第一話 勝利の代償
登場人物
レアード・クレス・ジ・アルセイン(11)
主人公、アルセイン男爵家六男、剣術と魔術に才能が有り、11歳にアルセイン防衛戦で指揮を執る。
アドルフ・グスタフ・ジ・アルセイン(23)
アルセイン男爵家三男、軍事に才能は無いものの内政に才能が有る。
カイル・エヴァン・ジ・アルセイン(20)
アルセイン男爵家四男、軍内共に平均的なアルセイン家唯一の凡人、ただしルックスは10人見れば20人頷くほど美形。
ロバート・アレン・ジ・アルセイン(19)
アルセイン男爵家五男、将の才能が有り、アルセイン防衛戦では父、長男、六男と共に指揮を執っていた。
セシル・トール・ジ・アルセイン(8)
アルセイン男爵七男、愛くるしい姿により人を集める事を得意とする(主に女性)。
ギルバート・オーバ・ジ・アルセイン(45)
アルセイン男爵当主、レアード達の父。
フィリップ・キース・ジ・アルセイン(25)
アルセイン男爵家長男。
ペータ・ロンド・ジ・アルセイン(24)
アルセイン男爵家次男、アルセイン防衛戦中に行方不明となる。
ガリウス帝国南部アルセイン男爵領西部カルバン砦
つい4か月前に起こった南部諸侯フィール辺境伯の反乱から始まった南部蜂起により我がアルセイン領を除いて南部全てが反乱へ参加した、周囲敵に囲まれながらも我がアルセインは帝国への忠誠を捨てなかった、結
果幾度となく反乱軍が領内に侵攻したものの辛うじて撃退に成功していた、まあそのせいで領周辺をおよそ2万5千の反乱軍に囲まれているが…
おっと自己紹介がまだだったな、俺の名はレアード、レアード・クリス・ジ・アルセイン、この地を運営するアルセイン男爵家六男だ。
今俺はアルセイン領重要拠点の1つカルバン砦とその周辺の防衛線の指揮を任されている。
先日の戦闘でボロボロになった防衛線を立て直した俺は今新兵の訓練を行っている。
そんな中父上からの伝令がやってきた。
「伝令、お館様より通達、指揮を副官に渡し帰還し事です!」
…バカな、今俺が離れれば折角持ち直った防衛線が崩れ去る、父上も分かっている筈、何か意図でもあるのか?
「分かった、ゴズすまんが指揮を渡す、後は頼んだぞ」
ゴズ、南部特有の黒肌の持ち主で身長190㎝もある大男だ。
先日の戦闘では100もの敵を蹴散らし俺と共に勝利を刻んだ立役者、指揮の才能もあり俺の副官として補佐してくれている。
「分かった、レアード様ご武運を」
ゴズは胸を利き手である右手で軽く叩き(敬礼し)俺を見送った。
俺は近くに待機させてあった馬に乗り屋敷へと向かった。
アルセイン男爵領、領都フィリア、アルセイン男爵屋敷
屋敷に到着した俺は直ぐに父上も元に向かった。
父の部屋に入ると数日前の戦闘で行方不明になったペータ兄を除く5人の兄弟たちが集まっていた。
「レアードで最後か、よく聞け、2週間日前帝国軍と反乱軍の大決戦が行われた、結果帝国軍が辛勝した」
この一言で部屋中が歓声で響いた。
「まあ落ち着け、これからが本題だ、連中の敗因原因はどうやら我が領らしい、我が領が4か月奮闘し反乱軍の一部を釘付けにした事で全兵力での決戦を起こせなかった、これによって連中は負けたと思っているらしい、怒りに震えたフィール辺境伯が自ら敗戦後再編成した反乱軍を率いて我が領内に向け侵攻中だ、今日明日には領境に着くだろう、数およそ5万…ワシらに勝ち目はないよってお前達は逃げるのだ」
…は?父上は今何て言った?
「どう言う事ですか父上!」
長男のフィリップ兄は父上に怒鳴り返した。
「どうしたもない、逃げろと言ったのだ、じきに反乱軍が総攻撃を仕掛けるだろ、だからその前にお前達は逃げろ」
ここで黙っていた五男のロバード兄が父上を睨みつけながら言った。
「父上、我らにアルセインの民達を見捨てろと言うのですか?我らに帝国騎士道を捨てろと言っているのですか?」
父上は一瞬下を向き何時もとは考えられない小声で言った。
「そうだ、死ぬのはワシだけでいい、お前達は帝都に向かい皇帝陛下にお会いするのだ」
バカな、幼い頃から帝国騎士道こそアルセインの誇りと言っていた父上がそれに反して俺達に生き恥を晒せといっているだと有り得ない…
「それがアンタの答えか!」
完全にブチ切れたロバート兄が父上に向け剣を構えた。
「落ち着け馬鹿者が!ワシとて辛いのだ…だがここでアルセイン男爵家を終わらせる訳にはいかんのだ、わかってくれ息子達よ…」
威厳のあった父上は今や跡形もなく無くなっていた。
「話にならん、俺は戻るぞ、そして一人でも多く奴らを葬って死ぬ、アンタにもう会う気はしない、じゃあな」
ロバート兄は剣を収めると部屋を出て行こうとしたが…
「「「行かせません!」」」
扉の向こうには複数の衛兵達が俺達を出させないように立ちはだかっていた。
「貴様ら何の真似だ、そこを退け!」
青筋を立てながらロバート兄は衛兵達に向かって怒鳴った。
「退きません、ロバート様達が逃げる事を決意するまで我々は退きません!」
衛兵達は動じず、扉の前で身を固めていた。
「これは我らアルセインの民達の総意です、たとえ一度アルセインが滅んでも貴方様方が生きていれば再建できます、ですが貴方方様達がいなければ帝国が勝ったとしてもアルセインは滅びます、帝国が代わりの代官を派遣してもここはアルセインでは無くなるのです、どうか、どうか英断を…」
衛兵長の言葉に他の衛兵達も頷いた。
俺を含む兄弟達が沈黙すると今度は外から声が聞こえてきた。
「お逃げください、アルセインの未来のために」
「我らが死闘します、その内にお早く」
「アルセインを統治するのは貴方方様でなくてはいけないのです、お逃げください」
窓の外には民兵達が集まって声を上げていた。
「…わかったか、お前達はここを脱出しろ、これは命令ではない願いだ、ワシと民達のな」
この言葉にロバート兄は膝から崩れ落ち泣いた、他の兄達も涙を浮かべていた。
その時、伝令現れが外から声を上げた。
「たっ大変です、東部戦線が崩壊、敵が我が領へ侵入しました、このままでは南部と北部で分断されます、至急救援を!」
この一言に反応を見せたのはフィリップ兄だった。
「そうですか、ならば私の脱出は不可能のようですね」
既に涙を浮かべていた姿はなくフィリップ兄は冷静に答えた。
「南部の屋敷には我妻ソフィアと娘がいます、妻と娘を置いて逃げることなど私にはできません、それに分断されること話前提に進めるなら指揮は2人必要です、なに大丈夫、弟達を逃がすぐらいの時間は稼いでやりますよ、お願いします父上、騎士として…いえ…男として愛する妻と娘を守る夫として残らせてください」
深深く頭を下げたフィリップ兄に対し父上は頷いた。
「わかった、フィリップお前に南部の全権を与える、頼んだぞ」
フィリップ兄は敬礼し直ぐにその場から立ち去った。
「お前達には隣の部屋を用意してある、逃げるにも準備が必要だろう、自由に使ってくれ」
俺達は父上に敬礼し隣の部屋に向かった。
復帰作品、駄文ですがよろしくお願いします。