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異世界物語 僕と魔法幼女の大冒険  作者: 猿野リョウ
第4章【異世界に生きる天使達】
36/48

35話【譲渡された情報】

      ∮∮∮




 しばらくの時間が過ぎ、僕の元にひまわりが帰ってきた。

 ステッキに跨がり飛んできた彼女は言う。


「こんなところに居たんですか」

「建物の屋上なんてわかりやすい場所じゃないか」


 恥ずかしながら……地上に()りることができずに、ここで待ち呆けていた僕である。

 屋上と建物内部を繋ぐ扉に鍵がかかっていたので、仕方なくだ。


「私の予想じゃ、飛び下りることも扉を開けることもできずに、八方塞がりな状況になっているのだと思うのですが」

「なんでわかるんだよ」


 と、ひまわりには聞こえないように小さな声で呟く僕。


「……草お姉ちゃんは?」

「死んだ、死んだよ。ちゃんと殺したから心配しないで」

「だったら……いいんです」


 姉が死んだことに対して、思ったよりも感じることがないらしい。


「ひまわりこそちゃんと仕留めたのか」

「ええ、そこはしっかりとメッタメタのギッタギタにしてやりました」

「わお、グロテスクな殺人現場になってそうだ」

「綺麗に処理してあげましたよ、せめてものはなむけとして」


 それが死体の処理のことなのか、死体が綺麗になるように殺したのか、はかりかねるところだった。

 いや、やはり、十中八九前者であることは間違いないだろう……。よく考えてもよく考えなくても。


「結局……僕は日輪の戦いを見ることはなかったんだけれど、どういうことしてくる奴だったんだ?」


 ひまわりは少し考えた後、首を傾げた。


「嫌がらせの(たぐい)についてですか?」

「いや単純なバトルについて……」


 嫌がらせとかしてきてたんだ……。

 あまり話すこともなかったけれど、確かに嫌がらせとかやってそうなお姉さんではあった。


「戦闘について……。まあ、私なら楽に相手取れるような敵でした。総合的に見れば全ての能力がトップクラスなんですが、一番二番を取れるような抜きん出た特技はなかったです。何でもできる万能家(ジェネラリスト)みたいな天使ではありました……が」

「が?」

「私からすればただの器用貧乏です」

「言うねぇ……」

「どちらかというと私の方が万能家(ジェネラリスト)って感じですよね」


 まあいいや……。とりあえずリリィのところに戻ろうか……。


「それじゃ、万能家(ジェネラリスト)のひまわりさん。宿に帰ろう。リリィに伝えないといけないこともあるし……」


 マリーのこと何て言おうかな……。

 憂鬱だ……。


 僕が言葉を取捨選択していると、急にポケットに入れてある神器が発光を始めた。


「なんだ……どうしたんだろ」

「なんか光ってますね。神器が自発的に光るところは見たことないです。……もしかしてお兄さんが光らせてるんですか?」

「違うよ、そんなわけないじゃないか」


 光が遠くへと……風に乗っていくかのように。揺られていった。




      ∮∮∮




 日溜毬ひまわりの言う『綺麗に処理してあげた』という言葉の意味は、『彼』が考えた二つのうちの前者で当たりである。ひまわりは日溜毬日輪を後腐れなく……何も後悔しないように、全てが消え失せるまで処理した。

 結果……視認できるもので、日輪の存在を確認させるものはこの世からはなくなったのだが、視認できないものはまだそこに残っていた。


 ──万能家の日溜毬日輪。

 日溜毬日輪に金賞を取れるくらいに突出したところはあるのか。

 日輪を知る者百人に訊いたら百人がこう答えるだろう。

 彼女は全てにおいていかんなくその実力を発揮しているが、常に三番四番に甘んじている。突出したところがあるとは到底思えない。


 器用貧乏の万能家は、全てをこなせるだけであり、全てを支配することは不可能だ。


 彼女には周囲の仲間達は知らない突出したところが一つだけある。

 それは驚異の再生能力。

 魔力が全快の状態ならば……細胞の一つしかなくても、元の形に戻れるほどである。


 それが周りに露見しなかったのは、器用貧乏ではあるが万能家のスキルのおかげだろう。そこまでのピンチになることなど滅多にないのだから。


 仮にそれが周知のことであるなら、ひまわりは見えない細胞の一つまでしっかりと探知し、注意深く丁寧に処理を行っていて──日溜毬日輪の復活など夢物語であっただろう。



 少し話が変わるが、神器について。

 神器はそもそも神や天使の創造した武具であって、悪魔と戦う際に、人間も少しでも戦力になってくれればという思いから作られたものだ。そして、それに込められた力というのは、やはり創造した天使によって変わってくるものである。


 例えば、『彼』の持つ神器。

 リボルバー銃の神器。ふとした偶然により現代で見つかった謎の武具だが……、作成者は──日溜毬日輪だ。


 あの神器のスキルの一つである持ち主への回復能力。

 あれは日溜毬日輪が自分の回復能力の八割ほどを詰め込んだことにより生まれた効果である。



 話が戻り、日溜毬日輪の再生について。

 ひまわりとの戦いで魔力を全損したといってもいいほど消費した日輪には、細胞一つから完全回復する力はない。


 ならば、自分の力を託した神器からなら……。

 もしかすると……。


 神器の発光。その光の旅先は。


 日輪の元。


 神器の八割の回復能力は消え、今日輪の物として取り込まれる。

 あの神器には、もう回復能力はない。


 (しずく)ほどの、絞り尽くされた上で一滴しか存在しない魔力でも。

 回復能力は機能した。

 十割全開の回復能力なら、たったそれだけでも、生き永らえるには十分だったのだ。









「あの二人は……必ず……」


 殺してやる。

 と、日輪が呟く。

 草を殺した事実が、通信が途絶えたことにより露見したのだ。

 外からは普通の姉妹だが、内では互いに心酔するほどの姉妹であったことは、互いにしか知らない事実であろう。

 ひまわりも妹ではあるが、彼女は義妹のようなもの、日輪が愛する理由にはなり得なかった。


 にしても、体は四肢が繋がった状態とは言え、お世辞にも五体満足とは言えず、満身創痍の状態であった。

 あくまで生き永らえただけの日輪。後数時間の命だろう。

 彼女自身が草の仇をとるのは不可能だ。


 そんなとき。ごみ溜めのような細い裏道を、必死に這いつくばっていたとき。


「へっ、ああすっきりした。行こうぜお前ら」

「二度と表に出てくんな、落ちこぼれめ」


 五人ほどの子供の集団が、一人の少年を、ぼろぼろになるまで痛め付けていたシーンを見たのだ。

 子供達は日輪とは逆方向へと去っていったため、彼女に気付くことはなかった。


「なんで……なんで……。なんでぼくばっかり……いつも……いつも……ううう……」


 嗚咽と共に涙を流す少年。


「マリーさん……どこに行ったんだろう……」


 その言葉を聞いた日輪が笑みを浮かべ、最後の力を振り絞るようにして立ち上がる。


「マリーって……確か」


 『彼』の仲間や友達を調査して見つけた一人だ。


 日輪は落ちていた眼鏡を拾った。

 その眼鏡はレンズは割れていたり、フレームは折れ曲がっていたりと、眼鏡を見るだけでも散々な目にあったと分かる。


「ねぇ、ぼくぅ。大丈夫?」


 日輪が少年に話しかけた。


「だ……誰ですか……」


 少年は日輪に気付き、身体中のアザや切り傷をできる限り隠しながら立ち上がろうとする。


「私が誰だなんて、そんなのはどうでもいいのよぉ……。そんなことより……あいつらに仕返ししたくなぁい?」


「え……」


「したいわよねぇ?」


「いや、でも……そんなのどうやって……」


「私が力をあげる」


 少年にとって信じがたい話ではあったが、それでも少年の目の色が変わった。


「自分に危害を加えるものなんてみんなぶちのめしてやればいいわぁ……。みんなみんなみんなぶち殺してやればいいのよぉ」


「そ、そんなの……ぼくには」


「でもねぇ……あなたはきっと……死ぬよりも辛かったと思うわ。私には分からないけれどねぇ……、いつもいつも辛い思いをしてきたでしょ? いつもいつも辛い思いを──」


 ──させられてきたんでしょ?


 少年に重くのしかかる言葉。

 ──そうだ。

 ──ぼくは昔から弱虫で泣き虫で、何の才能もなくて……。

 ──そのせいでいつもいつも、誰かにいじめられて……。

 ──痛くて辛いそれは……ずっと前から続いていて、それでもいつかは変わるんじゃないかって……。

 ──でもそんなことはなかった。

 ──ぼくは永遠に落ちこぼれのクズだ。



 ──一度だけ救われたなぁ。

 ──マリーさん。

 ──あの人は優しかった。出会って一日も経ってないと言うのに、ぼくにとても優しくしてくれた。

 ──すぐに帰るって言ったのに。どこに行ったんだろう。



 少年の心は、日輪に筒抜けだった。

 結果的に失敗に終わったものの、『彼』とひまわりの分断時に使った、相手の心の隙間を突く技。

 他人を通しての使用でさえ、簡単には炸裂する技術である。本人が(じか)に使えば、効果は誰に対しても抜群だ。


「──マリー……ちゃんだっけぇ?」


「……! その名前……どうして?」


 心を覗く力。

 使用の度にかなりのインターバルが必要だが、この力の前に隠し通せるものはない。


「あなたの大事な人……助けないと……ね?」


「ど……どういうこと……」


 日輪は抱きしめた。

 強く、強く、少年を抱きしめた。


 そして自分の命を犠牲にして……魔法を発動した。

 記憶と感情を、そして力を伝える魔法。

 神器に自分の力を込めたときと同じく。


「ふふふ、死ぬがいいわ……。草を殺した代償を……命で払ってもらうわ……ふふふ」


 聞こえない。誰にも聞こえないような小さな声で、日輪が言う。

 記憶と感情が少年に伝わり、日輪が消えた。


 少年が夢だったのかと思うくらいに、優しい光に包まれて消えた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 少年は叫ぶ。

 マリーの死。

 伝わった情報から、それを知った少年。

 殺した犯人は……日溜毬草──ではなく、『彼』とひまわり。そして自分をいじめてきた奴等。


 日輪が生命を賭けて譲渡した記憶と感情は、偽装された……擬装された……、草の仇を討つために改竄(かいざん)されたものだった。

時間があれば、もう少し丁寧に編集していきたいです。

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