戦後処理とその先を見据えて
第12話 事後処理
「そうか、やはり被害は大きいか」
「はい。現状では西門の近くにあった町は半壊して、残った建物もかなり荒らされた形跡がありましたから」
魔王軍との戦闘から2週間が経って、この国の被害の全容が明らかになった。
調査を行ったゴーレム達の報告によると、実際の侵攻を受けた西門に近い町はかなりの被害を受けて、地上にある建物は何らかのダメージを受けていない方が珍しいほどに破壊されてしまった。
「でも地下施設は壊されてなかったんだろ?」
「えぇ、魔族は地下にメインの施設を建設するとは考えなかったようです」
とは言え、あくまで地上部分の建物だけが被害を受けたため、地下にあった浄水施設などは問題なく稼働している。
地下施設が健在だったら、インフラなどの復旧工事はスムーズに行えるだろう。
「となると、町の復旧を急ピッチで進めてすぐに人が住めるようにしよう」
「わかりました。では次に・・・」
「ふぁ~・・・」
今、クロムと共にやっているのは町の復興作業における書類の策定であり、円滑に作業が行えるように俺の考えと町の状況を照らし合わせて一つ一つ作り上げていっている。
そのため、書類の作成でここ数日は徹夜が続いてかなり疲れているからか、欠伸が出てしまった。
「・・・申し訳ありません、ハデス様。本来だったら私が一人でやる作業を分担してもらうなんて」
「構わん構わん、本来だったら指揮の効率化が出来ている部分を効率化できていない俺の責任だからな」
俺達の国である神聖ハデス教国は現在、内政や外交といった国としての機能は神聖ハデス教会が中心になってやっているのだが、ダンジョンの管理や軍事関係では俺やバエル達が管轄しているという状況だ。
ダンジョン自体は俺達が管轄でも構わないのだが、軍事面で仮にも神である俺が持っている状況は場合によって国が危うくなりかねない。
何故なら、軍自体が「俺達は神の軍だから言うことを聞け」なんて言うことになって、政府の命令が効かなくなって暴走した国を俺は知っている。
だから、状況に応じてすぐに国の管轄に出来るように前もって、準備していくことでクロムやバエル達と合意を数日前に取り付けた。
そのため、この案件は追々やっていくつもりだが、今は魔族に破壊された町の復旧が先だ。
「・・・ふむ、もうすぐ昼時か」
「ええ、ちゃんと定時に食事が出来るように早くこの案件を終わらせましょう」
「そうだな」
俺達はそう言って、仕事のペースを速めた。
~~~~~~
昼 ダンジョン本部 執政室
「はーい、お腹が空いているだろうハデスとクロムに食事を持ってきたよ~」
「神様がご飯、食べるのか不思議ですがね~」
「それでもちゃんと作ってきたんだからねっ!」
時計の鐘が鳴ったのを見計らったように、昼食を持ってきたのはクロムとパイモン、それにアスモダイだった。
「バエルさんやパイモンさんが料理するのはわかるんですが、アスモダイさんも料理が出来たんですか?」
「意外かもしれないが彼女はちゃんと作れるんだ、クロム」
クロムもそうなのだが、俺も初めて知った時はかなり驚いたものだ。
だが、アスモダイの作る料理は総じてうまいものばかりだった。
少なくとも、俺の好みの料理を作ってくれているので彼女に餌付けされている感じがするが、アスモダイが作ってくれるのは週一ペースなので特に気にならないけどな。
「ハデス~?私達もちゃんと作ったんだからね~?」
「全くですよ~。最近、アスモダイといちゃいちゃするようになりましたし~」
「なぁ・・・!?」
「そんなことはぁ、無いと思うんだぜ・・・」
誤解を招く様な発言をパイモンがしたが、俺としてはそう言った意図はなく、どちらかというとアスモダイの方から積極的に接してくるようになっただけだ。
「まぁ、私達の時間もちゃんと作ってくれるならいいわ」
「それは大変、そう・・・だ・・・な・・・」
「ハデス様!?」
執務室に置かれている物は、執政に使われる机の他に軽食などを食べれる机や湯沸かし器、紅茶やコーヒーを碾いて粉にする道具など、仕事に集中できる物が一定数ある。
俺が執政に使っていた机から離れようと立ち上がった所でふらついたため、クロムが慌てて立ち上がって俺を支えてくれた。
「神様も疲れるんですね~」
「元がドラゴンだったしね」
「ハデス~?いくら体力が測定不能とは言え、疲れる時は疲れるんだからたまには休んでよね~?」
「本当よ。目の下にクマが出てるし」
バエルとアスモダイに注意されたようにここ最近、どこぞやのフランスの皇帝のように睡眠時間が3時間とかだったからな。身体に相当な疲労が蓄積しているのだろう。
「だけど、まだまだ仕事が溜まっているからね。簡単には休めないよ」
「今日ぐらいは休んでも文句は言われませんよ~、ね?バエル」
「そうね。パイモンの言うとおり、ちゃんと寝ないとご飯を上げないよ~」
「寝てる間は私達でやっておくからさ」
「私からもお願いしますわ」
(参ったな。4対1の多数決で俺を休ませようとしている。だけど仕事が・・・でも飯も食べたい・・・)
数日分の疲労で頭がうまく回らない中、俺は根負けして寝ることにした。
「わかった。執政は任せるがあまりめちゃくちゃにしないでくれよ?傷ついた町を直している途中なんだからな」
「わかってるよ、ね?」
「大船に乗ったつもりでいてくださ~い」
「任せて!」
「お休みなさいませ、ハデス様」
そう言われつつ、彼女達に見送れて俺は執政室から出た。
~~~~~~
「あそこまでふらふらになっているハデスを見るのは初めてですよ~」
「そうなのですか?」
「国家元首としていろいろとやって皆に見せつけたいんでしょうけど、あれだとすぐに倒れるか折れるかのどっちかね」
「なんとかして彼の負担を減らしたいのよ」
パイモンがハデスの様子について話すと、クロムが疑問を口にした。
それをバエルがやれやれといった感じでため息を吐き、アスモダイが心配そうに呟いた。
彼女達の観察の通り、ハデスは神としていろいろとやっているのだがオーバーワークになっているため、国としての体制を変えないといけない、という判断に彼女達は至った。
「となるとやっぱり、軍が問題ですか」
「えぇ、当初は彼がホムンクルス・ゴーレムやダンジョンで召喚できる魔物を編成していたけど、今は亜人や獣人、そして信徒達が魔物を押しのけて編成しているからね。どうしようもない」
「ホムンクルス・ゴーレムに関しては、ヴィクターちゃんに掛け合えばなんとかしてくれるんでしょうが亜人達が鬼門になりそうです~」
「彼らはハデスの考えに共感したのと自分達の土地を守るために軍に入ったような物だからね」
彼女達はそう言い合って、彼に対する軍の負担をどうやって切り離すか、考えていったのだった。
~~~~~~
ダンジョンコア ハデスの寝室
「んで、なんでウィネとサガンが俺の部屋にいるの?」
自分の部屋に戻ってみると、私服姿のウィネとサガンが寝る準備をしていた。
「何で、と言われてものぅ・・・」
「お気づきになりませんか?」
何かを甘えるような彼女達に対して、俺が何を言っても動かないだろうし、要求してるのは俺と添い寝したいからだと思う。
美女との添い寝自体は悪くないし、彼女達以外でもよくやっているから別にいいのだが改めてすると緊張するな。
まぁ、彼女達なりの気遣いと言うことで受け入れるとしよう。
「・・・一緒に寝たいんだったら寝ようか?」
「!えぇ、喜んで!」
「では、一緒に寝ようかのぅ」
3人で寝るとなると、ベットのサイズが心配になるがその点に関しては抜かりない。
何故なら、前世で言う所のキングサイズよりも一回り大きいベットであり、転生してダンジョンを作った当初はその大きさに慣れるまで時間が掛かったものだ。
だが、こう言った時には非常にありがたいもので、週に2~3回ぐらいのペースで誰かが俺と添い寝をしてくるんだ。
その結果、3人が川の字になって寝る手も大丈夫なのだ。
そんな訳で、俺がベットで横になるのを確認した2人は俺の身体に密着するような形で添い寝をしてきた。
「なんか近くないですか?2人とも」
「何を照れておる、もうちょっと肩の力を抜け!」
「ふふっ、こういう所は初心なんですねぇ」
本当に添い寝すること自体は構わないんだが、2人のスタイルが抜群すぎてこういう時に限って緊張してしまう。
何故なら、2人は巨乳の美人でそのでかい胸を意図的に俺の身体に押し付けてきているからだ。
(閨でいろいろとやってきたが、こうしてみるとバエル達も含めて美人だよなぁ)
前世では、西洋美人にも憧れてきたがこうまで慕われて一緒に寝るとなると、逆に釣り合ってないような気もしてくる。
(それ、でも・・・ここまで慕われていると・・・悪い気は、しない、な・・・)
俺はそう思いつつ、ズブズブと深い眠りについた。
~~~~~~
「寝てしまわれたか」
「相当疲れているようですね。心なしか、顔色もよくないようですし」
彼の意識が暗闇に落ちた頃、彼女達の腰に回されていた彼の手から力が抜けるのを感じた。
それをお互いに確認してから、彼の様子を見るとかなりの疲労が溜まっているのが見て取れる。
それはここ数日、碌に休めていないからだろう。
「ふーむ、ここまで顔色が悪いと何かしらの身体に異常が1つや2つ、あってもおかしくはないのぉ」
「では、医学に通じている者と共に身体の異常を治す薬でも作ってきますわ」
「おぅ、頼む」
サガンはそう言うとベットから起き上がって部屋を出たため、残ったのは眠っているハデスと彼に寄り添うウィネだけになった。
そしてウィネは、彼の寝顔を見ながら魔核弾頭ミサイルの発射を指示した時の自責の念に駆られていた表情を思い出していた。
そしてウィネは、独り言のように眠っているハデスに語りかける。
「あの時のおぬしは、あの大量殺戮兵器とやらを使用した後、ずっと先の将来のことを考えておったのであろう?」
だが部屋にいる者は他におらず、彼女に返事をする者はいない。
「あれだけの威力を持っているとは知らず、あれを発射するという行為に指示をした儂らにその事を打ち解けることも出来ないおぬしの心情を考えると心が痛むのぉ」
発射して敵の上空で起爆した後、彼の表情は歓喜の声で埋め尽くされる周囲とは正反対に、絶望的な将来を予見したかの様に暗かった。
起爆した翌日の深夜に、ダンジョンコアで魔核弾頭について調べると元になったのが核弾頭ミサイル、という大量兵器だと言うことがわかった。
これが爆発すると、場所にもよるが1発で数十万人もの人命を奪う上、放射能汚染と呼ばれるもので人類が住めない環境にしてしまうほどの兵器だという。
このページを読んだ瞬間、彼の気持ちがわかった気がして思わず、声を掛けたくなってしまった。
だが、彼にどういう言葉を掛けていいのか、今でも考えているが答えが出て来ない。
そして彼は、こうしてぐったりと眠っている。
「儂ももう少し器用に生きれたらいいのぉ」
ウィネは残念そうに言いながら、彼と共にゆっくりとした時間を過ごしていった。
~~~~~~
1週間後
「い、今までの苦労は一体・・・」
「私達が本気を出したらこんなものよ?」
バエル達に半強制的に休みを取らされた後、仕事場に戻ってみると粗方の仕事が終わっていて、呆然とした俺の目の前にはやるべきことは殆ど残っていなかった。
あるとするならば、俺の承認がどうしても必要な書類だけだ。
「一体、どうやったらここまで減らせるんだよ」
「それはですね~、私達が直に色んな所を説いて回っただけですよ~」
「説いてって、そんなに簡単にできるものなのか?」
俺はパイモンに詳しい話を聞くと、今回の俺がやっていた仕事のオーバーワークに関して彼女達の間で問題視されたために急遽、ソロモン72柱の招集を掛けてどうやったらこれを解消できるかを議論し合ったらしい。
その結果、亜人達の各部族を一つ一つ懇切丁寧に説いて回ったため、俺が倒れるほどの仕事量にはならないという。
「だが軍部の方が黙っていないだろう?」
「それに関しては大丈夫よ」
「何?」
俺の懸念の対して、アスモダイがこう答えた。
「族長命令と教皇命令を同時に各部隊に出しといたからすんなりいったわ」
「いやいやいや、そんな簡単に従うはずがないだろう!?」
軍隊に入隊した奴らは基本的に、石頭だから俺の説得ですらまともに受け付けなかったのにどうやったらすんなり従うんだ、と疑問を口にするとバエルがあるものを渡してくれながらこう言った。
「この写真とやらを見てみると良いわ」
「えーっと、何々・・・ぶっ!」
そこには、彼女達の水着姿が収めれられていた写真集があり、かなり際どいものまであった。
「すぐに発行停止にしろー!すぐにだー!」
「それに関してはもう手遅れですわ」
「ゑ?」
全く持ってけしからんと言わんばかりに、俺は発行停止措置を執ろうと思ったらクロムに止められてしまった。
その理由を聞くと、
「3日前から発行しているのですが、物凄い好調でして既に10万冊が売れています。しかも、その大半が商業ギルドです」
「・・・」
と、あまりの状況にあんぐりと口を開けたまま、頭が真っ白になってしまった。
そして、しばらくしてから気を取り直した俺は怒ったようにこう言ってしまった。
「あーもーあーもー!君らの水着シーンなんて滅多に見れないんだから勝手にホイホイやらないでよ!うらやまけしからん!」
これじゃあ、彼女達に欲情した変な奴らが彼女達の身体目的でこの国に入ってくるじゃん。しかも商業ギルドが買い占めていると言うことは回収なんてほぼ不可能じゃん。
独占欲をむき出しにして、発狂している俺を見てバエル達はこうぼやついた。
「ハデスが壊れた」
「壊れちゃいましたね~」
「頭のねじが数本、取れたんじゃないかしら?」
あまりの俺の変化ぶりに、バエル達はややどん引きをしているがやってしまったものは仕方ない。
そのため、俺はこう指示した。
「とにかく!売れる所まで売りさばいて俺達の宗教に関心が集まるようにして!今後は恐らく宗教戦争になるかもしれないから!」
「なりますかね~?」
「多神教の俺らは別にいいけど!一神教の信徒達は猛反発するな!後、国内からも!」
「国内からも?」
激おこぷんぷん丸を地でいっているぐらいに怒っている俺に、びびりながらもアスモダイが聞いてきた。
「寛容な部族だったら別にいいんだが、厳格な部族だったら反乱確定なぐらいに荒れているんだろうなあ・・・」
徐々に落ち着いてきた俺は、あきらめの境地に入りながらぼやついた。
一方、風来の里の屋敷では・・・。
「ほれ!また見つかったぞ!」
それぞれの部族に出回った写真集は、ある所では人気を博しているのが風来の里ではミスミが鬼神の如く、見つけるのに躍起になっていた。
「あぁ!そこはやめて・・・」
「黙れ!この浮気者!」
「ぐはぁ!」
それを止めようと、リクトが立ち塞がるがミスミのパンチで吹き飛ばされる。
そのため、里の者達に彼女を止めれる者はおらず、彼女が立ち去った後は台風が去ったように色んなものが散乱していたという。
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