(15-1)
春女神フレイアが『生命の女神』、秋女神フィオが『愛の女神』であるとするならば、夏男神サリュートの異名は『勝利の神』である。
象徴となる花は【夏男神の百合】。初夏から夏の盛りにかけて、高原で咲く気高い白百合だ。サリュートというのはまた、デレスを建国した英雄王の名前でもあり、この二つの理由からサリュートは、剣を持った勇壮な青年の姿で描かれるのが常であった。
シュレイサ村教会の聖堂を飾る、ステンドグラスに表された青年神もまた、その例に漏れず剣を掲げ、清冽な白百合に囲まれていた。
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「いかなる理由がありましても、本当は争いを認めたくはありませんがの」
エルフォンゾは少し悲しげに目を細めながら、手にした小瓶の蓋を開けた。
「あなたに、サリュートの御加護があらんことを、ランディ」
祝福を与えながらエルフォンゾは、小瓶の中身である聖水を、祭壇の前に跪いたランディの頭上で振り撒いた。
「願わくは、あなたもエルアンリ様も、共に一筋の血も流されることの無きようにの」
「極力努力致しましょう。命を奪い合う為に交える剣ではない」
老牧師にそう答えて、ランディは立ち上がった。
「ありがとうございます、牧師殿」
殊勝に頭を下げながらも、その瞳は強く輝いている。身の内に炎を燃やしながら、ランディは驚くほどに落ち着き払って見えた。
通常であれば聖堂は、子供たちの教室になっている時間だが、決闘騒ぎによる混乱で、今日の授業は取り止めになっていた。シュレイサ村教会の石造りの聖堂には、ヴェンシナとラグジュリエ、それに昨日結ばれたばかりのカリヴェルトとシャレル夫妻の他に、野次馬も大勢詰め掛けていたが、誰一人としてランディに声をかけようとはしなかった。
ランディが生まれながらに持つ、侵しがたい存在感。見るものを圧倒するような近寄り難い雰囲気が、微笑まぬ彼の周囲を色濃く取り巻いていたからだ。
「そろそろ時間のようだ。失礼する」
ランディは白いマントを捌いて、聖堂の外へと向かった。昨日喜びに溢れていた花嫁の道は、今日は闘いへ赴く騎士の、緊迫した勝負への道となっていた。




