戦闘終了。後は後始末だな
第9話 宗教戦争 後始末
聖光教団との戦いによって得たものは多く、こちら側に大きな利益をもたらした。
まず、4人の勇者とそれに付き従っていたメンバー達だ。付き従っていた奴らはともかく、勇者達は俺の旧友な訳で事情を説明したら納得しきれていないがわかってはくれた。
そのため、抵抗しなければ釈放も視野に入れていると言ったら協力的になったため、チョロいものだなぁ、と思ってしまった。
釈放と言ってもあくまでこの国から釈放するだけであり、その他の事柄に関しては別の努力が必要なのだがそれは別にいいだろう。
それに彼らは、聖光教団に対しての多額の身代金と交換するつもりなのでそれまでの付き合い、ということになる。
冷たいかもしれないが、そうでもしないと彼らはこの世界で俺という財布をせびるかもしれないし、そういう風に堕ちていく友人を見たくはないからね。
他にも、勇者達が所有していた装備品はドワーフ達に回り、徹底的に解析された後、それのワンランク上の装備を俺に献上しきた。
どうやら彼らにとってあの装備は、子供の遊びで出来たんじゃないか?という印象を受けたらしい。人間側の鍛冶職人は泣いてもいい。
だが俺が鑑定スキルで鑑定すると、数百年前に勇者が魔王と戦うためにドワーフ達の手によって、作られた当時としては最高傑作の装備だったらしい。そしてその技術力は大して変わっておらず、逆にドワーフの人口減によって退化している面があるという。
そこから考えられるのは、俺の所で働いてもらっているエルダードワーフの腕と精密な設計ができる据え置きのパソコン、そして最高の状態で作業ができる現場を作ったためだろう。
エルダードワーフはやや傲慢ではあるが、請け負った依頼や仕事は確実にやるとしてダンジョンを攻略する冒険者達にとっては、一生に一度は自分の装備を作ってもらいたいという思う人間が多いらしい。
そのため、依頼が大量にくるのだが彼女は必要以上に仕事は取らないようだし、俺も彼女以外のエルダードワーフを召喚することはない。
何故なら、彼女は腕がいい分、プライドも高いので俺達が管理しているダンジョンに他のエルダードワーフがいるのを許せないからだ。
流石にヤンデレという訳ではないが、彼女にとって俺からの依頼は最優先事項であり、他の依頼を片手間でこなしながら俺の仕事をするだけの情熱を持っている。
以前、彼女の仕事場を見せてもらった時には3つの依頼を同時並行的にこなしていたため、なんか凄い奴を召喚してしまったかな?と思いつつも感嘆を上げてしまった。
また、今回の宗教戦争で戦死した敵の兵士の数はおおよそ30万人近くにも及ぶ。
そのため、土葬に必要な土地が足りないので火葬用の場所を地下に設置して、そこで身ぐるみを剥いだ死体を入れてまとめて火葬した。
そして剥いだ分の装備品の内、身元がわかる品物は商業ギルドを経由して聖光教団に送ってもらい、残った装備品を金属に還元できるものと装備として使い直せるもの、通貨として使えるもの、それ以外のものに仕分けた。
そうすることによって、神聖ハデス教国の臨時収入にしたのだ。
今まではダンジョンで得た収益の内、余剰分の資金を出来たばかりの国に回していたが移民してくる人口が増えれば、将来的にはその分だけでは足りなくなる可能性が高いからである。
とは言え、それはまだ先のことなので余り気にしなくていいだろう。
それと、神聖ハデス教国の初代教皇に皇竜のアレクがなることになった。元々は司祭風の青年がすることになっていたが、彼がダメ人間だということが発覚してからは空席だったのだ。
そのため、教皇になることをアレク達に伝えると快く引き受けてくれた。
理由としては、聖光教団のトップとはあまり親しくはなく、寧ろ、邪剣されていたらしい。
そのため、彼自身も聖光教団をあまり快く思っていなかったのとソフィアと一緒にいられるなら、という事で教皇になった。
国内ではそんなものだが、国外であればかなりの変化が起きた。
聖光教団とそれに追随している国は、明確に敵対意識を持って宣戦布告の使者を寄越してきた。
まぁ、彼らとはうまくやるつもりはないので別にいいのだが、意外なことに安全保障条約を結ばないか?という国が幾つか現れたのだ。
その最大の国がアレマーニャ帝国。幾つもの国が、群雄割拠しているこの大陸の中で一番強大な国が安全保障を結ぼうとしているのだ。
そのため、俺は教皇となったアレクを経由して帝国側の交渉相手とのやり取りで条件のすり合わせを行った。
その結果、帝国側の条件としては商業ギルドで流通しているダンジョンで生産している商品を優先的に帝国に卸すことと、帝国兵の専用訓練場の設置を要求した。
一方、こちら側の条件として他国に侵略された場合は帝国が真っ先に救援を出すことと、人材育成の協力要請、そして領土を区切っている壁から30kmの範囲を俺達の領土にすることだった。
この条件で、神聖ハデス教国とアレマーニャ帝国の間での安全保障条約が締結され、宗教戦争からちょうど1ヶ月後の日に同盟国になった。
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ダンジョンコア直上・冥王の城 最上階
「マスター」
「んー?」
「これでよかったんの?」
そう聞いてきたのはアスモダイだった。
「マスターにとってこのダンジョンはただの家であり、当初の目的であったのんびりと気ままに暮らすというのが果たされなくなるわ」
「確かにそうなんだけどよ、アスモダイ」
俺はそう言いながら、窓から見える城下町を見る。
「このダンジョンは、国として樹立した挙句に宗教戦争で最も権威のある宗教に勝ってしまった。無論、この流れは俺の意図したことではなかったが、その結果として弾圧を受けてきた多くの亜人や獣人の部族が大勢来ている。その流れを今更変えられないし、変える気はねえよ」
「・・・」
「それに、俺が一番上に立っているとしてもそれはあくまで国としての象徴であり、実際に動かしているのアレク達だよ。そういった意味で、のんびり出来ていると思っているよ」
現に、多くの関係各所からのやり取りはアレクを中心にソフィアがフォローする形で最終的な決議は次々に決まっている。
そして、移民としてきた諸族はそれ相応の土地を与えられて対等に扱われるようにするため、ダンジョンの全てを開放することにした。
こうすることによって、城門とダンジョンは人間を中心に多くの民族が街を作って入り混じり、それ以外の所では諸族単位で生活をしている。
また、そこで生産した製品はホムンクルス・ゴーレムを経由してダンジョンの近くにある街に運ばれていき、そこで売り買いがされている。
さらに、そこで得たお金は税金などを差し引いて諸族のもとに利益が出るようなシステムを構築した。そういったシステムを教えるのは決して簡単ではなかったが、とても充実した日々だと思っている。
「では、当初の目的は何ら変わっていない、と?」
「そうなるな」
「じゃあ、なんで途中で逃げ出そうとしなかったの!?宗教戦争で勇者との戦闘の直前にバエルに見せたあの泣き顔は嘘だったの!?」
俺が否定しないと、アスモダイは起こった口調で俺にがなり立てた。そしてどうやら、バエルに見せた顔はみんなに知られていたようだ。
「嘘じゃあないさ」
「だったら・・・!」
「だが俺は、君達を守るための覚悟を決めた。例え、俺が選択したこの判断が煉獄の釜の底へと続く道だとしても後悔しない、と」
「・・・!」
俺が振り返りつつ、アスモダイに言うと彼女はやや困った顔をして言葉を詰まらせた。そして、怒りとも喜びとも言えない口調で、
「マスターのバカ!そんなの言われたって困るのは嬉しくないんだからね!」
「ぐぼぉ!!」
そう言いつつ、盛大に腹パンされた。今ので、物凄い激痛を感じながら1億ものHPが消えた。スキル貫通がなくても、並大抵の奴らはこれでくたばるんだろうなぁ、と思いながら気を失った。
~~~~~~
「全く、いくらツンデレでもここまでやってたらマスターの体が持たないわよ!アスモダイ!」
「うぅ~、だってぇ~」
「だってもクソもあるもんですか!マスターじゃなかったら爆発四散して粉微塵になってたわよ!」
ゆっくりと浮上する意識の中で、バエルがアスモダイに怒っている声が聞こえた。あぁ、俺は死なずにすんだのかぁ、と思いつつも目を開ける。
「うっ・・・」
「大丈夫ですか~、マスター」
「パイモン?」
俺が起きたことに気がついたパイモンが、体を動かした時にずれた濡らした布を取って起こしてくれた。
「体に異常はありませんか~?お腹が痛い~、とか頭がフラフラする~、とか」
「・・・腹にジーンとした痛みはあるが特に異常は無さそうだ。頭の方も、異常は見られない」
俺がそう言うと、部屋にいたメンバーはホッと息をついた。
「それは良かったです~。マスターに異常があるんだったら、アスモダイをダンジョンから追い出さないといけませんでしたから」
「え!?そうだったの?」
俺が初めて聞くことに驚いていると、ウィネとサガンがこう言った。
「当然じゃ。ダンジョンマスターであり、我らの召喚者でもあり、国の象徴でもある主に万が一のことがあれば責任を取ってもらわねばなるまい?」
「そうですね。いくら初期からいるメンバーでも、リーダーに過剰な暴力を振るったということが外に漏れ出すといけませんから」
「そっか。て言う事は、俺の体の頑丈さに救われたってことか」
「そうですね~」
俺らがそんなことを言うと、アスモダイはかなり縮こまってしまった。こりゃ、フォローを入れないと拗ねるな、と思った俺はこう言った。
「それはともかく、俺はこうしてピンピンして生きているから今回のことを踏まえてお手柔らかに頼むぜ」
「・・・わかったわ」
アスモダイが小さい声で、そう言うのを聞いてからお開きにした。じゃないと、一緒に寝るハメになるからな。
以前は、どんちゃん騒ぎで大量の酒を飲んで押しかけ女房の如くに添い寝をされたが、今回もそんな風なことをされるとこっちの理性が吹っ飛ぶからな。
俺はそう思いつつ、
「くぁ~、どっと疲れが来たな。二度寝しよう、と」
そう言って二度寝した。またもや添い寝をされるとは知らずに。
~~~~~~
フィレンツェ王国 王都・執政室
「ふむ。聖光教団は壊滅的な敗走をした、か」
「はい。聖光教団とは必死に否定していますが、ハデス教国の方が大々的に喧伝していますからほぼ間違いないかと」
ロンメル国王は、エルヴィン国務大臣やその他の大臣を集めての作戦会議を行っていた。ただ、作戦会議と言っても彼のダンジョンだった国とどういった関係を持つべきか、という会議に近かった。
「それで?聖光教団が派兵した規模はどのぐらいだ?」
「はっ。観測班の報告によれば30万の兵力、4人の勇者とそのメンバー、そして皇竜を一頭投入したとのことです」
「なっ!?」
軍務大臣である男の報告に、ロンメル国王以外のメンバーが驚愕した。
30万もの兵力もそうなのだが、4人の勇者はそれぞれの得意とする分野が違うものの協力的に行動すれば、魔王軍を圧倒できるだけの能力を持つ者ばかりだった。
その上、皇竜というのはドラゴンの中でも皇帝と言われるほどの強力なドラゴンで、数多の魔法を行使することが出来るドラゴンである。
それだけの兵力を投入しておきながら敗北を喫したともなれば、一国の兵力だけで対抗するのは無理な話である。軍務大臣は、そのことを踏まえた上でこう提案した。
「陛下、神聖ハデス教国と安全保障条約を締結なさって下さい」
「ほう」
「な、何を言い出す!軍務大臣!」
軍務大臣の発言によって国王を除く、その場にいた全員が反対の意見を発言した。だが、国王の続きを促す発言によって静かになった。
「はっ。ダンジョンが確認された日より、密偵を潜入させて逐次報告をさせていたのですがあるパターンが判明したのです」
「ほう。パターンとな」
「はい。そのパターンとは、敵対する組織ならば大小を問わずに排除する動きがあり、有効的な組織ならば協力的な態度を見せているのです」
「ほう・・・」
軍務大臣の提案に、室内はざわめいた。その提案を聞いた国王は、
「して、軍務大臣」
「はっ」
「その国を内部から切り崩す、というのはどうだ?」
と質問したが、軍務大臣は首を横に振ってこういった。
「現状では不可能と言わざるを得ません。彼らはそういった交渉に乗ろうともしませんから。それに・・・」
「それに?」
「つい先日、アレマーニャ帝国の使者と連日のように交渉をして成立した可能性があり、との報告があります」
軍務大臣のその発言によって、一同は呆然となった。
何故なら、アレマーニャ帝国に対してフィレンツェ王国は軍事力や経済力などの分野で格段の差があり、正面から戦争になったらまともな勝利は掴めないとまで言われているほどだ。
それほどまでに強大であり、帝国を打ち破るには諸国連合を組まないと対抗できないとされている。
その帝国と手を組んだともなれば、交渉のテーブルに付かざるをえない。
「それで、私は何をすればいいのかね?」
国王はやや呆然となりながらそう言った。その発言に対して軍務大臣ではなく、国務大臣がこう言った。
「陛下、安全保障条約を結んで下さい。そうすれば、少なくとも王都を狙われる心配はなくなります」
「では、騎士団長の戦死はどうなる」
「元々、病死ということで庶民も納得しています。今の機会を逃すと、交渉は難航すると思われます」
「・・・わかった。安全保障条約の交渉を開始してくれ」
「陛下の英断に深く感謝いたします」
国務大臣はそう言って、作戦会議は交渉を行うということでお開きになった。
大臣達が執政室から出ていった後、ロンメル国王は悔しそうにこう言った。
「くそっ、忌々しいダンジョンめ・・・」
その言葉は誰にも聞かれることもなく、執政室の中で消えていった。
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神聖ハデス教国 首都 ダンジョンコア直上の城の最上階 冥王の部屋
朝、カーテンから漏れる太陽の光が部屋を明るくする。明るくなった部屋の俺のベットには、満員電車のごとく俺以外の人達が俺と一緒に寝ていた。
「おーい、起きろ。朝だぞー、おーい」
これで2回目だぞ、と思いつつ、俺はみんなを起こす。これが男達だったら軽く10回ぐらいは発狂しているが、幸いにも彼女達は生粋の女の子なので悪い気はしない。
「んふぅ・・・」
「・・・ん(むくり」
「くぁ~」
「おはよう、主」
「おはようございます」
「おはよう、みんな」
俺が起こし始めてから少しすると、みんなが起き始める。そこで俺は、疑問になったことを聞く。
「なんでみんなは俺と添い寝をするんだ?何ら面白くなかろうに」
俺がそんなことを言うとみんなは、
「だってマスターが襲ってくれないんだもん」
「いい加減、襲ってくださいよ。こっちは待ちくたびれちゃいました」
「マスターになら抱かれてもいいかな」
「お主は妙に臆病じゃからの、こうやって襲わせるようにしておるんじゃ」
「ふふっ、私達ならいつでもオッケーですよ」
どうやら、俺の行動待ちだったようだ。ヤレヤレ、こうなったら覚悟を決めるしかなくなるじゃん。
「わかった。みんなとは夜にやるから、それまで待ってくれないか?これから仕事が・・・」
そんなことを言って退散しようとする俺を、パエル達は逃さなかった。
「マスター、今日は休日ですよ?」
「・・・あっ」
しまった。逃げ場がない。呆然とする俺に、バエルが後ろから甘い囁きで、
「だから今日は一日中出来ますね。だから逃しませんよ?マ・ス・タ・ァ♡」
こう言った。それで俺は抵抗することをやめた。その結果、その日は彼女たちと一緒にやりまくった。




