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村人たちの祈祷所であり、子供たちの学び舎であり、旅人の宿でもあり、そして盗賊襲撃の際には人々を守る砦となっていたシュレイサ村教会は、数名の重傷者を収容し、さらには王太子と近衛二番隊の騎士たちを抱えて、俄かに病院のようにも離宮のようにもなっていた。
洗練された若い丈夫揃いの近衛騎士たちを目当てに、村の復興の手伝いもそこそこにして、朝早くから娘たちが競って奉仕に訪れているようで、教会の中は驚くほど華やかで賑やかである。
「ランドリューシュ!」
エリオールを従え、腹心の従兄の名を呼びながら入ってきた王太子を迎えて、教会の居間にいた数人の騎士たちが一斉に臣下の礼を取った。
近衛騎士の制服を纏ったランドリューシュは、書きかけの書面から顔を上げると、一人長椅子に腰を落ち着けたままでからかうように言った。
「おや、お久しぶりですねえ、王太子殿下。本来のお姿に戻られた感想はいかがです?」
「窮屈なことこの上ない。お前の制服もそうだが、このような服を、一体いつの間に運ばせていたのだ」
ランドリューシュと向かい合わせるようにして、長椅子に身を投げたアレフキースは苛立たしげに答えた。被災地に滞在中ということで、色味や装飾は極力控えたものを選ばせておいたが、ランドリューシュが部下に用意させた王太子の衣服は、見るからに上質な絹服である。
「シーラー候が気を利かせて、私がトゥリアンに持ち込んでいた衣装箱を、他の物資と一緒に送って寄越したのですよ。――それにしても」
ランドリューシュは意味深な微笑みをアレフキースに向けた。
「そのご様子では、未遂のようですね。当番はエリオールでしたか、役に立ったでしょう?」
「……確かにな」
ランドリューシュが言わんとしていることを察して、アレフキースは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「あなたが後悔なさらないように、便宜を図らせて頂きました。ご一緒にお休みの女性は未婚で未成年で、その上酷く衰弱されておいででしたからねえ」
「……ありがたくて涙が出そうだ」
「それはようございました。昨日は非常時でしたから見逃しましたけれど、今夜は当然寝室を分けさせて頂きますからね。間違ったふりをして、女性の寝台に踏み込んではいけませんよ」
「ランディ! お前は私を一体何だと思っている!!」
言わずと知れたことを噛んで含めるように言い聞かせるランドリューシュを、アレフキースはとうとう怒鳴りつけた。
「何って、唯一無二の大切な主君に決まっているではありませんか、従弟殿。我らが『至宝』王太子アレフキースの名に瑕が付かないよう、ありとあらゆる手を尽くすのが私の務めというものです」
ランドリューシュは大真面目な素振りを取り繕って答えた。アレフキースは彼と入れ替わっていた間の素行をしみじみと思い返しながら、ランドリューシュに尋ねた。
「お前、本当は――、まだ怒っているのだろう?」
「何のことでしょうねえ。それほど私を怒らせるような真似を、なさったご自覚がおありなのですか?」
唇に鮮やかな笑みを刷きながら、ランドリューシュは嫌味たっぷりにしらばっくれてみせた。
「あの、アレフキース殿下、副隊長」
戸口付近にいた近衛騎士の一人が、主君と上官に遠慮がちに声をかける。その脇には、大勢の騎士たちに目移りをして、頬を上気させ瞳を輝かせたサリエットの姿があった。
「どうした?」
「はい、朝食の用意が整ったとのことです。よろしければ食堂までいらして下さるようにと」
「そういえば空腹だな」
騎士の言葉に、長らく何も口にしていなかったことをアレフキースは思い出した。
「では、話の続きは食事を頂きながらに致しましょうか」
ランドリューシュは提案し、書き散らしていた書類を揃えて一まとめにした。ランドリューシュが秘書役の騎士にその保管を任せるのを待ち、アレフキースは彼と連れ立って教会の食堂へと移動した。




