不変の薔薇
この話は実際、あった話ではありません。
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〜印象〜
「転入生を紹介する。」
そういわれて、真新しい制服を着こなした、女の子が教卓の前に立った。鋭い目をしてはいるけれど、どこか見捨てられない孤独なオ−ラがでていた。
人と話すときは笑うのに、一人で居る時は、どこか遠くを見ている目をしていた。この人は、人よりも経験豊かだと思った。悲しみや苦しみも含めて、人とは違う重い荷物を抱えているようで、辛そうだった。荷物を半分分けてほしいとさえ思った。
でも、それは私が持てれるような荷物じゃなかった。
大の大人でさえ、抱えきれない荷物で、持っても持ってもなくならないようだった。そんなに荷物を背負って、どこへ行くのだろう・・・。
「学級委員長は、面倒を見てやれ。」
向けた視線の先には、女子学級委員長が軽く笑みを浮かべて、手を振っていた。優しい目をしていて、和みのあるオ−ラであたしを迎えてくれた。
らんらんとした目をメガネが少し邪魔をしていたけれど、それでも輝いて見えた。
でも、その目は人一倍、自分の意志を持っていそうだけれど、どこかそれを打ち明けることに拒んでいる。
その思いを伝えないで、誰にいつ伝えるのだろう・・・。
〜旅立ち〜
「…っじゃぁ、Kirihaは…もう、治らないんですか?もう、普通の子とは違うんですか?」
「それは、違います。お父さん、よく聞いて下さい。確かにKirihaさんの体調は今以上に良くなる事はありません。しかし、努力次第ではこのままの状況、もしくは進行のスピードを抑えることも可能です。…決して他の子と比べないで下さい。でも、だからといってKirihaさんが特別な訳ではありません。ただ、この歳でなるのは多少早いというのもありましのて…。」
「もっと、早くに気が付いていれば…。防げれたかもしれない。」
「誰もがそう言います。この診断の結果を言うとき、僕は一番辛いです。…でも、それに比らべて、もっと辛い思いをしているのは患者さんである、Kirihaさん自身…。一人では支えきれない事が今後、たくさんでてきます。それを支えるのがご家族の方や親友です。かなりきついことを口にしますが、この病気はいずれ、死を受け入れなければいけません。その覚悟はしといて下さい。」
病室の前で静かに待つ、あたし。今、この白い壁の向こうでお父さんと医師が話し合っている。しばらくして、父さんがそこから出てくるとき、どう反応するだろうか。きっと、無理に笑って、悲しげな目が潤んでいるに違いない。
あたしは、どう反応すれば良いのだろう…。
今まで一度も自分が死ぬということを考えたことはなかった。
だから、自分が病気で死ぬと分かったとき、残りの人生を誰も知らない世界で暮らしたいと思った。変に気づかわれるのは嫌だし、何よりもあたしが病気だということを知って欲しくない。普通に接してほしい。今まで通りの生活を送りたい。自由で楽しい会話をして、学校帰りに遊んだりして、もっと、高校生らしい生活を送りたい。まだやりたいこと、やり続けたいことがたくさんある。でも、ここにいれば、きっと心配ばかりかけて制限されることがでてくる。例えば、激しい運動は極力避けるようにと医師からすでに言われている。だから父さんはあたしの好きなバスケさえも辞めるようにと言ってきたり、門限が決められて、夜は早くかえらないといけなかったり。そんな生活は、まっぴらゴメンだった。
お母さんは、産休で病院に入院している。もちろんあたしの事はちゃんと、知っている。夫婦そろって、あたしのことを見張るんじゃぁ、たまったもんじゃない。ただでさえ、父さんの態度に、もうアップアップしてるのに…。
だから、あたしは一人暮らしをしたい。新しい友達を作って、どうせ死ぬなら気軽な思いで死にたい。父さん達は、毎日が心配でたまらないかもしれないけど、あたしにとったら、こんな嬉しい事はない。
「父さん、あたし死ぬのは怖くない。でも、それ以上に嫌な事がある。…とりあえず、家に帰ったら、聞いて。できたら母さんも呼んで欲しい。」
父さんが、出てきた時、あたしは普段話す調子でそう言った。父さんは、分かった、とだけ言って、それ以上は話さなかった。何を話したらいいのか分からないとか、そういうのじゃなくて、ただ涙で声がでなかったからだ。
あたしは、そっと父さんの傍に近寄り、これが最後かもしれないから、ギュッと腕に抱きついて歩いた。父さんは、少し照れていたみたいだった。
家に帰って、母さんも父さんも話を最後まで聞いてくれた。でも、それからの納得が大変だった。もし、一人の時に発作が起きたらどうするんだとか、一人暮らしで高校生活を送るのは大変だとかで、時間がかかった。でも、最後はきちんと受け入れてくれて、OKを出してくれた。
遠く離れた国で親元を離れて一人暮らしをするのは寂しいかも知れない。会いたいと思っても、会えない距離だし、長い休みも夏休みぐらいしかない。でも…それでも、あたしは日本で一人暮らしをしたい。自分で一からやってみたい。大人になってからいずれは、一人暮らしをするつもりだったから、それが少し早くなっただけ。大人になるまで生きているかも分からないし。
「元気でな。」
「何かあったら、すぐ知らせてね。はい、これ。」
最後のお別れ。空港で父さんと母さんが見送ってくれた。母さんから手渡されたのは携帯ようの薬だった。こんな時にって思うかも知れないけど、本当に心配しているからこそ、ここまでするのかもしれないと思ったから、特に気にはしなかった。逆に、そこまで心配してくれて嬉しかった。
「じゃ、行くわ。夏休みあたり、帰ってくる。あと、電話とかメールも毎日するようこころがけるから。」
あたしは日本に行くことにした。なにもそんなに遠くに行かなくてもと言われたけれど、元々はお父さんの会社の都合でアメリカに渡っただけで、あたしは日本生まれだし、日本語も話せる。それに、以前住んでいたマンションの部屋は、いつ日本に帰ってきたても住めるようにとまだとっていた。他にも、お母さんの妹の娘が通う高校に行くこともあって、それなりに安心点もある。そして、何よりあたしが日本に行く理由。それは、あたしの二つ年上の十夜に会うため。十夜とは幼なじみで一緒にバスケをよくやっていた。いわゆる男友達。別に特別な感情もないし、深入りするつもりもない。でも、十夜はあたしの一番の理解者であり、何もかもを受け止めてくれる。だから、あたしは十夜に病気のことも、日本に行くこともあらかじめ告げておいた。病気でボロボロになった時には、支えてくれる存在感。唯一本音をぶつけられる、安らぎがある人物。
日本での病院は、いつも通っている病院のドクタ−から紹介されて、行く場所は分かっている。その病院には定期的に必ず行くこと、そしてなにより激しい運動はやらないということを徹底的にドクタ−に言われた。
いよいよ、新しい暮らしが始まる。新たな気持ちで堂々とあたしは日本着の便に乗った。
「行ってきます」
行ってきます。
あたしの新しい人生の始まり。
残りあと1年とわずか。時は止まることなく、この病と共に進む。
たった一つ、願いが叶うなら。
残りの人生。自由に生きたい。
貴方の傍で。
〜スリー・オン・スリー〜
「まもなく、着陸致します。着陸のさいには安全のため、お客様にシ−トベルトのご使用を心がけて降ります。お手数をかけますが…」
あたしは、重く閉じていた目を開け、大きく背伸びをした。
「…お忘れ物のないように…」
やっと、日本に着いたんだ。
さっそく、懐かしい風景に心を癒されながら、マンションに向かった。
「ブ− ブ− ブ−」
「あっ」
荷物の整理に夢中になっていたせいか、携帯が鳴っているのに気が付かなかった。
「もしもし!」
「おう、霧葉。着いたか?」
「十夜!さっき着いて、今マンションにいる。」
「じゃ、今からそっちいくわ。久々に3on3(3対3の試合)やろうぜ。」
「いいねぇ〜。何年ぶりだろ?中二の春であっちいったから、二年ぶり?」
「そうだな、懐かしいな。もうそんなに経つか。」
「ホント、連絡取ってる分、ずっと会ってたって感じ。」
「とりあえず、今そっち向かってくわ。準備しとけよ。」
「あいよ〜。」
久しぶりに十夜に会うだけあって、緊張する!でも、それより、また一緒にバスケができることが信じられない程、嬉しかった。
携帯の二コ−ルを合図に、あたしはマンションの一階まで、急いで降りていった。
少し長いショ−トヘアの黒髪を覆いかぶすように、お気に入りの黒の帽子をかぶった。多分、一瞬性別の判断がつかないだろう。自分でいうのもなんだけど、あたしって女の割に長身で口も荒くて、おまけに紳士服好みなんだよね。特に今着てる服なんか、黒で統一してあるっていうか、バスケがしやすいようにラフな格好だからなおさら。しかも、ネックとかブレスとかつけ放題。
「十夜!」
マンションの入り口付近くにいたのが、十夜だと一瞬で分かった。相変わらず、茶髪のロングで一つに結んでる。思ったより短かったけど、それでも余裕で肩までの長さはある。身長は伸びてるみたいで、見た目も二年前より数段格好良くなっていた。
「一瞬、美男かと思ったぜ。まっ、今更言うのもなんだけどな。」
「ったく、もっとマシな褒め言葉ないのかよ!」
「ああ、そうだな。久しぶり、霧葉。お帰り。」
この言葉が聞きたかったんだとばかりにあたしは、十夜に満面な笑みを浮かべて抱きついた。
「ただいま。」
十夜の車に乗って、さっそく3on3ができる所へと向かった。
「そういえばお前、高校どこ行くの?」
「南城。」
「へぇ〜。割と俺んとことと近いじゃん。しかも、バスケの練習試合多いしな。」
「バスケ部ねぇ〜。」
「あっ、わりい。」
「別にいいよ。気にしてないし。ってか、部活入んなくても、こうやって遊ぶことできるし。ホントはダメなんだけどね。」
「ったくお前は。」
そう、もうあたしはバスケはできない体なんだ。つい、そのことを忘れてしまう。以前のように、またバスケをしようとしている。激しい運動は、体の負担になり、発作を起こしやすい。でも、アメリカに居ただけあって、バスケはもう、あたしには欠かせない運動だ。こんな病気にならなければ…。毎日、好きなだけ動いて、好きなだけバスケをするのに。
こんな時、すごく悲しくなる。なんであたしが、病気なんかに負けるんだっ…て。
「なあ、霧葉。」
「ん?」
「あんま無理すんなよ。いろんな意味で。お前は、なんつ−か全部抱え込もうとするっていうかさ、他人行儀みたいなとこあっからさ。」
たまに、十夜はすっごく優しい言葉を言ってくれる。十夜にとってあたしは、妹みたいな存在であり、あたしも十夜を兄のように慕っている。だから、ついつい、甘えてしまう。
「そういえば、紗菜は元気か?」
「相変わらず元気だよ。こっちのダチともよく文通してるみたいだし、この春、やと中1。そうそう、今お母さん妊娠してるんだ。」
「マジで!じゃ、今度電話しとくわ。にしても、お前の母ちゃんわけぇな。」
「そう?三十六だよ。十夜んとことあんまかわんないでしょ。」
十夜の家族とあたしの家族はとても仲が良い。今は、あたしはマンションに住んでるけど、引っ越す前は隣の家が十夜の家だった。よく一緒に食事をしたり旅行をしたりした。
たぶん幼なじみの友達で、こんなに仲が良いのは十夜ぐらいだろ。
「うわ〜。結構、人多いな。」
「いつもこんなんじゃないの?」
「まあ、久々にあいつが来るからな。」
「?あいつって?」
聞いても、十夜は笑うだけだった。
「とりあえず、俺らもやろうぜ。あいつは、来たら紹介するって。結構イカスぜ。」
「へえ〜。十夜より?」
「いや。ん〜、お前とごぶ。」
十点先に入れた方が勝ちというル−ルで、あたしは久々に十夜と一緒にバスケをした。
他の女子と比べて、パフォ−マンスの違いは歴然としていた。カットの強引さやシュ−トの豪快さは、本拠地であるアメリカでやっていただけはある。かなりの迫力で圧倒的に有利だった。十夜に負けないぐらいの勢いでどんどん点を追加していった。お互い点を入れるたびにタッチをかわした。
「なあ、あの女誰?」
「さあ、知らねぇ。でも、十夜の連れっぽいよ。さっき一緒に話してたし。」
「へぇ〜。結構豪快なプレ−。」
「オッス、零。」
「よお。コ−ト空いてねぇの?」
「あっ、そこの試合終わったら使えるってよ。」
12対6で最後に3ポイントを打って終わった。休憩をしている時だった、十夜の携帯が鳴った。
「もっし。マジで。あいつ来てんの?すぐ行くわ。」
隣のコ−トが人でにぎわっていた。
「ねえ、あっち何してんの?」
「試合だよ。つ−か、俺らも早く行くぞ。あいつが来た。」
人だかりの中やっとの思いでコ−トに入ることができた。
十夜がいう“あいつ”はどんな奴なのか、まだ分からなかった。
「こんな中で試合すんの?息苦しそう。うえっ。ぜって−あたしには無理。」
たくさんの人に囲まれて試合をするのは、あまり好きではない。圧迫感があって、試合に集中できないからだ。
「ま、これ見てれば周りなんて吹っ飛ぶって。」
その言葉通り、あたしはこの試合を夢中で見ていた。十夜と同じくらい、上手い人に、思わず視線がいってしまう。
この作品を読んで、一人で生きているのではなく、数多くの人に支えられ、見守られて生きているということを始め、人の優しさや温かさを感じてもらえたら嬉しいです。そして何より、生きることの大切さや意味を考え、命の尊さが伝わったら光栄です。