せっかく、のんびりできそうだったのに・・・
第6話 舞踏会
ダンジョンを攻略してから2週間ほどが経ち、5月の終わりにある舞踏会の期間がやって来た。
その間、グループの学生からいろんなことを聞かれたが先生からダンジョン内部で起きたことはあまり言わないように、との通達があったため、多くのことは言えなかった。
そのため、なかなか大変だったよ、とか一時はどうなることかと思った、などの曖昧ではあるが大変だったことを伝えるには十分な言葉で返していった。
幸い、グループ内で怪我をしたという学生がなかったため、舞踏会では相当なヘマでもしない限り、難なくクリアできるだろう。
そもそも、舞踏会というものは貴族の子息や子女がそれぞれの実力を内外的にアピールするのと同時に、結婚相手を見つけるというイベントだったらしい。
前世で言う所のお見合いパーティみたいなものだが、この世界では外見はいいに越したことはないが魔力や体力面でも評価されるため、ただのイケメンでは見向きもされない。
しかも、全学年で300人ぐらいの生徒がいるとは言え、結構な閉鎖社会でもあるので1回の悪評で将来に暗い影を落とすというのもしばしばあるっぽいので、気が抜けない舞踏会でもある。
そんな暗い話がある一方で、帝国内で最も大きいイベントという話なので国内各地から貴族や平民の隔てなく、大勢の人達が来る。
その結果、帝都はどこもかしこもお祭り騒ぎになる。
そんなお祭りの一番の目玉が、俺達が参加する舞踏会という訳だ。
舞踏会自体は、トーナメント戦で出場するメンバーとグループや個人で作った創作物を展示して競い合うメンバーに分かれる。
そのため、俺達のグループはトーナメント戦で戦い合うメンバーはグループ内のチーム全員が参加することになった。
一方の俺達は創作系にパイモンとサガンが行き、俺とバエル、アスモダイ、ウィネは保留とした。
理由としては、余りにもパワーバランスが崩れるからであり、参加したかったとぼやいていたアスモダイの思いはきっぱりと断っておいた。
そうでもしないと、アスモダイは単独でトーナメントに参加しそうだったからである。
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舞踏会 最終日
「ふぅ。それにしてもなかなかのお祭りだな」
「そうね。ここまで賑やかになるのは早々ないと思う」
「その分、参考になる点は多数ありました~」
「それにホムンクルス・ゴーレムからの報告でもいい報告が多数あるわ」
「今まではダンジョンをメインにしてきたからのぅ。今後は、こういったイベントも必要になってくるの」
「そうねぇ。建国してから2年以上になるし、そろそろあってもおかしくはないわね」
そんな訳で、俺とバエル達で今回のお祭りに関しての情報共有を計っていると、どうしても国をどうやって存続させるかという話になるため、舞踏会の作戦会議が疎かになりがちだがそれに関しては問題ない。
そもそも、魔力の底上げにプラスして魔法陣の改良まで行ったから他のグループとの差は逆転したどころか大幅に引き離している。
それにトーナメント戦では3対3のチーム戦であり、オブザーバーとして働いていた俺達が口を挟む必要はない。何故なら、既に彼女達で戦法を編み出しているのだからな。
そのため、俺達は基本的にはチームに干渉せず、優勝を目指すための目標意識を持たせるために鼓舞しただけにした。
と言っても、1週間という期間で行われる舞踏会で初日からやっているトーナメントは既に決勝戦を残すのみとなっていて、対戦相手はカレン達のチームとバエルが担当していたチームだ。
名前は確か、アルベルト、マチルダ、ミカエルの3人だったか。
このチームはアルベルトが魔導剣士として前衛を務め、マチルダが魔導士として高い素質を発揮してアルベルトの援護を行い、ミカエルは聖騎士として防衛にあたっている。
そのため、カレン達とはいい勝負になりそうだ。
他のグループのメンバーは、俺達のグループのメンバーにボロクソにされた挙句、ベスト4に入れたチームは1つもなかったのである。
正直な話、ここに至るまでの経緯は俺達の間では既に見えていたことであり、逆に俺達のチームが瞬殺されたことで逆上してきた奴らを返り討ちにしていたカレン達の方に驚いたぐらいだ。
彼女達曰く、「あのレベルの奴らに負けるほうが大変だ」との事だ。
まぁ、何はともあれ。接戦らしき戦いは準決勝までに幾つかあったが、1番の接戦はバエルとアスモダイが担当したチームが戦った時だった。
それまでの戦いは2,3分で終わっていたのだが、その2つのチームは5分が経過しても決着が付かず、試合開始から10分後にようやく終了した程だ。
その間は大魔法の連発と近接戦闘の連続であり、お互いが一歩も譲らない大接戦になったほどだ。
とは言え、結局がバエルのチームの作戦勝ちでアスモダイのチームの魔力切れと体力切れで終わった。
そんな訳で、俺とバエルはそれぞれのチームが待っている待合室に向かった。
そこには、試合に向けての最終調整を行っているカレン達の姿があった。そして、部屋に入ってきた俺に気がつくと彼女達は集まって俺の言葉を待っている。
それを見た俺は、
「正直な話、バエルのチームは強い。特に攻守一体の戦闘に入ったらまず勝ち目はないと思ッタ方がいい」
「はい!」
「だがお前らには彼らを上回るスピードがある。そのスピードを活かした戦いをすればまず、負けることはない」
「はい!」
「お前らの勝利の暁には優勝が待っている。だから全力で行け」
「はい!」
「話は以上だ」
「はい!」
と、檄を飛ばした。
本当だったら、もっといい言葉を掛けてやりたい所だが俺は口下手だから的確かつ伝えたいことをちゃんと伝えてから部屋を出た。
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「あ、帰ってきた」
「バエルか。そっちはどうだった?」
「まずまず、といった所だね。少なくとも負ける要素は見当たらなかったわ」
「こっちもそうだったな」
俺達がいるのは舞踏会が行われる闘技場の最前列であり、本来ならば普通の学生がその席を取れる訳がないのだが国王からの招待状が俺達宛に来てしまったため、無下にすることが出来ずにそこに座ることになった。
と言っても、王族やら国の主要陣とは反対側に座らされているため、それほど気を使わなくてもいい状態ではある。
そんな中、司会役である人間が試合開始を告げる。
『レディースアンドジェントルマン!遂にこの時がやって来た!待ちに待った最強の無名選手同士の決勝戦だぁ!』
視界の合図で観客からは歓声が上がり、その騒ぎとともにカレンとアルベルトのチームが左右対称になっている会場への入口から出てきた。
その会場は舞踏会では試合形式で行われる場所で、今回は多くの観客が集まっているので大変騒がしいのだが、双方のチームには緊張している仕草は見られない。
恐らく、互いによく知っている相手であることと俺達がすぐ近くにいるということが彼女達をリラックスさせているのだろう。
そして、試合開始の合図が鳴った。
試合でも実戦でもそうなのだが複数同士での戦闘が開始した場合、まずはいかにして陣形を立てるかが問題だと思っている。
陣形を組めば連携がしやすいのと援護が出来るため、まずはそれを双方のチームに徹底させた。
詳しく説明するならば、カレンのチームもアルベルトのチームも前衛が2人いるため、敵がわかっているのならば進行方向に対して逆三角形の陣形になり、力の拮抗を生まれやすくしている。
無論、長距離の移動時や周囲の索敵の場合は後衛にいる魔導や魔導弓兵を間に配置してその両脇や前後を前衛の2人で固めている。
これはあくまで味方が複数いる場合に使用するため、単独ではぐれた場合や1人で行動しないといけない場合は、なるべく戦闘を避けるのと同時にどうしても戦う場合は1人でもある程度、戦えるようにしている。
と言っても今回は試合形式の戦いであり、長時間の戦闘を行わない前提で行動しろと言っているのでかなりの激しい戦いを繰り広げている。
まず、カレンとアルベルトは2人共、魔導戦士ということで魔法を剣に帯びさせての激しい攻防になっている。魔法属性は、カレンは炎でアルベルトは風である。
そのため、相性としては抜群だが戦う相手としては1回のミスで致命傷になりかねないので内心、冷や汗モノだろう。
一方、ギレンとミカエルはカレンとアルベルトのように激しい戦いは発生していない。
何故なら、ギレンは魔導戦士なのだがミカエルは聖騎士であり、ギレンが攻める一方でミカエルの防御力が高いため、決定打が打てないでいる。
そんな状態のため、前線では膠着状態に陥っているのだがそれを支援する者はいない。理由は、後衛に位置するクレハとマチルダはお互いの魔法を駆使して撃ち合っているから。
クレハの場合、弓も使えるのだから弓から放った矢が有効ではないのかという疑問が湧くが試合中の弓矢は禁止されているため、使用できないのである。
クレハからすれば、利き腕を使えなくなったのも同然なのだが彼女からすれば何のその。何ら不自由もなく、魔法を使っている所を見るとかなりのやり手であることがわかる。
その結果、かなりの激戦となっている。
火花は1秒の間で何度も飛び散り、強力な魔法が連発している状況では司会役の人間も唖然とするしかない。俺やバエル達も同じようなものだが、ここまで成長すると良い意味で泣けてくるな。
だが、それも徐々に落ち着いてきた。
アルベルト側のチームに、速さの陰りが見えてきたのである。とは言え、アルベルト側の体力は一向に減る気配がなく、もう少し長引きそうだなぁと思いながら見ていた。
すると、カレンのチームでもアルベルトのチームでもない人物が乱入した。。
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強いなぁ、アルベルトのチームは。私達のチームに比べて耐久力が段違いに高い上に、こっちから猛攻を仕掛けているけど一向に攻め込める隙がない。
そのため、私が大技を決めようと魔力を貯めるとアルベルトも私の意図を掴んだように魔力を貯める。そして距離を取った瞬間に、お互いが使える最も大きい魔法を同時に発動してぶつけ合った。
炎と風の大魔法がぶつかり合い、巨大な熱風が会場に吹き荒れた。
その熱風の強さに、私は目を細めたがそれが止んだ時には私のチームとアルベルトのチームの間には一定の距離ができていた。
「カリン、あのチームはなかなかやるようだな」
「これじゃあ、私達が先にガス欠になるのは目に見えているぜ」
「ああ。だが、ここまで全力でやれるのは初めてではないか?」
ギレンとクレハの弱音に対して、私は嬉しそうに笑いながら言った。すると彼らも同じように笑い、アルベルトのチームも頷いてくれた。
そしてまた戦いを起こそうとした瞬間、3人の部外者が入ってきてリングの。
「おい。ここへの部外者の立ち入りは禁止されているぞ?」
そのため、アルベルトは怪訝な顔をしながら聞いた。
だが、その部外者達はアルベルトの問いに対して答えず、ましてや顔をあげようともしない。その行動に私も疑問に思い、グループリーダーであるハデスのいる席に目を移す。
ハデスやバエル達も、身を乗り出しながら怪訝な顔でその部外者達を見ていた。
その行動から察するに、これはサプライズなどではないのと同時に完全に予定外の出来事であるため、私はその部外者に警戒しながらも近づいて声をかける。
「おい、今は決勝戦の真っ最中だ。話なら後で聞くから・・・っ!」
私はそう話しつつ、手を先頭に立つ人物の肩に乗せると突然、こちらを向いた。その顔は、目があるところには空洞があるだけで真っ黒だった。
それで全てを理解した私は、全力で距離を取りながらこう叫んだ。
「ま、魔族が現れたぞーー!!」
それを合図に、その魔族を含めた3人が体を変化させて大きくなっていく。それと同時に、髪の毛は幾つもの蛇に変化させ、おぞましい雰囲気を漂わせる。
そして、私が肩に手をかけたやつが私の目では追えないほどのスピードで攻撃をしてきた。
「カリン!」
「姉御!」
ギレンとクレハの叫び声が聞こえる中、その攻撃を躱せないと渡った私は衝撃に備えるため、目をつぶった。
「?」
「ハデスなのか?」
「おまえ、どうして・・・」
いつまで経っても、攻撃による衝撃が来ないことに疑問を持った私に対してギレンとクレハは戸惑いの声を上げる。
そのため、私は恐る恐る目を開けてみると目の前には、魔族の握り拳を片手で軽々と止めているハデスの姿があった。その一方、もう片方の手で倒れそうになっている私の体を支えている。
「大丈夫か?カレン」
「あ、あぁ。私は大丈夫だ」
私はそう言いつつ、独りでに体勢を立て直し、状況を把握する。
「ハデス、お前は一体・・・」
「・・・話は後だ。まずは目の前の害獣を駆除するから、もう少し離れていてくれ」
彼がそう言うと、急に魔族が飛び退いた。
「貴様・・・何者ダ・・・」
「なぁに・・・名乗る程の者じゃあないよ」
彼は、ハデスはそう言いつつもその全身から闘気を発するとその意図がわかった。
そのため、私はキレン達と向かい側で呆然としているはずのアルベルトのチームにこう言った。
「アルベルト!リングの入り口の近くまで一旦、下がろう!」
「わかった!」
そして私達は今日、今まで戦いの前衛に出た所を見なかったハデスの戦い方を目の当たりにするのだった。




