5話【神器】
──助けるのいいとして、両手を縛る縄をどうにかしないとな。
まあ、なんとかなるけど、リリィは随分と甘い奴みたいだ。
僕のポーチを奪っておかないなんて、経験の浅い新入社員みたいのものだ。
それに比べて僕は財宝を見つけるために、クレアとたった二人で多数の海賊との戦いを生き延びてきた。経験は浅いどころじゃない。
まあ、相手は海賊って言っても、島で地上戦だったけど。
だけれど、伊達に死線を潜り抜けたわけじゃないのだ。
「──マリー、早速だけどお願いがある、僕は早くここから出たい。だからポーチにナイフが入っていると思うから、それを取ってくれないか?」
ナイフを使うことになるとは思わなかった。
海賊との戦闘ではナイフなんて使い物にならなかったので、この先も特に用は無いと思っていた。
「……はい!」
僕は体を振ってポーチを背中側に回す。
そして檻の隙間にポーチが入るように、背中を檻に押し付ける。
すぐにマリーがチャックを開けて中を探っていく。
「えっと、ありましたよ」
「あったか! じゃあ僕にそれを持たせておくれ」
マリーからナイフを受け取り、僕は非常に扱いにくい状況で、ナイフの刃を縄に当てて上下に動かした。
途中で、マリーに切ってもらった方が楽だったんじゃないか、と思った。
だけど、今から──マリー、やっぱり君が切ってくれないかな?──なんて言うのは恥ずかしいので言えない。
……五分後。
「──よし、やっと切れた! こんなのは初めてだから難しかったな、力が入らなかったのもあるけど」
僕の腕はこれで自由になった。
これで出られる。
「よーし、マリー。村に急ぐぞ!」
「あっ、でも夏木さん、錠前が」
「──なんだこれは! なんという鋼鉄製だ! ナイフじゃ切れそうにないぞ!」
檻の扉を開かなくするための錠前は、極太の鋼鉄錠前だった。
これじゃどうしようもないじゃん。
僕にどうしろって言うんだ。
と、思っていると僕の腰の横当たりに妙な違和を感じた。
「うおっ!」
なんとポケットに入れていたリボルバーとCzが光りだしていたのだ。
「これって一体……」
僕が驚くと、ここでマリーも驚きの声をあげる。
「これってもしかして……、宝具じゃないですか! なんで夏木さんが宝具なんて持ってるんですか!」
「おっ、おう? 宝具?」
宝具って何よ?
新種の大量殺戮兵器か?
「宝具ですよ宝具! 正式名は神器ですけれど、世界に数十種類しかないと言われる伝説の武具なんですよ! 色んな国が国家戦力として欲しがっているもので、世界でトップを争うような国は大抵神器所有者を国で保護しているんです。て言うか、そもそもこんな平和な場所にはなくて、とても危険な地域の遺跡などに隠されていると言われているのに、どうやって!?」
とても輝くような目でこちらを見てくるマリー。
そんなにこの神器と言うものがすごい物なのか。
「……これって、そんなにすごい物だったのか。て言うか、何でそんなものがあの遺跡に……」
「しかも、それは伝説級の伝説! 遠距離対応の神器じゃーないんですか?!」
「まあ、見た目はそうっぽいけど……銃だし……」
「すごいです、夏木さん本当にすごいです! ちょっと見せてくださいませんか! 神器の力を……錠前を壊しがてらに!」
「ん、ああ、そうだな」
異常な食い付きだな、それほどまでに好きなのか、マニアなんだろうな。
それじゃ、やってみるか。て言うか弾入ってないけどいいのかな。
「いくぞ!」
僕はCzをポーチに入れてリボルバーだけを構えた。
銃の撃ち方は海賊との戦っている中で覚えたつもりだが、拳銃タイプは初めてなので心配だ。
少なくとも、海賊戦で使ったような大型の銃よりは反動は少ないだろうから楽だろう。
僕はリボルバーの引き金を一気に引いた。
躊躇なく迷いなくだ。
反動はほとんどなく、ほんの少し腕が震える程度。
発射音は実銃となんら変わらない。
リボルバーに実弾は入っていなかったのだが、代わりに銃口から発射されたのは、蒼白い光の弾だった。
光が檻の錠に触れた瞬間、檻の扉側の部分……そしてその先の大草原になびく草が、轟音と共に殆ど消えてなくなった。
「お、おお! これはすごい! 普通の銃よりよっぽどのものじゃないか。最高だ!」
僕がそう言うとマリーも自分の思っていることを言う。
「凄いですね、素直に拍手するしないです。それはどうやら、神器に内蔵された魔力を凝縮して造った結晶を発射するようですね。しかも、神器の機構には魔力を無限に増幅し続ける効果があるように、お見受け致しました」
説明ありがとう。
これならこの異世界を渡り歩く上で、戦いには困らないぞ!
負けないと言う意味で!
「では行こうか。もう怖いものはないぜ、マリー」
「はい! そうですね!」
暗い雰囲気からテンションが上がった所で村に出発だ!