表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑指の魔女  作者: 桐央琴巳
第二十八章 「前途」
86/98

(28-3)

 そこに居間の入り口から、ランドリューシュの呆れたような声が割って入った。

「ずいぶんと騒がしいですねえ、何をまたヴェンシナに叱られているのです?」

 寝起きの物憂さを僅かに漂わせたランドリューシュに、アレフキースは何やら企みのある顔つきを見せて手招いた。

「ちょうど良かった、ランディ。お前に是非とも頼みたいことがある」

「先にお断りしてもよろしいですか? あなたのおねだりなんて、またろくなことではないのでしょう」

 穏やかな微笑を浮かべて歩み寄りながら、ランドリューシュはつれなく答えた。


「そう言わずに聞いてくれ。サリフォール公は確か、娘が欲しいとずっと言っていただろう?」

「……アレフキース……」

 アレフキースと、その隣に座すフレイアシュテュアを視界に収めて、彼の思惑を正確に悟ったランドリューシュは、俄かにめまいを覚えて天を仰いだ。

「あなたは私に、どこまで恥をかかせて下さったら気がお済みになるのです? 私の名で決闘騒ぎを起こした挙句に、そうして得た娘を、今度は義妹(いもうと)に迎えろと仰るのか!?」

 怒りを孕み、冷ややかな光を放つランドリューシュの黒い双眸を、アレフキースは真顔で受け止めた。

「無理は承知の上だ、ランディ。私はフレイアを陽の当たる場所に置いておきたい。だが、手放してしまうのも嫌なのだ。その為に、サリフォール公爵家の名と後見が欲しい。協力してくれないか?」


 しばしむっつりと口をつぐんでから、ランドリューシュは眉を顰めたまま、低い声音で脅すように言った。

「国王陛下は難敵ですよ」

「わかっている。私の父だ」

 アレフキースは平然と答える。ランドリューシュは念を押すように言葉を続けた。

「あなたが目論んでおられるのは、前代未聞のことです。この先必ず、良い目が出るとは限りませんよ」

「前例がなくて何故いけない? 縛りがなくて、むしろ好都合ではないか」

 さも不思議そうにそう答え、アレフキースはさらにいけしゃあしゃあと述べた。

「それにもし、悪い目が出かかったところで、上手く転がし直せば済む話だろう。何も始めぬ内から心配ばかりをすることはない」

「あなたという方は、どうしてそうわがままで、楽観的になれるのでしょうねえ……」

 深々と溜め息をついた後に軽く頭を振って、ランドリューシュは諦めたように承諾した。

「いいでしょう。どうせ私がお断りしたところで、母上が面白がって飛びつきそうなお話です。嬉々としてお請けしてしまうに違いありませんからね、便乗して恩を売らせて頂くことにしますよ。ありがたくお思いなさい」

「ああ、感謝する、ランドリューシュ」


「ち、ちょっと待って下さい! 副隊長の義妹だなんてっ、殿下はフレイアを、サリフォール女公様にお預けになるおつもりですか!?」

 激しく狼狽し、血相を変えながら、ヴェンシナは傷の痛みも忘れてアレフキースに詰め寄った。思いもよらぬ展開に、フレイアシュテュアも明らかに困惑している様子で、両手の指をきつく握り合わせてただただ呆然としている。

「そうだ。サリフォール公は周囲の人間を説き伏せて、平民の恋人を夫に選んだような女性だからな。出自だとか家柄だとかいうつまらぬことには拘らずに、フレイアを可愛がってくれることだろう」

 アレフキースはあえて焦点をずらしてとぼけてみせた。ヴェンシナが確かめたかったのは、勿論そんなことではない。


「そっ、それはそうかもしれませんがっ……、そういうことじゃなくてっ、なんだかとんでもないお話をされていたような気がするんですが――!?」

「確かにとんでもないね。王太子の恋人として公に遇し、あわよくば妃に立てられるように、平民の女性を公爵家の養女にしてしまえと言うのだから、私からすれば殿下のやり口は、エルアンリよりよほど悪辣に思えるね」

 アレフキースの大胆な計画を簡潔に纏め上げて、ランドリューシュは皮肉った。

 アレフキースがフレイアシュテュアに提示してみせたのは、ラグジュリエが聞けば小躍りし、サリエットが知れば羨むような破格の待遇だが、排他的な貴族社会と、窮屈な公子の身分を嫌っているランドリューシュは、義理の妹にさせられようとしているフレイアシュテュアに対して、深い同情を禁じ得ない。


「ほっ、本気でおっしゃっているんですかっ!?」

 ヴェンシナの声が思わず上ずる。アレフキースはきっぱりと答えた。

「私の結婚が、国家の一大事だということくらい承知している。冗談で言えるものか」

「ですけど、フレイアをいずれ殿下のお妃様に――なんってっ、僕にはとてもじゃないけど想像できませんっ!!」

 頭を抱えて訴えるヴェンシナを見やって、アレフキースは溜め息を落とした。

「仕方なかろう。ランドリューシュを身代わりに立てて、私が王位継承権を放棄できるなら、ことはもっと簡単に済むのだが、そういうわけにはいかないからな」

「当たり前です! 外戚のお従兄君に、簒奪を唆すようなことをおっしゃらないで下さい!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ