表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/36

ある歴史家の書 ―氷華姫アリシア―

 ――聖魔王ベルフレアの治世において、彼女に仕える事を夢見た人間は歴史上数えきれないほど存在する。そして実際に魔王の臣下として召し抱えられた幸福な人間の中で、魔王自らの手によって指命された唯一の人物が『氷華姫』アリシアである。

 彼女は彼の永久凍土ヴァルハラントを領地とする極寒の地、アルセダーナ王国の王女であった。現在は聖魔王国に次ぐ権勢を誇る彼の王国であるが、当時はさしたる資源も無く、生物が生きるには過酷極まりない環境も相まって畜産も乏しいという辺境の弱小国家に過ぎなかった。『暗黒の時代』において、アルセダーナが勢力を伸ばすには国を取り巻く環境があまりにも酷すぎたのである。


 そんな国の風向きが変わってきたのは、ヴァルハラントの領主として聖堕天使ルキフミナが任命されたことであった。魔王の無二の友人たる彼女は、自身が発明した薬を用いて瞬く間に土地を瘴気で覆い、領地の人々に瘴気を用いて冷気を遮断する『瘴気法』を広めた。

 これにより以前では不可能であった農業を行えるようになり格段に豊かになりつつあったアルセダーナであるが、この時点では未だに弱小国家の域を脱せてはいなかった。


 しかし、周辺国は既にこの時点でアルセダーナに注目し始めていた。魔王が単なる臣下とは異なる『友人』を派遣したことで、魔王にとってこの辺境国家は特別な価値があるのではないかと噂され始めたのである。

 ――そしてまもなく、その噂は真実であると証明されることとなった。アルセダーナ王国に、魔王ベルフレアから直々に書状が届いたのである。


 書状の内容は簡潔なものであった。


『姫が欲しい』


 その一文だけが記されていたとされる。この時、アリシア姫の父である国王は葛藤した。偉大なる魔王の元に送り出しても恥ずかしくないような教育を自身は娘に施せていたかわからなかったのだという。


 しかしそんな国王の不安をアリシア姫は一蹴した。魔王ベルフレアの臣下となった彼女は、偉大な魔王の元で数多くの有用な政策を打ち立て、後世にまで伝えられる素晴らしい業績を成し遂げた。その働きぶりは、魔王ベルフレアの側近であるメディルや四将たちも一目を置くほどであったという。


 ――その逸話から、現在ではアルセダーナでは『至高の姫君』と讃えられるアリシア姫であるが、結局のところ聖魔王ベルフレアが彼女を欲した理由がなんだったのかは現代においてもよくわかっていない。

 為政者としての優れた資質を見抜いていたからだという説もあれば、自身も魔術師である魔王が極寒の国の姫君の氷魔術師としての能力に興味を持ったからだという説もある。

 特に理由はなく、魔王の気まぐれで適当に指名したという説ですら一定の支持を得ているほどである。


 ――その中でも一際異色の説が、姫が魔王の妻として見初められたというものである。どこからかアリシア姫の美しさを知った魔王が、彼女を気に入り愛でる為に自身の元へ呼びよせたというものだ。意外にもアルセダーナでは多くの国民に支持されているこの説であるが、魔王ベルフレアとアリシア姫の関係は主と従者としてのものしか記録に残っておらず、真相は定かではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ