ダンジョン潜入
1週間半ぶりの投稿
学園生活と言えば学生同士でのやり取りがメインですが、この小説ではサクサクと進めていきます
学園生活はメインではないので
第5話 圧倒的火力
「え?ダンジョンに潜りたい?」
「あぁ、そうだ。舞踏会前に自分たちの実力を確かめておきたいのだ」
カレン達がそう言ってきたのは6月に入ってからすぐの日であり、舞踏会まで後2週間程度の日だった。
「うーん。俺が強くなったと言った所で実感が沸かないということか。それで、ダンジョンに潜る許可は?」
「それがグループリーダーの許可がないと許可が降りないんだ」
「そういうことか」
ダンジョンというのは、学園内に意図的に作り出されたものであり、その内部に生息するモンスターのレベルは学生に合わせているために決して高くはない。
とは言え、ホライズン先生によると十数年に1回の割合で「変遷」と呼ばれる大規模な変化がダンジョンにはあるらしく、それがちょうどこの時期にあるということだ。
そのため、他のグループが入っていく中で俺達のグループは敢えて入らないようにしていた。
しかし、実力がわからないままで舞踏会の期間に突入するのもどうかと思ったため、次のグループ内での打ち合わせの時に提案することで収まった。
~~~~~~
「・・・ということで、ダンジョン内部に入って実践に向けた最終調整を行いたいと思うんだがどうかね?」
「・・・・・・」
俺達が話し合っているのは、舞踏会でサブイベントで披露する出し物と舞踏会で直接戦うメンバーの選出だった。
その中で、メンバーの実力を図るという名目でダンジョンに入ることを幹部であるバエル達に提案した。
すると、
「入ること自体は賛成。でも変遷が気になるわ」
「そうですね~。正直な話、変遷の度に数人から最悪な場合で全滅する話がありますからね~」
「万全な体制で当たるしかないんだろうけど、想定外なことが起きそうで怖い」
「想定外のことでカレン達に怪我があると大変じゃのぅ」
「そうですね。私達ならともかく、実力がある程度向上した彼女達ではどうなることになるのやら」
と、否定的な意見が多数上がった。
とは言え、このままでは埒が明かないので俺はこの提案にプラスしてもう1つ提案することにした。
その結果、
「良い提案だことで」
「それだったら許容できますね~」
「それだったらいいんじゃない?」
とまぁ、賛成してくれた。
~~~~~~
学園内 ダンジョン前
「ということで、グループ内でチームを作ってもらい、ダンジョン内に潜入。一定の地点まで行って帰ってくるというものです」
俺がダンジョンの前でそう説明すると、グループの大半からざわめきの声が上がった。
それも当然な反応で、今までは一定の時間内を耐えきったり、一定数の敵を倒す訓練をしてきたがダンジョンに入って実戦を経験したことがない奴らばかりだからだ。
なので、俺は握り拳で胸を叩きながらこう説明した。
「いいか!お前らはダンジョンを攻略できる程度に実力が上がってきているんだ!後はここ、引かない心だ!」
俺は皆を鼓舞してから、チームに分かれて数分ごとにダンジョンに潜入した。
グループに参加しているメンバーは俺を含めて28人であり、俺とバエル達がオブザーバーとして4人一組になった。
そうすることによって、チームごとのパワーバランスの均等化が図れるし、俺らの実力ならばこの程度のダンジョンが変遷が起きたとしても対応が可能だという判断だった。
無論、ホライズン先生には許可を取っているし、いざという時には動いてもらうようしてもらった。
1時間後
「ふぅ。ここで一旦、休憩にするか」
「そうだな。ここまで消耗するのも久し振りだ」
「こうしてみると結構、広いんだな。このダンジョン」
「そうなのか?」
俺が担当することになったチームは、カレンとギュンター、クレハの3人であり、彼女達はかなりのいい形でまとまっている。
カレンとギュンターは魔導戦士としての形が出来上がってきていて、クレハは魔法使いと弓兵の両方が出来るようになった。
そのため、二人が前衛で戦っている間にクレハが後ろから状態異常効果がある弓矢で、敵の行動を鈍らせたり、魔法攻撃で物理的防御の高い相手を攻撃できるようになっているのだ。
現状ではこの形が最良と判断するし、もしも3人がバラバラにはぐれても一定の時間内は戦い抜くことが出来るレベルに仕上がっている。
と言っても、それはあくまで人間レベルでの話であり、チート級のステータスを持つ俺からすれば赤子同然ではあるがね。
それはともかく、1時間はダンジョンに潜っているがそれでもまだ2層目に突入できていないからそれ相応の大きさなのはわかるが、そこまで付かれるものなのか?と疑問になった。
「当然さ!ハデスならともかく、ここの学生にとっては常に緊張に晒されることになるのだからな」
「なるほどね~」
彼女達のステータスは他の学生よりも高いとは言え、まだまだ未熟な部分もあるからか、結構なスピードで進んでいるが緊張の連続なのだろう。
そのため、普段よりも精神面で負担がかかるし、そこから肉体的な疲労が急速に溜まっているのだろう。
この現象は多分、他のチームでも起こっているであろうと判断して他のオブザーバーと連絡を取る。
5分後
「他のチームの状況は?」
「どこも似たような状況らしく、誰も2層目まで到達していないとのことだ」
「そうか。やはり、どこも同じようなものだな」
「ということは今、出発すれば1番になるということか」
俺はカレン達と情報を共有して、今後の進路を話し合っていると背筋が凍るような感じが俺を襲った。
「こ、これは・・・?」
「・・・?どうした?ハデス」
俺が急に黙り込み、1つの通路を凝視しているのに気が付いたカレンが疑問を投げかけた。
そのため、俺はなんとかこの言葉を絞り出した。
「何かが・・・来る!」
「何か?・・・っ!」
それは突然、起こった。
急激な振動とともに、それまで石畳で出来た広場の一角を陣取っていた俺達の周りが急速に縮こまっていたのである。
それを見た俺はすぐに、カレン達に命令を出した。
「総員!広場の中央で待機!状況が収まるまではそこから動くな!」
「わかった!」
「おう!」
「はいよ!」
その振動は、10分ぐらいで収まったがダンジョンの雰囲気はかなり変わっていて、それまでは野生の魔獣の中でも下級のものが中心に生息していた。
だが今では、熟練の冒険者が数人がかりで倒す必要がある上位モンスターが多数生息するダンジョンに変わってしまった。
「こ、これが噂の『変遷』と言うものなのか・・・」
「!じ、じゃあ!」
俺のつぶやきに反応したクレハが、不測の事態に気がついた。
事態を悟った俺は、チーム全体に伝わるように無線を送信状態にして命令した。
「予想外の出来事のため、訓練は中止!各チームはオブザーバーの指示のもとで出口まで直行せよ!」
「「了解!」」
幸いにも、俺達以外の学生は今日は入っていなかったためにすぐにダンジョンを抜け出すことができた。
「皆!無事か!?」
「こっちは大丈夫ー!」
「こっちも異常なしです~」
「危なかったー。ね~、みんなー」
「あれが変遷というものかと見せつけられたのぅ」
「はい。私も初めて見ました」
どうやら、他のチームも無事らしい。
俺達の慌てようにホライズン先生は何事かと思ったのか、恐る恐る聞いてきた。
「ど、どうしたの?」
「・・・ダンジョン内で変遷が起きました。気配感知で観測した範囲で高ランクのモンスターが出てきました。状況によっては掃討作戦の実施を具申します」
俺の言葉で全てを悟った先生は、猛ダッシュで何処かに向かっていった。
そのため、俺は今日の訓練はここで終了としてこのことはなるべく口外しないようにすることと伝えて解散させた。
とは言え、誰かがいないと問題になりそうだったから俺が残ることにしてバエル達も帰らせた。
~~~~~~
「ということで、未だに解決の糸口が見つかっていないんだ~」
数日後、俺とバエル達がホライズン先生によって多数の教室の内、1つに集められて説明を受けていた。
その説明によると、変遷が起きたダンジョンは通常のダンジョンよりも強力なダンジョンに変貌してしまったため、平均的な冒険者では探索すらままならない状況らしい。
その結果、国からの依頼でダンジョン内を探索して可能ならばダンジョンコアの制圧を行ってほしいとのことだった。
しかし、問題が1つあってそれは、
「しかし、割に合わないね。特に報酬面で」
「そうね。少なくとも後1.5倍ぐらいはほしいかしら」
「完全に舐めきってますね~」
と、報酬が納得出来ないようである。
とは言え、先生の話では学生である自分らではこれが限界であり、これ以上の報酬が欲しければ冒険者になるように言われているそうだ。
そのため、俺達は渋々、ダンジョンの攻略に向かったのである。
「え~。今回はあまり乗り気がしないので、銃を使った戦闘で攻略していこうと思います」
「うーん。弾が無駄じゃない?」
「そうだよ。雑魚相手に弾丸の無駄使いする気~?」
「ですが、速攻で倒せるというメリットがあります~」
俺の提案に賛否両論があったものの、結局はその提案でダンジョンに突入した。その方が今までの間、埃を被っていた銃の手入れを出来るし、何よりも銃自体の性能のチェックも出来るからだ。
何よりも、今日のために学園にあるダンジョンは閉鎖しているため、銃を使っている場面を見られる心配がないという点が大きい。
そんな訳で潜入したはいいが、ものの10分ぐらいで第1層を攻略。第2層も同様に、速攻で攻略できてしまった。
この場合、ダンジョンのモンスターが弱いんじゃなくて俺達の元々もステータスが強い上に銃によるステータス補正が効いて、この程度では足止めにもならない程に強くなっているのだ。
「こんなに深かったっけ?このダンジョン!」
「いや。本来なら第5層までだったけど、変遷後に更に深くなったみたいです~!」
「だったら、とっとと突破して帰らないとね!」
「せめて、夕食までには帰りたいのぅ!」
「今日の献立は美味しそうでしたからねぇ!」
第5層目に入ってもこの余裕ぶりからは想像もできないが、既にBランクの冒険者が数人がかりで攻略しないといけないレベルにまで達している。
だが、そんな難易度の高いエリアに入っても俺達にとってはジョギング程度にしか感じることができなかったため、第10層のボス部屋まであっという間に着いてしまった。
「ふぅ。まぁ、すぐにここまで来れたのも銃のおかげだな」
「そうね。だいぶ、時間短縮が出来たし」
「ハデス~、回復ポーションを下さい~。パイモンは疲れちゃいましたよ~」
「パイモンは小さいからね。はい、回復ポーション」
「む~。アスモダイじゃなくてハデスに言ったのですが、仕方ないですね~」
「ひどい!こうなったらヤケクソで殴っちゃえ」
「痛い痛い。俺を殴らないでアスモダイ」
「相変わらず、呑気なものよのう」
「そう言うウィネも微笑んでいるじゃないですか」
ボス戦前の休息として皆と戯れていたのだが、かなりのカオスっぷりがわかるだろうか。
それだけ、ボスが弱く感じるほどに俺達が強いのだが正直に言ってここまで弱いとは思っていなかったというのが俺達の感想である。
そのため、ひとしきり戯れた後で慎重にボス部屋とダンジョンを区切っている扉を開ける。
そこにいたのは、
「ブヒヒ、ここまでこれるのはお前達で初めてだ」
意外にもオークだった。
そのため、何かを喋ろうとしたオークを俺達が持っていた銃で、言葉通りのミンチにしたのでダンジョンクリアである。
~~~~~~
「あっ、帰ってきた。早かったけど大丈夫だった?」
「ええ。ボス部屋にいたボスを倒してダンジョンコアを制圧、強力なモンスターを出さないようにしました。後は、好きなようにできるようにしましたのでご自由に」
俺達が、ダンジョンに入ってからずっと待っていたであろうホライズン先生に必要事項を伝えると、彼の後ろに控えていた調査部隊がダンジョンに入っていく。
おそらく、俺達が潜入したという情報が国王の耳に入ってからすぐに準備させていたのであろう。
そういった考えに至った俺達は、先生に会釈をしてそれぞれの自室に戻ろうとした時、誰に呼び止められた。
「ダンジョンを攻略したハデス殿とその御一行ですな?」
「・・・はい。そうですが?」
声のした方に顔を向ければ、そこにはいかにも王宮で働いている格好をしている人物が立っていた。
そのため、俺達は怪訝な顔をせざるを得ない。
「ははは、そう怪しまれるな。報酬の件といい話があるだけだ」
「報酬は頂くがいい話というのはお断りです」
大概、この手のいい話というものは罠であり、いい話にホイホイ釣られていった奴らがゴキブリホイホイみたいに引っ掛かるのがオチと相場が決まっている。
結果、俺は話も聞かずにその場を去ろうとした。
しかし、
「ま、待ってくれ!怪しい話ではないんだ!国王陛下から直々の招集命令が来ているだけなんだ!」
「招集命令?」
その人は慌てて俺を引き止めつつ、話を進めた。
はて、何か問題でも起こしたかな、と疑問に思いつつ、話を聞く。
「・・・理由は?」
「なんでも、直接的に会って話がしたいそうです!」
全く、もうちょっとまともな言い訳ができないものかね、と思ってこう返事をした。
「直接、俺達と話したいならもうちょっとまともな理由で誘って下さい。じゃないと行く気が起きませんので」
「わ、わかった。話しておこう」
そう言って、その人は帰っていった。
その様子を見ていたホライズン先生は、心配そうな顔で聞いてきた。
「大丈夫かい?悪い話じゃなさそうだけど」
「あのぐらいがちょうどいいんですよ、先生。それに話と言ってもどうせ、国王の配下になれ、とか貴族になれ、といった話でしょう」
「・・・一般人からすれば、羨ましい話に聞こえるけど?」
俺の話に先生は、たいそう不思議に思って疑問をぶつけてきた。
「そりゃあ、一般の人からすれば千載一遇の機会でしょうが、俺の今後の目標はのんびりと自分のペースで生きることです。それなのに、権力争いなどに巻き込まれるのは御免被りたいですね」
「随分と変わった目標なんだね~」
俺の話を聞いて、ホライズン先生はたまげつつもそれ以上は聞いてこなかった。
とは言え、ここまで早く接触してくるとは思わなかったな。
もう少し遅いかと思っていたがそれだけ、焦っているのか、はたまた単純に会いたがっているのかは分からないが、十分に警戒しておくに越したことはないだろう。
そう思いつつ、俺達は部屋に戻っていった。




