揚げパンの新食感を体験した秋
親愛なる同級生Sへ
いつぞや君に貸したピクミンがまだ帰って来ていないんだが、これについて何か弁解はあるだろうか。
まぁそもそも、私も今は気にしていない。お互いゲームはやらないか、やるにしても程ほどに。何て年齢になってしまった。
ただ、理不尽かもしれないが。成人式以来顔を合わせていない上に私が間違えてアドレスを消して、お互い永久に所在が分からなくなってしまっているが。
それでも君に怨み言を言わせてください。
後編へ続く。
誰も食べた事のない、揚げパンを食べたことがある。
え、いきなり何の話? と、思うかもしれないが、真実だ。
あれは忘れもしない学校帰り。トンボが飛び交う秋空の下にて、私はのんびりと。給食終わりに同級生から譲り受けた揚げパンを片手に、帰路についていた。
歩き食い何て今にして思えばお行儀が悪いことこの上ない所業である。
無駄に厳しく、無駄に自分には甘い、無駄に私の母なんてやってたあの人がみたら、激昂のあまり説教してくるに違いない。
だが、当時の私は静かなる反抗期だった。
これが中学生らしく、もて余した力やら、暴言で母に歯向かうなんて方法をとっていたら、私は今ごろどんな人間になっていたのか。少しだけ興味がある。が、生憎私はそういう性質ではなかった。
図太くはある。だが、喧嘩沙汰はまるっきり苦手だった。
殴る手の方が痛いじゃないか。その上相手が怪我したらこっちのせい。解せぬ。
そんな感じの思考だった。ようは争い苦手なチキンハートだったのだ。だから私は、周りの同級生のように力に訴えず、地味な方法で密かに親に反抗していた。
学校帰りに盛大に寄り道。
蛙やら蜥蜴を引き連れて、ダイナミック帰宅。
洋風好きな母を嘲笑うかのように、自分の部屋は和風に改造(小遣いやお年玉の殆どがこれに消えた)
携帯の着信音を笑点のテーマに変えておく(母はブライダル系のオサレな仕事についているので、これは効果抜群だった)
発生練習する母の横で16ビートを刻む。
といった塩梅だ。
……今にしてみれば、もっと方法があっただろうと思う。
話がそれた。ともかくサイレント反抗期な中学生の私は、不遜にも食べ歩きなんて方法で悦に浸っていたのである。母が見てないから意味ないなんて突っ込みはなしだ。
揚げパンうめぇなんて思いながら歩いていた私。
そんな中で、ふと、目に留まるものがあり、その場で立ち止まった。
残念ながら何を見たかまでは覚えていない。ともかく立ち止まり、私はそのまま、目に留めたものを見つめながら、無心で揚げパンを口に運び……。
最初に苦み。その後に形容しがたい芳香が口に広がった。同時にグチャリ。ブブブブブ……。という、揚げパンでは有り得ぬ食感と謎の振動。そして、口腔内に張り付くかのような、嫌な感触。
行儀が悪いと思いつつ、私は口にしたものをゲホリと吐き出した。地面に落ちたのは……。
揚げパンの欠片にしがみつく、上半分が損壊し、半死半生状態となった……トンボの姿だった。
※
季節のトンボ。揚げパンを添えて。
揚げパンのトンボ乗せ。
トンボ揚げパン。
料理名をつけるなら、どれが適当だろうか。
ともかく私は口に残る苦みを思い出に、家に帰宅した。
だが、心をズタズタにされた私を待ち受けていたのは、悪夢のような晩御飯だった。
トンボの骨格のようにパリパリに揚げた餃子。
トンボの体色みたいな色にみえるチャーハン。
トンボの羽根みたいに薄~くスライスした鰹節……が、乗ったおひたし。
こじつけじゃないかと笑わないで欲しい。こうして今でもはっきり思い出せる位には、私は参っていたのだ。そもそも私、虫嫌いだし。
ともかく、私のトラウマスイッチを全力で連打するラインナップだった。
だが、何よりも私が辛かったのは……。他ならぬ、トンボの味が強烈過ぎて、本来ならば美味しい筈の中華が、ことごとく酷い味にしかならなかった……この一言に尽きた。
最後に。生まれて初めて食べた昆虫は……切ない味がした。
なし崩しで揚げパンを見れば何とも言えない気持ちになるようになって、後々体験する人生初のデートでちょっとしたパプニングが起きたりもしたのだが……。それはまた別のお話だ。
このエッセイ書いてる途中で思い出したけど、揚げパンくれたの君だったよね?(逆ギレ)