線が合う。リックはまるで心を読んだかのように、首を振った。
「ダメ」
「そこをなんとか」
「ダメ、ゼッタイ」
頑強に拒む。でも痛みで脂汗をかいている状態の相手からは、ちゃんとした話は聞けないと思うんだよね。
「あとでリックだけに癒し水作ってあげるから」
「……、約束だぞ」
なんだかんだ言ってリックは優しいんだよね。
許可が下りたので、騎士たちにお願いして少年たちを目の前に座らせてもらった。二人は痛む腕を庇いながら固まっている。
「ええと、ゴードンだったね。腕を診せてくれるかい?」
こげ茶色の髪を短く刈り込んだ少年に声をかけると、少年の隣にいた騎士がつかんでいた腕のシャツをめくりあげた。激痛が走ったのか、ギュッと目を閉じて唇を噛んでいる。
「これは、痛かったね」
腕には赤黒い大きな傷があり、腕の約半分を切り落とすほどの深さのものを薄い薄い皮膚がかろうじて表面を覆っているだけの状態だった。皮が破れたらだらんとぶら下がりそうな大怪我で、このままだとちゃんと動かなくなるだろう。
腕を持っている騎士に頼んで傷の部分を伸ばしてもらい、そっと触れる。
うう、痛い。痛みが指先から伝わってくる。ついでにものすごく深い後悔と絶望も伝わってきた。
「大丈夫だよ」
元気づけるように優しく笑う。
ゆっくりと水で淀んだ血と膿を流し、土も入れて浄化。あらかた傷を洗ったら、組織が修復する。生皮を剥がすような痛みは歯を食いしばっても口から呻きになって漏れた。
くらり、と目の前が暗くなる。こんなに深い傷だと思わなかったから魔力切れになりかけている。中途半端なまま終わりたくないし、と言ってまた倒れるのもなあ……。
困ったな、と思ったとき、優しい森の気配を感じた。
『仕方ない奴だな。まあそれがベルか』
ドライアド様がそっと魔力を足してくれたのを感じる。あっという間に満たされた魔力はゴードンの傷をたちまち癒した。俺のいつもの魔法ではこうはいかない。さすがドライアド様だ。
続けて隣のクラークの傷も診た。こちらはゴードンよりは浅かったが、それでも腕を貫通している穴がふさがっているだけの状態だった。穴の中に溜まった血と膿が変に固まって淀んでいる。
傷に触れ、治療していると痛みのあまりに気絶してしまった。ここまでの深手は初めてだったようだ。痛みに慣れている俺でもかなり辛いから頑張ったほうだと思う。
こちらもドライアド様が手を貸してくれたのでなんとか癒すことができた。よかった。ありがたく礼を言い、頭を下げる。頭の中にドライアド様の声が響いた。
『また何かあったら頼れ。近くにいると言うたであろう? 呼べと言っても呼びやしない。まったく、魔力切れ起こすほど他人に施すとは。ましてやそれで倒れるとは脆弱な……』
ドライアド様はぶつぶつと言いながらも暖かな魔力で俺を満たして去っていった。どうやら魔力切れで倒れるたびに呼ばれるのを待っていてくれたようだ。ありがたいやら申し訳ないやらで冷や汗が出る。
でもまあ、二人の傷が治ってホッとしたよ。
ふと見ると、周りにいたすべての人が口を開けてこちらを見ている。先に治ったゴードンに至っては零れ落ちそうなくらい大きく目を開いていた。ゆっくりと手を握ったり開いたりしている。
「いた、く、ない……」
「それは良かった」
にこりと笑うと、リックに頭を殴られた。何故?
「やりすぎだ、バカ!」
「ええっ!?」
「こんな大怪我、一瞬で治すな! 治療魔術師が見たら卒倒するわ!」
「だ、だって、ドライアド様が助けてくれたから」
「しーっっっ!! バカ王子!! 簡単にその名前出すな!」
「ば、バカっていうほうがバカなんだからな!!」
「ちょ、ベル様、リック殿!」
横からルイスが入ってくる。
そのとき、俺たちは失言に気づいた。
「あ」
「やっべー」
恐る恐る周りを見る。
「ドドド、ドライアド様!?」
「王子!?」
硬直したのち慌てふためく騎士たちを見て、俺たちは深くため息をつき、反省をしたのだった。
まあそんなこともあったけれど、怪我が治った二人は素直に話をしてくれたので良しとしよう。
「オレたちは先月、ゴナトで冒険者登録をしたばかりなんだ」
クラークが目覚めるのを待つ間、ゴードンはぽつぽつとこれまでのことを語った。
ゴードンとクラークは幼馴染で、ゴナトの南にある山間のゴリという村の出だそうだ。ゴリは大森林にも近く、木材を主に売っている。ゴードンの親は樵でクラークの親は木工細工を扱う職人だと言う。
「なにもないつまらないところで、毎日森に入って、精霊を怒らせない程度の木を伐り、たまに魔物と戦い、狭い畑を耕して生活してた。村の掟で若い奴らは15歳になると村を出て外を見る。そのまま帰らない奴もいれば、帰ってきて森で生きる奴らもいる。オレたちも15歳になったので村を出た」
言いながら、いまだに目覚めないクラークを心配そうに見つめる。
「クラークとは一日違いで生まれたから兄弟みたいなもんだ。オレたちは特技なんてなかったから、とりあえず冒険者になることにした。F-から始めて、コツコツと仕事をしたらいいって、ゴナトの職業紹介所で勧められたんだ。そんなわけでオレたちは冒険者ギルドに行って、適性を見てもらって、登録をした。オレは戦士、クラークはスカウトに向いているって言われたけど、クラークはベルさんみたいな魔術師になりたかったって言ってたな。でも魔術師は学院出身じゃないと冒険に出ても厳しいと言われた。オレたちは学院に行くほどの魔力はなかったから諦めるしかなかった」
たしかに、学院に入るには基準の魔力量を超える必要がある。俺は王族特権で入ったようなものだからあんまり言えないけど、平民のジャスはぎりぎりだったってぼやいてたっけ。学院で研鑽すれば魔力量は増えることもあるけど、ほんの一握りって聞いた。
学院出身でない魔術師もいないことはないけど、よほどいい師匠を見つけられない限り知識を得るのは難しい。図書館等にも魔術書はあるが、独学と学院で学ぶのとでは質が段違いだ。底辺から冒険者を目指すことになるから半端な覚悟では難しいだろうな。
「半年くらいゴナトで依頼を受けて、薬草採取や下水掃除とかはだいぶうまくなった。ランクもEに上がったけど、金はたまらなくて。そんな時、ナナトだったらいい日雇いもあるし、Eランクでもそこそこ稼げる依頼もあると聞いた。村の外は生きていくだけでかつかつだけど、目の前にあるすべてが輝いて色づいてる気がして、まだまだここにいたいと思った。だから、オレたちはナナトに来たんだ」
うう、と呻き声がした。クラークが目覚めたようだ。目を開けたクラークは傷ついていた右手を挙げてぼんやり見つめていたが、すぐに大声をあげて飛び起きた。そのままゴードンの傷があったほうの腕を触りまくる。
「ゴゴゴ、ゴードン!! け、ケガは!? 痛くない!?」
「痛くない。そっちはどうだ?」
「ボク? あ、あああっ!痛くない!!なんでっ!?」
「ベルさんが治してくれたんだよ。憶えてないのか?」
「あっ!? ああああああああ!!!」
クラークは俺を見て絶叫し、その場に平伏して額を床にこすりつけた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!ゴードンは悪くないんです!みんなボクが悪くて、それで、それで、あんなことを……」
「クラーク!」
「鍋に毒を入れたのはボクです!ゴードンは何もしてない!ボクを殺してください!!」
クラークは床に頭を打ち付けながら号泣している。
その横に這いつくばるようにしてゴードンも頭を落とした。
「クラークのせいじゃない!オレが、オレがあんな奴らに従ったせいだ。クラークは反対していたんだ。殺すならオレを、オレを殺してくれ!」
二人はガンガンと床に頭を打ち続けて殺せと叫んでいる。
鍋に毒を入れた?
俺は真っ青になった。隣にいるルイスも同じ顔色になっている。
屋台の鍋、たぶん賄いのスープか何かだろう。それに毒を入れたら、飲んだ者に害が及ぶ。どんな毒かは知らないが、二人の姿を見れば致死かそれに近いものだろう。鍋の蒸気で拡散する毒だったとしたら飲まずとも死に至るかもしれない。そんなものがエルファリア商会の前で配られたとなれば商会にも被害が及ぶ。町は大混乱になるに違いない。
騎士団が二人を連行しに来た理由が分かった。大量殺人は大犯罪だ。もし死に至らない毒だったとしても、殺人未遂として罪に問われる。
「そんな毒をどこで……?」
呟いた時、背後から男が声をかけてきた。
「反省してるのか?」
先ほど騎士団の後ろから走ってきた男だ。たしか「俺の大事なものを殺した!」って叫んでいた気がする。気が付かなかったけれど、男は白衣を着ていた。料理人のようだ。多分屋台を手伝っているのだろう。
男は両手でゴードンとクラークの襟元をつかみ、目の前に座らせた。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を覗き込む。
「自分たちがしたことはわかってるな?」
静かにかけられた問いに、二人はコクコクと頷いた。
「そうか」
男は溜息をつきながら、カップを二つ出す。どこから出したんだろう? と思ったら、ちゃんとかごを持って来ていた。ある意味すごいな。よく見ると中には刺激臭の強い液体が入った鍋が入っている。
「飲め」
カップを受け取った二人はそれが自分が毒を入れた鍋の中身だと気づいたらしい。つんと目を刺すような刺激で涙目がさらに涙で溢れる。
二人は顔を見合わせ、頷いた。
止める間もなく、同時に口をつけ、飲み干す。
直後、二人はものすごい勢いで咳き込み、中身を吐き出して身もだえた。
毒だ!
慌てて解毒を試みる。
しかし。
「大丈夫だ」
男は転がる二人を冷たい目で見て言った。
「俺の渾身のスープにハンバネロンなんて入れやがって。味を殺したお前らはこれを全部飲むまで許さん」
ハンバネロンって、たしか、スカウトが魔物除けに使う超激辛の唐辛子じゃなかったっけ? 目に入れば痛いし、燻すと虫よけになるんだったよな。たしか辛いもの好きにはたまらない食品でもあったはず。食品、つまり毒ではないってことだ。
「あ、あれえ?」
クラークは辛味に悶えながらもズボンのポケットを探った。
「あれえ???」
がさごそやって、取り出したのは赤い小袋だ。中には黒くて丸い粒が3つ入っている。
「……、間違えた」
困った顔のクラークと怒り心頭の料理人を除く全員が脱力した。
読んでいただいてありがとうございます。




