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入学したら権力闘争がありました

第2話 学園生活スタート


 アレマーニャ帝国 帝都近郊


「ふぅ、なんとかここまでは穏便に来れたな」

「そうですね~。途中で幾つかの国での検問で、魔導式の馬車と誤魔化せたから良かったです」

 俺達が、ダンジョンを出発してから2週間ぐらいが経って帝都近郊にやって来た。

 途中、幾つかの国に入る時は近くにある森にハンヴィーを樹木に偽装して徒歩で向かって入ったし、どうしても偽装できない場合は魔導式の馬車ということでゴリ押した。

「ふーむ。いい加減、お風呂というものに入りたいのぅ。あれを知ってから臭いが気になって仕方がない」

「確かに、体を洗い流せるものを知ってからは気になりますね」

「ハデス。帝都について、学園での生活が始まったら作ってよね」

「私もお願いするわ」

「部屋の程度にもよるが、出来うる範囲で作ろう」

 2年間のダンジョン暮らしで、彼女達に一番長く喜ばれたのはお風呂という存在だった。

 前世での俺は、普通の人よりも肌が弱かったために汗疹(あせも)やら何やらができやすい体だった。そのため、その習慣で早い時期からお風呂を作っていたのだ。

 お風呂のことがみんなに知れ渡ったのが、出会ってから2週間ぐらいしてからだったのでいつでも入れる大浴場をダンジョン内に増設した。

 すると徐々にではあるが、民衆に知れ渡るようになったのでダンジョンがある街や一定の規模のある集落では数十人から数百人規模で入れる大浴場を作った所、それが評判を呼んだ。

 戦闘やら何やらで汚くなった体をシャワーやお湯で綺麗にできる上に、魔力で動く洗濯機によって服まで綺麗になるのだから人気が出たのだ。

 すると問題になるのが水の確保なのだが、水を循環させるシステムに大浴場分の水を生産させて再利用できるようにすることで解決した。

 元々、ダンジョンに設置してあるそういったシステムには余力を残しているし、大幅な人口増加が起きても対応できるように拡張工事の計画も組み立てておいた。

 その経験から、どんなに小さい部屋でもある程度の大きさがあれば工事ができるようになった。


 それも部屋の大きさを見ない限り、何とも言えないがね。


 という訳で、俺達はハンヴィーに乗ったままで城門に近づいた。


~~~~~~


 帝都 東門前


「止まれ。入城手続き書を持っているか?」

 俺達が門の前まで行くと、門を管理している兵士に止められた。

「あぁ、これがそうだ」

 そのため、俺達は入城証明書を兵士に渡すとすぐに通してくれた。

 この1年間で、学園に入るためのちゃんとした手続きを帝国との間でやっていたため、すんなりと入ることが出来た。

 しかし、日本人だった俺にとっては入城するという言葉に違和感を感じてしまうため、ダンジョンコアで調べた所、城というのは都市を城壁で囲ったものと戦闘用に作られたもので区別されるらしい。

 日本では戦闘用に作られたものが城として主流になったため、城砦(じょうさい)としての城のイメージがある。

 一方、ヨーロッパの城は都市を城壁で囲った城郭(じょうかく)都市と呼ばれるものが主流のようだ。

 理由としては、異民族との戦争が起こりやすいユーラシア大陸では外敵への対策として都市を城壁で囲ったとの事だそうだ。

 この世界でも、状況が変われば一気に戦争になるような地域らしいため、そういう風になったらしい。


 それはともかく、これで正規ルートでの入場を果たした俺達は指定された場所に向かってハンヴィーを走らせた。

 幸い、大通りはハンヴィーが余裕で通れるほどの道幅があるため、そこにつくまでの間で困ることはなかった。あるとすれば、大通りの馬車が通ることを横切る人が多数いたため、なかなか前に進めなかったことぐらいだ。


 そして、着いた場所は俺達が入学するアレマーニャ学園の門だった。


「さて諸君。授業の時間だ」

 俺が骨伝導(こつでんどう)マイク越しにそう言うと、俺達は一斉にハンヴィーから出て学園の門を潜った。


~~~~~~


 それから1ヶ月は苦労の連続だった。


 アレマーニャ学園は貴族の子供達が多く集まる学校らしく、その学園に成績トップで入学してきた余所者である俺達が気に食わなかったらしい。

 そのため、イジメまがいのことを吹っかけられたし、色んな嫌がらせを受けた。

 しかし、それらの事案に対して俺達は正々堂々と弾き返したり、嫌がらせをしたメンバーを見つけ出してボコボコにした結果、悪魔の集団として恐れられることになった。

 その反面、貴族出身ではない連中や爵位の低い貴族からの絶大な支持を得た。

 理由としては、彼らも爵位の高い貴族からの嫌がらせや脅迫やイジメを受けていたからであり、この1ヶ月で俺をリーダーとさせたいグループが形成されるようになった。

 とは言え、俺自身は自分のペースで人材を探したいため、なるべくそういうグループには接触しないようにしてきた。

 そんな中、敵意や過度な敬意を持った目で見てこない人間が複数人、俺に接触してきて会話をするようになった。


 例えば、

「あぁ、ハデス。今日も会ったな」

「いつも同じ教室なのだから、会うのは当たり前だろう?カレンよ」

 と、新入生なのに気兼ねなく話しかけてくる学生が現れた。

 その学生こそ、カレンという白髪の少女で子爵の位を持つが弱小子爵の生まれのため、その立場はあまりよろしくない。

「いや、そうでもないぞ?」

「何故?」

「例えば今日、どちらかが風邪を引いて休まないといけなくなった場合なんかは会えないだろう?」

「あー、なるほど。つまり、カレンは今日も俺と会うことで互いの元気さを意識しているということか」

 俺がそんなことを言うと、カレンは驚いた顔でこう言った。

「どうしてハデスは時折、物の本質をざっくりというようなことを言うのだろう・・・」

「おっと、失礼なことを言ったな。訂正するよ」

「いやいい。多少、驚いただけだ」

 俺がそんなことを言うと、彼女はすぐに笑顔になってそう言ってくれた。

 彼女は、実力主義を重んじていたがそれを貴族の爵位が壁となって邪魔をするため、そう簡単に行動に移せない上にいい人材が集まりにくいのだ。

 その結果、貴族出身では無いにも関わらず、敵対する貴族に対して容赦なく行動できる俺を利用できるのではないかと思って接触するようになった、と個人的に考えている。

 しかも、彼女の後ろには幼馴染の兄妹だという男女が二人並んで立っていた。

「ドーモ、お二人さん。今日も元気そうで何よりです」

「ふん、相変わらず舐めた口調だな。いつかその口を塞いでやる」

「同性愛とか、そういう趣味はないんだぜ?」

「俺にもないわ!」

「ハデスは兄貴の扱い方が上手になってきているな」

 やや口調が荒いのが兄であるギュンターであり、妹のクレハの方は落ち着いた口調である。

 そして、カレン達との会話の後に授業が始まる鐘が鳴って俺達は席についた。


 アレマーニャ帝国は俺達が住んでいるこの大陸で最大の国であり、現在の魔族との戦いで互角以上の戦力と練度を誇る国である。

 この大陸は前世のヨーロッパの地形や形とよく似ていて、アレマーニャ帝国はその中のドイツやチェコやオーストリアなどの地域に跨っている。

 一方、俺達の国である神聖ハデス教国は前世のスイスの中のごく限られた場所にあり、そのスイス辺りがフィレンツェ王国が支配している。

 また、魔王が支配している国はウクライナやベラルージ、ルーマニア辺りまで広がっており、その周辺の国では非常事態宣言を発令していつでも戦争に突入する用意ができている。

 と言っても、周辺各国に対して魔王軍の方が戦力的に圧倒的に強いため、いかに戦闘を回避しつつ、自国領の民衆を逃すことが出来るかが問題となっているようだ。

 そんな状況において、帝国としては警戒態勢で望んでいる所だが民衆にとってはまだ異国の問題として認識しており、戦争の足音はここまで感じ取れない。

 感じ取れるとするならば、魔王軍がもっと西側にまで攻めてくる時だろう。

 それまでの間は、俺達にとって利益になりそうな話が転がってこない限り、動くことは無さそうだ。

 冷たいかもしれないが、無償で兵力を投入する必要性がないし、投入する義務もないからな。あるとするならば、アレマーニャ帝国が軍隊を動かす時だろう。

 その時は、こちらの被害がなるべく出ないような戦いの仕方をしようと考えているため、今はのんびりと人材確保と行きましょうかね。


 それはともかく。


 学園で何を勉強しているかというと、地理や政治などの世界観を学ぶのが中心であり、帝王学や宗教に関しては殆どやっていない。

 おそらく、帝王学はともかく宗教は聖光教団の教えが民衆に限らず貴族にまで浸透しているため、それほど教える必要性がないからだろう。

 それとは別に、実務での授業は剣や槍などの訓練や魔法の研究などが学生主体で行われているのだが、貴族同士での争いがメインになっているため、高いレベルにまで達していないことがわかった。

 まぁ、互いの目先の利益のために貴族同士で潰し合って消えてくれるのならそれで万々歳なのだが、それに付き合う必要が無い為、俺達で新たな学生グループを作った。


 グループ名は、「後世のためのは魔法研究の会」とした。


 元々、俺のネーミングセンスは壊滅的にひどいと自覚しているため、グループの目的を前面に押し出して他の学生が入りやすくした。

 すると、俺やバエルたちの他にカレン達の他にも何人かが参加するようになって、作ってから2週間ほどで十数人の小さなグループになった。

 学園内での大きいグループになると、100人単位で参加しているものもあるがそうなると様々な世間的な(しがらみ)が参加者を縛るため、それに嫌気が差して入ったメンバーが多い。

 その分、俺がリーダーのために魔法研究を第一にしているのと、爵位に関係なくみんなに接しているため、グループとして気楽な雰囲気がある。

 本来ならば、カレン辺りにでも任せようと考えていたものだが丁重に断られてしまった。

 理由としては、入学した当日に絡まれたイジメっ子のリーダーらしき人物を盛大に威嚇して下の口から色んな物を漏らせたのが原因らしい。

 それ以来、その件で絡んでくるそのイジメっ子のグループ全員の弱みを調べ上げて脅したら、絡まなくなった上に俺達のことを悪魔軍団だのハイパー鬼畜集団だのと言いふらすようになった。

 全く持って心外な話なのだがこの事をカレンに話すと、

『用意周到に準備をして、相手を脅すお前をそのままに表しているではないか』

 と、言われてしまった。

 とは言え、今はアレマーニャ帝国と同盟国であってもいつ敵国になるかわからないから敵情視察ではないが、主要な貴族達の情報を集めておくのが普通だと思う。

 俺達と、アレマーニャ帝国との駆け引きは既に始まっているのだ。用心しておく事に越した事はない。

 もっとも、俺達は授業や訓練の成績では常に上位にいるし、魔法研究の会に所属しているメンバーの実力も徐々に上昇してきている。

 その理由は、魔法陣に無駄がありすぎるのだ。

 俺やバエル達とは違い、人間が保有できる魔力は少ない。

 勇者や賢者と言った最上位にいる人間ならともかく、一般的な魔導士や魔法使いは数値で言うなら500前後であり、熟練の魔法使いで800ぐらいである。

 対して、魔法を発動するのに必要な魔力は初歩的な魔法で30ぐらいである。しかも、自然界にある魔力を使わずに体内にある魔法だけで発動させようとするため、余計に効率が悪くなる原因になっている。

 その事を、グループに所属しているメンバー全員に伝えると半信半疑で聞き返されてしまった。

 そのため、試しに一般的な魔法の中で初歩的な魔法陣を改良して使用させたら驚かれた上にもっとやってほしいと言われたため、教科書に記載されている魔法陣を小1時間程度で改良しきった。

 その結果、メンバー全員に尊敬と希望を込めて魔法研究の会のリーダーにさせられてしまったが、今となっては盛大にやらかした感がある。

 その分、人材探しには持って来いなんだがな。


~~~~~~


 アレマーニャ学園 「後世のためのは魔法研究の会」専用の部屋


「・・・みんな、揃っているね」

「はい~。来月に行われる春の舞踏会に参加するため、みんなは練習に励んでいますよ~」

「こっちでも魔導戦士になるための特訓をしている最中ね」

 俺達が集まっているのは、週に1回のペースで行われるグループの報告会。

 この場でみんなと情報を共有し合うことによって、お互いの進展状況を把握するのと同時にそれに合わせて計画の練り直しなどを出来るようにしたのだ。

 何故、こんな事をするかというと魔法研究の会のメンバーを4つの班に分けたからだ。

 分けたのはメンバー内で得手不得手の分野があるためであり、それを効率良く伸ばす必要があったからだ。

 そうしないと、入学してから2ヶ月後のある春の舞踏会でいい成績が残せないからだ。

 残さないと、グループで使える予算が学園から減らされる上、学園内でも問題児が多いこのグループを潰そうとする連中に格好の機会を与える羽目になる。

 そうしないように、他のグループとは大差をつけて勝たないといけないと俺は思っている。

 何故なら、

「しっかし、春の舞踏会では研究成果の他に試合形式で戦うことも含めてるのには驚いた」

「そうか?ここでは普通だぞ?」

「生憎、俺達は田舎出身なんでね。そういうのには疎いんだ」

 とまぁ、試合がある訳だ。

 俺達ならば、軽い運動がてらに動けば瞬殺できるんだろうけどそれでは意味がない。

 グループ全体で勝利しないと、まともな評価がされないのだ。そのため、訓練や魔法陣の改良によって力なき者を強くしておかないと意味がない。

 今回は、その対象がカレン達な訳だが俺達のラフな教え方にも関わらず、飲み込みが早いため、一通りのことは教えきったのだ。

 そのため、今日は実戦を想定した訓練を行うことにする。メンバー全員にその事を伝えて、訓練場に向かう事にした。

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