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無駄に強いと頭を使います

第3話 学園での日常


『30秒後にゴーレムが北側より20体が現場に到着する。それから1時間、耐えきってくれ』

「わかった!」

「カレン!あまり前に出るな!狙い打ちにされるぞ!」

「兄貴!後ろ後ろ!」

「ぐっ!」

 ここは教室からある程度離れた生徒の訓練場であり、俺達のグループがが先生の許可を得て借りている所だ。

 この学園に来てから1ヶ月以上が経っている訳だが、任意で来た付き添いの先生以外はいない。

 理由としては、俺やバエル達の魔力の数値や戦闘力に関して先生達を圧倒している上、国からの『余計な指図はするな』という命令で先生達はあまりこの場所に近づくことはない。

 任意で付いてきた先生はホライズンと言い、俺達のことを嫌悪する先生陣の中で唯一の理解者と言っても過言ではない。

「しかし、よくまぁ。これだけのゴーレムを同時並列的に動かしているね」

「普通に動かすんだったら大変でしょうけど、このチェス盤のおかげですね」

「チェス盤?」

 ホライズン先生がそう言って、俺の前に設置してあるチェス盤に興味を示す。

「その板と板の上に乗っかっている駒のようなものが君の言う“チェス盤”かい?」

「そうです。一般的なものよりもこの方がしっくり来ますのでそうしています」

「へぇ。どういった仕組みで動かすのか、興味があるね」

「基本的な仕組みは“チェア”と同じです。名称が多少、違いますが」

 チェアというのは前世で言う所のチェスと同じであり、達人同時で戦うとかなりの白熱したバトルとなって、観客も一定数が集まる。

 と言っても、今回の場合はカレン達の訓練用に使っているため、正式な使い方ではなくて状況の整理と同時にどのタイミングでどの程度の敵の召喚するかを決めるために使っている。

 そうしないと万が一の時に即死の可能性すらも発生するため、それを防ぐためにチェス盤を用いているのだ。

「それにしても弱すぎたり、知名度の低いメンバーで実践レベルでの訓練がしたい、と言われた時には多少は驚いたものだ」

「彼らが弱い訳ではないです。魔法発動に手順を踏みすぎているだけです」

「それを指摘して他の生徒に教える君も君だよ」

 先生に言われて、教えた当時のことを思い出す。


~~~~~~


 魔法陣の無駄を無くすために、カレン達の家が受け継いて来たという魔導書を見せてもらった。

 すると、かなりの無駄がわかった挙句に意味のない文章や記号なんかがあったため、同時並行で最適化して彼女達に返した。

 すると、

「なっ!・・・ここまで簡単にできるのか?」

「先祖代々、受け継いできたものがこんなに簡単に・・・」

「すげぇ、これだったら覚えるのも楽になるよ」

「これまで頑張ってきた人達に申し訳が立つのかしら」

「私もこれで勉強に捗るね!」

 などの感想を頂いたため、俺はみんなに補足をしておいた。

「今回、みんなが持ってきた魔導書は初歩的なものだった。そのため、重複している部分や他の言語で代用できる所は簡単に変えることが出来た。これを元に、魔法研究を進めるのもよし。商売を始めるのもよし。使い方は貴方達次第です」

 俺がそんなことを言うと、カレンが疑問をぶつけてきた。

「しかし、ハデスよ。こんな簡単に変えることが出来るんだったら何故、貴族などに志願しない。そこまで力があるなら、裕福な暮らしが保証されるぞ?」

「それは単純に権力闘争が苦手だからだ。権力自体は興味があるが、あくまで安全かつ争いが比較的に少ない分野でほしいな」

 俺がそう返したら、他のメンバーがこう聞いてきた。

「例えば?」

「・・・例えば、農業や酪農などの分野で効率的に量産できるだけの土地やそこで生産されたものを流通できるほどの市場の開拓ができたらいいな、と」

「なるほど、ハデス印の生産物か!面白そうだな」

「ふふっ、見てみたいものだな」

 そう言って、みんなと盛り上がったものだ。


~~~~~~


「とは言え、なかなかダンジョンの奥にまで入ってこない理由がここにあったとはね」

「?なんか言ったかい、ハデス君」

「いいえ、何にも言ってません。先生」

 俺の呟きに先生が反応したため、適当なことを言ってごまかした。

 正直な話、俺が作ったダンジョンを突破した奴はこの2年と1ヶ月の期間で誰一人としていなかった。

 初めは、何かの縛りプレイでやっているんじゃないかと疑ったものだがそうでも無いことが、観察している間にわかった。

 そして、よくよく調べてみると魔導士や魔法使いの魔法の発動がやたらと遅い上、威力も消費魔力に割には弱かったことが判明した。

 最初は何かの冗談か、と思ったがそうでもないらしい。

 ダンジョンには、一般的な魔道士の他にも宮廷魔導士が何人も来ては途中、というよりは序盤の第10層まで到達したのが彼らの限界だった。

 人材探しの他に、魔法系統での疑問からこの学園に来た訳だがここまでとは思ってもいなかった。

 一体、何がそうさせたのか。現段階ではわからないが、学園の図書室や国立図書館で情報を収集していけばわかるかもしれない。

 俺がそう思っていると、ホライズン先生が訓練場の変化に気が付いた。

「!何人か、魔力切れを起こしそうだよ!」

「えぇ。こっちでも今、確認しました」

「止めなくていいのかい?」

「一定時間内に、全員が負傷判定にすればこっちの勝ち。それが過ぎればあっちの勝ちです。それまではみんなに止めないように言われています」

「それだと怪我をしないかい?あの中には貴族出身の人も何人かいるよ?」

「負傷判定、もしくはそれに該当する場合は戦闘区域外に強制転移します。現場ではバエルとアスモダイ、サガン、ウィネの4人で監視しているため、間違いは起きないはずです」

「それはそうだけど・・・」

 先生は、かなりの心配しているがこれに関しては本当のことだ。

 いくら帝国からの了承があるとはいえ、貴族の御曹司やらに危害を加えてしまっては向こうも戦わない訳にはいかない。

 魔族の脅威が迫っている中で、俺達の行動によってもう1つの戦争が起きてしまってはこっちとしても立つ瀬がない。

 という訳で、現段階でのカレン達の実力では俺が駒を動かしてバエル達を見張りにつける方法がベストだと俺は思っている。

 と、そこまで思っていると訓練終了のブザーがなった。

『はい、訓練終了。前回よりも15分ほど長く戦い抜けたぜ』

 俺がそう言うと、それまでゴーレムの形をしていたものは土に戻っていき、疲れ切ったカレン達が残された。

そのため、俺は回復ポーションを人数分持っていき、こう言った。

「はい、訓練ご苦労さま。回復ポーションを持ってきたぜ~」

「おぉ、ハデス。すまんな」

「はぁ、ここまでの実践レベルで戦えるのは早々ないぞ」

「ホントホント、確実に力が付いてきているな」

「寧ろ、どうしてハデスがそこまでの力を持っているのかが気になるくらいだよ~」

「こ、こら!クラン、そういうのは聞いちゃダメでしょ!」

 クランと呼ばれた少女と、もう1人の少女で喧嘩になりそうだったので俺は気にしてない、と言って仲介に入る。

 彼女達の戦闘時間は2時間45分と、最初の1時間半よりかは遥かに伸びた。

 理由としては、魔法を発動するための魔力が大幅に減ったのと同時に、彼女達自身のレベルの順調に上がってきているのが大きな要因だろう。

 彼女達のレベルは、最初こそレベル5とかで弱い部類に入っていたが今ではレベル20前後と当初の4倍ほどにまで上昇してきており、属性魔法スキルもレベル1から5ぐらいにまで上昇している。

 人間界での常識としては、普通の魔導士がここまでのレベル上昇には数年単位で慎重に慎重を重ねてようやく、といったのにも関わらずにそれとたった数週間でやったのだから仰天ものである。

「まぁ、俺の場合は教科書に乗ってある魔法陣をどうやったら効率的に出せるか?という疑問を持って取り掛かったからここまで来れたかもしれませんね~」

「効率的に出す?」

 俺がそんなことを言うと、カノン達がそれに反応してきた。そのため、俺はこう返した。

「製作者には悪いと思ったが魔法陣自体に意味のない文法だったり、変な言葉が入っていたりしていることが多言語を学んでいる内にわかったから、遊び半分で改良していったら普通にできてしまった、という訳だ」

「遊び半分って・・・。それを市場で販売すれば、多額の金額が懐に入るはずだが?」

「魔法研究はあくまで趣味の範囲でやっているから、それに関してはあまり興味はねぇな。無論、お金はあるに越したことはないがありすぎても困りものだな、と考えている」

「そ、そうか・・・」

 カレン達はやや憮然とした感じで、俺の話を聞いていたがその空気を無視して話を進める。

「それはともかく。戦闘時の皆の動きはだいぶなめらかになってきてはいるけど、まだまだの部分があるから気をつけるように」

 俺が訓練状況について話を進めると、皆は気を引き締めて話を聞いてくれた。


 そのため、俺は訓練に参加したメンバー1人1人にアドバイスをして今回は解散した。

 すると、

「ふぅ、それにしてもいいの?」

「何が?」

「あの子達に革新的な魔法を教えて」

 バエルがそんなことを聞いてきた。

「俺達が教えたメンバーの中には、敵対する奴は必ず出てくるだろうな。だが、それよりも大切なのはどうやって自分達に利益が出るような人材を探すかだ。しかし、それを行うには人脈がなさすぎる。

 だから、あのぐらいのことをしないと部外者である俺達の話なんか、聞かないと思って行動したまでだ」

 バエルの質問に対して俺がそう答えると、やれやれと言った感じで表情でそれ以上のことは聞いてこなかった。

 と言っても、バエルの言い分の方が正しい。

 そもそも俺はダンジョンマスターであり、一国のトップに経っている存在だ。そんな奴が普通に街中、しかも敵対するかもしれない国の学園にのんきで過ごしているのだ。

 身分を隠しているとはいえ、いつ何時(なんどき)に敵対する組織の暗殺者(アサシン)やそれに属する人間に殺されてもおかしくはない。

 だが、それに関してはあまり気にしなくていい。

 何故なら、この帝都にも市民や冒険者、商人などに化けて住んでいるホムンクルス・ゴーレムが多数いるため、そういった動きには機敏に動ける状態である。

 とは言え、流石に俺達の本拠地ではない都市なのでそう簡単に動けないのは俺達も同じだ。そのため、直情的に動かずに冷静沈着でありながら、いざという時は意表を突いた行動を取ろうと思っている。

 そう思いつつ、俺達はそれぞれの部屋に戻っていった。


~~~~~~


 部屋に戻った後、夕食を挟んでその日に出された宿題や次の日の授業の予習をしていると神聖ハデス教国の首脳部から定時連絡が来た。

 定時連絡と言っても、週の真ん中に当たる日にデータ通信を介して俺の方の折りたたみ式の通信端末にその日の昼までにあった出来事などをまとめた情報が来るだけだ。

「ふむふむ。・・・今週も何もなくて何よりだな」

 定時報告では、部族同士での大きな揉め事などは発生してしていないことと、冒険者ギルドや商業ギルドとのやり取りで発生した支出入のグラフが見て取れた。

 揉め事が発生しても大体はその場の判断で収まるのが基本だし、それ以上のことが発生しても族長同士での話し合いでまとまるのが基本だ。

 そのため、俺らがでしゃばるような自体になったことは殆どなかったし、あったとしても俺の裁定で双方が納得していた。

 一方、支出入の方では生産基盤がしっかりとしているため、支出よりも収入の方が平均で2割ほどで多い所では3割近くまで行っている業界もあるし、少ない所でも1割以上は保っている。

 理由は、部族ごとに得意とする生産物を積極的に生産させて必要な分を差し引いた余ったものを国の特産品として商業ギルドに国が仲介して卸す。

 そして、そこで売れた分のお金を仲介費やギルドへの設置費などを差し引いて生産した部族に還元する。

 売る分の生産物は、商品として作るのに必要な材料を買える分の費用に仲介費などをプラスして販売している。

 そのため、まとめて買うとかなりの金額になるが単体での金額はお手頃価格なのも相まってなかなかの好評である。

 その結果、需要に対して供給が間に合っていないのが嬉しい悲鳴であるのが幸いだな。

 初めてその話を聞いた時にはかなりリスキーなやり方だなぁと思いつつ、承認してよかったと思っている。


 コンコン


 俺がそう思っていると、ドアをノックする音がした。

「クレハだけどハデス、いるー?」

「いるから入ってどうぞー」

 俺がそう言うと、ピンク髪の少女が入ってきた。

「就寝前にすまないな」

「気にしなくていいよ。就寝時間まで後30分ぐらいはある」

 俺がそう言うが、クレハと名乗った少女は(うれ)いた表情を崩すことはなかった。

 幸い、高校受験の時に成績がトップ5までの生徒には個室が与えられていて残りは2人部屋ではあるため、シャワールームがそれぞれの部屋に設置してあるため、夕食後はすぐにシャワーを浴びた。

 そのため、現在の俺の体は清潔なのだが、シャワーやら上下水道の管理などの衛生面が思っていたのより進んでいたことに驚いた。

 しかし、話を聞いていくと100年前の魔王軍侵攻の際に召喚された勇者の提言に整備がされてきたという。


 その時のセリフが“おい、清潔にしろよ”だったらしい。


 その時に思ったのは、100年前の勇者は決闘者(デュエリスト)の1人である(かに)さんのアニメでも見ていたのかね、と思ってしまった。

 それはともかく。

 クレハもカレンと同じように弱小貴族の1人であり、俺達のグループを知った時には恐る恐る参加したのを覚えている。

 とは言え、彼女の表情から察するにそれなりの悩みがあって俺の部屋に来たのだろう。

 だから、

「どうした?クレハ」

 と、俺は聞いた。するとクレハはこう言った。

「どうしたら貴方のように強くなれるの聞いておきたくて」

「・・・なるほど」

 彼女が聞きたいのは、強くなる方法だった。

 そのため、俺は単純ではあるがそれを体でわかるまでに時間がかかることを言った。

「強くなる方法は“間合い”、そして“引かない心”だ」

「え?」

「強くなる近道なんてものはない。それこそ、生まれ変わらない限りな。だから、多くの訓練と実戦経験を得るには“間合い”と“引かない心”が必要になる」

「そ、それじゃあ!私はあなたに近づけないっていう事!?」

 俺の発言を、自分が強くなれないとして受け取ったクレハは俺にそう叫んだ。

 その怒りを、受け止めて俺はこう言った。

「そうじゃない。クレハはまだ経験が足りていない、ということだ。現在、俺が君や他のメンバーに行っているのは実戦を想定した訓練だ。訓練はあくまでも訓練だから、実力がそれなりに付けば実戦にも連れていけるはずだ」

「・・・本当?」

 俺がそんなことを言うと、クレハはそう聞いてきた。

「確定ではないがこのまま、順調に行けば行けるはずだよ」

「わかった。それだったら我慢する」

 クレハはそう呟き、俺の部屋を出ていった。

「・・・まぁ。順調に行けば、の話だけどね」

 彼女の家柄はそれなりに長いらしいが、魔法研究をそれほど進めていなかったために他の皆とは大きく遅れを取ってしまったのが原因だろう。

 何故なら、彼女の魔力値は最初に出会ってからだいぶ伸びたがそれでもまだ、魔導士には程遠いレベルである。

 そのため、如何にして効率的に魔力を温存しつつも効果を発揮できるかが、彼女にとっての分かれ道になるだろうと俺はそう思っている。

 だが、猪突猛進な彼女にとってそんなことを言っても意味は無いだろうと判断した。

 だから俺は、彼女に訓練を推奨してその気にさせた。ああいった奴には、そういうふうに言い回すのが一番だと前世で経験済みだ。

 そう割り切って、俺は消灯時間に寝た。

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