39話【逃走】
みじかくてすみません
遅くてすみません(;´д`)
「力が……体の内から……体の底から…………湧いてくるんだ。一秒一秒の時間を経るごとに、全身の痺れが強くなって……ぼくも強くなるんだ……。素晴らしいよ、この力は」
宙に浮いている少年が言う。手足から電気のジェットエンジンかのような不思議な蒸気が溢れだしている。
「今なら何だってできる気がするよ……。そうだ、ぼくが変えてやろう! この世界を平等にするんだ。まずは要らないやつらを消す。そう……まずはお前達だ」
狙った獲物は絶対に逃がさない。そんな意志がひしひしと伝わってくる鋭い眼光。
「……僕は止める」
「ああ?」
「僕は君を止めてみせる」
彼をここで止めないと……大変なことになる。それこそ僕達の着せられた罪のように……この少年が国を支配しかねない。
それに、もし本当に秒刻みに彼の力が増幅しているのだとすれば、今この場で僕達が少年の目的を阻止しなければ、誰も逆らえなくなるほどの力を得てしまうことも考えられなくはない。
「ふーん……ぼくを倒すつもりなんだ。ご立派だね、でもそれは無理だよ。お前達にぼくは倒せない。だって今のぼくは神同然さ!」
その瞬間、雷が落ちたような音が轟く。大きさ自体はそこまで大きくなく、耳を塞ぐまでもないものだが。問題はそこじゃない!
落雷音と共に少年が消えたのだ。
どこに行った?
「ここだよ、ここ!」
後方からの大声。僕は後ろを振り向く。
少年が箱の上に座っていた。
恐らく商人の荷物? なのだろう。それは鉄を使ったコーティング。補強がされているもので──青い電気が走っていた。
この少年……電気が通る場所ならどこにでも、テレポーテーションの要領で移動が可能なのか!?
予想にしかすぎないが……それくらいしか思い付かない……。もう少し時間があればまともな考えも浮かぶと思うんだけれど。
「ねえ、分かってる? 今ここでぼくが声をかけてやらなかったら、お前は死んでたんだ。ぼくがちょっと電撃を飛ばして、それで終わってたんだよ」
「……あー」
……確かにそうかもしれないが……何か言い返しておくべきか。相手のペースに巻き込まれるのは勘弁したい。
「うーん、そうだな。でも君も分かってるか? 君は最初で最後であった僕を殺すチャンスを逃した、ってことを」
「なに?」
「……僕を殺すつもりなんだろうけれど。確かにそれはご立派だね。でもそれは無理だ。君に僕を殺すことは不可能だ。だって今の僕は君より強い」
強がりにもほどがあった。
一撃必殺の電撃使いを目の前にして、自分の方が強いだなんて思っているはずもないし、この挑発で我を忘れて突っ込んでくるかもしれない彼を止める方法もない。
「……へぇ……そこまで言うなら受けてみろ! ぼくのパワーを!」
まあ、なんにせよ……僕の放った挑発の意を込めた台詞に、少年は上手く引っ掛かってくれたようだ。対処法がないこの場合、下手に引っ掛かったとも言えるけれど。
「あぁ……よし、かかってこい」
大丈夫……視力強化の施された状態ならば、大抵の攻撃は避けられるはずだ。腹を括るしかない。
「おら!」
少年が手をかざすと、いくつもの電撃が生まれ、飛来してくる。僕は彼を中心に円を描くようにして走り、その電撃を躱す。
「そんなしょぼいビリビリじゃ、僕に傷一つ付けられないよ!」
「はっ! これが全力なわけがないだろ!」
彼の両手が美しい透き通るような青に包まれる。
「レールガンか!」
僕は足を止めることなく、気持ちは更に速く、走り続けた。
青が弾けた。電磁砲が超高速で僕の胴体を突き抜けようと唸りを上げ、僕の真後ろを通過し、そのまま地面を破壊した。
爆風のような強い風が僕のバランスに揺らぎを与える。
「うっ……」
転倒しかけるが間一髪持ちこたえる──だが、すぐさま二発目が放たれた電撃音がした。
僕の進路を塞ぐように、眼前の地に突き刺さる電撃。
二度目の爆風には耐えることができず、僕は尻もちをつく。
「いてっ」
そして少年の方を見ると……、次なる電磁砲が発射されようとしている瞬間で──。
あー、死んだこれ。
なんて思った瞬間に──。
それは阻止された。
少年の顔面に拳がめり込んでいたのだ。
ひまわりのジャンプからの全力パンチである。
「うそん……」
確かに……ひまわりのパワーは幼児のそれではない。
僕の力は奴に敵わなかったが、ひまわりの拳なら少年に傷を付けたっておかしくない。
「っ! ひまわり離れろ!」
僕が叫ぶと、ひまわりは即座によろめく少年から飛び退く。それを確認してから、神器を手に取り……引き金を引いた。
「いけえええええ!」
魔弾が銃口から暴れ出て、少年に牙を剥き、今まさに命を刈り取ろうという瞬間。少年もそれに対抗し電磁砲を撃った。
魔弾と電磁砲の激突。激しい鍔迫り合い。火花を散らしながらの拮抗。
今のうち一旦逃げる。
少年を確実に倒す方法を考えなければ。
「ひまわり、逃げるぞ。ステッキを用意してくれ! リリィは僕が背負うから!」
「分かりました! まあ、今のところ逃げる方が得策ですしね」
「さすがひまわり、分かってるね!」
僕は横になっているリリィを背負う。
ひまわりがステッキに乗ってこちらにやって来て、僕もそれに跨がった。
「リリィ、少しだけ頑張ってくれ」
リリィをステッキに乗せてあげた。ひまわりと僕の間になるようにだ。
一応片手は、飛んだときに落ちないようにステッキに、もう一方はリリィが落ちないように、彼女の支えに。
「いいぜ、ひまわり。飛んでくれ!」
と、魔弾と電磁砲の鍔迫り合いの終幕。電磁砲が魔弾を飲み込み、そのまま近くの建物に直撃。爆音と共に小さな建物が崩れ落ちた。
二つの攻撃の激突のせいか、少年の居た場所は土煙で覆われていた。
「い、急げ!」
「分かってますよ!」
ステッキが動きだし、一気に高度を上昇させる。
こうして、僕達は何とか少年から逃げおおせることができた。




