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ある歴史家の書 ―魔鍛治と魔酒―

 『暗黒の時代』以前は魔力を帯びた武器は一流の鍛治師でも打つことが出来なかったと聞けば、現代人はこう感じるであろう。そんなナマクラばかりの時代で冒険者や騎士はよく生きていられたな、と。実際、仮に当時の最強の人間と言われたグランベル帝国騎士団長が現代の一兵士と戦っても、武具の差で現代の兵士が勝つであろう。騎士団長は聖剣を持っていたとされるが、現代の基準で見ればそこらの店に売られている数打ち品と変わりはしない代物であった。

 なぜ魔法武器を打てる鍛治師がいなかったかといえば、理由は極めて単純である。魔力を持つ火で武具を打つことにより武具に魔力を宿らせる製法、『魔鍛治』が彼の時代では未知の技術だったからだ。神酒『アンブロシア』はもちろん、現代では普遍的に飲まれている魔酒『ネクタール』ですら『暗黒の時代』以前は存在しなかったのである。


 そんな状況に不満を抱いたのが酒と鍛治をこよなく愛する魔物、ダークドワーフである。あまりにも程度の低い現状に耐え兼ねた彼女は、友人であるダークドライアドを尋ねて『アンブロシア』の品種改良を頼んだ。しかし『アンブロシア』はこの世界では繁殖力に乏しいことを聞いた彼女は仕方なく『ネクタール』で妥協した。

 彼女の感覚では万病を癒す魔酒『ネクタール』も『アンブロシア』の劣化品程度でしかなかったというのだから豪気なものである。


 『ネクタール』が広く手に入るようになると、同時に『魔鍛治』の噂も広まり始める。『ネクタール』を鍛治場の火に与えれば火は魔力を帯びて魔法武器が打てると。半信半疑である鍛治師が行ったところ、当時の基準で言う『聖剣』が完成して驚喜したという。

 この結果、『魔鍛治』は鍛治師の間に広く知られるようになり、魔剣や聖剣が当たり前のように打たれることになった。おかげで当時あった武器屋のいくつかが魔法武器を仕入れられずに廃業したのはご愛嬌であろう。また、『魔鍛治』のやり方を通常のドワーフ族も知っていたのではないかと考えたドワーフ族を友人に持つ鍛治師がドワーフに怒鳴り込む事態もあったそうだが、『そもそもこの世界では今まで魔酒など手に入らんかっただろうに』と言われてあっさり引き下がったという話もある。

 こうして格段に向上した鍛治事情であるが、『魔鍛治』の始祖であるダークドワーフを超える腕を持つ鍛治師は現代までついぞ現れていない。魔界でも一流の職人であり並々ならぬ経験を持つ彼女を人の身で凌駕するのは難しいのかもしれない。

 そんなダークドワーフであるが、彼女が不満を抱いたのが『魔鍛治』ができないことだったのか、単に酒が不味いことだったのかはわかっていない。職人として考えるなら前者を取るところであるが、幼い容姿に反してドラゴンも敵わない酒豪だったとされる彼女の逸話を考えると後者の説も捨て難いところである。

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