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経験値の違い

第8話 宗教戦争 冥皇竜VS勇者達と皇竜


「ぐあ!」

「うわぁ!」

 盾と槍の勇者であるサトルとマサヨシは、冥皇竜であるハデスの打撃で軽く5メートル以上も吹き飛ばされた。それと同時に、2人が勇者たる所以である聖盾(せいたて)と聖槍が破壊された。

 彼ら2人を含めた4人の勇者のステータスは決して低くはなく、逆に上級魔族をも圧倒出来るだけの高さを誇っていた。だがそれ以上に、ハデスのステータスが高すぎて避けるだけでも精一杯である。

 以前、ハデスがどうしてこうなった、と言ったようにステータスの全てが10億という狂気じみた数値になっているため、たかだか数百万という数値では話しにならないのである。

「どうした?その程度か?」

「くっ・・・!」

「つ、強すぎる・・・」

 残っている聖剣と聖弓の勇者であるトシヒロとタカミツは、彼の強さを目の当たりにして足が震えている。それもそのはずで、勇者達は厳しかったが多くの人達から蝶よ花よと鍛え上げられたために、ここまで圧倒的な強敵と遭遇するとは思ってもいなかったのである。

 一方、ハデスの方はこの世界に来てからチートとも言えるステータスを持って生まれてきたが、1人で始めたために最初から味方などいなかった。そのため、一人でダンジョンを作り、仲間となる魔獣を1人で召喚して、ダンジョンとしての機能を充実させるために仲間とともに奔走して発展させた経緯がある。

 それは、一歩間違えればすぐにダンジョン攻略されるというハイリスクな行動もするため、自分の命を懸けてあらゆる状況を仮定し、準備を怠らずにしてきた結果がこうして現れている。

 対して勇者側は、そういった命の危険性やハイリスク・ハイリターンな行動は全く行っておらず、寧ろ、多くのバックアップがあって安全にレベルを上げる事に専念できた。

 つまる所、覚悟の差や命がけの戦いの有無によって圧倒的なステータスの差が飛び越えることが出来ないほどの深く、幅のある溝になって彼らの目の前に広がっている。

 更に言えば、作戦が始まる前に自分達が探知できない距離からの攻撃によって、かなりのダメージが入っていたのも大きいだろう。そのダメージの大半は装備していた防具によって防がれていたし、それでも受けたダメージはHPの自動回復によって回復されている。

 だが防具に受けたダメージは如何ともし難く、ハデスの攻撃の前では只の重りにしかなっていないのである。

 勇者達が攻撃できずに突っ立っていると、パイモンがハデスに近寄ってこう囁いた。

『マスター、敵の中衛及び後衛はほぼ壊滅。残存兵力はここの勇者達と皇竜だけです』

「何?俺以外にも皇竜はいたのか?」

「はい~、そのようです。現在はズライグとグイベルが交戦中ですが、長引くと負ける可能性があります」

「じゃあ、目の前の敵をとっとと片付けよう」

 俺がそう言うと、勇者達が俺の行く手を遮るように立ちはだかった。

「奴の所にだけは行かせねえ!」

「あいつは俺達の初めての友達なんだ」

「お前なんかに傷つけられてたまるか!」

「絶対に行かせねえ・・・!」

 全く、こういう熱血というか己の使命に燃えているやつを見ると対処に困る。そんな俺も、同じ穴のなんとやらってやつだから人のことは言えないんだけどねぇ。

 とは言え、仲間を失いたくないから俺は強制的に押し通ることにした。

「すまんが、貴様らとは付き合っている暇はない。かつての友人に対して、全力でぶん殴るのは気が引けるが苦しまないようにしてやろう」

 俺はそう言うと、全速力で彼らが失神する勢いで頭を殴った。その結果、鈍い音が4つすると彼らは糸が切れたからくり人形のように倒れた。

 それと同時に、勇者達に付き従っていた奴らを倒したであろうバエル達がやって来た。

「マスター、彼らはどうします?」

「使える装備は全て取り外して牢屋に入れておけ」

「あれ?殺さないの?」

 俺がそう言うと、アスモダイが不思議そうに聞いてきた。

「あぁ、こいつらは聖光教団との交渉で身代金として生かしておこうと思ってな」

「でも、マスターのかつての友達だったのでしょう?」

「そうだな。だが、今の俺にとって旧友よりもアスモダイ達の方が大事だ」

「な!?何言ってるのよ、バカ!」

「ぐふぅ!?」

 久し振りのツンデレパンチが俺の腹で炸裂した。この時のダメージは、防御力とスキルの貫通で8千万ものダメージが入った。勇者達の攻撃ですら、最大で数千程度なのでこれはかなり痛い。

 その結果、パンチによる痛みで俺は暫く立てなかった。

 俺が倒れて動けない間に、バエル達は4人の勇者達とそのお供の装備を全て外した後、縄で縛って牢屋がある俺達の本拠地へと転送させた。後は、拷問や尋問を得意とするホムンクルス・ゴーレム達の手によって洗いざらい知っている情報を吐かせるとしよう。

 余りこういった手は使いたくないが、あの様子ではそう簡単に情報を言わないだろうし、そういった場面もあるかな、と予測した結果だ。

 それから5分ほどして殴られた痛みが引いた後、開けた俺は本来の姿であるドラゴンの姿になった。

 この姿だととても大きいため、普段は人間の姿で過ごしているがいざって時にはドラゴンに戻るようにしている。この状況でのいざって時が、壁外で戦っているズライグとグイベルの援護だ。

 彼女達はこの数分でかなり追い詰められているため、俺の援護待ちの状態だ。

『この姿に戻るのは数ヶ月ぶりだな。感覚が鈍っていなければいいが』

「大丈夫ですよ~!マスターは全力で戦って下さ~い!実験対象にしますので~!」

 俺の顔とパイモン達との距離が開いているので、パイモンはかなりの大声で言ってきた。

『わかった。原形ぐらいは残しておくよ』

 俺はそう言うと自分の翼を使って空を飛び、ドラゴンである彼女達の支援に回った。


~~~~~~


「マスターは大きいですね~」

「あそこまで大きくなるとは思っていなかったよ」

「あぁ。奴の魔力値と名称からしてドラゴンなのは予測できたからとは言え、あそこまでとはのぅ」

「ふん。あんなの、大したことじゃないわよ」

「ふふっ、ちょっと怖がっているアスモダイちゃん、かわいい」

「なっ・・・!?」

 怖がるアスモダイをサガンがいじり、バエル達が笑った時、大きな咆哮とともに強力な魔力を感じた。

「ふむ、どうやら始まったらしいの」

「じゃあ、城壁を登って観戦と行きますか」

「そうですね~」

 ウィネの提案にパイモンが賛同して、5人は城壁の榴弾砲が設置してある場所の近くに立った。聖光教団との戦いはほとんど決したために榴弾砲は弾丸を発射しておらず、整備のためにゴーレム達がせっせと砲身や発射システム整備をしていた。

 大砲に限らず弾丸を発射する機能を持つ武器全般は、可能ならば分解してから、不可能ならそのままの状態で煤を落として潤滑油を部品の間に差していく。煤を落とさないと弾丸が砲身内で詰まってしまい、暴発する可能性が高くなってしまう。それに油を差さないと、動作不良を起こして弾詰まりしてしまう。

 火縄銃程度のものだったら煤を落とすだけでもいいかもしれないが、細かい部品で大きな部品を繋げている現代銃でそれを怠ると、致命的な状況に陥ることになりかねない。

 今回、バエル達は銃を使わなかったがその理由は、それを含めて召喚されてから初めての戦闘で感覚を取り戻すのと、彼女達のマスターであるハデスが生け捕りを望んだからだ。そうでなければ、サガンのスナイパーライフルで狙撃して全員を即死にしていた。


 それはさておき、彼女達が見ている先には4頭のドラゴンが戦闘をしていた。

 その内の3頭である赤と白、そして黒を基調としたドラゴンが彼女達がよく知っているドラゴンであり、残る1体の白銀のドラゴンが教団が保有していた皇竜だろう。

 その皇竜も、只のドラゴンである赤いドラゴンと白いドラゴンの2頭だけだったら圧倒していたが、黒いドラゴンである冥皇竜が参戦したために苦戦を強いられていた。

 だがハデスは、聖光教の軍団が壊滅して敗走したにも関わらず、なおも戦いを続ける皇竜に対して違和感を感じ取って念話にて語りかけていた。

『皇竜よ、貴様が護衛していた軍勢はもう撤退したぞ?何故、そこまで戦い続ける?』

『・・・』

『答えろ、皇竜!貴様は何故、そこまで戦うんだ!』

『・・・俺には故郷がない』

『おん?』

『昔、俺と戦ってくれた姫君がいた。話によるとその国は魔王軍との戦闘で国は疲弊し、王都の近くまで攻め込まれいた。そんな中、起死回生の一手として俺が召喚された。

 そして、俺はその国の希望の星としての任務が当てられた。その国では、王女であろうと戦うことを余儀なくされるまでに追い詰められていたため、その国の第一王女とともに戦うことになった。だが、個々の戦力では数の多さには敵わずに負けてしまった。

 敗走する中で、その王女とはぐれて彷徨っていた所を教団に拾われた。そこにいれば、その王女の噂ぐらいは拾えるだろうと思って入ることになったが、この戦いでそれが叶わない思いになってしまった。

 だから、ここで殺してくれ』

 なるほど、そういう事か。彼が話した女性と、同じような境遇にあった人物を俺は知っているため、カマをかけてみるか。

『その王女ってのは、黒い髪で白い鎧を着た真面目な少女じゃないか?』

『!し、知っているのか!?』

『同じような境遇にあった女性を俺は知っている。だが、俺の思い浮かべている人物と貴様が話した人物が同じだとは限らんぞ?』

『あ、会わせてくれないか!?』

『わかった。だが、まずは人間の姿になってくれないか?じゃないと色々と面倒になるからな』

『わ、わかった』

 すると、彼は距離を取って人間になるために徐々に小さくなっていった。突然のことに、ズライグとグイベルには警戒して俺に話しかけてきた。

『マスター、彼にどういう魔術を仕掛けたのですか?』

『なに、ただ単純に説得しただけさ』

『説得、ですか?』

『どうして?』

 2人は不思議そうに聞いてきたため、俺が感じ取ったことを正直に話した。すると2人は、こう返してきた。

『そ、そんなことを信じて会わせる気ですか!?』

『お兄ちゃん、それはまずいよ!』

 俺の行動に猛反発な2人に、俺はこう反論した。

『確かに、普通ならここで殺すのが一般的だ。だが奴の目は、今すぐにでも殺してくれ、と言わんばかりの絶望しきった目であり、この状況で嘘をつくような目ではなかった』

『確かに、途中からやる気がなくなったように見えましたが・・・』

 振り返ってみると、納得しうる状況だとわかったズライグに俺は、

『なぁに、嘘がわかった時点で殺せばいい。一先ずは様子を見よう』

『む~、そういうことならいいけどさぁ』

 そう言ったが、グイベルは納得しきれていないようだ。

『あいつがそう言った行動に移したら、とどめを刺すのはグイベルに任せるよ』

『・・・わかった』

 グイベルは、不満げではあるが賛成してくれたので俺達も人間の姿になる。そして、先に人間になっていた皇竜に付いてくるように伝えて、バエル達に連絡した。

「戦闘は終了した。今から戻るぞ?」

『皇竜を殺していなように見えるけど?』

「とある人物に会ってもらう事にした。教皇代理を呼んでくれ」

『わかったわ。ところで死体の処理はどうするの?』

「ゴーレムとワイトに任せよう。とにかく早く処理しないと伝染病が怖い」

『了解。ワイトキングに連絡しておくわ』

「連絡ついでに使えそうな装備やら何やらは全部、死体から外すように伝えてくれ。ドワーフ達に回す」

『はいよ。バエル、アウト』

「・・・凄いですね、その装置」

「ん?」

 俺が、バエルとの通信が終わったのを見て皇竜は話しかけてきた。

「ここには4人しかいないのに、遠距離での会話を可能にする装置を耳に取り付ける程にまで小型化したのは初めて見ましたよ」

「言っておくが、この装置について話すことは出来ないぞ?」

「わかってますよ」

 俺はそいつとそんなことを言いつつ、ズライグとグイベルを率いて教皇代理が待っている場所に向かった。途中、ワイトキングとすれ違ったので後は頼む、と言って別れた。

 そいつには驚かれたが、ここではワイトが町中にいるが当たり前なので慣れてもらうしかない。


~~~~~~


 ダンジョン・東側 冥王教教会本部 面接室


「あぁ、アレク。無事だったのね!」

「そうだ、ソフィア。彼に助けてもらったからね」

 2人がそう言うとお互いに抱き合った。美男美女が抱き合っているのを見ると、リア充爆発しろ!と叫びたくなるのは前世からの感覚なのだろうか。

 その様子を5分ぐらい見て、

「あ~、2人共ー?話を進めてもいいかー?」

「あ、すまない」

「こんな所でやるんじゃなかったわね」

 そう言って2人は、顔を赤らめながら急いで離れた。全く、前世でモテなかった俺への当てつけか。


 それはともかく、今後のことについて俺達は彼らと話し合った。これからの政策についてや、各国との関係をどうやって行くかなどが議題として話し合った結果、こうなった。


『1つ、教国は多部族連合国家としての政策を重視すること。

 2つ、教国の教皇は多数決によって決めるが、その間に教皇がいなければ教皇代理が行うこと。

 3つ、教国は自治は諸族に任せるが兵権は冥皇竜が統治すること。

 4つ、教国は冥王教教会を中心とするが、諸族と対等であること。

 5つ、教国は国としての法律を修正することは出来ても、諸族の法律に対しては干渉しないこと。

 6つ、教国は国としての法律を、諸族の規則とすり合わせをして最高法にすること。

 7つ、教国はこの法律を3分の2以上の諸族の批准(ひじゅん)がなければ有効性を発揮されないこと。』


 これはアメリカの合衆国憲法を真似たものではあるが、自然の流れで大枠はこんな感じになった。

 今までは俺の独断でダンジョンを率いてきたが、教国が樹立したことを周辺各国に宣言した以上、聖光教団を倒した今では国として活動することが多くなるはずだ。とすれば、憲法としての最低限の形は作っておかないと、俺の身に何かが起こった時に国として対処ができなくなる可能性がある。

 心配し過ぎかもしれないが、予め作っておけば俺がいなくなってもある程度の時間は、国として存続させることは出来るはずだ。その他にも、現段階では名目だけだが複数の行政機関を作って今後はそれらを活用できるようにした。

 ダンジョンが出来てから半年余り、国として動き出したのがつい2、3ヶ月前だから国の人口はそれほど多くはなく、人口の比率は人間よりも亜人や獣人の方が圧倒的に多い。

 だが、いずれは人間の方が多くなるだろうからこのぐらいの前準備をしても早すぎないだろう。後は、周辺各国がどう動くかによって目標を検討していこうと思う。


 前世の記憶を持った俺がドラゴンになり、ダンジョンを構築して国を率いる。異世界に転生してから半年余りでここまで来るとは思っていなかったが、悪くはないと思っている自分がいる。とは言え、責任が重大なためにそう軽はずみな行動はできないな、とも考える自分もいる。

 まぁ、あまり深く考えないでやって行きますよ~。

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