のんびりとする前にやることがたくさんあるぜ
主人公がのんびりする気があるのか、と疑問に思い始めた今日この頃
とは言え、話題を作らないと話にならないのでどんどんやっていくつもりです(メメタァ)
それと、次回投稿が少し遅くなります。
理由はネタを集めるのが目的なので、なるべく早く投稿できるようにしたいなと思っています。
第4話 才能の違い
訓練は順調に進んでいったが、その中でわかったのはどう頑張っても魔力値が上がらないメンバーが何人かいることである。
正確に言えば、魔力はあるのだが初期魔法を何発か発動させると魔力切れを起こして発動させることができなくなってしまうのだ。
そのため、魔力が使えないメンバー用の訓練プログラムを練らないといけない訳だが、
「どうやったら先生方を納得させることが出来るか、だな」
「はい~。この学園は魔法が使えて当たり前の学園ですからね~」
「正直に言って、ここらへんで打ち切りにした方がいいと思うの」
という声が上がっているのだ。
最初は冗談だろうと思って、魔力切れを意図的に起こさせて回復ポーションを使って回復させたり、魔力の底上げに食材を使ってみたりしたが効果はなかった。
そのため、舞踏会では一定の魔力がない者に関しては参加権がないとして失格となり、そのまま退学になるケースが一般的である。
だが、幸いにも魔力値が上がらないメンバー全員が貴族出身ではなく、商人や大規模な土地を持っている地主などの貴族ではないがお金持ちの子供であり、ここを退学させられても生活には困らないはずだ。
それでも、家を追い出されて生活に困った時などは俺達の国に斡旋できるようにするがね。
「うーん、このまま大会前に退学の可能性が高いと伝えるべきかどうかだなぁ」
「だけどこのまま、無意味に訓練させられるほどの余裕はないと思うよ?」
「バエルの意見に賛成です。ここまでやって魔力値が上がらないのは素質がないのと同意義ですし」
「・・・はぁ、やむを得ないなぁ」
俺達の「後世のための魔法研究の会」での訓練は実践レベルに近い方法でやっているため、メンバー全員が着実に力を身につけているのがわかる。
それに、その上昇力を見た他の立場の弱い生徒達が俺達のグループに徐々にではあるが参入しているため、脱落者を出したくはなかったのだ。
だが、そんな俺の思いとは裏腹に厳しい現実が目の前にあるため、嫌々ながらも件の生徒たちを1人ずつ呼び出すことにした。
~~~~~~
「・・・そうですか」
「申し訳ない。こちら側でも努力はしたが、この現実だけはどうしようもなくてな」
俺が一対一での面談をして、何人かの退学者に厳しい現実とやらを教えた。
すると、彼らは一様にこう言った。
「大丈夫ですよ。前々から先生方からそう言われていましたから」
そのため、俺は詳しく話を聞くとこういう内容が返ってきた。
この学校は、中高一貫校のように12歳になった少年少女達が18歳まで入れるように作られた学園のようで、実力があれば10歳未満の子供でも入れるようになっていると言う。
しかし、新しい年度になると進学前の身体検査で評価基準に達していない生徒は達するように特別学級で授業が進められるとの事だった。
そして年に数回の検査で結果が出なかった場合、一定期間内に自主退学を届けなければいけないのが鉄則らしい。
そんな中、大概の生徒たちはなんとか誤魔化して続けようとするため、学園側も評価基準を厳しくしないとやってられないのではないか、という噂だった。
そのため、このグループに入ればなんとかなるのではないか、と思ったが残念な結果で終わるのは薄々気付いていたようだ。
その結果、彼らは全員、自主退学ということでこの学園からは去っていった。
「全く、嫌な話だったよ」
そんな彼らの話を直に聞いた俺は、やや不機嫌な感じで毒づいた。そんな不機嫌な俺にサガンがお茶を出し、バエル達が話を続ける。
「それでも徐々に増えているグループの全体からすれば数%。ほんの4,5人でしょう?」
「それでもだよ」
正直に言って、この手の話は気分のいい話ではないことがよく分かる。
俺達には、藁をも掴む思いでやってきた生徒に対して素質や才能面で厳しい現実を教え、彼らは彼らなりに家庭の期待や希望に答えれずに無念の思いで学園から去っていく。
それは、とてもとても残酷な話って訳だ。
とは言え、魔力が壊滅的に少なかったとしても彼らの場合は近接戦闘や弓術などの他の技術を教えているため、家から追い出されても生きていける程度にはなっているだろう。
それはともかく。
「今日は授業が早めに終わるんだし、町を散策するんだが用事があれば付き合うぜ?」
俺がそう言うと、バエル達が賑やかになる。
「じゃあ、買い物に生きたい!新しい服が出たんだよねー」
「私は魔導書ですかね~」
「私は・・・甘い物が欲しい」
「儂は香水かのぅ。持ってきた香水が少なくなってきたのでな」
「じゃあ、私も香水を買いますわ」
彼女達は、各々の部屋に行って準備をし始めた。
この学園に来てからは、俺も彼女達も色々と忙しかったのでその労いも込めてデートに誘ってみたら案外、ノリノリであった。
こりゃ、俺が支払いを持つと大変なことになるな、と思いつつも普段の倍以上の金額を財布に入れながら俺も準備をするために自分の部屋に向かった。
~~~~~~
「どうしてこうなった・・・」
俺達は帝都の商店街に出向いたが、街は中世のような汚らしさとは違ってそれなりにきれいだ。
中世の街並みといえば、それはもう排泄物は街中や壁の外に垂れ流すし、体を綺麗にしないし、布団は変えないしで、相当の不潔さと悪臭があったらしい。
それが原因で、黒死病が何度か大流行してイタリアのベネツィアではの6割の人口が黒死病にかかって亡くなったという報告まであるほどだ。
しかし、少なくともこの帝都ではそういった不潔さはなく、町並みは綺麗で上下水道がちゃんと整備されていることがわかる。
その分、街を流れる川はかなり汚れていたが街が汚れているよりかは遥かにマシだ。
それはともかく、俺が呆然となって呟いたのは別のことで呟いたのだ。
それは、
「あー、見てよこれ!新しい服があるよ!」
「あっちの焼き鳥も美味しそうだなー」
「私は新しい魔導書がたくさん買えてお腹がホクホクです~」
「こっちも新しい香水を買えてよかったのぅ、サガン?」
「そうねぇ。ハデスのおかげでつい、たくさん買ってしまったわ」
と、俺が呆然としているのは、バエル達の買い物に付き合ったら数の暴力で支払いは俺になった挙句、荷物持ちまでやらされたからである。
荷物持ちに関しては、空間魔法によって傷一つ付けないようにしてあるため、別にいいとして問題なのは買い物によって買った荷物の値段だ。
この量は絶対に普段では買わないし、帝都の特産品が多いため、支払いが俺ではなくて他の人なら確実に破産していたな、これは。
それはいいとして、後はどこで何を買うかだ。
「ハデス、これとか美味しそうじゃない?」
「ん?どれどれ・・・こ、これは!?」
バエルが指差したものは、ホットドッグみたいなものだった。
みたい、というのはソーセージをパンで挟んだものではなくて、薄く切った焼肉の何枚かをパンで挟んだものだった。
異世界に生まれ直した俺にとって、前世の料理は記憶だよりに思い出すかダンジョンコアで確認するかの二択でしかなかったため、半分は諦めていたんだ。
だけど、ここに来て懐かしき味に出会えるのは幸運すぎて泣けてくるな。
「どうしたんですか?ハデス」
「あぁ、いや。俺はこれを1本、買おうと思うは皆はどうする?」
懐かしき味に興奮を隠しきれないが、それでも皆に聞く方がいい。
すると、
「じゃあ、私も」
「ハデスが興奮するのも珍しいから私も~」
「ふん、私も1本貰おうかしら」
「ふむ、小腹がすいたし、儂も貰おうかのぅ」
「ふふっ、私も貰います」
そう言って、皆の分である6本も買うことにした。勿論、俺が支払うんですがね。
だけど、皆に振り回される日もたまにはいいかな、と思っている自分がいるのは確かだ。これからも、こんな日が続けばいいなぁと思う1日だった。
~~~~~~
「それで、対象となる人物は今日も大きな動きが見られなかったと」
「はっ」
ハデス達が街で買い物をした夜、帝都の王宮ではギレン国務大臣がハデスを見張るように言われた密偵からの報告を受けていた。
その報告によると、特にこれと言った動きは見られず、逆にハデス達に手を出そうと動いた密偵の消息がわからないとのことだった。
「ということは、単なる馬鹿なのか・・・?いや、だったら爵位を貰わないという理由が見つからない。となれば意図的な示威行動、か?」
ギレンは国務大臣という立場から考え事が多く、人を疑って掛かる節が強い。そのため、ハデスの行動に裏があるのではないか、という考えで予測を立てていたのだ。
しかし、いくら考えても彼の行動は迷宮入りするため、きっかけとなるものがほしいことは変わりない。
「彼の行動や会話で、他に変化は見られなかったか?」
「変化、と言えばこちらの密偵に確実に反応しているぐらいですかね」
「何?それは本当かね」
「ええ。実は・・・」
多数の密偵グループを束ねるリーダーである彼女の話によると、ハデス達は今日だけではなく、この帝都に入ってから何度も密偵を逆に見つけたり、見つけた合図を送ってきているという。
通常、密偵というのは対象になる人物だったり、組織に対してバレないように尾行を始め、そこからわかる情報によって検挙に至ったり、組織を潰したりする事が多い。
しかし、逆に密偵を見つけることはとても困難であり、並大抵の能力やスキルに対して誤魔化したり、隠蔽して街中に潜んでいる場合が多い。
そのため、事が起きてから初めてこいつが密偵だったのか、とわかる場合もあるが大体は一見してもわからないのが基本である。
だが、対象者であるハデス本人がその密偵に気付いているとするならば話が変わってくる。
「ですので、最低でもSランクの冒険者以上の実力を持っている前提で動いたほうが良いかと判断します」
「な!?Sランクって言うとあのSランクだぞ!?あれと同等に扱えと!?」
ギレンが、大げさに驚くのも無理はない。
何故ならSランクと言えば、万国共通の認識として10万人の兵士と同等の実力を持ちながらも多彩な魔法とスキルによって、都市を一瞬で破壊するレベルの脅威と対等以上に戦える冒険者のことを指す。
冒険者ならそのレベルに憧れはするものの、大概の冒険者はBランクが限度であり、Aランクになれるのは非常に稀である。
そのため、Aランクともなれば貴族と同等の生活が約束されるため、そこで冒険者稼業をやめることが多い。
そんな中、ギレンは類稀な才能によって平民でありながら貴族に成り上がって、苦労しつつも国務大臣という役職にまでなった人物なのだ。
そんな彼以上の人物が、冒険者ギルドに所属せずに学園生活を送っているともなれば普通の人なら正気を疑うレベルの認識である。
ハデスにとっては人材探しのための活動も、個人の考えよりも国家戦略を念頭に置くギレンにとっては訳の分からん行動にしか見えないのである。
「ふぅ。とにかく、彼の監視は続けさせろ。皇帝陛下にこのことを伝えてくる」
「畏まりました」
そう言って彼女は闇に溶け込み、ギレンは部屋を出た。彼女がつい先日、生身の人間からホムンクルス・ゴーレムに入れ替わったことも知らずに。
~~~~~~
「ん、はいよ。そのまま、活動を続けて」
『わかりました』
そう言って、通信相手がログアウトした。
頃合いを見計らって、バエル達が話し始めた。
「しっかし、ここまで隠密部隊を支配できるのにはびっくりしたね~」
「正直に言って、ハデスの言う通りにしたらその通りになったからこっちがびっくりしているよ」
「とは言え、そう長くは続かないはずだ。なるべく、魔力の変化を感づかれないように細工したとは言え、それに対する対抗措置を持っているはずだからな」
俺達は、暫くの懸案であった諜報機関への潜入を実施した結果、それが成功したことを確信した。
潜入させた理由は、そこから学習できる部分は全て学習させて今後の情報収集に活かそうと思ったからだ。
今までは、俺の記憶だよりに構成して行動させていたが不確定さがあったため、博打打ち的な要素が強かった。
だが、ここで元々あったものを真似ることによってより精度のある情報収集ができる組織のやり方が学習できればそういった要素がなくなると思っている。
そんな俺は、結構な小心者で一見すると大胆な行動も、実は水面下では可能な限りの成功する確率を上げる努力をしてから行動する癖がある。
そのため、『大胆だね~』なんて言われることがこの学園に来てから多々あるけどそんなことはない。
とは言え、諜報機関への潜入が成功したことによって無駄に努力をして成功させる確率を上げる必要がなくなったと言えよう。毎日が緊張の連続では、俺の精神的が摩耗するし。
そんな訳で、俺は俺の部屋でグダグダしていたらバエル達が入ってきたのでかなりのすし詰めだ。
俺達がいる学園の、学生寮の個室は使用者にプラスして2~3人を目安にしているため、6人もいるとかなり狭い上、彼女達の体格も出ている所は出ていて引っ込んでいる所は引っ込んでいるため、余計に狭い。
普段の俺ならそれは眼福物だが、現状では早くこの会合が終わってほしいと切に願ってしまう。
何故なら、この状況を誰かに見られたら誤解を呼んで社会的に死んでしまうかもしれないからだ。
それはともかく、
「それにしても、何を熱心にやっているのかと思えば諜報機関を作ろうとしていたんだねぇ」
とウィネがボヤついた。
「まぁねぇ。協力者や機関員なんかを早期に組織化して国防のために使いたいと思っていたから、これでようやく作れるようになるよ」
俺はそのボヤつきに説明すると、アスモダイが疑問に思ってこう言った。
「?スパイとどう違うの?」
「エージェントは一言で言うなら情報などの仲介人、インテリジェンスオフィサーは外交官として本国との情報の遣り取りをする人かな」
「へ~」
そのため、その疑問に対してはそう解説した。
情報をいち早く察知して収集し、それに合わせて行動できれば損害を減らしつつも利益を大きく得られる状況が生まれるものだ。
それを合理的かつ、スピーディにできればこれ以上のことはないとも思っている。
言わば、才能の違いだ。
成功を収めるには1%のひらめきと99%の努力とエジソンは言ったそうだが、実際には1%のひらめきがなければ99%の努力は無駄になるというものらしい。
と言うのも、一般的に転載と言われている人物を別の環境、別の分野で行動させると大概は凡人かそれ以下になると思う。
俺自身、入学試験の時に魔力検査の時はすんなりと通れたが筆記試験ではかなり苦労した方だ。理由は単純に覚えるのが苦手だからであり、どうやったら覚えるかでやってみたらトップで入学したまでだ。
また、情報収集では長期間に及ぶスパイ行動を強いられる場合もあるため、俺にとっては窮屈すぎて発狂者だと思っている。
だから、学生生活の中で人材探しを行いつつも潜入をしやすくするために目立つ行動をして注意を逸らしていた訳だ。
これで1つの案件が一区切りついたということで、皆とお喋りをしながらのんびりと過ごした。




