幼馴染に告白出来なくて恋愛相談される話
夜も更けてきたころ。僕が部屋で一人、中学の課題をしていると、スマホに一つのメッセージが入り。僕は筆を置きベランダに出る。
「こんばんは、しん君」
ベランダに出ると、そこには長い髪の女の人が向かいのベランダにもたれかかりながらニコニコと僕に手を振りながら挨拶をする。
「今日はどうしたの。葵姉ちゃん」
葵姉ちゃん。僕がそう呼んだ彼女は、隣に住んでいる二つ上の女性で、家が隣なこともあって小学校からの仲良くしている、いわゆる幼馴染という存在だ。
僕達は、昔からこうやってベランダから話すのが定番になっていた。だが彼女が高校に上がってからは、僕はこの時間が少しだけ億劫になっていた。そうと言うのも
「しん君。聞いてよ、今日先輩がね…」
先輩。というのは、彼女が高校に入ってすぐ嬉しそうに僕に、「私一目ぼれしちゃったかも」そんなことを言っていた。それ以降話の中心にはいつも先輩が現れる。残念ながら僕は話したことも、ましてや見たこともないのだが。
僕がそんなことを考えていると向かいから僕の名前が聞こえる。
「しん君。ちゃんと聞いてる?」
彼女は首を傾けながら、聞いてくる
「うん。聞いてるよ、それで先輩がどうしたんだっけ」
僕は星空の下こうやって彼女と話している時間が好きだった。だが今は決して好きだとは言えなくなってしまった。それなのになぜ僕がこうしているのかだって?
「うん!それでね、それでね」
そんなの彼女のこんな嬉しそうな顔を見てしまうと、こんなに辛いのに僕はこうしてしまうのだ。
「ねえ。葵姉ちゃんは告白とかしないの?」
僕がこう聞くと、決まって彼女は少し俯いてから切なそうな笑顔で首を横に振る。
「そうゆうのじゃないんだ」
僕にはその言葉の意味が、どうしてもつかめないでいる。もし意味があるのだとしたら、今の僕と同じ気持ちなのだろうか、それは嫌だな。そんな思考が頭をよぎる。
「しん君こそ。二年生になったんだし好きな人とかいないの?」
彼女は話題を切り替えるべく、だが心底楽しそうにその質問を投げかけてくる。
僕はいつもここで、いないよ。そういっている。だがこうして彼女があんなことを言うんだ、僕は彼女に告白をしてもいいのか、そんな勘違いをしてしまいそうになる。
「いないよ」
だが、僕にはそんな度胸は無いようで、また僕はいつもと同じく。間違えた答えで返答する。
「…そっか。出来たら一番に教えてね」
そう言って彼女は作り笑いを僕に向ける。何年も彼女のことを見ているのだ、そんなことわかるに決まっている。
「そう言うお姉ちゃんは、中学生の時に好きな人はいたの?」
「いたよ」
彼女の思いがけない即答に僕は少し戸惑ってしまう。
「聞いてないよ」
動揺しているのか、珍しく思ったことを零れ落ちたように口にしてしまっていた。
「言ってないもん」
彼女は星を見上げながらこちらには一切目を向けずに続ける。
「告白とかはできなかったけどね。彼は人気者だったから、私なんて目もくれないんだろうなんて、そんなこと思ってたいらいつの間にか卒業しちゃった」
切なそうにそういう彼女に、僕はどこか怒りのような、悲しみのような感情を抱き。思考を落ち着かせようとするが、彼女にかける言葉すら、今の僕には出せずに僕は立ち尽くしてしまう。
「告白したかった?」
しばらくして、僕の口から出た言葉は慰めの言葉でも、彼女に共感する言葉でもなく、無意識に発してしまったのは、子供のように自分勝手な疑問だった。
そのことに驚いたように彼女はこちらに目をやり。さっきの作り笑いとはまた違う、必死な作り笑いをこちらに向ける
「そうだね。告白出来ていたら何か変わっていたのかな」
震えた声で言った彼女は、パッとまた夜空を見上げる。
彼女の姿に見とれながら僕の頬には温かい水滴が流れ落ちる。
「葵姉ちゃん」
震えた僕の声を茶化すように、震えた声が返ってくる。
「もう、どうしてしん君が泣いてるのよ」
「…お姉ちゃんの事が好きだから」
僕は俯いて、震えながら怯えながら、恐怖心と後悔の詰まった独りよがりの言葉を泣きながら告げる。これにはきっと何の意味もない。ただ僕が悔しかったのだ。そんなただの独りよがりだ。
その言葉を告げてからそんなに時間は経っていないのだろう。だが僕にはひどく冷たく長い時間に感じられた沈黙に、僕は耐えきれなくなる。
「ごめん。気にしないで」
僕は熱く滲んだ視界のまま涙は零さないよう。声が震えないように、そう意識しながら笑顔を作って、彼女の方に視線を向ける。
「ずるいよ、ずるいよ。しん君」
そういいながら、彼女は口元を抑えて涙を流しながら倒れるようにして座り込む。そこには彼女の姿はなくただ泣き声だけが寒空の下で響き渡る。
その声に僕の我慢も次第に溶けてきて僕も泣き崩れる。
なぜ泣いていたのかは解らない。フラれたのが悲しかったのか、彼女にあんな顔をさせてしまったからなのか、これから会えなくなるのか。それこそ、その全部だったのか、ただ僕は泣き続けていた。
ぼくが一通り泣き終わるといつの間にか彼女の泣き声も聞こえなくなっていた。
「ありがとうね、しん君」
彼女は先ほどと違い、少し落ち着いた声で語りかけてくる。
泣きつかれたせいか僕も落ち着いて返事をする。
「こっちこそ。聞いてくれてありがと」
「いつから好きでいてくれたの?」
「初めて会った時からかな。いわゆる一目ぼれってやつ」
いつもなら答えない質問だが、なんかもうやけくそになってか素直に答える。
「そんな前からなんだ。ふふ」
彼女の笑い声に僕は無性に恥ずかしくなって膝を抱える。
「私はね。中学校の時からだよ。君が女の子と話しているとね。なぜ胸が苦しくなったんだ」
僕は彼女の言葉に首をかしげながら立ち上がる。
「それだと好きだった人が僕みたいに聞こえるよ」
そう言ってベランダから顔を出すと彼女が僕を真剣な顔で見つめていた。
「しん君。お姉ちゃんなのにずっと言えなくてごめんね。好きです。付き合ってください」
彼女から唐突な言葉に僕の頭は混乱する。
さっき泣いていたのはフラれたんじゃなかったのか、そんなことも頭によぎったけど何より僕も彼女に伝えなくてはならないこと言葉にする
「僕こそ、男なのにずっと言えなくてごめんなさい。僕でよければ付き合ってもらえませんか」
月明かりの下に映し出された、涙の跡が残ったその笑顔に僕も同じ顔で返事をした。