他国侵略?そんなことよりダンジョン強化ですよ~
第2話 始動
「な、何なんだこれはーー!!」
「これは驚き・・・」
「こんなのができていたとはねぇ・・・」
「こんなの、とっとと突破ちまおうぜ!」
「ウォルフ、簡単に言わないで・・・」
ギルドからの依頼を受けて1週間後、異変が起きた森に着いた『銀の翼』の一行に待ち受けていたのは森ではなく、高さが20mになる城壁だった。
始めは場所が違うんじゃないか、とかギルドマスターにハメられたんじゃないか、など考えていたものだが、森だった場所の近くにあった複数の村の人達から話を聞くと、2,3日前に突如として城壁ができていたそうだ。
『銀の翼』にとって、誰がこの城壁を作ったかは知らないが森を開拓してこれだけの城壁を作る、という話はそれこそ一大事業として数万人単位での人の出入りがあり、時間も数年から十数年もの歳月を費やすのが普通だ。
それらの経緯をすっ飛ばして、一晩で完成させたのだから第3者からするとかなり大規模な異変だ。
「さて、私達はどうすればいいのかしら?」
この衝撃的な出来事から最初に立ち直ったのは、リーダーであるリンダだった。
「流石にここでぼうっと突っ立っている訳には行かないわ。城門から目線を感じるし」
そう言われて一行が城門に目を向けると、衛兵らしき人物達と目線が重なった。その目線からは、驚くのは仕方ないが早く次の行動に移してくれ、というメッセージが含まれていた。
「そうだな、とっとと見回って状況報告でもするか」
「はい、そうしましょう」
そう言って彼女らは、城門から街へと入っていったのである。
~~~~~~
「どうしてこうなった・・・」
呆然とした俺は以前にも言ったかもしれないが、もう一度言わせてほしい。どうしてこうなったし。
「いや~、マスターが考案したこの銃とか大砲とかいいね~」
「はい~。とても扱いやすくて便利ですね~」
「私は殴る方がいいんだけど・・・」
「そう言ってアスモダイは、愛銃を手放そうとしないよなぁ」
「それに関しては同感です~」
「う、うるさいわね」
直径100kmの城壁もそうなんだがバエル達が扱いやすくて便利なものを要望したため、銃を見せた所、すぐに飛びつかれた。
とは言え、みんなが同じような銃を欲しがった訳ではなかった。
例えばバエルは、M14というアサルトライフルを徹底的に近代化改修を施し、撃ち出す弾の太さも7.62mm弾から9mm弾に変更している。
パイモンは、H&K MP5という短機関銃を魔改造して12.7mm拳銃弾にしてある。
アスモダイは少し変わっていて、フランキスパス15という軍用散弾銃に憧れたんだが、弾の威力が弱い、とゴネたため、12番ゲージから4番ゲージに変えた。
ただ、これらの弾丸は俺の前世には無かったり、あったとしても古いタイプのものしかないため、ダンジョンコアから作ることはできなかった。
そのため、ドワーフの最上位互換であるエルダー・ドワーフを新たに召喚して、銃と弾丸を渡して要望に合わせて新たに作ってもらった経緯がある。それらの銃や弾をダンジョンコアに俺が設定して、魔力が尽きるまで大量生産が可能なように仕立て上げたのは言うまでもない。
その結果、召喚した他のソロモン72中も欲しがったため、それぞれの要望に答えたオリジナルの銃があり、彼女達が戦えば下手な連合軍より強力な戦闘能力を持っているかもしれない。
しかし、それ以外のいわゆる下っ端の連中にまでオリジナルの銃を渡すわけにも行かないため、AK47やM16なんかの一般的な銃を渡すことにした。
一方、陣地防衛に使うのは対人・対戦車地雷などの小型兵器のものから203mm榴弾砲、120mm迫撃砲等の大型兵器を作り出した。
しかし、小型兵器ならともかく、大型兵器は戦力にするには一定の数が必要な上に一つ一つに大量の魔力を消費するため、ブローニングM2 キャリバー.50という機関銃を作った。これは大型ではあるが信頼性が高い重機関銃で、大型兵器と同時並行で大量生産している途中である。
結果的に銃の知識のおかげでダンジョン周辺の防衛はかなり楽になっているし、特殊合金でできた壁を突破することは困難だ。突破するにしても、トロイの木馬のように少数の人間が内部から城門を開けないといけないが、城門の開閉は自動で開閉するようになっているため、人力では無理だ。
そのため、俺達がよほど怠けていない限り、ダンジョンを攻略するのは現段階では不可能だろう。
と言っても、まだ万全ではないのでこれからも装備の拡充を行いつつ、色んな種類の魔物たちを召喚していこうと思う。
俺がそう意気込んでいると、
「マスター、最初に来た冒険者たちがダンジョンマスターに会わせろと言っています~」
と、パイモンが言ってきた。
「理由は?」
「ここまで大規模のダンジョンを作った理由を聞きたいみたい」
そういう理由か。だったら、
「わかった、すぐ行く。ついでにパイモンも来てくれ」
「一応、理由を聞いてもいいですか~?」
「今後、いろんな状況に突入することになるだろうからその前に経験を積ませたくてね」
「わかりました~、微力ながら尽力させてもらいます」
という事で、交渉タイムに突入するんだぜ。
~~~~~~
「しかし、驚いたな」
「ホントホント、変わり者がいたものね」
「でも、珍しい装備や魔導書がたくさんあった」
「クノンは魔導書を一冊、帰り際に買ってたしな」
「これで少なくとも敵意がないってことが報告できるわね」
『銀の翼』が王都への帰還途中に、それぞれの感想を言い合っていた。何故なら、城型ダンジョンを一晩で完成させたダンジョンマスターが直接交渉の場に現れて、『銀の翼』メンバーと交渉してきたからだ。
その上、それだけの力を持っていながらも他国を攻めるつもりはなく、寧ろ同盟を取りたがっていたからだ。
普通のダンジョンマスターや魔王と言われる人物は、ダンジョンとしての能力以上の事をしなかったり、他国を侵略するつもりで戦力を集めたりするものだ。
だから、その話が出た時の『銀の翼』はかなり驚いたが、話を聞いていく内に本当に敵意がないことがわかったのだった。
(とは言え、ギルドマスターや王様が納得する内容だとは思えないわね)
唯でさえ、ダンジョンを攻略対象としてしか見れない冒険者ギルドや国がこんな内容を鵜呑みにするはずがない。そうでなくても、ダンジョンに生息する魔物たちは国からすれば脅威になる。それを無視することもできない、とリンダはそう思ったのだった。
~~~~~~
「はぁ、なんとか交渉が終わったな」
「はい~。彼女達は最低でも、今すぐに侵略するつもりはない、と判断したはずです」
俺とパイモンは、『銀の翼』と名乗る冒険者ギルドのメンバーとの工廠が終わった後、ほっと肩の力を抜いた。なにせ、俺らにとって初めての交渉だからだ。
「てぇことは、だ。国なんかはその範疇にはいらないと?」
「そうですね。相手側からすると少なくとも目の上のたんこぶ程度の認識でしょうし、最悪の場合、軍隊を送ってくるかもしれません」
「となると、当面は国や大規模な組織相手に戦える戦力を蓄えつつ、ダンジョンとしての機能を維持していけばいいんだな?」
「はい~。それが一番いい案だと思います」
俺とパイモンが今後の戦略を練っていると、
「おぉ、ここにいたか」
「お話している時に失礼します」
と、ダンジョンコアと同じフロアに設置した執務室に二人の女性が入ってきた。
「ウィネにサガンか、珍しいな」
「なに、今日は主と酒を飲もうと思ってな」
「私は止めたのですが、ウィネが飲もうって聞かなくて・・・」
ウィネとサガンは元々、蛇を持った獅子とグリフォンの羽根を持った雄牛であるのだが、俺が召喚した2人はいわゆる獣人や亜人と呼ばれる者達に姿形がよく似ている。勿論、元の世界では普通の人間によく似たやつもいるらしいが、今の俺にとっては関係がないな。
何故なら、バエルやパイモン、アスモダイなどのソロモン72柱は本来なら異形の者として描かれていたり、性別が男だったりしたのだがこの世界では女性が本来の姿らしい。無論、男としての姿に変身できるらしいがそんなことをしても俺が嬉しくないため、女性のままでいてもらっている。そのほうが安心するしね。
そんな訳でこのダンジョンの中ボスとも言える彼女達の内、ウィネとサガンはお姉さんキャラとしての印象が強い。理由としてあげられるのは、雰囲気や口癖、仕草などだろう。それと同時に、お酒にも強い。
実際にウィネが持ってきたお酒はアルコールがかなり強いやつで、アルコール度数の高いウィスキーやウォッカの水割りしていない物に近い。
「俺は別に構わないが、すぐに酔っ払っちまうぜ?」
「私もお酒はあまり好きではありませんね~」
「むぅ、ツレない二人だな」
俺とパイモンがあまり乗り気でないことを口にして言うと、ウィネが拗ねたような顔になった。
「とは言え、このまま拗ねられるのも困るのでそれほどきつくないやつも飲んでいいんだったら付き合いますよ」
「そうですね~。ウィネさんはお姉さんキャラとして、マスターを尻に敷いてもらわないといけませんからね~」
そのため、俺達は宴会に参加する意志を表明したがパイモンが変なことを言った。
「パイモン、それはどういう意味だ?」
「そのままの意味ですが何か~?」
「・・・ヒデェな、おい」
「ふふっ」
俺とパイモンの漫才を見ておかしかったのか、ウィネが笑ってくれた。
という事で特に理由のない宴会になったのだが、徐々に宴会に参加するメンバーが多くなり、結局は72柱全員と飲むことになった。とは言え、各自が持ってくるお酒には限りがあるため、ダンジョンコアの力を利用して各自が必要になった時に作り出すことにした。そうでないと色々と危ないからな、俺の身が。
~~~~~~
「結局、襲われなかったね」
「はい~。マスターと出会ってから1ヶ月ぐらい経ちましたが、手を出してきませんでしたね」
「ふーむ、本来ならそういった目的で迫られてもおかしくないのじゃが・・・」
「私達のどこが不満なのかしら・・・」
「ふんっ。あんな奴、とっとと襲ってくればいいのに・・・」
バエル、パイモン、アスモダイ、ウィネ、サガンの5人が集まっているのは、ダンジョンコアと同じフロアに設置してある彼女達用の部屋がある場所の一角にある談話室である。
その場所と言うのは、中ボスである彼女達の休息の場所であり、彼女達専用の娯楽施設が集まっている場所でもある。ダンジョンマスターである冥王竜が彼女達の要望によって特別に作ったものであり、彼女達の特徴がを多分に含まれている。
多種多様な食事が食べれる食堂や食事処、バエル達がいる談話室、ダンジョンの城下町で流通しているものが買えるショップ、戦いで疲れた彼女達を癒やすための各種施設など、例を上げればきりがない。
だが、ここまで娯楽施設が揃っているのは一重に冥皇竜の膨大な魔力のおかげであり、これまで彼女達を召喚した者の中でも早々出会えないだろう者を自分達の主として認めるのは、驚きを超えて誇らしく思う。
しかし、そんな恵まれたダンジョンマスターに出会えた彼女達ですら一つだけ不満がある。
それは、彼から一回も迫られたことがないのだ。
正確に言えば、彼女達から誘って入るのだが彼がなかなかその誘いに乗ってくれないのだ。
今回の宴会も酔わせた彼を彼女達に襲わせようとしていたのだが、結局は不発に終わった。そのため、彼女達は彼が勃たないやつなんじゃないか?とか同性愛者なのでは?という懸念したが、それらの懸念はパイモンの発言で打ち消させることになった。
「そ、それは本当か?パイモン」
「はい~。普段の彼はそれほど表情に出しませんが、目線や仕草を見ればおおよそは理解できます~」
「本当かのぅ、パイモン」
「断言できます。例えば以前、ウィネさんやサガンさんの手や翼をガン見していましたし、アスモダイの角をペロペロしたい、だの何だのと呟いていました」
ウィネやサガンならともかく、男達から嫌われていたアスモダイまでもがそんな目で見られていたと知った彼女は顔を真っ赤にして叫んだ。
「ば、馬鹿じゃないの!?この角は破壊の象徴で・・・!」
「アスモダイちゃん、落ち着いて~。彼が起きちゃう」
サガンになだめられて落ち着きを取り戻したアスモダイだが、それまでの彼女の境遇は悲惨なものだった。なぜならば物心がついた時から肉親や周りの者達から忌み子として嫌われていて、特に異性からいじめられた時間が長かったからだ。そのため、バエル達と出会った時にはかなり消耗した状態だったのだ。
しかし、そんな彼女に何ら偏見を持たず、さらに一度は全力で殴られたにも関わらずに好意的な興味を示すのは、アスモダイにとって初めてであった。
「・・・となれば、彼が異世界から来た可能性がよりいっそう高くなったね」
「以前、バエルが言っていたあれか」
そんな彼に恋心をくすぐられている彼女達だが、恋に溺れるほど洞察力が鈍っている訳ではない。紛いなりにも数百年は一緒に生きているのだ。そう簡単に、彼女達を鈍らせることはできない。
そしてその洞察力によって導き出されるのは、冥皇竜が異世界から来た者であることがわかった。
魂だけか、肉体も一緒に来たのかは判明しないが、おそらく前者だろう。何故なら、銃というのは魔力を使用しない構造で、手入れさえしっかりとしていれば壊れないようになっているからだ。
しかも、大口径の弾丸を使用するにあたってエルダー・ドワーフの知識と技術、魔法によるエンチャント、そしてオリハルコン合金等の希少金属をふんだんに使ったダンジョン内の全ての銃は、元の世界のそれとは別の代物になっていた。その上、弾丸自体も大幅に強化されているため、射程も延びている。
しかし、銃というものはそれまでこの世界には存在せず、存在しても貧弱な上に費用対効果が悪いため、もっぱら肉弾戦による戦いがメインだった。その常識を覆したのが“銃”というものであり、肉体による体格差やステータスの差を誤差程度のモノしてしまうほど、強力なものである。
「そうなると、色々とまずいのぅ」
「ええ、彼の持つ知識や優秀な素材となる肉体を目当てにあらゆる組織が動き出すでしょうね」
「そうなるとダンジョン防衛とかの話どころではなくなりますね~」
「では、私達の役目は彼をお守りすることね」
「マスターに近づく敵は片っ端から潰す!」
彼女達は、新たな使命を胸に刻みこむようにそれぞれが持ってきたお酒を飲み干して寝ることにした。