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異世界物語 僕と魔法幼女の大冒険  作者: 猿野リョウ
第4章【異世界に生きる天使達】
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最終話【『彼』の選択】

      ∮∮∮



 あの世界の中でも最強クラスに属するであろう電気を操る少年を倒した後に、カプセル型の異次元転移装置により溢れた光は、期待を裏切ることなく『彼』を異世界へと送った。


 もっとも、最強クラスに属するような奴を相手にして生き延びたあげく、殺すことができたのは、決して『彼』が強すぎただとか秘められた才能があったとかではなくて、あの少年が最強クラスの中でも最下層に位置しているお陰であり、また、ひまわりという規格外の戦力を持った存在が仲間に居てくれたお陰である。

 そもそも、ひまわりという魔法幼女が居なければ、『彼』は街にたどり着く前にその人生の幕を閉じていただろうから、今回以外にも助けられっぱなしでどれだけお礼をしても足りないくらいだろう。


 ちなみに助けられたのは人だけではなく、物にも助けられている。

 天使、日溜毬日輪がほとんど好意で『彼』に返したカプセル。あれは生存率を上げる上でとてつもなくその役目を果たした。

 まず、電気少年の電撃だが、いくら弱体化していてもその威力はただの男子高校生くらいなら一撃で仕留められるものだったのだが、そのダメージをほとんどカットしたのがあのカプセルであって、大量の電気エネルギーを糧に起動する転移装置が、『彼』に走る電気を自身のエネルギーとして九割以上を吸収したのだ。

 日溜毬日輪の妹の日溜毬草の復讐のため、仇を取るために電気少年を差し向けた日輪だったが、好意で渡した装置が復讐の妨げになるという

なんとも皮肉な運命であろうか。

 いい意味で『彼』の悪運が強かったのか、悪い意味で日輪の悪運が強かったのか。

 それは分からない。



 本題に入るが、異世界に送られたというのはあの世界から見ての異世界であって、『彼』からすれば故郷である、現代の地球だった。



 雨の降る夜中に公園のベンチで目覚め、


「実は僕はホームレスの中年で今まで夢を見ていたのか?」


 そんなことを言ったりする『彼』だったが、手に握られていたカプセルを見て──ああ、夢じゃなかったのね──と一人納得し、元の世界に帰ってきて、喜ぶこともなく、ただ辺りをさ迷うのであった。


 『彼』は安全歩行に気を付けて東京を徘徊した。


 その後に、信じられないような事実が襲いかかる。


 なんと、共に異世界に行った女子高生クレア・ウォーカーの誘拐、死体遺棄などの罪に問われていたということ。

 だが、そんなこと全く知らない『彼』は、自分が警察に追われているなどとは夢にも思わず、街の徘徊中に呆気なく捕縛された。




      ∮∮∮




 捕縛から一週間。

 ある一室にて『彼』は事件の真実について問われていた。

 『彼』からしたら、そんなの知るか、という感じである。事実、知らないのだから。

 そんなことはお構いなしに質問攻めの捜査官達。


 机と椅子だけの簡素な部屋の中で、『彼』は言った。



「──だから僕はクレアを誘拐なんてしてないし、殺してもない」


「あー、あー、分かった、分かった。もういい、これ以上聞いても無駄なことは分かったよ。手荒な真似はしたくなかったが、次を楽しみにしておけ」


 そう言って部屋から出ていく中年の小太りの捜査官。

 こいつの相手はもううんざりだと言わんばかりで、それもそのはずである。もう一週間の間毎日毎日何時間も『彼』に話を聞こうと試みてみるのに、『僕は誘拐していない、殺していない、犯人じゃない』の一点張りなのだ。

 さすがに、自分が何を言っても同じことしか言わない奴と毎日数時間以上拘束されるのは、ストレスも大変なことになるだろう。


「めんどくさい奴だな」


 『彼』は思わず溜め息をつく。

 『彼』もまた同じことしか言わない捜査官にはうんざりしていた。イライラするのは捜査官だけではない。

 すると、また部屋のドアが開いた。


「今度は誰だ……、いくら聞き続けても僕は何も知らないのに」


 何も──というわけではないが。

 本当とは限らないが、彼女が異世界に飛んだ可能性を知ってはいる。


 部屋に入ってきて早々に椅子に腰かける人物は……、黒いコスチュームで身を纏った幼女だった。


「おひさっ、のはずなのに再会するまでの間、数分しか経ってないような気がする」

「数分ね……漫画で言うと一コマで済まされた気もするけれど、……て言うか敬語じゃなくなってるし」

「外を歩き回っているうちに覚えました」

「いつか幼女のくせにギャルになりそうだな」

「えー、うそー、そんなのまじありえなーい」

「無表情で言われると何か感じるものがあるね」


 ところで──と『彼』が言う。


「どうやってここに来たの? 警備の甘い施設じゃないはずだけれど」

「これでちょちょいと」


 懐からステッキを取りだすひまわり。

 魔法を使ったということだ。


「ああ、なるほどなるほど。て言うか、君もこの世界に来ていたなんてね」

「あなたに巻き込まれたんですよ」

「あれ、お兄さんって呼んでなかったっけ」

「イメチェンですかね、新しい自分をクリエイティブしてフレッシュにしようと思いまして」

「それも覚えたのか。なんか違和感があるぞ」


 そんなことよりも──とひまわりが言って、懐からステッキではない何かを取り出し始める。


「これ、没収されてたみたいだったので、持ってきておいてあげました」


 机の上に置かれたそれは、神器とナイフだった。


「ポーチごと持ってきてくれたら最高だったんだけれどね。まあ、贅沢は言ってられないか。それで、僕を助けてくれるのかい?」


 『彼』には──ただ、助けてくれるだけのようには見えなかったし、だからと言ってそこにどんな裏があるのかもわからない。もしかすると交換条件があったりするのかも──と推論する。


「お願いがあります」


 幼女はカプセル型の異次元転移装置を机にドン、と置く。


「これを見つけたところに案内してください」


 思ったよりはまともなお願いであった。

 『彼』的には猟奇的な殺人依頼なんてされるんじゃなかろうかと、びくびくしていたのだ。いや、まずこの魔法幼女にこの世界の人間を殺す理由がないのだが。


「この一週間。私はてきとうに、かつ適当に調べものをしていたのですが、今大変なことが起きているようで」

「大変なこと?」

「世界が終わる。みたいな話です」


 世界の終わり。


「私はまだ死にたくないんですよ。だから世界滅亡を止めたいってだけです」

「説明してくれよ、訳分からん」


 まじで分かんないから、という風な『彼』である。


「世界のバランス……ですかね」


 詳しい説明は省きますけれど──と幼女は言って、


「つべこべ言わずに助けてください。あなただってまだ死にたくはないでしょう」

「そりゃあね」

「了解を得たところで言っておきますね、具体的にやってほしいことは二つ」

「いや待て、やるなんて言ってないぞ」

「一つはこれの発見現場への案内」

「ねえ、聞いてるー?」

「二つ目は電気が沢山ある場所」


 『彼』は黙った。

 一度、静かに冷静に考え──。


「電気を何に使うんだ?」


 と聞いた。


「私の世界に戻るためですよ」


 速答。即答。

 『彼』の選択は。


「……分かった、分かったよ。僕にできることならなんでもしよう」


「……ありがとうございます。また後で来るのでその時はよろしくお願いします」


 幼女は部屋から出ていく。

 何事もなかったかのように。


 すると、間髪入れずにまたまたドアが開いた。

 今度の訪問者は古ぼけたローブを纏った誰か。フードを被っていて顔が見えない。

 背中には業物のように見えなくもない刀が提げられている。鞘にしまわれていて、中身は分からないが刀から発されるオーラからして、そのヤバさが伝わってくる。


「こんばんは。久しぶりね」


「いや、誰だよ」


 フード被って、二メートル強の凶器持ってる奴に知り合いが居るはずもない。『彼』のリアクションは至ってノーマルだ。


「この声を忘れたというのかしら」


「顔を見せろ、話はそこからだ」


 声からして女ということは分かるけれど……。


「無理ね、そいつは無理。あの生意気な幼女と違って私は隠密スキルがないから監視カメラに映っちゃうもの、今も映ってるだろうからさっさと用件済ませちゃわないと」


「用件ってなんなんだ」


「ただの伏線張りよ」


「はぁ?」


「蜘蛛の巣のように張りまくるのよ。……悩むといいわ、その揺さぶりが目的なんだからね」


 フードの女は言う。


「神の反乱。世界の崩壊。あなたはどう思う? あの世界の勢力図は傍目からすれば、善が善、悪が悪と決まっているけれど、名前に悪がつくからと言って悪魔が悪である証拠にはならないし、天使がみんなのイメージ通り心優しきまさに天使という存在なわけでもないし、……あの世界において善悪は簡単には分けられない、真実が隠されているのよね。もうひとつ、世界線を越えた話だけれど、もしかすると理由があったとは思わない? どうして現代の辺境の地の遺跡に次元を越えるための装置があったのかしら? 誰かが仕組んだのかもしれない。誰かが目的をもってそうしたのかもしれない。私とあなたがあの世界に行ったのはただの偶然じゃないのかもね」


「……もしかして……君って」


「はいはいはい、ここで終わりよ。時間切れ、タイムアップ、リミットよ」


 フードの女は手を振りながら、あの幼女と同じく何事もなかったかのように去っていく。


「またね、次会うときは仲間として。せめて敵ではないように祈っているわ」


 扉が閉まった。

 部屋には『彼』しか居ない。


「なーんか気に入らないな」


 ──仕方ない。

 ──本当はひまわりを遺跡に案内してからバックレようかと思ったけれど。

 ──僕の好奇心がぐつぐつと沸き上がってきた。


「何もしなきゃ、死んじゃうんだよな」


 『彼』は。


「さてと、僕を一介の高校生だと勘違いして手錠をかけなかった奴等に味わわせてやるとしよう」


 神器とナイフを手に取った。


「行くか」


 部屋のドアが開いた。


「こらこら、私が来てないのにおっ始めようとしないでくださいよ」

「こりゃ失礼」

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