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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

世界が暗闇に包まれる瞬間

作者: 水都莱兎

ある日、学校の帰り道で道に迷った。おかしなことに明るかった周りの景色が薄暗いものに変わっている。ここがどこであるのか、わからない。それなのに、私は恐れてはいないから余計におかしく思えて笑っちゃうよ。だって、目の前にはあれ(・・)が迫っている。



この町では、優香(ゆうか)ちゃんという小学六年生の子どもが行方不明になったことがある。町の人々は、口をそろえて神隠しだと騒いだ。しかし、優香ちゃんの両親が不仲であったことから、密かに殺されて遺体はどこかに隠されているのではないかとも少人数が噂していた。真実はもっと残酷なものである。



元々、優香ちゃんは赤ん坊の時に拾われた子どもであった。そして、少女が拾われてからおかしなことが起こるようになる。まずは、町に雨が降らなくなった。天の恵みがなければ、生きていくことは難しい。作物もうまく育たず、水も干からびてしまう。町は、解決が困難な問題に直面した。次に、伝染病が流行った。病にかかったものは、原因不明の症状に陥った。体の水分どんどんなくなり、体が枯れ腐っていく。手の施しようがなかった。そのため、皆死んでいった。



それらのことが起こってから、町の人々は、少女に憎悪の念を抱くようになった。それらの現象は、少女が来てから出た問題であったから、他に理由はないと町の人々は思っていた。彼らは、少女を拾ってきた両親を責めるようになり、その誹謗中傷による疲れから正常な判断ができなくなっていったのだろう。心に余裕がもてなくなったともいえる。それによって起こったことは、両親の喧嘩。毎日毎日、お互いを責め立て、悪化した。ついには、最初の頃は、責任を持って世話をしていた少女を虐げるようになった。町に起こった負の現象から町の人々の憎悪や不満などが両親へと伝わり、仲の良かった夫婦は破局寸前へ向かうという悪循環が完成する。全ての原因は、少なくとも少女のみではなかった。町の人々の憎悪を何とか受け止め、我慢し、少女を守っていれば、少女の両親に訪れた未来は異なっていたかもしれない。なぜなら、少女を守り育てていた時間に対してある者は感謝していたから。だから、少女を拾った両親は少女を必死になって守り、育てておけばよかったのにと少なからず思わずにはいられない。本当に、可哀想で哀れな人たち。そもそもの始まりは、神様を奉っていた神社の祠を取り壊したことである。それが、全ての負の連鎖を起こした根本。雨が降らなくなったこと、伝染病が流行ったことの原因。



少女が拾われたと同時に起こった偶然。普通なら、ありえない神様の祠が壊されたこと。なぜ、誰も気づかなかったのであろうか。



その理由は、とても簡単だ。神様の信仰が薄れたから。そして、管理もしていない薄汚れたボロボロの社を必要としている人はいない。だから、余計なものを人々は壊した。そこに神様が宿っているとは知らないし、神様の存在を、信仰を忘れたからできたこと。神様がいる家を勝手に壊したら、その持ち主が怒るのは当たり前のことだ。



今まで恵みを与え、人々を守っていた。人々が困らないようにしていた。それなのに、何という仕打ちであろうか。神様はお怒りになった。信仰を忘れられたことは悲しくて苦しくて仕方がなかったが、なぜ自身の家までも壊されなければならない。そして、自分の子どもは神になる器を持っていなかった。神の世界にも掟がある。神の器を持たないものは神が住む領域にいることはできない。たとえ、それが自分の愛している子どもであっても……。だから、あの子を手放さなければならなかった。苦渋の決断であったのだ。それだというのに、人間どもは何ということをするのか。私の大切な大切な子に……。私の大切な子を拾い、ひとときだが、優しく育ててくれた彼らには感謝をしていた。しかし、彼らは大切な子を責め立てたから今はその感情さえもない。全て壊れてしまうといい。私の家がなくなったように、あなたたちがいらないというのなら、神である私もお前らなんていらない。いらないものは、捨てないといけないよね?



烏の声が異様に響いた。烏が地面に倒れている者たちをツツいている。ある一面の景色に映るのは、大きく広がっている赤の色。烏たちが近づくのは、もう動かない肉塊。黒い鳥は残酷で、それを食していた。酷いものであると、目玉をくりぬかれていた。吐き気がしそうなほど、悲惨な光景には目も当てられない。目を閉じてしまいたくなる。しかし、そこに立っている一人は、笑っていた。楽しそうに、可笑しそうに、愉快に、愉快に、愉快に、声を上げて笑った。烏たちが行なっている行為を止めようとさえしなかった。



あれってなんだかわかるだろうか。私の大切なお友達。町外れで捨てられていた犬を助けたことがあって、その犬が私のお友達。同じ一人ぼっちらしく慰めあってた。犬は喋ることはないけれど、ぬくもりはそこにあるから一人ではないと感じられる。その時だけは、寂しくなかったよ。拾われた頃は両親も優しかった。しかし、雨が降らなかったり、伝染病が流行したことで、私を拾ったから起こった現象だといわれるようになった。そのため、町の人たちからは悪口を言われることが増えるようになり、両親はそれに耐えていた。でも、限界はわりと早くきた。心はすでにボロボロで、もう誰かを恨んだり憎んだりして、攻撃していくことでしか精神を保っていけなくなったんだと思う。それが、歪んでいた方法でも、そうしていくことでしか自分を守る方法がないから、相手を傷つけることを選んだ。それが、私の両親だった人だよ。気丈であろうとしたけど、弱い人たちであった両親。多数の人々の声には敵わなかった。結局、気が滅入っていき、攻撃する相手を見つけて自分たちは逃げた。だけどね? それで良かったんだと思うよ。そうしないと、彼らが壊れていただろうから、良かったんだよ。きっとね。



私たちは、永遠に普通の人は訪れることができない境界を越えた先で囚われ続ける。もう、人がいる場所に戻ることはできない。でも、寂しくないよ。お友達と一緒であるから。私がいなくなったことで、両親たちが心の平穏を取り戻して幸せになることを願おう。私は、もうすぐに暗闇に囚われてしまうから。暗い世界で、いくつかの目が私をジッと見ていた。私は、お友達をぎゅっと抱きしめる。寂しくはないけど、きっとここで……。多くの正体不明のモノたちが、私たちを……。



町の存在は消された。神の怒りを買った町と言われることは、汚点であるから忘れ去られた方が都合が良い。尊いもの、神に助けてもらって生きているということを忘れ、神が住む家を壊す町はどのようなことにしろ、最終的には壊れる。それが早かったか、遅かったかだけの違い。神の信仰などを忘れてしまう人間とは恐ろしいものだ。いつしか、人は神を忘れていき、全てが壊れてしまうのだろうか。考えたってなんの答えも出てこない。所詮、壊れる時は壊れるもの。自然という存在に、人間は叶うことはないのだから。



大きな泣き声が辺りに響いた。慟哭をしている。過去の時間は取り戻せない。だから、現在を必死に生きて、現在の時点で未来を想定して楽しいことを考えよう。過去は変えられないが、現在から起こす行動、未来はまだ不確定である。そのために、自分がなるべく後悔しない日々を過ごしていこう。時には挫折も味あうと思う。でも、楽しい未来を想像して、一所懸命に生きていくしかないよ。時間は死ぬまで動き続けるのだから……。生と死、辛いのはどっちだろうね。



壊れるその瞬間まで、自分からみても、他人からみても輝いている人生を手に入れることはできるのだろうか。人生とは難しいものだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読させていただきました。 静かな雰囲気が漂っていて良かったです。 『時間は死ぬまで動き続けるのだから……。』という部分からは、メッセージ性を感じます。
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