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私が初めて幽霊を見た日

 親愛なる我が従兄弟へ。

 君と私が子どもの頃に破壊した家具は数知れず。

 そして、思うに私が実家へ帰る度に、我が愛すべき母は君にソファーの請求をしていて。本当にすまないと思う反面、ああ、お互いソファーくらいなら弁償できる歳になったんだね。と、しみじみします。

 でも、私は何となく気づいてしまったんです。あれは君へ向けたものではなく。君を弟分にして、色々焚き付けた、私への遠回しな請求なのではないだろうか……と。

 そんなイケメンで同じ彼女と暫定にして七、八回くっついては別れを繰り返す可愛らしい君へ、幼き日の思い出と共に、このエッセイを捧げます。

 ただ、最後に一つだけ、確認させてください。


後書きへ続く


 エッセイを書かねばならない。

 何を言うんだお前はと思うかもしれないが、私がそう思ったのだから仕方がない。

 決して。決っして、少し前に人生初のエッセイのような何かを投稿したら、翻意にしているユーザーさん。及びあの日初めて出逢い、感想を書いてくれた方々からそこそこ反響があり。もっと書いて。何て言われて調子に乗った訳ではない。ないったらない。


 そんな訳で、つい最近までエッセイのエの字どころか、エッセイって何だ? 等とほざいていた私ではあるが、再びこうして筆という名のスマホを手に取り、散文を書かせて頂く次第である。


 では何を書こうか。ここで、結局私の中では未だに定義が曖昧なエッセイについて、簡単に述べてみよう。


 随筆とは、文学における一形式で、筆者の体験や読書などから得た知識をもとに、それに対する感想・思索・思想をまとめた散文である。随想、エッセイ、エッセー。


 出典、Wikipedia。


 なるほど。ようは何か書けばエッセイになるんですね。わかります。←※違います。


 ポン。と、思い立って書くことにしたという何とも言えない動機であるので、ここでは本を読んだ感想よりも、実体験を元にした散文の方が私には書きやすそうである。

 こう見えて、身一つでくぐり抜けてきた幾多もの戦場もとい場面はそこそこあるのだ。


 何の変鉄もない日常から、奇妙でアンビリーバボーな体験談。少しズレた知り合いや肉親達の事情もあれば、修羅場に濡れ場、ハッテン場まで。


 我ながら得難い経験はそれなりにしていると、最近は思うようになりつつある。

 詳しくは、私が以前手掛けた、エッセイのような何かを、参照して欲しい。というか、これの前話である。



 さて、妙な宣伝はこれくらいにして。本題に入ろう。

 数ある経験の中でも一、二を争う怪奇話。

 私が初めて幽霊を見た時の話だ。


 とうとう気が狂ったか。という感想はよして欲しい。

 実際に見て。私はとある一部分を除いては、全て昨日のように思い出せる。


 忘れもしない。あれは私が小学生だか中学生だか、高校に入りたてだったか。ぶっちゃけ何歳だったかは忘れた、どっかのお盆の日のこと。


 父方の祖父母宅にて、その邂逅はあった。

 その夜、居間は大人達が占領し、酒盛りをしていたので我々子どもの居場所はなく。

 私は従兄弟とその弟君と一緒に、お仏壇前にてカードゲームを楽しんでいた。


 こう見えて私は、カードゲームの類いが大好きである。

 手を出したカードゲームは、王道からマイナーな物まで数知れず。やや大袈裟だが、カードゲームは知的遊戯の最上位にあると、個人的には思っている。

 当然、トランプだって大好きだ。シャッフルはクラスで一番上手かった。多分カードゲームが好きな人ならあるあると同意してくれるに違いない。

 ウノも好きだ。思わず「ターンエンド」と言ってしまう位には。多分カードゲームが好きな人なら全力で頷いてくれる事だろう。

 そこから「俺のターン」と、乗ってくれた友人Y(腋臭持ち)の優しさが素敵だった。彼は今でも良き友人(腋臭持ち)である。

 話が脱線しつつある。というか、寧ろカードゲームの素晴らしさについてエッセイを書けばいいのではないかと若干思い始めてしまいつつあるので、この辺で修正しよう。


 あの日はそう、私と従兄弟のゲームを観戦していた弟君が、「え?」と、気の抜けた声をあげた時に、事は起きた。

 私と従兄弟はいぶかしげに弟君を見て。そのまま彼の視線を追って……。


 それを見てしまった。

 私達がいるお仏壇は、居間から玄関廊下を横切り。家の角突き当たりへと向かう、縁側廊下に面した、三つ連なった部屋の群――。その中央に位置する部屋だった。

 三つのスペースは奥から座敷、私達がいたお仏壇。そして、用途不明な、恐らくは来賓用の部屋の順。そこの仕切りは磨りガラスが張られた襖で隔てられている。

 その、座敷側の磨りガラスに……。


 女の人の影が映っていたのだ。


「ひっ……」と、短い悲鳴をあげたのは、その手の類いが大の苦手な従兄弟だった。そこにいるのがあり得ないものだと、すぐにわかったからだ。

 女の人の影は、腰に届くかと思えるほどの長い髪をしていた。それがゆらゆらと、不気味に揺らめくのだ。

 これが家にいる誰か。例えば私の母や、従兄弟の母をはじめとした、親戚の女の人達だったなら、平和だった。ただ私達がびびった。で、話は済むからだ。

 だが……。僕らはそれが家にいる女の人の誰かではない。という事は、ハッキリと断言できた。

 何故なら……。そもそも我らが親類の女性に、肩より下まで髪を伸ばしている人は、一人もいないのである。


 無言の対峙は一分にも、三十秒にも思えた。

 従兄弟も、弟君も。身体を硬直させ、動けないでいた。その時私の脳裏をよぎったのは、恐怖でも何でもなく。ただ二人を守らなきゃ。という最年長の使命感と。謎めいた影に一瞬脅かされた結果に芽生えた、「何ビビらしてくれとんじゃワレェ!」といった、わりとチンピラっぽい理不尽な怒りだった。

 そして――私は動いた。出しちゃいけないような声で吠え猛りながら、襖に躍りかかり、一気に開け放つや否や、その場で敵に正拳突き。一時期空手を嗜んでいた私の拳は唸りを上げ、何もないところに投げ出された。


「……あれ?」


 何て声をあげたのは誰だったか。襖を開ければ、そこは真っ暗ないつものお座敷。女の人の影など、形も見えない。

 一応辺りを見渡すが、何の気配もなし。

 狐にでもつままれたような気分で襖を閉じれば、女の人の影は、もう磨りガラスには映っていなかった……。


 ……以上が、私達が幽霊を見た話。

 え? 終わり? 等と言われそうなものだが。それは仕方ない。綺麗にオチるホラー体験なんてなかなかない。大抵が謎めいたまま終わるものであり、私や従兄弟達が経験したのもそういったものだった。それだけの事だ。

 そもそもこう言ったら身も蓋もないのだけど、幽霊だったのかすら定かではないのではある。

 そこに影が映り、いざ襖を開けたら煙のように消えていた。なんて、他にどう説明すればいいか分からない。だから結局、私はこの件を、幽霊を見た。で落ち着けているのである。


 因みに。

 震えながら事態を報告した僕らの言葉は信じてもらえなかった。単なる目の錯覚で片付けられてしまった事を、遺憾の意と共にここに追記しておく。


 ※


 ……こうして昔を思い出していると、懐かしくもなり、寂しくもなる。

 あの頃は全力で遊んでいたなぁ。と思うし、「○君(私の本名最初の一文字)! ○君!」と、後ろをちょこちょこついてきていた弟分、妹分達とも、今では一年に一、二回会うか会わないかだ。

 大人になってしまった。と言えばそれまでなのだが、果たして私は大人だと胸を張れる人間なのだろうか。なんて。あれこれ考えてしまう。


 ただ、複雑な事に一つだけ、自分の中で大人だなぁと、悲しくも思ってしまう事があったりもする。

 それは……後悔が多くなった事だ。

 日が昇りはじめ、今日が休日でよかったと思う反面、私は現在進行で後悔している。


 文字数にして3000弱。何とまぁ、前回の二倍書いている。

 何をやっているのだ。何をやっているのだ私は!

 こんな散文書いてる暇があるなら、連載中の小説書けよ!

 前回といい、今回といい。何でほぼ書き終わった所でそれに気づくのか……!


 ちくしょうめ!

 エッセイなんて、書いてる場合か!


 確認したい事がある。

 大人になると、後悔が多くなる。と、私は言った。実は本作において、もう一つ後悔した事がある。

 思い出さなければよかった。恐怖に震えながら、私は今、そう感じている。

 本エッセイは、昔を思い出し、あの奇妙な出来事は何だったのか結局わからなくて、後書きにてあの日の勝負で私と君。どっちが勝ってたんだっけ? 何てくだらない確認と共に幕を閉じる……筈だった。書いているうちに、私がある事実に気づかなければ。

 今はカードゲームの優勢など、心底どうでもいい。至急確認したいのだ。

 あの日私は、座敷は暗かったと記憶している。……親愛なる我が従兄弟よ。君の記憶でもそうだろうか?

 だとしたら、あの日見た影への視点がガラリと変わってくる。 

 考えても見て欲しい。座敷に幽霊がいたとして、真っ暗な中で実体のないものが、こちら側から磨りガラス越しに影となって見えるだろうか。仮に実体があれば映るかもしれないが、それはあり得ない。座敷には何もいなかった。

 そう、私達はあの日、座敷に幽霊が出た。そう思った。だがそれは間違いで。では、あのように影が映る条件は何だろうか。

 簡単だ。明かりがつけられた部屋にいれば、磨りガラスには当然影が映るだろう。

 あの日僕らは、座敷側しか見ていなかった。

 影が消えるまで、誰一人として、後ろを見なかった。果たしてこれは偶然だろうか?


 そして、もう一つ。あの日震えながら私の布団に入ってきた君にはついには言えなかったけど、髪が長い人はいたのである。

 見間違いで片付けられたあの一件の後、祖母が「お前は変に肝が座ってるから」と、教えてくれた事がある。祖母の母。すなわち私達からすれば曾祖母にあたる人は、腰ほどまで届く、見事な黒髪だったのだという。あの日、曾祖母は故人。一応私は更に小さい頃に何度か会った記憶があり、座敷と曾祖母はイマイチイメージが結び付かないなぁ。何て思ったものである。そう、真実に私が至ってしまうまでは。

 私達のすぐ後ろの来賓用の部屋。君は知らないだろう。私も最近知り。忘れ去っていた事だ。あの部屋は、用途不明などではなかった。彼処には、来賓用の部屋という側面の他に、もう一つ。隠し部屋がある。そこは……曾祖母が生きていた頃に使っていた寝室だったそうだ……。


 もう一度、思い出して欲しい。あの日座敷は、真っ暗だったか。そして……。

 私達の後ろ。そこの襖は、開いていたか、否かを……。

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