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私の脳内選択肢が、恐怖の魔王化を全力で邪魔している

「あ、あれ魔王様じゃない?」

「本当だ。すごく綺麗な人。握手してもらおうかな」

「サインもらえないかな……」


 ――そんな人間の少女たちの会話を、魔王ベルフレアは気付かないふりをして足早に立ち去った。


「全く……なんなのよ本当に」


 人間に恐怖されるどころか崇められている現状を愚痴る魔王ベルフレアは、珍しく魔王城の外に繰り出し、世界を歩いて回っていた。無論気分転換のためである。


「あの娘が善行をすると失敗するように、私にも妙な能力があるんじゃないでしょうね?」


 あの娘とは魔王の親友にである善行をしようとして他人を不幸にする問題児、堕天使ルキフミナのことだ。魔界では彼女の善行が全てあらぬ方向へ行くのは、そういう隠し能力を持っているからだと茶化されていた。

 ちなみに言うまでもなくルキフミナはそんな能力など持っていないのだが、解析できないそういう能力があると一部では本気で信じられていたほどだ。ベルフレアはその噂を馬鹿馬鹿しいと思っていたが、自分にも悪事をしようとすると絶対に失敗する能力でもあるのではないかと本気で考え始めていた。


「いや、本当にあったりしないわよね? ないわね、うん」


 段々と不安になってきたベルフレアは思わず解析魔法を使って自身の状態をチェックした。魔王としての能力がずらりと並んでいるだけで、そのような妙な能力は見当たらない。ベルフレアは安心した。


「……うん?」


 ――それは一瞬の出来事であった。突如、膨大なエネルギーが魔王に向かって飛来し爆発したのだ。


「ふははははは! 思い知ったか、邪悪なる魔王め!」


 一方、ある山中で巨大なドラゴンが高笑いしていた。このドラゴンこそ件の事態を引き起こした張本人であった。自身の縄張りの近くを魔王が歩いているのを見た彼は、ブレスで魔王を狙撃したのである。


「魔王め! 我の信者どもを奪うから死ぬ羽目になるのだ!」


 彼はこの世界で長く生きた古竜(エンシェントドラゴン)であり、地元で神竜として崇められ、貢ぎ物を捧げられていた存在であった。しかし、魔王が降臨して以降は彼の元を訪れる人間は全くいなかった。貢ぎ物を捧げても何も施してくれない神竜と、人間を導いてくれる魔王では、どちらに人間の心が傾くかは自明であった。


「ふふふ、魔王がいなくなれば人間たちも再び我を……ん?」


 しかし、そんな神竜の歓喜も長くは続かなかった。彼の元に凄まじい速度で飛来する人影があったからだ。


「な、なんだ……ぐおぉ!?」


 そして神竜はそのまま凄まじい速度で飛来した人影に蹴り飛ばされ、その巨体が吹き飛んだ。無論、簡単にドラゴンを蹴り飛ばせるような人物はこの世界に1人しかいない。


「貴様か!? この私にあんなものを吹きかけたのは!?」


 そう、魔王ベルフレアである。怒り心頭な様子の彼女は、ブレスが飛んできた方向から狼藉者の居場所に当たりをつけ、高笑いしていた神竜を蹴り飛ばしたのだ。


「なっ……ま、魔王!! 馬鹿な、神竜たる我のブレスを受けて無傷だと!?」

「はっ、神竜ですって? たかが長く生きて知能が高まっただけのトカゲ如きが笑わせてくれる」


 ――そう、魔王は一切の傷を負っていなかった。それどころか服すら傷ついていない。所々が薄汚れている程度である。神竜と呼ばれるほどの存在から攻撃を受けようが、彼女には一切外傷を与えられないのだ。そもそも魔王から言わせればこの程度の竜など魔界では珍しくもなかった。

 では、何をそんなに魔王が怒っているのかといえば。


「それより貴様、下等生物の分際でこの私に汚れた息を吐きかけておいて、生きていられるとは思っていないでしょうね?」


 そう、魔王の怒りを煽ったのは攻撃方法がブレスであったことである。ドラゴン族の最大の攻撃がブレスである以上当然といえば当然なのだが、しかし魔王からすれば、そこらの動物にいきなり唾を吐きかけられたような感覚であった。

 逆に言えば彼女にとってドラゴンのブレスなどその程度でしかない。これほど怒っているのも「私の一張羅に汚いものをかけやがって!」といった感じであった。


「お、おのれ魔王……我とて神竜と呼ばれた存在、そう簡単に殺されはせぬぞ!」

「ほう、ならば抗ってみよ!」


 そう言って魔王が空中に浮かび上がってから腕を振るうと、一片の光も無い漆黒の闇が、神竜の住む山ごと彼を包み込んだ。そして闇が晴れた時そこにそびえ立っていたはずの山はどこにも無かった。神竜は断末魔を上げることすら許されず、彼の住んでいた山ごとこの世界から消えた。


「ふっ、口ほどにもない。まぁ久々の運動ぐらいにはなったわね」


 ――魔王はそう言って姿を消した。後には山があったなどとは信じられないほど見通しの良い大地だけが残されていた。


-------------------


「……えー、魔王様。この度は貿易において大きな障害となっていた山を消滅させたことについて人間たちから感謝状が」

「畜生めー!!」


 ――後日、魔王城にはいつも通りに叫ぶ魔王の姿があったとか。

ちなみに感謝状は消し炭にしました。

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