8話【無双が始まり一時停止】
ざっと見て……そうだな………何人だろう?
かなりの人数であることは間違いないのだけれど。
あの人数なら、まともな戦いではこっちの方が分が悪い。
て言うか、悪いどころではない。
そもそも一対一でも大人に勝てるかどうか分からないのに。
まあ、実際それはどうでもいい。
だって、あくまで素手で戦う場合の事だから。
僕には神器という銃があるから大丈夫だ。
「殺す気で殺す」
僕は引き金に手をかける。
「へっ、そんなちんけな武器でいいのか?」
村人のリーダー格であろう一人が言った。
それと同時に別の村人数人が魔法を発動させる。
変な構えと魔方陣がその魔法発動の合図だと思う。
「あんたらこそ、そんなショボくれた魔法でいいのかい?」
僕は顎を少しあげて見下すように言ってやった。
ショボくれた魔法というのは、リリィの魔方陣よりとても小さくて、凄みが全く感じられなかったため、そう判断しただけなので、本当にショボいものなのかは分からない。
「言ってくれるなあ! お前らやっちまえ!」
村人のリーダーが言うと、他にもどんどん村人が魔法を作り出す。
そして一気にそれは発動。
サッカーボール程度の大きさの火球が次々と現れ、僕に向けて一斉に発射された。
僕はそれを避けようかと思ったけれど、いくら小さくて弱そうな火でもかなりの数なので避けきれないと判断した。
代わりに僕はリボルバーのトリガーにかけていた指を、力強く引いた。
銃口から発される、リボルバーの大きさには合わない魔力の結晶。
大量の火球を相殺──否、消滅させ、そのまま村人に襲いかかった。
「この神器とやらは予想以上に使えるものらしいね」
僕は驚く。
何故なら、まさか相手の魔法を消す以外にも効果を発揮してくれるとは思わなかったからだ。
精々、いくつかの火球を消滅させるだけで、後は僕が自分で避けねばならないと思っていたので、嬉しい誤算である。
──そして村人に襲いかかった魔弾は、ここに集まっていた村人の三、四割……いや、半分の命を奪い去った。
綺麗さっぱりと一欠片も残さず、半数の村人の全身を消し去った。
「お、おい神器だと?」
「やべーぞ」
「も、もう逃げるしか……」
村人が恐怖に怯えた様子でざわつく。
間もなくして残った全員が情けない叫びを撒き散らしながら出口に向かって駆け出す。
「うわあああああ!」
「は、早く行けよ! 殺されちまう!」
「もう、ダメだああああああ!」
慌てて逃げ出す村人に僕は少し悲しみを覚えた。
無駄だと言うのに。
──この状況で逃げたところで、僕は全員殺せてしまうというのに。
「一瞬で消えるし、痛くないよね? せめてものの救いだよ、感謝してくれ」
僕は早歩きで村人達の後ろを追い、リボルバーの引き金を引く。
すると目の前の渋滞が一気に解決する。
こんな簡単に無くなってしまう命に絶望を覚えた。
人はこんなに崩れやすいものなんだな、と思って。
まあ、一瞬感じただけだけれど。
すぐに僕は走り、次の渋滞の最後尾を目的に走る。
「後、一回二回で終わるかな」
僕は魔弾を放つ。
混んでる細道にまた空間を開拓してやった。
そして三回目、次の最後尾に魔弾を再度放つ。
僕を殺そうとしていたが、怖じ気ついて逃げ出した村人達は、全員この世から居なくなった。
「感動だね……ここまで綺麗に大量殺人鬼になれるなんて」
洞窟には、僕が人を殺したせいで存在する汚れは一つもない。
綺麗な殺人。
随分と小綺麗な……美しさすら感じる殺人現場だ。
「マリーとリリィはあの村長がつれていったのか……。仕方がないちょっと走らないとな」
僕は出口に向かって走り出す。
無論、神器は手に握ったまま。
いつ敵がやってきても大丈夫だ。
∮∮∮
「離しなさいよ……この……!」
「抵抗は無駄だよ? 時間がかかるだけだから大人しくしてくれると助かるんだがねぇ」
僕が村長の家付近まで走ってくると、村長と複数の村人に捕まったマリーとリリィがいた。
どうやら彼女らは、拘束から脱け出そうと抵抗して、それにより移動がままならず、いまだにこんなところでもたもたしてるらしい。
こんなシーン見ててもつまらないし、早く二人を助けて上げたいので、僕は一声奴等にかけてみる。
「ただいま、村長さん。二人を離してやってはくれないかな?」
声で、僕の存在に気付いたようだ。一行が立ち止まる。
村長こちらを見て何度も頷く。そして感心するような表情で僕に言った。
「やあ、おかえり。まさか君があの数の手下を相手にして生きて追ってくるとは、完全に予想外だったよ。すごいねぇ」
「ああ、僕も皆で嫌がる女の子相手にダンスしてたなんて完全に予想外だった、全くそうとは思ってなかったよ。道理でまだこんなところに居るわけだ」
「ダンスとな……。君もよく、まあ、つまらない──笑えない冗談を言うねぇ? センスがないんじゃないのかい?」
ちょっとイラっとくる。
「センスがどうとかというか、これは冗談じゃなくて、ただバカにされてるだけって言うのが分かんないの?」
僕は、挑発する気満々の精一杯のうざ顔で言う。
「ははは、祠の奴等を全員倒してここに来たから大したガキとは思ったんだけど、これじゃ短気なただのガキだねぇ」
こいつ……ぶっ倒す。
「そこまで言うなら、僕が短気なただのガキではないということを教えてやる!」
僕が神器の銃口を村長に向けようとすると、その横で村人の腕の中からするりと脱け出すリリィの姿が僕の目に映った。
それを見て僕は神器を構えることを止め、奴等との間合いを詰めようと前進する。
「夏木! そっちの二人を!」
リリィが叫んだ。
現在人のの配置は、僕視点で言うならば、左から村人、村人、村長、マリーを捕らえている村人、村人、リリィ。
そっちの二人ということは、やはり僕から見て左から二人を排除しろと言うことか。
僕は即座に行動に移った。
神器を肩の位置まで上げて、狙いを村人二人の中心に定める。
そして引き金を引いた。広範囲レーザーのような魔弾は、村人をやはり跡形もなく美しく仕留めた。
一方、リリィは……よく分からない攻撃だった。
魔方陣が展開されているのは分かったのだけれど、何も見えなかったのだ。
リリィを拘束していた村人の体が突然、前触れもなく、上半身と下半身にちょうど分けられるように真っ二つになったという事象。
すると、今度はマリーを捕らえている村人の両足の膝から下が、微塵切りのように──微塵切り以上に細かく散った。
当然、マリーは村人の捕縛するための強烈な抱擁から逃れることができた。
「マリー! 早く離れて!」
「うん……!」
リリィが言うとマリーはすぐにその場から逃げるように走り出す。
こんな風に戦えるのなら、僕がくる前にどうにかできてたんじゃないのか? とは思ったが、それが無理だった理由。少なくとも戦力がいるということは分かった。
村長は圧倒的に強い。
それが分かった。
「確かにただのガキではないようだ。それに神器を持っているときた。君を殺してそいつを貰う……ますます戦うメリットが増えたよ」
村長はそう言うと、何かを懐から取り出した。
「手加減はしてられないようだし。君達を全員ここで殺させて貰うよ」
村長が手に持っていたのは、まるで握力を測る機械。
握力計の握る部分だけのような物。
まあ、デザインとか形状は凄くカッコいいけれど。
それは置いて、一体を何をする気なのだろう。こんなところで握力を測ったところでどうしようもないだろうに。
だけど、理解した。
その機械の意味を。
──村長がそれを本当に握力を測るかのように握った瞬間、リリィが地面に叩き付けられたのだ。
そしてそのまま、うつ伏せの状態で動けないようだ。何かに押し潰されるような感じで、周りの地面に跡ができる。
「うあああっ!」
「大丈夫か!?」
大丈夫ではないことは明白だ。
僕は神器の銃口を村長に向けた、そのとき奴は言う。
「君だけが神器を持っているとでも思ったのかい?」
村長は、今度は僕に向けてその機械を握った。
すると、さっき祠でリリィの友達であったのだろうココという、一部身体欠損状態の少女を殺した半透明の球体がいくつも出現した。
当たれば多分……いや、絶対に死ぬ。
それも普通に寿命で死ぬことより、何倍も何十倍も何百倍も、残酷で悲惨な死に様を見せることになる。
「やっべ……」
まさか、相手までチート武器を持っているとは予想外であった。
僕はとにかく、あの即死性球体に神器を向ける。
それと同時に球体が一斉に僕を目掛け、かなりのスピードで迫ってきた。
しかも一方向からではなく、球体は縦横無尽な立体的な動きを見せ、様々な方向から襲ってくるのだ。
僕の額に汗が伝わるのが分かった。
「全部正確に……正確に撃ち落とせばいけるはず……」
僕は自分に迫ってくる球体に魔弾を放つ。命中するとそれは魔弾と共に爆散した。
「大丈夫……いけるぞ」
次々と僕を狙って突っ込んでくる球体に、僕も次々と魔弾を撃ち込む。
それは昔ゲームセンターでやったシューティングゲームに似通っていていた。難易度自体は今のこの状況の方がイージーなのだが、緊張感だけは遥かにそのゲームを越えていた。
そのゲームも今のように簡単なシーンはあったが、どうしてもクリアできない……ではなくて、ノーダメージで抜けられない場所もあった。
それは周囲全体から銃弾で襲われること。
基本的に一斉に襲われたりしても、それぞれの攻撃に微妙な時間差がある訳で、その時間差のお陰でそこを切り抜けられる訳だが。
本当に一斉に……全ての攻撃のタイミングが一致した場合。
それは到底、僕の実力で無傷で通れるようなものではなかった。
つまり、何が言いたいかと言うと……。
僕の周りの球体は、完全に同じタイミングでこちらを目掛けて攻撃を仕掛けてきたのだ。
到底、無傷では通れない。
到底、全てを捌き切ることはできない。
十程度の球体のうち、八個を僕は撃ち落とした。
残りの二つ、僕は一つを自身が素早く動くことで躱した……が、そこにもう一つが襲いかかる。
意識の飛ぶ寸前。
目の前が真っ暗になる。
──僕の左腕は亡くなった。