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ある歴史家の書 ―怪物と肉―

 魔王降臨以前の『暗黒の時代』において、各地の食料事情には大きな格差があった。その土地の環境によって、入手が容易な食物、困難な食物が存在するのは当然の帰結であるが、その常識すらも砕かれることになろうとは当時の人々は思いもしなかったであろう。


 そもそも永久凍土でも当たり前のように野菜や果物が育つこと自体が、魔王降臨以前は有り得なかったことである。『瘴気法』を使用した作物の栽培は砂漠地帯などにも広まり、各地の食料格差は大きく縮まりつつあった。

 しかしそうして野菜や果物が過酷な環境に適応できるようになり入手が容易になった一方、依然として地域環境により入手難度が大きく変化していたのが食肉である。人間や植物と異なり、瘴気に適応する能力が無かった一般の動物たちは、自身に適した環境でしか生存できなかったのである。


 そんな食肉事情に不満を持ったのが、ある領地の領主となった魔物、オークキングである。在来の怪物である、本能のみで生きる愚鈍なオーク種と比べ、魔界の魔物である彼は知能が高く、中でも特に好んでいたのが日々の食事であった。

 しかし、そんな彼にとってこの世界の食肉は相当程度が低いものだったのだろう。ある時、領主である彼自らが狩りへと繰り出したらしい。そして帰ってきた彼が狩ってきた獲物は驚くべきものであった。

 その全てが、ミノタウロスやコカトリスのような上位の怪物だったのだ。魔界の住人であるオークキングにとって、怪物であろうとそれが『牛』や『鳥』に分類されるなら単なる肉でしかなかったのである。


 オークキングに共に食卓を囲むよう言われた使用人たちは、これらの肉の美味さに非常に驚いたという。そもそも瘴気を取り込んだ野菜や果実の味が良質であるなら、瘴気を糧にして生きている怪物たちが食材として上質なのは自明の理であったのだ。


 それまで人間の常識では怪物の死体とは道具の素材にするものであった。食料目的に狩るには命の危険が大きすぎる存在である。しかし、魔王降臨以降、人間の技術は進歩し、戦闘能力も格段に向上しつつあった。

 怪物が食べられる、しかも美味い。そして今の自分たちには日常的に狩る能力もある。となれば、主に食卓に上がる肉が動物から怪物にとって代わられるのは当然の成り行きであった。

 この一連の流れに最も湧いたのは冒険者たちであろう。長年培った、しかし燻っていた技術が怪物たちの食肉としての需要が世の中に広まったことで、その実力を存分に振るえるようになったのだ。当時の冒険者ギルドの掲示板には怪物のハント依頼が毎日びっしりと貼られていたという。


 さらに怪物の生態も注目を集めた。そもそもが通常の動物では考えられない状況に適応できる能力を備えているからこその怪物だ。過酷な環境においても、難なく生存できるその生態は、通常の動物が生きられない地域の食肉として供給するにはうってつけだったのである。


 これにより、世界各国で各地に怪物を引き込み繁殖させる計画が立ち上がったが、この計画は驚くほどスムーズに進んだというが、これは至極当然のことであった。何しろ、怪物の生態に関しては専門家どころか、それそのものな存在が自身の隣で暮らしているのである。彼らにどうすればいいか尋ねれば計画の進行は容易であった。


 この計画に一番熱心だったとされるのはやはりオークキングその人であった。肉に目がない彼は、自身の領地において食肉になる怪物の繁殖に特に入れ込んでいたとされる。


 ――現在ではオークキングが治めていた領地は、天然のダンジョンと呼ばれるほど多種多様な怪物が生息しているという。

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