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この小説の戦闘シーンの9割はこの話に占められています

 世界最強の軍事国家、グランベル帝国。武力によって他国を威圧し、常に世界の頂点に立ち続けてきた強大な帝国。その王城は今、未曾有の危機にあった。


「ああっ、ミスリルゴーレムが……!」


 帝国が誇る英知の結晶にして最強の魔導兵、ミスリルゴーレムたちが水流によってまるで玩具のように粉砕される。


「クカカカカ! 雑魚どもが! このカッツォ様の水を耐えたければオリハルコンのゴーレムでも持ってくるんだな!」


 魔王の配下、水の将が嘲笑した。彼にとってはミスリルなどそこらの石と大してかわりはない。


「おのれ……! 醜い魔物どもめ……!」


 2mはあろうかという体格の騎士団長が忌ま忌ましげに呟く。


「あら……酷い。こんな女性に向かって醜いだなんて……」


 身体に巻き付くほど長い髪を湛えた美女が言葉を返した。魔王軍、風の将リシアである。


「黙れ魔物風情が! この神聖なる王城に踏み入った罪、その命で贖え!!」


 騎士団長が聖剣を携えて切り掛かる。その刃が美しい女性の姿をしたリシアの身へと迫り――


「――嫌ですわ。どうして殿方というのは野蛮なのかしら」


 ――そんな呟きと同時に、幾重の風の刃が騎士団長を切り刻んだ。風が止んだ後、残ったのは聖剣ともはや判別不能なほど細切れになった肉片のみ。


「う、うわああああっ!!」

「俺はまだ死にたくねえ!!」


 騎士団長を失い恐慌状態に陥った兵士たちが逃走を始める。最強の軍事国家であり勝ち戦しか経験していない帝国の兵士は、練度こそ高くとも、絶望的な戦いに命を懸けられるほど心が強くなかった。


 ――しかし、逃げ出した兵士たちに不気味な声がかかる。


「フシュルルル……怖いか? 安心せよ、すぐに解放してやろう……」


「だ、誰だっ!?」


 不気味な何者かの言葉に逃走していた兵士たちが警戒態勢を取るが、その姿はどこにも見えない。そして、すぐに異変が訪れた。


「お、おい。お前の腕……骨に……」

「お、お前の足も……」

「う、うわあああ!! 俺の体が骨にっ……!?」


 痛みも無く肉が削げ落ち、手や足が骨と化していく。おぞましい光景とその後に待つ自身の末路に兵士たちが狂乱したが、すぐにその声も止んだ。兵士たちが完全に骨と化した――スケルトンとなったのだ。


「この私からの祝福だ……喜ぶがいい……もうお前たちは生の苦痛も、いかなる恐怖も味わうことはない……」


 全身をローブで覆い隠した不気味な人物が、もはや物言わぬ屍たちにそう声をかけた。魔王軍、土の将スカル――兵士たちをスケルトンと化した張本人である。


「お、おのれ化け物どもめ……! この私の爆炎で焼き払ってくれる……!!」


 魔術師然とした風貌の老人――帝国筆頭宮廷魔術師が、魔力をその手に集中する。気迫とともに、その魔力を解放した。


「燃え尽きるがよい!!」


 老人の手元から解放された魔力が、膨大な爆炎と化してかつて兵士だったスケルトンを焼き尽くし――


「なんだ? その哀れな術は」


 ――そんな呟きと一緒に呆気なく掻き消された。片手で爆炎を消したのは筋肉隆々の大男。魔王軍、火の将カンテだ。


「な……わ、私の最強の魔法が……生涯の努力の結晶が……」

「ふむ。この程度が生涯を捧げた結果とは気の毒でならん。私が真の炎というものを見せてやろう」


 そう言うと、老人のものとは比べものにならない魔力がその右手に集中した。


「さぁ、刮目せよ」


 その言葉とともに解き放たれたのは、青い炎。その炎がその身に到達するかという瞬間、老人の姿は消えていた。青い炎の熱によって、身を焼かれる前に熔けてなくなってしまったのだ。


「陛下! は、早くお逃げを! もはや城はもう駄目です!」

「ここは我ら近衛が……」

「だが……」


 まだ戦意のある近衛騎士たちが皇帝に逃げるよう告げた。しかし、魔王軍はそんな彼らに対する慈悲など持ち合わせていない。


「兵士諸君、任務ご苦労。……さようなら」


 男とも女ともつかぬ人物――魔王の側近メディルがそんな言葉とともに放ったのは雷撃の魔法。その魔法は近衛騎士たちを一瞬で消し炭へと変えた。


「皆、良くやったわ。ふふふ、これで残るはあなただけね、皇帝」

「……貴様らは何者だ。ただの魔物がこれほどの力を持っているはずがない」


 その皇帝の問いに、人形じみた美しさの少女は嘲笑で返した。


「あら、古来より人間の国に攻め入るのは魔王軍と決まっているでしょう?」

「魔王だと……そんなものは最早神話の存在だ……!」


 確かに人間を滅ぼす魔王と、それを打倒する勇者の伝承はある。だが、魔王が最後に現れたとされるのは数千年も前の時代であり、最早お伽話の中だけの存在。勇者が使っていたという伝説の武具も、今や各国の宝物庫で埃を被るだけの代物だ。


「らしいわね。だから、わざわざ異世界から殴り込みに来てあげたのよ。感謝なさいな」

「異世界だと……? 貴様らはこの世界の存在ではないのか……いや、当然か」


 皇帝は魔王が異世界の存在である事に驚愕と同時に納得した。これほどの存在が唐突に現れる可能性など、それぐらいしか有り得まい。


「……もはや我が国の滅亡は避けられん。だが、余はグランベル帝国皇帝ディオス!! たとえ神話の怪物が相手でも膝など折らぬ!!」


 皇帝はそう叫ぶと、愛剣を構え、剣に闘気を込めて魔王に切り掛かった。


「ほう、いい殺気ね」


 魔王ベルフレアは感心していた。魔王である自分に傷を負わせられる存在はそういない。しかしこの剣を身に受ければ、自分でも傷を負うだろう。


「――まぁ、届けばの話だけどね」

「なっ……!?」


 皇帝は驚愕した。避わされたり、反撃されるのは想定していた。だが、全力の闘気を込めた剣が受け止められたのだ――2本の指で。しかも魔王は華奢な少女にしか見えないのに、どれだけ力を込めても挟まれた剣は全く動かない。皇帝は魔王の底知れぬ力に戦慄した。


「私に立ち向かってきた褒美に、私の技のひとつを見せてあげましょう。光栄に思いなさいな、魔王たる私が技を放つなどそう無いことなのよ?」


 そう語ると、魔王は自由な側の手を掲げ、指を鳴らした。その瞬間、皇帝はこの世から消えた。何が起こったのか、周りの魔王軍の幹部たちにも全くわかっていなかった。ただ魔王が指を鳴らしただけで、グランベル帝国皇帝という人間の存在が抹消されてしまったのだ。


「これが究極の力、『無』の力よ。まぁ人間相手に使うには過ぎた玩具だけどね」


 ――この日、世界最強の帝国は滅亡した。

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