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緑指の魔女  作者: 桐央琴巳
第二十二章 「真実」
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(22-1)

 アレフキースが投げ捨てていった剣を拾い上げて、ランドリューシュは立ち上がった。

 エリオールが奥から連れ戻った赤毛の少女が、物問いたげな青い瞳で彼の動きを追う。

「何か聞きたいことがあるようだね。言ってごらん。大人にはできないようだから」

「あなた、誰?」

 王太子を演じていた黒髪の貴公子に、ラグジュリエは率直に尋ねた。

「私は王太子殿下の従兄だよ。ランドリューシュ・デュ・サリフォールと名乗っておこうか――『本物』のね」

「じゃあランディは、この村にいたランディは、本当に王太子様なの!?」

 村人全員を代表して、問いを重ねるラグジュリエに、ランドリューシュはしっかりはっきりと頷いてみせた。


「私が贋の王太子なのだから、そういうことになるね。彼の真実の名前は、アレフキース・サリュート・ドゥ・デルディリーク殿下。ランディ・ウォルターラントというのは、殿下が時々悪戯に使われる、近衛騎士としての私の二つ名だ」


 衝撃の事実を明してゆくランドリューシュの声を聞きながら、ヴェンシナは焦燥の思いを抑えきれずに、懸命な救護を施してくれているキーファーに手を伸ばした。

「……キーファー……、お願いが……」

 その視線の先を追うまでもなく、キーファーはヴェンシナの気持ちを察した。

「副隊長、ヴェンが……!」

 キーファーは立ち上がってランドリューシュを呼んだ。その足下に傷ついたヴェンシナの姿を見つけて、ラグジュリエは小さく悲鳴を上げながら彼に駆け寄った。

「ヴェン! 酷い怪我!!」

「大丈夫だから……、ラギィ……、あの方と話をさせて」

 おろおろとしながら脇によけたラグジュリエの傍らに、ランドリューシュは歩み寄り床に片膝をついた。


「どうした、ヴェンシナ? 説教ならば聞いてやろう」

 見下ろすランドリューシュの黒い瞳を、ヴェンシナは責めるように見上げた。

「殿下のわがままを……、どうしてお聞き届けになられました……?」

 呻くようなヴェンシナの言葉が、隠されていた真実の裏付けをする。どれほどの重責を背負いながら、彼は村に帰省していたのだろうと、カリヴェルトはヴェンシナの救命措置を続けながら、その苦労を改めて思い遣った。

「私は殿下の、影だからね。影というのは実体に沿うものだ」

 答えるランドリューシュの服を掴んで、ヴェンシナは上官を詰問した。

「あなたがただのっ、影なものですか……! あなたは国王陛下、から、殿下を抑止する権限を、委ねられてここまで……、おいでになられたのでしょうっ……!?」

 ランドリューシュは否定しなかった。王太子の二つ年長の従兄にして、近衛二番隊副隊長の肩書きを持つ彼は、王太子アレフキースのみならず、その父であるデレス国王からも絶大な信を置かれていた。――王太子の有能な守役として。


「抑止する権を授かるということは、容認する権もまた与えられているということだよ。殿下はこの村の民には、『近衛騎士のランディ』で通していたかった筈だ。なのに皆の前で、ご自身の名で責を負うとおっしゃったからには、よほどの覚悟でおありだろう。

 一介の騎士ではなく次代の王として、国を蹂躙する者に憤り、民の為に尽くしたいとお考えならば、そのお心を貴び、殿下が国と民とを守り抜ける強く善き王となられるよう、ご成長をお助けすることこそが私の忠義だ」

「ですがっ……、自ら進んで、危険を冒しておられることに、違いはありません……! あの方はこの国の……唯一人の王子殿下ですっ!」


 疲労した身体に深手を負い、苦しげな息を漏らしながらなお、ヴェンシナはアレフキースの身を案じずにはおれなかった。生真面目でどこまでも主君に忠実な、彼の心根をいじらしく思いながら、ランドリューシュはその頬を撫でて優しく言い聞かせる。

「陛下や私が、一体君に何を望んでアレフキースの傍に置いているのだと思っている? 殿下の言動が君の目に余って映ったならば、ご帰還を待って、きちんと叱って差し上げるように」

 初めて告げられた事由に、目から鱗が落ちるような思いで、ヴェンシナは時折霞みかける目でランドリューシュを見つめた。


「……それが僕の、配属理由、なんですか……?」

「ようやく気付いたのか? 君のことだから我々の冗談を真に受けて、つまらぬことを本気にとってでもいたのだろう。近衛二番隊の騎士はみな、王太子の身辺を華やかにする為の飾りなどではない。それぞれに役割があり期待するものが違うのだから、一人でも欠けられては困るのだよ、ヴェンシナ」

「はい……、申し訳ありません……」

 謝罪の言葉がヴェンシナの唇をついて出る。ランドリューシュは首を横に振った。

「謝ることはない。それよりも、今は自分の身を第一に考えたまえ。我らの『至宝』は、君の献身を無駄になさるような愚かな主君ではないだろう。約束をされたからには必ずお戻りになる」

「……はい……」


 心強く諭すようなランドリューシュの言に答えながら、張り詰めていた糸が切れるようにして、ヴェンシナは気を失った。

「キーファー!」

「わかっています! なんとかしてみせます!」

 厳しく名を呼ぶランドリューシュの声に、キーファーも半ば叫ぶようにして答える。

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