国としての遠征任務だ
第2話 救援要請
「・・・それで状況的には物凄く悪いと」
『はい。魔王軍は帝国の帝都から200キロ地点でようやく我が国に救援要請を出す方針にしたようです』
「わかりました~。引き続き、情報収集に努めて下さい~」
『はっ』
通信を切った俺達の状況を簡単にまとめると、ある重要な情報を受け取ったホムクルス・ゴーレム・キングのヴィクターが女性教皇のクロムに渡し、そしてそれが俺達の来たのだ。
その情報の内容とは、アレマーニャ帝国が神聖ハデス教国に正式な救援要請を出したというものだった。
まぁ、元々は20万もの聖光教会の軍勢を打ち破った情報は既に各国に流れているし、他の国々もそれほど戦力にならないために残る選択肢は俺達に頼るぐらいしか無かった。
とは言え、大国のプライドというか挟持と言うものが邪魔をしてなかなか出せなかったのだろうが、今はそんな事を言っている場合ではない。
大国が潰れるという事はそれだけ、国家間でのパワーバランスが大きく変動することを意味していて、特にアレマーニャ帝国が潰れるというのは俺達にとっても他人事ではない。
例えるならば、前世で言う所のアメリカという国が財政赤字で崩壊するのと同じぐらい危険な状況である。
無論、俺達の勢力も大幅に拡大できるチャンスではあるが今はまだ、その時ではない。やるとするならば、魔王軍を一掃してからだな。
そういう訳で、俺達は5万という軍勢でアレマーニャ帝国の救援に向かう事にした。
5万という数は魔王軍35万の軍勢と比べて大幅に少ない数ではあるが、これは2個機甲師団と2個航空団の編成であり、主要戦車の数は合計300両程で主要航空機は200機前後と、かなりの数を持っていくのだ。
これで負けたら、現代兵器(爆笑)とかになってしまう。
それはともかく、いくら魔王軍だからといって機械仕掛けの兵器よりも生物兵器の方が圧倒的に多いだろうからこの位がちょうどいい数だ。増やしすぎると、維持するのが大変だしね。
それに今回は、この国を作るきっかけとなった迫害された亜人達が軍に入隊したいという事で前々から話になっていたらしい。
俺はこの事を聞いて、近接攻撃専用の部隊を承認して組織させ、歩兵連隊と合同演習を繰り返す日々を送らせていたのだ。
しかし、部隊を組織させたとは言え、彼らが言ってきたのは大体1年前の春であり、今は秋の真っ最中である。
そのため、前線に出すとするならば比較的安全な場所か味方の援護を得られる状況で使う事を考えている。
亜人部隊の規模としては、150人程の4個小隊ではあるが元々の身体能力が普通の人間よりも上であるため、そう簡単にはやられないはずだ。
そんな訳で、前々から準備をしていたために救援要請が来てから3日で教国を出発した。
~~~~~~
アレマーニャ帝国 帝都
「神聖ハデス教国が援軍を出発させるそうです!」
「お、おぉ。援軍が来てくれるのか。そ、それでどのぐらいの兵力を出してくれるのだ?10万か?それとも20万か?」
「そ、それが・・・」
アレマーニャ帝国の国王であるアッカーマンは救援要請を出しからの1週間、いつどこで魔王軍が帝都に攻めてくるのかそわそわしながら待っていたのだ。
そして、思っていた以上に援軍が来てくれるという話に胸を撫で下ろしたのだった。その姿はかつて、ハデス達のダンジョンを私有化しようとした時の余裕はなく、精神をかなり消耗しているのが見て取れる。
そして、援軍で駆けつけてくる兵力を聞いてアッカーマンは愕然とした。
「ご、5万だと!?たった5万人だけで来るのか!?」
「はっ!彼らによると『まぁ、この人数で軽く30万人ほど削れるはずだから』との事です」
「は、はは。この国は終わったぞ?ギレン」
「陛下!お気を確かに!」
事情を知らないアレマーニャ帝国の首脳陣にとっては、たった5万人の兵力でどれだけ時間稼ぎが出来るかが見物だな、という声が上がり、アッカーマンにとっては頭髪が全て白髪になるのではないかと言うぐらいにやつれていた。
~~~~~~
「神聖ハデス教国、総勢5万。ただいま参陣しました」
俺は、アレマーニャ帝国の国王であるアッカーマンの前でそう宣言した。
そうしないと、独断で行動した事になって後で面倒臭い事になりかねないからだ。
「おぉ、よく来てくれた・・・」
毅然とした態度の俺とは対象的に、アッカーマン国王はかなりやつれているようで国王の割には覇気がない。
それも当然で、勇者が行方不明な上に国軍の主力部隊が壊滅した上に残っているのは城を守る守備隊がメインとなっているのが現状だからだ。
そんな状況では例え、どんなに怪しい宗教でも藁をも掴む思いでいるのだろう。俺が同じ状況に置かれたら、発狂コースは間違いないね
それはともかく、彼らの軍との打ち合わせを行ってどこで魔王軍を迎撃するかを検討しないとこの国は本当に崩壊してしまう。
そう思って、俺はこう聞いた。
「それで、我々はどこで戦えばよろしいのかな?」
「それについては私が答えよう」
そう言ったのは、国王の隣にいた身分の高い人が着ていそうな服を身に纏った人物だった。あいつが、ギレン国務大臣とやらなのだろう。ホムクルス・ゴーレムが言っていた通りの人物だな。
何ていうか、叩き上げの軍曹みたいだ。まるでハ◯トマン軍曹みたいだな。顔自体はハー◯マン軍曹とは違うが、雰囲気が似ている。
俺がそう思っていると、
「迎撃する場所は、この帝都から東に50キロの地点で行う事になる。作戦範囲は縦に5キロ、横に10キロとしている。作戦行動は・・・」
「ぷっ、くくくくく・・・」
ギレン国務大臣がそんな事を言うので、俺の後ろに控えていたバエルが突如として笑い始めた。
周囲の視線は彼女に集まり、俺はゆっくりと後ろに目をやるとバエルだけではなく、パイモンは馬鹿な奴を見るような目をしていてアスモダイに至ってはうたた寝をしていた。
そのため、ギレン国務大臣が顔を真っ赤にして怒りを露わにした。
「何がおかしい!」
「ははははは!これがおかしくなくてどうしろと言うんだい!?あんたらは何もわかっちゃいない!ハデスも何か言ってやんなよ!」
やれやれ、そういうのは苦手だが指名されたからには言わないといけないな。
「ギレン国務大臣。あなた方が定めた作戦範囲は、我々の認識では舞踏会で行われるトーナメントでお互いが殴り合う距離だと判断します。よって、我々は我々の考えで行動します」
「どういう事だ!」
「実際の現場を見ればすぐにでもわかりますよ」
この世界では、魔力という目には見えない謎のエネルギーによって魔法陣はともかく、科学の面でも前世よりも大幅に遅れている。
そのため、現代兵器の根幹の1つとして挙げられる“火薬”がまだ発明されていない。
結果、物理的な交戦距離は槍なら5,6メートル、弓矢なら150メートル、魔法でも100メートルも飛ばせれば良いほうだ。
一方、火薬によって撃ち出される弾丸の有効射程は拳銃で7~20メートル、ライフルなら種類にもよるが小さい奴でも200メートル、大きいものなら1キロ以上もの有効射程を持っている。
それが、大砲なら有効射程は大幅に広くなる。
昔、俺達が聖光教団を一歩的に叩きのめしたのもお互いの有効射程の差が違いすぎたためにできた戦いだったのだ。
それを単なる偶然や作戦がうまく行っただけ、と一蹴するような考え方では俺達の戦い方について行けないだろう。
俺はそう思い、その場を立ち去ろうとするとギレン国務大臣がこう言った。
「待ち給え!会議は終わってないぞ!」
「会議~?俺はこの国の王様と直接、OHANASIに来ただけですよ。それなのに何故、王族でもない貴方がしゃしゃり出て来るんでしょう?」
「な・・・!?」
俺達のこの軽々しい態度は、一般市民ならば不敬罪で逮捕されて最悪の場合は極刑に至るし、国家間でのやり取りならば帝国に潰されてもおかしくはないものである。
だが、俺達や俺達の国はそういった大国相手でも向こう10年は優に戦えるだけの備えをしている。
城門こそは開けられないが、転送魔法による物資や人の流れを滞りなく行えるのが強みでもあり、国民感情のガス抜きにも使える。
そういった強みがあるからこそ、帝国の国王が会議に出ても俺達の意見はちゃんと言えるし、軍勢をどこにでも迅速に動かせる。
無論、それ自体が弱点にもなり得るから対策はちゃんと打ってはいるがね。
そんな俺達の余裕の態度を見て、アッカーマン国王は渋々ではあるがすがるような口調でこう言った。
「わかった。わかったから君達の意見を聞かせてくれ」
「なっ・・・!?」「陛下!?」
そんな口調と態度で言ったので、周囲の重役の人達にざわめきが走った。
俺はそんなざわめきを無視して、話を進めた。
「作戦概要はまず、我々はここから東に100キロの地点にて陣地を敷設。その後、超遠距離からの攻撃によって防衛戦を展開。そして敵の勢力が弱った所で秘密兵器によって機動戦に移る作戦で行く事になる」
「そ、それで作戦範囲はどのぐらいだ?」
「40キロ四方だと仮定しています」
「何だと!?」「そ、それは戦闘ではなく、移動する距離ではないか!?」
(まぁ、てくてく歩いて行軍する軍隊でないからな)
そもそも機甲師団というのは、第2次大戦時にドイツ軍が電撃戦を行うために編み出されたもので、高い機動力を持つ戦車に合わせてそれをサポートする部隊全てが自動車化することである。
無論、一般市民が乗り回すような自動車ではなく、軍隊として行動できるように設計された軍用車両で移動できる部隊である。
そして現代では、それに近接支援用の航空機や軍用のヘリコプターなどが同時に運用される事によって、迅速かつ効率的に広大な土地での行動が可能になる訳だ。
これによってドイツ軍は大戦初頭、フランスやソ連に対して圧倒的に有利な立場を築けたのも機甲師団があったからと言っても過言ではない。
大戦中盤以降は、生産力の不足や独ソ戦での敗北なんかで多くの戦車と熟練兵がいなくなると悲惨な結果になる訳だが今はどうでもいい。
現状は、好き勝手に暴れまわっている魔王軍の殲滅と可能ならばいい人材なる者が手に入ればいいかな、と思っている。
バタン!!
そんな訳で作戦会議を行おうとしたらいきなり、大きな音とともに謁見の間のドアが開いた。
そして、ドアの前には3人の女性が立っていてその内の先頭に立っている1人は明らかに俺や国王を睨んでいる。その明らかな殺意に、一般人だったら小さい方を漏らしてもおかしくはないほど強い。
だがまぁ、それはあくまで一般人相手の話であり、俺達や国王にとってはチワワが吠えている程度の殺気でしかない。
そのため、謁見の間に入ってきた3人の女性が何を話すのかを伺っていると先頭に立っていた女性がズカズカと入ってきて国王に対して口を開いた。
「お父様!他国の軍勢のトップごときにどういう態度を取っておりますの!?もう少し毅然とした態度を取って下さい!」
「テレサか。しかしのぉ・・・」
「しかしもクソもありませんわ!!」
どうやら、かなりの高飛車なお嬢様のようだ。しかも、国王との会話で親子のやり取りを見るかのような光景を目にしている。
それに、周囲の人間達が国王と会話している女性と後から入ってきた2人の女性に恭しい態度を取っている所を察するに、彼女達が王女達だろう。
そう思っていると、会話をしていない2人の王女の内の片方から怪しい目線を感じて耳を傾けると怪しげな単語が出てきた。その一部分を上げるとこういった事を言っている。
「フフフ・・・ドラゴンに魔神だよぉ?解剖したいなぁ・・・研究したいなぁ・・・」
・・・これだから研究者は困る。パエル達も、彼女の独り言を聞いてドン引きしているし。
そうこうしている内に、弱腰の国王と話していた王女がヒートアップして怒りの矛先が俺達の態度に向いた。
「そもそもなんですの!?彼らの態度は!?お父上が弱腰になっているから彼らが調子に乗ってあれこれ言うんですよ!?わかっているんですか!?」
「あ、あぁ・・・」
魔王の事だけでも、精神的に参っている国王の体力が王女のマシンガントークで更にガリガリと減らされているのがわかる。
しかし、会話を聞いている限りであそこまで頭に血が上っているご令嬢をクールダウンさせるには至難の業だな。
俺がどうしたものか、と考えていると袖を引っ張られる感覚がした。
俺はそっちを向くと、怪しい気配を出している王女やマシンガントークの王女とは別の王女が俺のそばまで来ていた。
俺は俺達の国を出て、帝都にある王宮に着いてから寝る時以外では気配感知を作動させていたにも関わらず、それを躱してここまで来た事に驚いている俺にその王女は幾つかのカードを出してきた。
底に書いてあるのは、
『姉』『怒っている』『事』『謝罪』
と言うものだった。
確か、王女の1人に言葉を出せない人物がいるという事を思い出しつつ、俺は小声でこう言った。
(別に気にしていない。ああいうのは遠くから見ているのに限るからな)
俺がそう言うと、その王女はニコッと笑った。
5分後。
「ふぅ。まぁ、こんなものでいいでしょう」
「そ、そうだな・・・」
5分以上も怒涛のマシンガントークをした王女は、スッキリとした表情でそう言ったのに対して国王の方はげっそりとしていた。
内容としては、魔王軍への作戦の脆弱性や魔法陣の改良不足、兵士の鍛錬や魔導士との合同訓練の仕方、挙句の果てには勇者という極めて不安定な戦力に依存した現状までもを事細かく指摘した。
その上、ことごとく国王の反論を論破した内容だった。
もし、俺が今の国王の立場だったらSAN値が大幅に減って現実逃避でも起こしていただろうと思うほど、迫力のあるものだった。
そして、マシンガントークをしていた王女は俺の前まで来てこう言った。
「お見苦しい所をお見せいたしましたわ、ハデス様」
「別段、気にすることはないよ。第1王女のテレサ殿下」
「あら?別に畏まらなくてもよろしいのに」
「じゃあ、そっちも変に形式張った会話はしなくていいぜ?その方が助かる」
「では、遠慮なく言わせてもらいわ」
どうやら、お互いに宮廷作法なんかは苦手らしい。
とは言え、男女間の性別の壁や価値観の違いなどがあるからある程度の礼儀は払うつもりでいる。
こうして、俺やバエル達とテレサやその姉妹とでの魔王軍への迎撃作戦を練っていくのであった。




