36話【復讐の始まり】
間もなくして少年は裏道から出て表を歩き始めた。
いつも穏やかに見えるその顔は、今は見る影もなく狂気に満ちている。
「…………」
その心に恨みの念を育み、街中を闊歩していた。
少年は、自分とすれ違う全ての人間を見る。視線を感じた人々は、悪寒も感じて目を合わさぬように小走りになる。
少年はひたすら探す。
自分に唯一優しくしてくれた、彼女を殺した犯人を。
……植え付けられた偽物の記憶を頼りに。
数分も経たなかった。
少年をいじめていた憎き同級生と会うまでは。
五人の集団はあれから近くの溜まり場に集まり、ほんの少しだけ雑談を交わした後に、少年と同じく表に出てきた。
……個人と集団が、早くも再会した。
「おい、お前。表に出てくんなって言っただろ!」
集団の中でも一回り体の大きい、ガキ大将的存在の少年が言う。
「なんで出てきてんだよ! 俺達を舐めてんのかよ!」
続けて、細身の少年が言う。
一瞬。
迷うことなく少年は。
目の前の集団に殴りかかった。その拳を振りかぶった。
「うわ、なんだこいつ!」
「殴ってきたぞ!」
「やり返せやり返せ!」
眼鏡の少年が叫んだ。
「お前達のせいだ!」
日輪から受け取った記憶には、与えられた力の使い方も存在していた。与えた力は、至って単純な電撃魔法。
この街がこの世界で唯一電気を使ったりしている。日輪が電撃の力を与えた理由はそれだけだが、理由のてきとうさに反比例して、その力は強力であった。
「うわあああああああああああああ」
その拳をもろに食らったガキ大将。
いや、眼鏡の少年の正拳突き程度なら痛くもなかっただろう。
問題はその能力。
ガキ大将の体に即死レベルの高圧電流が走った。
煙をあげて、焦げ臭くなったガキ大将は倒れる。
「な、何をした」
「や、やべーよこいつ。に、逃げようぜ」
残った四人は、目の前で焦げている仲間を見て、思考を働かせて、恐怖を感じる前に──
「死ね」
──電撃を食らい、死んだ。
少年は、自分をいじめてきた奴等を殺したのだった。
「後……誰だ。誰を殺せば……」
本来ならば少年が人を殺すことなどできはしないことだ。強くなっても、マリーの死を知っても、無理だっただろう。
だが植え付けられたのものに、怒りと憎悪の感情があったため……少年は。
人を殺せた。
ためらいもなく。
口喧嘩していて、カッとなってつい殴ってしまった。
そんな風になったことのある人は居るだろう。
つまり、少年は今、常時その状態と言ってもいい。
辺りがざわつく。当然だろう。
焦げ臭いと思って臭いのする方を向いたら子供が死んでいた。
無関心で居る方がおかしい。
少年は。
笑った。
短くてすみません。
次回から主人公の視点に戻ります。




