進化の果ての勝利
魔王がまさかのかませ犬になってしまった・・・オカシイナー
でも、進化したハデスのステータスがより一層、ぶっ飛んだ数値になったからこのぐらいで妥当だと思っています
そんな訳で、本編が始まりますよ~
第11話 魔王軍戦終盤
「どこ行くの❤」
「!?」
俺が倒れていた場所から立ち去ろうとしていた魔王に、トドメを刺したはずの俺が声を掛けると彼女は心底、驚いた感じに身体を震わせたので俺は裏拳で彼女を吹き飛ばす。
そして俺は、進化してから感じる濁流のような力に打ち震えていた。
「小さい時に遊んでいた遊び場が、大人になって小さく見えるようにこの世界も小さく感じる。・・・それだけの力を手に入れたと言うことか」
俺がその事を実感していると、魔王は吹き飛んだ場所から物凄いスピードで俺に攻撃を仕掛けてきたが、その動きですら今の俺には遅く感じる。
そのため、俺は再度拳で魔王を吹き飛ばして城壁に打ち付けた。
「がっはぁ!」
「呪うんだったら今の時期に攻め込んだ己を呪うんだな」
城壁から数キロ離れていたにも関わらず、高さ10メートル以上の所にへこみを付けた魔王に俺はさらなる攻撃を追加した。
その結果、鉱物から産出される金属の中でも最高の強度を持つオリハルコン合金の分厚い城壁を突き破って、その場所の近くにいた魔王軍のそばに倒れ込んだ。
「ま、魔王様!?」
「何故こんな所に!」
「先に潜入して城門を開ける算段ではなかったのですか!?」
部下である魔族に聞かれていた魔王は、ぼろぼろになりながらもこう叫んだ。
「お前ら、奴を倒して私を助けろ!」
「や、奴とは?」
「多分、俺のことだな」
「!?」
普段とは違う表情を見たので、戸惑っている魔族に対して俺はその解説をした結果、彼らには大いに驚かれた。
その理由は、そろそろ戦闘に突入すると言うことで気配探知と魔力探知をフルに使っていたにも関わらず、その監視網に引っかからずに姿を現したからだ。
そのため、魔族達はすぐに戦闘態勢に移行したがその行動は無意味とかす。
「!?ぐああああああ!」
「あがあああああ!」
「や、やめてくれええ!」
「しにたくないぃいい!」
俺と魔王の周囲にいた魔族は、戦闘態勢でそれぞれの得物を取りだして構えたが急に、魔族達が苦しみ始めたのだ。
「ど、どうしたの!?」
「なるほど、これが死者の門か」
周囲の苦しみの声とは反比例して、俺が冷静な声では納得した表情を作っているのですかさず、魔王は俺に聞いてきた。
「皆に何をしたの!?」
「何、どうってことは無い。己の技を確かめているだけさ」
「っ!」
俺が余裕を持った表情で、自分の持っているオーラを全開にすると魔王は驚いたように身体を引かせる。
それも当然で、今までの俺とは随分とかけ離れたオーラを持っている上、周囲の魔族達が訳が分からない内にバタバタと倒れこんで死んでいるからだ。
何をしたかというと、冥界とのつながりが進化によってより一層強化されたので、それを使って魔族達を冥界に引きづり込んでいるのだ。
その結果、残り少ない魔族の数がさらに少なくなっていくので全滅するのも時間の問題だ。
「お、お願い!私達をこのまま、帰してくれたら謝礼をちゃんと払うから逃がして・・・」
「断る」
「なっ・・・!」
魔王は今更、俺との交渉の場を設けようとする愚行をやらかそうとしたので彼女が言い切る前に断った。
そのため、彼女は心底わからないといった表情でこう言った。
「どうしてよ!?私達を多少、見逃してくれたっていいじゃない!」
「・・・」
「それに賠償として多くの領土を明け渡してもいいの!どう!?」
魅力的な条件ではあるが、疑問点も気になったので聞いてみた。
「だったら?何故、交渉の魔を前もって用意になかった?」
「え?」
「俺らは別に総力戦なんざ、望んじゃいなかった。それなのにてめぇらは勝手に攻め込んできた挙げ句に賠償だ?領土だ?ふざけんじゃねぇよ、ったく」
「くっ・・・!」
彼女の苦虫を噛み潰したような表情を見るに、そう言った発想はありもしなかったのだろう。
これがもし、日本人としての心が残っていれば戦うことに躊躇してなるべく穏便に済ませようとしただろう。少なくとも、俺やサトル達はそうしていただろう。
だが、すでに手遅れだ。
彼女は長らく、魔族中心の社会にいてその空気に慣れすぎてしまった。
だから、なるべく被害の出ないようにしようとする考えも持たなかったし、数の暴力でたたみ掛ければ相手は降伏するだろうとすら思っていたのだろう。
「全く残念だ、とてもとても残念だ」
「く、くくく・・・」
「何がおかしい?」
だが、追い詰められているはずの彼女は面白そうに笑い始める。
「あなたって甘いわね。だって自分からダンジョンから出てしまったもの」
「ん?」
そう言われて城壁内部に意識を向けてみると、確かにバエル達が不利な状況になりつつある。
どうやら、彼女達のステータスよりも七大悪魔の方が上だったらしい。
「さあ、どうするのかしら?このまま、私とのお遊びに付き合っている時間が無いのでしょう?」
「ああ、確かにないな」
俺がそう言うと魔王は、急かすように質問をしてきた。
「だったらどうするのかしら?」
「こうするんだよ」
そう言って俺は、彼女の質問を己の手刀で魔王の首をはねることで答えて、その首を持って急いでバエル達がいる場所に向かった。
~~~~~~
ハデスと魔王の戦いが一方的過ぎるのと同時に、バエル達も戦いも圧倒的に不利な状況に陥っていた。
「くっ、強すぎる!」
「さすがは七大悪魔なだけはありますね~」
「しかもハデスに救援を求めようにも手段がないわ」
「これは腹を括るしかないのぅ」
「そのようですね・・・」
そう言いながら、背中合わせになったのはバエル達5人であり、ズライグやグイペル達とは多数の魔族との戦いではぐれてしまった。
彼らに一騎打ちという概念はなく、ただ数の力によって主力メンバーを鏖殺することだけが快楽となっているように教育されているだ。
そのため、敵が少数の肉食獣なら食べきれないほどの数の草食動物を当てて味方部隊から切り離し、包囲殲滅を繰り返すようになった。
結果的に戦いで傷ついてボロボロのバエル達の周囲には、七大悪魔の他に中級から上級魔族の姿が多数いる状態だ。
その数はおおよそ500。
その包囲を突破しようとズライグやグイペル、勇者達やホムンクルス・ゴーレム達が攻撃しているが、城門を突破した魔王軍の援軍でなかなか突破できずにいた。
そんな中、ルシファーが彼女達に声を掛ける。
「今まで楽しませてくれた礼だ。何か言い残したことはないか?」
その質問に、背中合わせで立っていたバエル達はお互いに目を配らせて笑いながらこう言った。
「魔王にくそ食らえって言っておいて」
「・・・そうか」
それを聞いたルシファーは、合図と共にトドメを刺そうと駆け出した瞬間、何者かに踏みつぶされた。
~~~~~~
骨が砕けるイヤな音と共に、バエル達に向かって走り始めた男が絶命するのを足から伝わってくる衝撃で確認した。
高い所から魔法で勢いを付けた俺は、下敷きにした男の上にしゃがみ込んでいたがすぐに立ち上がり、バエル達に顔を向けて声を掛ける。
「ふー、なんとか間に合ったようだね。バエル」
「えぇ、助かったわ。ハデス」
俺が来たことによって、死ぬ覚悟をしていたバエル達に笑みが浮かぶ。
よく見ると、傷だらけでボロボロじゃねえか。とんだドジを踏んだもんだ。彼女達に嫌われてもおかしくはないな。
俺はそう思いつつ、他の魔族に目をやってこう質問した。
「彼女達をここまで追い詰めたのは誰だい?」
普段はそこまで怒ることはないし、彼女達も望んで戦場に出たからそれに関しては特に言うことはないんだが、ここまで感情が荒ぶるのは久しぶりだな。
最後に怒ったのはいつだったかな、と思いつつ、返事を待っているとバエルが提案してきた。
「ねえ、ハデス。一緒に戦わない?」
「一緒に?」
「そそ。どうせ、一緒の敵を倒さないといけないんだし、その方が効率的かなぁと思ってさ」
「・・・」
確かに、バエルの言うことにも一理ある。
このまま、俺1人で魔王軍を塵芥にしてもいいがバエル達がいるとより簡単に彼らを処理できそうだ。
「別にいいが、感情が荒ぶっている俺にバエル達が合わせられるかが心配だ」
俺がそんな事を言うとバエル達は一瞬、驚いたがすぐに笑いの種になった。
「相変わらず、そういう所は変わらないんですね~」
「ははははは、おぬしは変な所で冗談を言うのは変わらんのじゃなぁ!」
「今ので気が抜けましたわ、フフフ」
「ふん、でもちょっとは安心したわ」
どうやら、俺が進化してより強力な存在になったことは感じ取ったらしいが、俺の根っこの部分である性格まで変わってないことを知って安心したようだ。
そんな感じで笑い合っていると、
「おい!俺らを無視すんじゃねえ!」
と叫んだのは、血気盛んな巨漢だった。
「おうおう、てめえの左手に持ってんのは一体何だ?只の首じゃなさそうだな?」
「あぁこれ?魔王の首だ」
「はあ!?」
その巨漢がすっとぼけた声を出したので、俺が持っていた首をそいつに投げ渡すと動揺し始めた。
「おまっ、ちょっ、マジかよ!」
周囲の魔族にも、その動揺が伝わり始めると同時にパイモン達が俺に聞いてきた。
「本当に魔王なんですか~」
「これに関しては本当だ。じゃなきゃ、あそこまで動揺しないだろ?」
「そうですね~」
俺がケロッとした顔で言うと、パイモンは納得したように頷いたが一方で、アスモダイは心配そうに俺に疑問を投げかけてきた。
「それで魔王の強さはどのぐらいだった?」
「進化前で俺より1割強かった。だが、進化してからは雑魚同然だったね」
「そう、ならよかった」
その事を聞くと、安堵しきった顔で答えてくれた。
どうやら、彼女は彼女なりに俺のことを気にしてくれていたようだ。
「さて、お前らの頭は死んだ。俺らとしては自国領内を踏み荒らしたてめえらを全滅させるまで戦い続けるぞ?」
「ぐっ!」
「ここで撤退すれば、神様にお祈りをして部屋の隅でガタガタと命乞いする準備ぐらいはさせてやってもいいぐらいだ」
俺が上から目線で、どこぞやの老執事の台詞とよく似た言葉を口にした。
すると魔族の巨漢は、
「所詮は6人だ!数でたたみ掛けろぉ!」
「・・・所詮はその程度か、バエル!」
「ええ!」
と、叫びながら突進してきたのでバエルに合図してそれぞれの得物をである剣と刀でそいつを細切れにした。
魔族に関してこの戦闘でわかったのは、基本的に彼らは脳筋である奴らが多いからか数の力によるごり押ししか考えつかなかったのだろう。
その過程で、部隊を分散させて包囲殲滅を考えついたのだろうが今回に限っては相手が悪かった。
今までの俺達の戦闘を見て考えるのならば、大部隊で一斉に押し寄せてもアウトレンジで一方的に殴られてしまうから、少数の部隊を敵地に潜入させて攪乱させてから一定の規模の軍勢で首都を占拠するのがベストだと思っている。
実際に魔王軍はそれをするんじゃないかなぁと思っていたし、大量の消耗品を集積させ始めたのもそのブラフなのではないかと疑っていた。
だが現実では、魔王軍との戦闘を開始させてみたらそう言った兆しは見られなかったし、魔王との戦闘中やバエル達の元に行く途中でもそう言った変化は見られなかった。
(本っ当、魔王が気の短い馬鹿でよかったよ)
俺はそう思いながら、バエル達と共に七大悪魔や上級魔族達を撃破していった。
~~~~~~
半日後
『全魔族の殲滅を確認、私達の勝利です!』
ズライグやカレン、サトル達と合流した俺達はクロムからの通信で、今回の戦闘は俺達が勝利したことを知った。
俺らは周りを見ると、周囲には魔族の死体が散乱していてその中にはホムンクルス・ゴーレム達やごく僅かではあるが亜人や獣人、人間達の姿もあった。
だが、通信を聞いた仲間達から徐々に歓喜の声が広がっていき、そして最後には大歓声となって魔族との戦いで勝利したことをこの国の住民達は噛みしめたのだ。
そんな中、
「クロム、本当に殲滅したんだろうな。これでまだ残っていました、なんて言われても困るんだぜ?」
『大丈夫です!観測機を飛ばして周囲の状況確認をしていますが、敵兵らしき存在は確認できません!』
俺は念のために確認を取るが、クロムの方でも独自に動いてくれて魔王軍が全滅したことを確認しているとのことだった。
「わかった。戦闘態勢から警戒態勢に移行して抜かりないように」
『了解!』
俺はクロムにそう言って、バエル達にこう伝えた。
「皆!よく戦ってくれた!皆が頑張ってくれたからこの国を守ることが出来た!本当にありがとう!」
俺がそう言うと皆は、歓喜の声と喜びの拍手で勝利を祝った。




