来たもんはしょうがないから対処してみる
第3話 戦闘
「偵察機からの入電、フィレンツェ王国の王都から出た軍勢がこちらへ移動してきているとの事」
「あいあ~い、わかりました~」
その一報が執務室にいる俺と、王の爵位を持つ9人の配下の者たちといた時に来た。大慌てで報告に来てくれた妖精を帰らせた後、俺が口を開く。
「・・・ついに来た、か」
「想定内って顔ね」
「まぁね~」
アスモダイが、今の発言と特に慌てていない俺を見て真っ先に訪ねてきた。
「特に取り柄のない森が一晩でダンジョンに変貌し、商業ギルドと冒険者ギルドが多く参入している上、そこから出てくる良質な装備や見たことのない物があれば独占したくなるのも納得かなぁ、と」
「つまり、戦闘になって当然じゃ、ということかの?」
「そうだね~」
俺の呑気な発言とは裏腹に、この戦闘で死ぬであろう人達には同情を禁じ得ない。圧倒的な火力と強力な武装で突っ込んでくる魔神達の光景を想像して恐怖しか生まれねぇな、と思えてしまう。
とは言え、戦争になるようなきっかけは長期的な目線で考えると作りたくない。
商業都市として動き出したとは言え、まだまだ未成熟なダンジョンなため、来客数を減らすような行為はなるべく避けるべきだというのが俺の考えだ。
そのため、やるべき事はかなり減ってくるが無い袖は振れないのと同じようにメンツやプライドに拘ってはいられない。
だから俺は、こうする事にした。
「サガン。お前さんのスナイパーライフルの出番だぜ?」
「あ、はい。わかりました」
「?スナイパーライフルでどうする気ですか?」
バエルは、武器としてのスナイパーライフルを想像して俺に聞いてきた。
「まぁ、見てからのお楽しみだ」
「ふーん」
バエルは何かが引っかかるような気がしているようだが、サガンは俺のやることを察して了承してくれた。彼女はいい狙撃手になるかもしれない。
そんな訳で、これから起きる戦闘に対しての対策を彼女たちと共に多角的に議論していくのだった。
~~~~~~
1週間後
「微妙ではあるがこれはすごいな・・・」
「本当に来ましたね~」
「なぁんだ、たったの2,3千じゃん」
「こんな数、すぐに全滅することが出来るわ」
俺以外の奴らには酷評だが、たった数日で数千人の兵士を集めるってことは威力偵察の可能性がある。
前世での話になるが、中世ヨーロッパの都市の人口というのは数千人単位の中規模都市が当たり前であり、数万人が同じ土地で過ごしているのは人口全体の1割程度だったと言われている。
そのため、数千人単位での兵士の移動ともなるとかなりの大規模な補給能力が必要になるが、それを無視できるほどの近さにダンジョンができたとしてもそのぐらいだろう。
「サガン、準備はいいかい?」
「はい、こちらはいつでも大丈夫です」
俺はサガンに支持したことを確認すると、サガンは即答してくれた。どうやら、ちゃんと位置についてくれたらしい。こういうやり方は卑怯と言われかねないが、そのぐらいのことをしないと交渉の席についてくれないと思うからやる。
すると、戦闘に配置された騎馬の1団から城門前の吊橋に数人が出てきてこう言った。
「我々はフィレンツェ王国騎士団のものである!この地は我々のものだ!よってこのダンジョンも我々のものだ!さぁ、明け渡せ!」
いけしゃあしゃあと言い立てる敵の騎兵。
そんな傲慢な態度で望む奴らにこのダンジョンを渡してたまるものか。このダンジョンで作ったものは全部、俺のものだ。そんな要求、絶対に飲む訳には行くものか。
「このダンジョンと町にお前達は住んでおらず、我らが住んでいる!よって我々のものだ!この城壁もダンジョンも町も我らが作った!よって我等の町だ!」
そんな彼らに対して、俺はこの思いを乗せて咆えた。
自分の思いと魂を乗せて。
「フィレンツェ王国最強の騎士団が見えんのか!降伏しなければ皆殺しだぞ!」
俺の反論に明らかに怒りを滲ませて言った。
だが、俺の考えと思いは変わらない。
「何度でも言う!ここは我々のものだ!早々に立ち去れ!」
「後悔しても知らんぞ!」
要求が通らないと悟った彼らは騎士団に馬首を返した。
するとバエルが心配そうに聞いてきた。
「大丈夫ですか?マスター。手が震えてますよ?」
「ん?あぁ、すまん。こういうこと離れていなくてな。早く終わらせたいよ」
俺がそうぼやいていると、騎馬団の陣形に変化が見られた。
それは騎兵突撃だ。
彼らは騎兵突撃によって脅しをかけているのだ。
「サガン、あの中で偉そうな奴を優先的に撃って」
「はい」
俺は冷静に命令を出すと、サガンは連続して狙撃をした。
パン!、パン!、と音がする度に先頭に入る人間の頭に当たり、倒れていく。
発砲音が5回ほどした所で、騎馬隊が急速に止まる。敵にとっては訳の分からない遠距離からの攻撃。それによって敵将は倒れ、その躯は打ち捨てられるだろう。
だがそんなもの、このダンジョンを糧にして生きる奴らの安全を考えるなら俺のこの吐き気を催す感情など安いものだ。
俺がそんなことを考えていると、敵は撤退していった。
「撤退しましたね」
「・・・ふぅ。あぁ、撤退したな」
パイモンの言葉に答えるように言った俺は、偵察機を出してその後の行動を確認するようにとの旨を指示し、自分の執務室に戻っていった。
後日、偵察機をもう一度飛ばして王都の戻っていく敵の大部隊を確認させた俺らは、ダンジョンと城下町を戦闘モードから通常モードに切り替えた。
実は偵察機を飛ばして敵の位置を確認しつつ、戦闘配備が必要な所で敵から一番近かった東門の住民を避難訓練と称して退避させていた。
それを効率良く行わせるために、関係各所に連絡して城下町にいる人達に知らせていたのだ。
初めは反論したり、嫌がっていた人達だが最終的に命あっての物種という事で従ってもらった。じゃないと色々と面倒になるし。
城下町ではそんなことがあの戦いの裏ではあったが、今となっては問題のない範囲で落ち着いている。
それと同時に俺も落ち着きたかったのだが、
「はっはっはっ、マスターも怖がりなんじゃのう!」
「ええ、いつもは飄々としていますのに」
「チキンヤロー(ボソッ」
「私としては親しみが湧いたなぁ。なぁ?アスモダイ」
「・・・ふん」
何故か夕方から宴会になっていた。
理由は、敵の軍隊と戦って勝利したことによるものだがそれと同時に、俺が敵との戦いで恐怖を感じたのが親しみやすいということで好印象だったらしい。
とは言え、ウィネからは完全にネタとして扱われ、パイモンに至ってはバカにされる羽目になった。
だってよぅ、今まで平和な世界に生きてきてそこから異世界に飛ばされて人間を殺せ、とか体験しなかったんだよ。時折、交通事故などで死傷者の話が上がるけどそれはあくまで、他人事だったしなぁ。
そんな訳で彼女達にネタにされつつ、時がゆっくり進んでいく中で呼び出しのアラームが鳴った。
それを聞いた彼女達は一瞬で静かになり、俺は固定電話の受話器を取った。
「宴会の途中、申し訳ありません!」
電話に出たのは、地上のダンジョンを任せているデュラハンロードのセルティだった。
彼女は、責任感のある女性で普段は余程のことがないと電話をしてこない。
「どうした?」
「実は、本拠地であるこのダンジョンの地上1階部分にサバドをし始めた集団がありまして・・・」
「サバド?・・・映像を回してくれ」
するとダンジョンコアに映像が映し出され、地上1階部分の状況がひと目で分かるようになった。
俺自身が作ったダンジョンを含め、城壁内にある地上のダンジョンは1階部分を入り口としているため、100人ほどが余裕で横になれるほどの大きな空間になっている。
ダンジョンの1階部分はフリーゾーンだからどう使ってもいいんだが、だからってサバドで使うんじゃない。
ん?待てよ?
「セルティ、奴らがどこから来たかわかるかい?」
「地下鉄乗り場からです」
「えー・・・」
どうやら、彼らはダンジョンとダンジョンをつなぐ地下鉄の通路を伝ってきたらしい。
現在のところ、このダンジョンを繋ぐ電車が通っているのは中心から2番目と3番目の壁の間であり、そこから内側は交通規制によって緊急時以外は通れないようにしてある。
そのため、そこから侵入者が現れた場合に備えてワイトキングに任せていたんだがどうしたんだろう?
「ワイトキング、聞こえるか?」
俺は通信をセルティからワイトキングにと切り替えた。すると、
「申し訳ありません、マイマスター」
「侵入者がいるがどうなっている?」
俺は推測するよりも先に警備を任せていたワイトキングに話を聞くと、どうやら彼らは地下鉄の線路を歩いてきたらしい。途中で帰るようにワイト軍団で脅したら、聖属性の魔法で全滅させられたらしい。
何故にワイトで脅そうとした、とツッコミを入れそうになったが骸骨軍団で脅されたらまぁ、そうなるわな、と思ってしまった。
「すまん、完全にこっちの人選ミスだったわ」
「いえいえ、お気遣いなく」
ワイトキングはそう言ってはくれたが、あの集団が気になる様子なので、後はこっちで監視しておくから何事もなかったようにしてくれ、と言っておいた。
一方、麻薬のような効果がある煙に包まれているためか皆、恍惚とした表情でやっているサバドの連中にも動きが見られた。
『これより、贄の儀式を行う!』
サバドを取り仕切っているであろう司祭風の青年が、部屋の中央に立ってそう言った。
すると、それまでの歓声をも上回る歓声が部屋中を埋め尽くした。
ん?贄?生贄のことか?まさかな。
俺がそんな事を考えていると、大柄な男達が8人ほど出てきて石造りのテーブルを2つ青年の前に置く。
そして、上等な服を着せらてた上品な少女が二人、連れてこられた。
1人は、10代半ばで赤髪赤目のスタイルのいい少女。もう1人は、10歳ぐらいの女の子で白子と言われてもおかしくないほどの肌の白さだ。それに目も赤いし。
その2人が石造りのテーブルに寝ると男達が手足をロープで縛り、動けなくさせるとウィネがこういった。
「!まずい、主!」
「あぁ、やっぱり!?演技に見えなかったんだけど・・・!」
「なら早く、転移魔法を!」
「ちょっと待って、タイミングを見計らうから!」
「そんなことを言ってる場合じゃ・・・!」
俺とウィネが言い争っている間にもその少女達はなされるままで、抵抗しようともしない。
そんな少女達を見下ろす形でそばに立つと、懐から短刀を出し、振り落とすポーズを取った。それを誰も止めようとする行動に出ていない。
『我らが冥皇竜よ、どうか我々の供物をお収め下さい』
青年がそういうのと同時に俺は転移魔法を使用して、最初に刺されそうになった10代半ばの少女を自分の元に転移させる。
突然のことなので、転移された少女は驚いていたが構っている暇はない。
少女に傷がないことを確認すると、青年は慌てた様子でもう1人の少女にも同じことをしようとしたので、こちらも転移魔法で自分の元へ呼び寄せる。
「取り敢えず、目立った外傷はなし。ウィネとサガンは彼女達を別室で縄を解いてやってくれ」
「あい分かった」
「はい!」
2人はそれぞれ1人ずつ抱えると、執務室から出ていった。ここ数日で、ダンジョンコアと執務室を行ったり来たりするのが面倒になったため、統合することにした。その方が何かと楽だしね。
それはともかく、生贄としての少女達がいなくなったことでサバドの方は大騒ぎだ。反射的に動いてしまったため、収拾するのが面倒だが目の前で少女が殺されるのよりかは遥かにいい。何もしなかったら、その日は悪夢を見そうだからな。
ともあれ、思わぬアクシデントに恐慌状態になっている者もいるが、司祭の青年が短刀を持った手を上げると、徐々に騒ぎが収まっていく。
『皆も見届けただろう!我らが冥皇竜が供物を受け取って下さった!』
青年がそう言うと、その場は爆発的な歓喜に包まれた。ただ単純に転移魔法でダンジョンに転移させただけなんだけどなぁ、と思っていると。
「どうしますー?」
パイモンがそう聞いてきた。
「そんなの決まっているだろう?・・・『不味い』」
俺はダンジョンコアを通して彼らのいるフロアに感想を言った。そうしないと、延々とこの贄の儀式とやらが続くからな。せめて、それぐらいはやめさせないと。
『え?あ、申し訳ありません!お口に合わなかったでしょうか?』
『人族や魔族は口に合わない。牛、豚、鶏等の動物が推奨』
『し、承知致しました!・・・あ、あの!大変失礼ながら貴方様は我らの冥皇竜様で間違いないでしょうか?』
そう来たか。まぁ、しわがれた声で言ってはいるが雰囲気的に似合ってないしな。後ろでバエルが笑いを堪えているのがわかる。後で覚えていやがれ。
『如何にも』
『おぉ!お言葉をいただき、光栄の極みでございます!』
『口に合わぬ物とは言え、供物を捧げた信仰は大義。よって、この杖を授ける』
俺はそう言うと、ダンジョンコアに溜め込んだ豊富にある魔力によって杖を自作、それに加護を付与して青年の前にあったテーブルに転送した。
皇竜がいるなんてどこで知られたのかは謎だが、それでもそれを信じてここまで来た度胸は認めよう。やり方はダメだけどな!
『こ、これは!?まさか神器を授けて頂けるとは!』
青年はテーブルの上に置かれた杖を恭しく持つと、歓喜の涙を零す。
『以降も進行を続けるように』
『ははっ!』
深々と頭を下げる青年に対し、なんとか終わったことを見届けた俺は通信を切り、ため息を付いた。
「あれでよかったんですかー?」
パイモンが不満げに俺に聞いてきた。
「あのまま、追い返しても良かったんだけどねぇ。現在、一般的に信仰されているのが俺らの属性と反対のものだから、あー言ったものは味方につけておいた方が何かと便利だ」
「・・・そういうものなんですねぇ」
俺の言ったことは納得してくれたがまだ、不服そうだったので、
「まぁ、俺としてはパイモンの方がよっぽどいいがね」
俺がそう言った。すると、
「・・・ずるいです」
パイモンはやや拗ねた感じで言った。だが、その顔は嬉しそうだった。
~~~~~~
ダンジョンコア・フロア ゲストルーム
普段、この部屋は使う事はないが生贄に捧げられた少女達を放置する訳にも行かないため、ここに入ってもらう事にした。その少女達は今の所、非常に落ち着いているため、話ができるそうだ。そのため、俺はバエルとパイモン、アスモダイ、サガンを連れてきた。
コンコン
「ウィネ?入るよ~?」
「おぅ、入ってきてくれ」
俺らが入ると、やや困った表情のウィネと無表情の2人がいた。状況から察するに、ウィネは色々と話しかけていたがあまり反応がよろしくない、といった所か。
「あまり状況は良さそうに見えないが?」
「ふむ、実際に主と話す気は無いようであまり返事を返してくれないのよ」
「んー」
少女達を見る限り、話し上手のウィネですら困っているのに口下手な俺に会話が成立するか怪しい所だな。とは言え、この少女らは俺以外で話す気はないようだし・・・。
「よし、みんなは一旦、出てくれ」
「しかし・・・!」
「異論は認めんぞ?アスモダイ、行け」
アスモダイは、この2人がどういった能力を持っているかわからないので部屋に残ろうとしたが、そうしたら埒が明かない。だから一旦は出てもらう事にした。
彼女達が出てドアを閉めたのを確認した俺は、
「さて、何を話せばいいのやら・・・」
「やはり、貴方もドラゴンなんですね」
「・・・」
俺も、と言ったか。なるほど、そういう事か。だったら誰にも言いたくはないわな。
「随分と大仰なドラゴンが来たな、オイ」
俺は少女達の内、赤髪赤目の少女が言ったことを瞬時に理解してそう言った。なぜなら、彼女達は赤い竜と白い竜で“ア・ズライグ・ゴッホ”と“グイベル”だからだ。そのドラゴンは、前世のイギリスではよく知られているドラゴンで象徴的な存在だった。だが、こうしてみると只の少女にしか見えない。
そんな彼女らの目的は、安住の地を探しているらしい。
俺はその思いを聞いたら、とんでもないことに巻き込まれたな、と思ってしまった。