「子供たちの午睡」
遊びの時間を貰ったヴェンシナが、『妹』たちを捜しにゆくと……?
子供時代の孤児たちのお話です。
風にそよぐ洗濯物を籠一杯に取り込んで、折りたたむ手伝いをようやく終えると、夕食の時間まで、遊んできて良いとのお許しが出た。ヴェンシナは瞳を輝かせ、喜び勇んで『妹』たちの姿を捜した。広々とした居間に飛び込んで、古い書簡を整理中の老牧師を見つけて尋ねる。
「牧師様、フレイアとラギィを知りませんか?」
「ラギィが眠たそうにしておったからのう、二階の部屋におるじゃろう」
上の子がすぐ下の子の面倒を見る。誰が決めたというわけでもないけれど、それがシュレイサ村教会における孤児たちの不文律。ラグジュリエが『家族』に加わってからというもの、それまでずっと末っ子だったフレイアシュテュアは、四つばかり年下の、小さな『妹』の世話に夢中になっていた。
女の子たちの部屋を覗きにゆくと、ラグジュリエを寝かしつけながらつられて眠ってしまったものらしい。幼いラグジュリエを横抱きにしたまま、フレイアシュテュアもすやすやと、規則正しい寝息をたてていた。
ガラス窓から優しく降り注ぐ、眩い光彩に包まれた、それは甘い夢のような女神の午睡。フレイアシュテュアの白い頬に、長い睫がしなやかに影を落とし、まろく紅い唇は淡く微笑んで、物言いたげに綻んでいた。
こうして無防備な寝顔を盗み見ることも、閉じられた目の下にこっそりとお休みの接吻をすることも、誰よりも近しい『兄』として育ったヴェンシナだけの特権だ。しかしその立場が、いつしか切なるものに変わりゆくのだということを、この日の彼はまだ知らない。
「……ヴェン?」
「ごめんねっ、起こしちゃった?」
してはいけない悪戯を見つけられたような気がして、ヴェンシナはあたふたと飛び退いた。互いの息がかかるような間近から、澄んだ二色の瞳を向けられてどきどきとした。
「ううん……、いいの。ラギィと一緒に寝ちゃったのね、私……」
まだぼんやりとした目をこすりながら、フレイアシュテュアはおもむろに身を起こした。その傍らで、温かな腕が除けられたことに不安になったのか、ラグジュリエが眉間に皺を刻みながらころりと寝返りをうつ。ヴェンシナがキルトをかけ直して、フレイアシュテュアが跳ね飛んでいた縫いぐるみを添わせてやると、ラグジュリエはそれをほっとしたように抱き締めた。
「ラギィ、よく寝ているね」
「うん。くまさんを作ってもらってね、いっぱいいっぱいはしゃいでたの」
くまさん、というのは、ラグジュリエが幸せそうに頬を寄せている、色とりどりの端布を繕い合わせた縫いぐるみのことだろう。それは誰かのお下がりではなく、ラグジュリエだけのものとして贈られた初めての玩具だ。
「二人と遊ぼうと思ってきたんだけど、お昼寝の邪魔しちゃ可哀想だからもう行くね。お休み、ラギィ」
そっと声をかけながら拳をつつくと、小さな手のひらが僅かに開いて、ヴェンシナの人差し指をぎゅうっと握りしめた。ラグジュリエのふくふくとした指と一緒に、唇もきゅっと頑固に結ばれていて、「行かないで」と引き止められているような心地になる。
「ラギィに捕まっちゃったわね。ヴェンも一緒にお昼寝する?」
「それしかないよねえ……」
年端もゆかぬ『妹』の手を、無下に振りほどくことなどできず、こそばゆい思いでヴェンシナは、ラグジュリエの隣に寝そべった。フレイアシュテュアはくすくすと笑いながら、自分もまたキルトの中に潜り込む。
ヴェンシナは今年の秋に十になる。もはや昼寝が必要な歳ではない。眠くなんてないのだ。まどろみの精霊に誘われて、フレイアシュテュアが再び眠りに落ちてしまっても、大切な『妹』たちを見守りながら自分だけは起きていよう。柔らかな日だまりと、三人の体温で暖まった寝具がほかほかと心地よくても、眠く……、なんて……、ない……。
*****
「仲が良いのう」
ややあって、部屋の前を通りかかった老牧師は、一つの寝台に身を寄せ合って眠り込んでいる、子供たちを見つけて微笑した。
それは、今もヴェンシナの胸に懐かしく去来する、遠く遙かなる日の宝石のような思い出。




