ベルグリフ
前作は異世界恋愛カテゴリでしたが、あまりにも恋愛要素が薄いので連載はハイファンタジーのカテゴリにしました。
こちらでもよろしくお願いします。
この世に生まれて早20年。
いろいろあったけれど、今が一番のんびりできているのではないかなと思う。
「ベルグリフ殿下、辺境でグリフォンが出ました!」
「たいへんです、ゼブラシア山脈の近くでドラゴンの巣が見つかったそうです!」
「王立図書館の奥に隠し部屋が見つかったと司書から連絡が!」
「ナナト大河の渡し船付近に大蛇が現れたと連絡が!」
「書類が崩れてきてます、殿下ぁぁぁぁ!!」
「聖女様から変なものが送られてきました。なんですか、この愛の水って?」
「陛下がまた抜け出してしまわれたそうです。どうしたら……」
………、う、うん、大丈夫、のんびりできてる。
「辺境のグリフォン、モンド辺境伯に討伐依頼を。今ならセリア様が修行で大森林にいるはずだ。大変そうなら冒険者ギルドと連携を取って対応を。報酬は上限10万に素材すべてと宿代・移動代などの経費。それ以上は認めない」
「ゼブラシア山脈近くは、今頃だったら騎士団が100キロ行軍訓練をしてる。ライルを連絡係として行かせて。ついでに調査して来いって言っといてくれ。ちょうど国庫が不安な時期だ。ドラゴン狩りして素材を売って資金に充てたい」
「王立図書館か。魔術師ギルドが喜びそうだな。宮廷魔術師たちが入るとややこしくなるから、市井の者に手を貸してもらってくれ。報酬は別途相談。見積もり取っておいて。上限100万までな」
「ナナト大河、たしかジャスティンが修行している港が近くにあったな。通信魔法が使える魔術師に連絡とってもらってくれ。ついでに移動のポータルがあるか聞いてみて。使えるようなら俺が移動魔法使って見に行く」
「書類は、あ、いいところに来た! すべてサイラスに任せる! こら、逃げるな!」
「ミラはまた何やってんだ? 当分色恋はいいよ……。今の俺だと相手がかわいそうだ。まあ、父上と楽しくやってそうで何より」
「兄上……、どうせ姉上と一緒だろ? 3時間くらいで戻ってくる、ほっといて問題ない。それより王の仕事をまとめておいてくれるかい? 君の苦労分は、あとであの腹にパンチしとくよ。逆に俺の拳が心配だけどな」
ほらね、すぐ解決した。のんびりできてるだろ。
婚約破棄騒動から2年。
後始末は少し大変だったが、ウエイル公爵家の取り潰しにより、事件は終わった。
城から出てのんびりする予定だった俺は、兄上の頼みにより城に留まって今までと同じように働くことを望まれた。帝王学の授業も学院生活ももちろん継続。学院のほうは卒業まで3か月くらいだったから退学でよかったんだけど、学校側から引き留めてもらえたので、ありがたく卒業させてもらった。
年越しのパーティという大事な行事中にやらかした俺に、周囲は温かかった。
あのパーティも母たちが退席した後、何もなかったように進められ、新年には全員(使用人たちまで)がワインで乾杯したほどだ。
あまりに何もなかったようなのでどうしたらと思ったが、お互いを見つめあってただ手を握り合う兄上と姉上、陽気にはしゃぐ友人3人、号泣しているミラを見ていたら、何かが吹っ切れた感じがしたな。
「今まで大儀だったな」
父上がわざわざ近くまで来て俺の肩を叩いたのも衝撃だった。褒められたの初めてだったよ。兄上が公の場に戻ってきて、正式に王位を継承したのがよほど嬉しかったのだろう。踊りださなくてよかった。
「もっとやり方があったかもしれない、と今は少し後悔していますが、母とウエイル公爵一族を排斥できたことはほっとしています。俺、私の、枷ですから」
ほんとうはこの時に「だから自分をここから追い出してくれ」と言いたかったのだが、間が悪く花火が始まり、父はそちらに向かってしまった。
タイミングを逃すとはこういうことだ。結局ずるずると今に至る。
ウエイル公爵家がなくなったので俺はベルグリフ=ヴィル=コンフォートビターという名になった。ヴィルは王家のこと、コンフォートビターは王家の姓だ。今までは王太子だったので母方の姓だったが、特例として王家の姓を名乗っている。ちなみにこの時の兄上はまだ王太子なのでアーチボルト=ヴィル=モンドとなる。
正直、王の姓は重たい。俺は王でないからなあ。早いとこ兄上が王になってほしいと心から願っていたよ。
本当に、心から、俺は王に向いてないと感じている。
めんどくさいことは苦手だし、国同士の裏を読みまくるやり方も考え方もいまだにわからない。だいたい今の「はい」という言葉は「金が不足しているのでミスリルではいかがですか?」という意味だとか言われたってわかるもんか。一言言ったら10通りの返事を考えるような生き方は向いてないんだ。
2年の年月は短いような長いような。ほんといろいろあった。
でもやってる仕事は変わってない感じだなあ。
以前からずっと王が王でいるための仕事をしている。外交や政治のことで忙しい王に雑事はさせられない、と宰相とともにいろいろやったり、国庫が不安になってきたら魔物狩りやダンジョン探索で稼いでいた。おかげで冒険者としてのランクが上がって嬉しい。
狩りで一時的にパーティを組んだ冒険者とも連絡を取り合っているし、力を貸してももらっている。王族だからと遠慮しない頼もしい戦士たちはとてもまぶしい存在だ。
彼らに「パーティにずっと置いてくれ」と懇願したが、微妙な笑顔でやんわり断られた。ちょっと傷ついた。
まあこんな感じでボチボチやっている。
さっさと城から出て、名前もベルグリフのみになって、町でのんびり暮らしたいと思っているのだが、残念ながら今のところ野望のままである。
読んでいただいてありがとうございます。
続編を書いてみました。こちらは各キャラの視点も入れたりしてのんびり続けていきたいと思います。
別口の連載は煮詰まって書けなくなってしまいましたが、こちらはサクサク進むといいな。
更新がのんびりで申し訳ないのですが、よろしくお願いします。
※ 誤字報告で「王教育」を「帝王学の講義(授業)」とご指摘いただきました。
王妃教育と並べていたので王教育のほうがいいかと思っていましたが、違和感がありましたね。
「帝王学の授業」に修正します。ありがとうございました。
※ アーチー→兄上、アナ→姉上、に変更しました