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緑指の魔女  作者: 桐央琴巳
第五章 「寝坊」
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(5-1)

「お早う、ヴェン」

「お早うございます。昨夜は申し訳ありませんでしたっ」

 食堂でようやく、ランディの姿を見つけたヴェンシナは、恐縮しきりに謝った。

「ああ、たいしたことではない。それよりもよく休めたようだな」

「はい、おかげ様で、すっかり寝過ごしてしまいました」

 ランディの向かいの椅子を引いて座りながら、ヴェンシナは少し恥ずかしそうに目を伏せた。慌てて身支度を整えてきたので、栗色の髪には寝癖の痕が残っている。

 カリヴェルトの言葉に甘えて、ランディも早起きはしなかったようだが、その身だしなみは完璧であり、食事もあらかた終えている様子だった。


「お早う、ヴェン、お寝坊さんねえ」

 くすくすと笑いながら、ラグジュリエがパンの皿と牛乳を運んできてくれた。

「お早う、ラギィ」

「スープを温めてくるから、ちょっと待っててね」

「うん、ありがとう」

 皿とコップを受け取って、ヴェンシナはまじまじとラグジュリエを見つめた。

「なあに?」

「ううん、本当に大きくなったなあと思って」

 幼い頃の面影を残しつつも、様変わりしていたラグジュリエの姿は、一夜明けた今日もヴェンシナの目には新鮮だ。

「やあねえ、ヴェンったら」

 ラグジュリエは照れ隠しに、軽くヴェンシナの肩を叩いて台所に戻っていった。


「ラギィは年頃になったら、なかなか綺麗な娘になりそうだな」

 ラグジュリエには聞こえないように、ランディは小声で言った。

「そうかもしれませんね」

 ヴェンシナもなんとなく声を潜めた。

「次の休暇の時には十六か。帰省の楽しみが増したな、ヴェン」

 明らかに面白がっている様子で、ランディはヴェンシナをからかった。

「次は絶対に付いて来ないで下さいね、ランディ」

 食卓に置かれた籠からパンを取りながら、ヴェンシナは冷たく応じた。ランディと親しく呼ばされているせいか、通常に増して態度が生意気になってしまう気がする。


「お待たせ、ヴェン」

 ラグジュリエが豆のスープと、林檎とジャガイモのサラダと共に、二客のカップを盆に載せて戻ってきた。反対の手にはお茶のポットを持っている。

 熱々のスープを味わい、ラグジュリエがランディの為に食後の香草茶を入れているのを眺めながら、ヴェンシナは尋ねた。

「姉さんたちは? ラギィ」

「シャレルは裏庭でお洗濯中よ。洗い物があったら出して欲しいって言ってたから後で持って行ってあげてね。それからカリヴァーは授業中で、牧師様は往診に行ってるわ」

 デレス国内の小さな集落では、たいてい聖職者が教師や医者を兼ねている。シュレイサ村教会は、十二歳以下の子供たちの学び舎でもあるのだ。


「村の教会というのは、案外多忙なものなのだな」

 教会の実情を知って、ランディが感心したようにそう言った。

「そうよ。お仕事いっぱいあるんだから、二人ともしっかり頑張ってね」

 香草茶のカップをランディの前に置きながら、ラグジュリエはにっこりと笑った。

「ああ、やっぱり僕らをこき使おうとしてるんだ」

 明日から始まる労働奉仕を想像して、ヴェンシナは嘆いた。

「だって本当に忙しいんだもん。ちょうど林檎の最盛期だし、もうすぐ結婚式だってあるし。ヴェンはわかっててこの時期に帰ってきたんでしょ?」

「それはそうなんだけどね……」

 ランディがついて来るとは誤算だったと、ラグジュリエには言えないヴェンシナである。


「ところでランディ、今日は何かしたいことってあるの? 午後からあたしと遊ぶ約束だけど」

「そうだな……」

 朝の目覚めを促すような、すっきりとした味わいの香草茶を楽しみながら、ランディはちらりとヴェンシナを見た。

 何気ないふりを装っているつもりなのだろうが、ランディにはヴェンシナの言いたいことが手にとるようにわかる。自分のいない間に勝手をするなと言わんばかりの顔つきだ。


「一人で迷子にならぬよう、シュレイサ村の地理を知っておきたい。村を案内して貰えると嬉しいのだが」

「いいわよ。お散歩ね」

「ああ、私の馬で行かないか?」

「きゃあ素敵! 都の騎士様の馬に乗せてもらえるなんて、みんなきっと羨ましがるわねっ」

 ランディの提案に、ラグジュリエは大乗り気で胸の前で両手を合わせた。

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