表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/36

ある歴史家の書 ―聖魔王と聖堕天使―

 聖魔王ベルフレアの右腕といえば側近である『雷鳴王』メディルであり、彼あるいは彼女を筆頭に、魔王の有能な臣下は数多く存在するが、魔王の友人と呼べる人物は極めて少ない。

 誰もが傅き臣下の礼を取る偉大な魔王にとって、自身と対等の人物というのはかなり希少であった。その魔王の友人という座を独占していたのが、彼の聖堕天使ルキフミナである。


 様々な薬や魔法の研究・開発を行った事から現在では発明の女神として崇められるルキフミナであるが、堕天使という種族からわかるように、ルキフミナは本来は天界に住まう天使であり、魔界の住人である魔王とは関わりのない存在であったが、堕天し魔界に堕ちたことで魔王ベルフレアと出会い友人関係になったという。

 なぜルキフミナほどの人物が天界より追放される事となったのかは様々な説があるが、有力視されるのが魔王ベルフレアが素晴らしい人物である事を知った天使ルキフミナが、彼女の元に行く為に自ら追放されるような事態を起こしたというものだ。


 そうして魔王の友人となった堕天使ルキフミナであるが、彼女はすぐには魔王軍に加わらなかった。あくまで友人関係に留まり、魔王ベルフレアとは別の世界で独自に活動していたという。そんな彼女が魔王軍に加わる事になったのは彼女が活動中に引き起こした事件が関わっている。

 その時彼女は、天界時代の同僚の管理する世界で働いていたという(追放されたはずの天界と当たり前のように関わっている事からルキフミナが自ら堕天したと言われる説を後押しする理由のひとつとなっている)


 そしてある時、その世界で飢餓が発生したという。この時彼女は独自の研究で生み出した『時間経過で無限に増えるじゃがいも』を食料として提供した。しかし、彼女はそれをきっかけにその世界を追われる事となった。時間経過で増えすぎたじゃがいもに土地が埋もれ、人の住めない土地となってしまったからだ。通称『イモータルポテト事件』と言われるそれは、魔王ベルフレアの元に堕天使ルキフミナが訪れた際に自ら語った発端の事件として広く知られている。


 しかしこの『イモータルポテト事件』だが、本来起きるはずのない事件だったとされる。無限増殖して土地を埋めたじゃがいもは最終的にルキフミナの元同僚の天使により時間魔法で処理されたとされている。


 つまりは、無限増殖の止める技術を元同僚は持っていたのだ。ルキフミナもそれを知っていて提供したのだろう。

 にもかかわらず人が住めなくなるほどじゃがいもが増殖したのは元同僚が時間魔法を使わなかったからであり、ルキフミナが悪かったわけではないとの見方が強い。まさか彼女が時間魔法を使えばいいと教えていなかったとか、無限増殖の停止方法を考えていなかったわけはあるまい。


 そうして世界を追われたルキフミナは、古くからの友人である魔王ベルフレアの元を尋ねる。そして彼女は形式上は魔王の臣下となり領地を得ることになる。

 その領地こそ、現代では聖地とされる永久凍土ヴァルハラントである。ヴァルハラントの領主となったルキフミナが最初に行ったのは、土地を高濃度の瘴気で覆うことであった。マナを瘴気に変換して冷気を遮断できる特殊なポーションを作物と共に領民に配布したのである。


 現代では常識である瘴気を身体や物質に纏わせる事による冷気や熱気の遮断、いわゆる『瘴気法』であるが、この頃はまだ未知の技術であった。ルキフミナは誰もが少なからず持っているマナを瘴気に変換するポーションを領民に与える事で、この技術を擬似的に領民に使わせたのである。無論、その領地に好んで輸入されていたダークプラントによって領民が瘴気に適応していたのも承知の上で。


 この結果、永久凍土でも作物を育てる事が可能となっただけでなく、凍死者もほとんどいなくなるという素晴らしい結果をもたらし、瘴気には冷気を遮断する力があると認知される事となった。

 主にグランベル帝国にて使われており、帝国の皇帝はその全てを極めていたという闘気を操り身体強化や剣を創り出す技術『闘気法』を応用した、瘴気を操る『瘴気法』が生み出された事で、ポーションに頼らずともその恩恵を受けられるようになる。

 一月も経つ頃には領民はこの『瘴気法』をほぼ全員が修得していたとされる。自身の生命力を力に変えなければならない『闘気法』と比べ、空気中の瘴気を身に集めるだけで良い『瘴気法』は修得が容易だったのだ。ポーションの作用によって土地が高濃度の瘴気に覆われていた事で、練習台には困らなかったのも一因であろう。


 こうして堕天使ルキフミナにより世に広まった『瘴気法』であるが、一方でこの時彼女が用いたポーションについては現在でも再現出来ていない。いくつかが時間魔法が掛けられ品質が劣化しないようにした上で各国の研究所に保管されているが、未だに原材料すら不明のままである。


 そもそも件の無限増殖するじゃがいもを始め、彼女が創り出したとされる数々の発明の中で人間が再現出来た物はほんの数点しかない。やはり天才の領域に辿りつくには人間の一生は短いのかもしれない。


 ――聖魔王ベルフレアの親友、聖堕天使ルキフミナ。彼女は発明を志す人々を微笑みながら見守っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ