少女、ソファーにて挟まれり。
10月中旬。残暑を和らぎ、日の光が気持ちよい季節になってきた頃のこと。
俺こと宿女宥嘉は、近場のスーパーにて本日の夕食の食材を確保すべく、30分程の買い物を終えて帰路についた。我が家に着き、その扉を「ただいま」という日本伝統の挨拶と同時に開ける。家はちょっと、いやかなり大きい。「ただいま」なんて声は家の半分にも届かないのだろうが、訳あって、住居として今つかっている部分は全体の3分の1程なのでさほど問題はない筈だ。
そして、普段なら扉を開けた10秒後にはお尻が隠れるまでに伸ばされた、見事な黒髪の少女がお出迎えしていたのだが、今日に限ってはそんな様子は無かった。
——ドンッドンッ
——ガタガタガタ
——ゆうかさまぁ!
そんな様子な無いのだが、どこからか物音と俺の名前を呼ぶ声がしていた。雑音達を頼りにその発生源へと近づいていくと、そこには、ちょっと予想の斜め上をいく光景があった。
「宥嘉様ですか! 出られなくなりました、手を貸してください!」
「とりあえず紗結ちゃん。どうしてそうなっちゃったのか物凄く教えて欲しいんだけど」
確かにそこには、真っ直ぐで癖のない濡れ羽色の髪がお尻を隠すまで伸ばした少女、紗結ちゃんがいた。ただし、その顔はおろか上半身全てがソファーの下敷きとなっており、現在見えているのは、黒いスカートとそこから伸びる、ほっそりとした白磁のように白い素足だけだ。
所謂、頭かくして尻隠さずというやつだろうか。……ちょっと違うか。
「実はですね、テレビのリモコンの電池が切れてしまって、乾電池を取り替えようとしたのですよ。そしたら、その乾電池を落としてしまって、ソファーの下に転がっていってしまいまして……」
「成る程。それでソファーと床とでサンドイッチになってしまったと……君は猫かい?」
よくよく思い返せば、ネットとかでこういうの見たことがある。猫や犬といった小動物が家具に挟まれたり絡まったりしている画像を。
「……怒ったりしないから本当のことを言ってごらん。本当は猫だろ絶対?」
「違います! それよりも早く助けてください」
「そうだね。了解したよ」
犬猫云々は一旦置いておくことにして、ソファーを数センチ持ち上げる。その隙に紗結ちゃんが上半身を出す。よくよく思えば、一体いつからこんな格好でいたのだろうかこの子。
「うわ……ソファーの下で一時間も過ごしました」
壁に掛かっている時計を見るなり、顔をしかめて一時間と言った。疑問を口に出す前に答えが返ってくるというのはちょっと不思議な感覚だ。
「ところで紗結ちゃん。落とした乾電池は?」
「あ、そうでした」
そう言うなり彼女は、ソファーの裏方へと周り腰を曲げた。
「やっと拾えました。ソファーの下に転がっていったのにその奥までいっちゃうなんて、私は一体何の為にソファーに挟まれていたんでしょうかね。ソファーの呪いかなんかですかね?」
「それは単純に君がおっちょこちょいだからかな。猫なのにね」
「猫じゃありません!」
一時間もソファーに挟まれるなんて奇想天外な体験をした為か、今日の紗結ちゃんは普段よりも調子が——特に突っ込みの調子が良くなっていた。
そして俺も段々楽しくなってきた。
「Are you a cat?」
「ノーです!」
「本当は?」
「あいあむひゅーまん」
「良く出来ました。ご褒美に人間なら頭、猫なら喉元、どっちを撫でて欲しい?」
「……やっぱり猫でいいです」
「正直者な君には両方してあげましょう」
この後の紗結ちゃんは呆ける方の調子を良かった。
素が猫っぽいだけに猫の真似をすると本当に猫になったと錯覚するレベルなのだ。
余談だが、この数時間後、本来の調子に戻った紗結ちゃんは猫になりきっていたことが余程恥ずかしかったのか、しばらく顔を合わせてくれなかった。
いつぞやに「来月シリアス書く!」とかなんとか言ったな、ありゃ未完成だ。
一ヶ月で仕上げるつもりがだらだら二ヶ月経ってもも完成せず、現実がハードモードの移行したためにこのような形になりました。
シリアスのシの字も無いですね~コレ。(汗)
誰かオラに執筆能力を分けてくれー!!