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異世界物語 僕と魔法幼女の大冒険  作者: 猿野リョウ
第4章【異世界に生きる天使達】
28/48

28話【もう一人】

      ∮∮∮



 十一時、テンションの下がった僕達は近くの露店でてきとうな食べ物を買っ、食べ歩き、そして宿へと戻ってきていた。


「……美味しい物と不味い物の差が酷かったな……」

「……そうですね……、牛豚焦げ焼きミンチサンドイッチが、あれほどぼったくりの激マズ商品とは思わなかったです」

「いや、あれは予想つくだろ。だって肉が丸焦げじゃん。中身までたっぷり丸焦げじゃん」


 炭を食パンではさんだだけみたいな食べ物は、万が一にも美味しいとは思えない。


 ──ふと、ひまわりの瞳が虚ろになる。


「……まあ、気にするなよな。君がそんなのだと調子が狂っちゃうぜ。そもそも急すぎてさ、僕はあまりそういうの信じれてないんだよ。君が天使だとかあーだこーだとかは関係ない」


 僕も気になることはある。だって、元の世界で仲間だった人がここに来ているかもしれないなんて。

 クレア……、まあこの問題は、今気にしても答えにたどり着けないだろうから、放置しておくしかないんだが。


「天使……信じてない派なんですね」

「普通、信じないだろ……」

「この国の王は天使なんですよ? しかも公表もしてますし」

「マジで?」

「はい」


 それは知らなかった……。天使って……普通な存在なんだな……ここは異世界だから、確かにありえる話だけれど。


「お兄さんもこことは違う世界から来たそうではありませんか。何千年に一度かにあることなんですけれど、同時に二人もやって来るなんて珍しいですよね」

「何千年に一度かはやって来るんだな。だとしたら、僕は他の次元から他の次元に移ることに成功した先駆者ではないわけだ」

「私は聞いただけで、実際どうなのかは知りませんがね……。私が生まれたのは結構最近のことですし」


 最近なんだ……、天使だとか言うもんだから、宇宙ができたときに一緒に生まれました。みたいな感じかと思った。


「あ、そう言えば」


 と、ひまわりが話の方向を変える。


「実は会わせたい人が居るんですが」

「会わせたい人?」


 僕に会わせたい人……ってどんな奴だ?

 僕の疑問に答えるようにして、ひまわりは続ける。


「お兄さんと会う前は、私は月夜お姉さんと一緒に行動していたわけですが、他にも同行者は──仲間は居たんです」


 ……確かに、二人だけとは断定して言っていたわけではなかったが。

 月夜はこの街の学校で、色々学びたいんだったっけ? いや、それはリリィ達だったか?

 とにかく、その同行者さんも同じような目的だと言うことか?


「…………その人と僕を会わせてどうするんだい?」

「まずは、お兄さんが私達に危害を与えるような人間ではないと説明しないといけませんね。次に、月夜お姉さんが死んだことを報告しておかないといけないし、その次には、今後どうするかについて語らないといけませんね。もちろん、お兄さんの今後についてもです」


 今後。

 あの天使についてか? それとも、単純にこれから何をしようかとか?


「あー、その人はどんな人なんだい?」


 語る内容が何にせよ、初対面の相手なわけだし、性格とかは知っておきたい。できることならば、仲良くしていきたいからね。


「そうですね、性格は結構激しい方で、今までの経験からすると、隣の部屋で縛ってある盗賊さんに近いかもしれません。今まで会った中で誰が一番近いかと言う話ですが、それを抜きで話すなら、超暴力的で、気に入らないことがあれば力で解決するって考え方です。直情型ですかねぇ、熱いハートと言うかなんというか。それに合わせているのか、赤い法衣を着てますね」


 赤いコスチュームを身に纏った魔法少女ってことかな?

 それにしても、暴力的なタイプだなんて最悪じゃないか。僕は本当に仲良くできるのかな……。


「──えっと、名前は『シヴァ』」


 シヴァ……。シヴァ?


「それだけ? て言うか男?」


 いえいえ──と首を振るひまわり。


「違いますよ、女の子です。名前については偽名ですね。本名は私にも月夜お姉さんにも教えてくれませんでした」

「謎だな」

「謎ですね」


 性格はハイパーにストレートなんですけれど、そういうところはちゃっかりしているんです──とひまわり。


「どんなところにも伏線を張っておく人と言うか、どんな小さな病気でも、自分を脅かす可能性があるなら、予防を欠かさないみたいな……」

「なるほどね」


 ルシアより手強そうな女の子だ。戦う気はないけれど。


「オーケイ、オーケイ。分かったよ、行こうか。どうせリリィ達との約束まで、まだ時間はあるからね」


「そうですか、それはありがたいです」


 ひまわりが頭を下げた。


「で、そのシヴァって子はどこにいるんだい?」

「子って言わないでください、結構大人な人ですよ、年齢が」

「へぇ、そうなんだ。ひまわりみたいな衣装を着た大人も居るんだな。恥ずかしくならないのかなぁ……」

「バカにしてるんですか?」

「いや客観的な視点からの意見だよ。第三者の発言は、時にとても重要なキーポイントになることだってあるからね」

「でも、バカにしてますよね」

「まあ、ごもっとも」


「まあいいでしょう。早速シヴァの元へ向かいましょう」


 おいおい、そりゃいきなりだな。少しくらい覚悟の時間をくれたっていいんじゃないのか?


「もう少し休んでいこうよ。お腹中で食品が大洪水起こしてて、しばらくじっとしてたいんだよ」


 そんな僕の言い分なんて聞き流し、ひまわりが言う。


「シヴァはこんな腐りかけの宿と違って、かなりいい宿に泊まっているはずです。と言うか、途中で別れたときに待ち合わせしましたしね。街中でも一、二を争う高級な旅館ですよ」


 そいつはすごいな。僕達と違って、たくさんのマネーを持っていると言うことか。少し分けてもらえないかな……ひまわりの仲間なんだし、可能性がないわけじゃないよな。


「仕方ないな……行ってみようか」

「私が案内しますから」


 と、僕達は意気揚々と、開かないドア蹴り破り、宿の外へと出たのであった。





 それから、街の中央へ向かって僕達は歩く。

 この世界に生きる人々の生活模様を、現代の人々の生活と見比べたりしながら、僕は歩く。

 異世界っていいよな、どっからどう見ても、まずは人々と環境がナチュラルに適合しているというか。どこにもおかしいところがなくて、生きているって感覚が実感できる。

 今までとは違う世界を体験したばかりだから、異世界の方がよく感じるのかもしれないけれど。


 そんな多くの人の熱気と活気に当てられながら、僕達は何とか高級旅館とやらに到着した。



 確かに高級そうな木造の旅館ではある。

 この街の建物は中央近くは現代風のよく分からない材質。それを囲う地域は石畳の街。と言った感じなので、中々に新鮮で、豪奢な雰囲気を醸し出していた。



「ここです」


 ひまわりが旅館の入り口へと向かう。

 入り口の扉だけ、何故か高さ四メートルくらいの鋼鉄の扉だった。経営者のセンスがよく分からんな。


「すいません、中に入りたいんですが」


 鋼鉄の扉の前に立つガードマンみたいな、西洋風の甲冑(そこら辺で見ることは叶わなさそうな、かなり強そうなガチガチの鎧兜である)を装備した門番的な存在にひまわりは言った。


「お母さんがここに居るんです」


 と、ひまわりが続けると、門番はしゃがれた声で「……分かった、通りなさい」と快く通してくれた。僕のことはひまわりの兄とでも思ったのだろうか? 何にせよ、セキュリティ薄すぎだろ。もう少し警戒しろよ。


 とにかく、門番が扉を重そうにしながらも開けてくれた。

 僕達は旅館の中へと足を踏み入れる。


「うわぁ……何だか懐かしく感じるな……」


 本当に日本の旅館でありそうな内装であった。ロビーには幾人かの客が駄弁っていて、受付であろう場所にも客が居て…………とにかく、金持ちっぽい客だった。


「懐かしくって……元の世界でこんな所があったんですか?」

「ああ、よく一人でこういう所に泊まりに来てたよ。他の誰かと一緒に来るなんてのはなかったな……、家族なんて居ないのと同じだし、こういうのは一人でリラックスするために来るところだと思うから、一人が一番だよな」


「じゃあ、少し受付に行ってきます」


 と、自分から訊いてきたくせに、僕の言葉に何の反応もせずに受付へと歩いていくひまわり。


「なんてやつだ、自分から訊いてきたのに!」




 それから数十分後、ひまわりがいそいそと受付から戻ってきた。

 友達の家に行ってみたけれど、家族共々旅行に行ってたのて居なかった──みたいな顔をしている。


「随分遅かったね、何してたんだい?」

「何度か、受付から部屋にコールしてもらってたんですが……反応がないんですよね。もしかして、魔法回線を繋いでないのかもしれませんね」

「いや、知らん」


 電話機みたいなもんかな? 魔法回線とコールなんてワードから連想できるのはそんなものくらいだ。


「ああ、そうですよね、お兄さんには分からないですよね。まあ、とにかく連絡が付かないってことです。とりあえず部屋の場所は教えてもらったので行ってみましょう」


 確かに分からない。異世界専門用語なんて僕には理解不能である。


「シヴァは自分勝手な所ありますからね。自分から誘っておいたくせに、時間通りに待ち合わせの場所に来なくて、へんぴな所で熟睡していたなんてこともありましたから。今回も案外、部屋で爆睡しちゃってるのかもです。行ってみないことには始まりませんし、行きましょうよ」


 と言うことで、とにかく、僕達はシヴァの部屋へ行ってみることになった。果たして、本当に部屋で爆睡しているのだろうか。へんぴな所で寝ていたなんて話も聞いたので、もしかすると、僕達の寝泊まりした宿の屋根で、いい夢を見ているのかもしれない。


 それにしても無駄に豪華な廊下だよな、と部屋に向かう途中で考える僕。


 そして、少し迷いつつも進んでいって、部屋の前、ドアの前へとやって来た。



「……」


 ひまわりがドアの付近に付いている、チャイムのボタンみたいなものを押す。実際、チャイムだったのかどうかは置いておくとして、ボタンを押しても何の反応もなく、留守なのか故障中なのか分からない。


「…………んー、ドア開いているんじゃないか?」


 僕はドアノブに手を伸ばす。

 伸ばした瞬間、ひまわりが僕に向かって叫んだ。それは僕を慮る言葉。


「ちょっ……危ない!」


 と、そんな怒号のような声は空しく廊下に響くだけで、僕は『電撃が体に流れて焼け死んだ』とか『急に天井から刃物が落ちてきて刺さって死んだ』とか、特に危ない目には会わなかった。


「? 何が危ないんだよ?」


 僕が怪訝に首を傾げると、ひまわりも不思議そうに首を傾げながら言う。


「……おかしいですね……本来なら魔法壁(まほうへき)が発動して、お兄さんは吹き飛ばされていたはずなんですが……」


 マジで? 僕、そんな目に会う予定だったのかよ。

 そういうのは触る危険のない、もっと早い段階で知らせておくべき情報だろ!

 そう言う壁があるなら、あながち警備が薄いのも分かる気がしてきた。まあ、魔法壁の威力がどれほどのものかによるけれど。


「鍵、開いてるかもしれません」

「この旅館は鍵付きか。僕達の寝泊まりした宿は鍵なんてないのにな」


 鍵なんてないけれど、開かない。壊れてて。


「開いた……」


 ノブを捻って、軽く引くと、簡単にドアは開いた。


「ひまわり、これどうしようか? 入るべきなのかな?」


「……特別に許可します」


 即座にドアを全開まで引く僕。

 キィー、と軋むような音が鳴ったが、気にしない。別にバレてもいいのだから。


 そして、部屋へと入るとそこはもう高級マンションみたいなところで、廊下の時点で、あの四畳半の宿の面積を越えていた。何だか切なくなってくるなぁ……。


 廊下を進むと、他の部屋へと繋がるドアがいくつかあって──僕がどれを開けようかと迷っていたとき、確かにそれは聞こえてきた。


 ギシギシ……とベッドの揺れる音と、女の子の興奮しているかのような声だった。あまり聞こえないので、中の状況について詳しく知ることができない。


「…………」


 なんかもう……黙るしかないじゃん。

 僕はチラッとひまわりを見る。

 早く開けろよ──と言いたげな顔でこちらを睨んでいた。夫婦の営みだか、単純な暇潰しなのかは知んないけど、僕にはハードすぎるぞ。そういうときに部屋へ突入するなんて。


 でも、ひまわりはそう言うことをしていると分かっていない様子で、依然として睨みをきかせたままだ。


「オッケイ……分かったよ。やればいいんだろ……」


 僕は覚悟を決める。

 別にそう言うシーンを見たかった、というわけではない。


「だーれかー! いますかー!」


 僕はとてつもなくわざとらしい棒読みで、かつ、とてつもなくビッグなボイスを用いて、現場へとダイナミックに侵入した。


「…………」

「…………」



 突入直後の僕とひまわりは……まさに絶句、である。

 何も言うことができなかった。

 何も反応することができなかった。

 体が思わず硬直する。脳の活動も思わず硬直する。


 そりゃ状況が状況だったし、僕達の思考状態もそれなりの思考状態だったから。


 実際、僕の思考は部屋の中でシヴァという魔法少女が、あらぬことをやっているなんて思っていたし、ひまわりの思考だって、部屋でバカみたいに爆睡しているくらいにしか思ってなかっただろう。




 どこにも……ほんの少しも……微粒子レベルでさえ、そんな可能性なんて考えてなかったはずだ。



 まさか、シヴァが内蔵を(いじ)くりまわされている最中だったなんて。




 僕達の見た光景は、情景は、残酷な場面とは……。


 ベッドの上で、日溜毬日輪と同じ格好をした女の子が、血にまみれた赤いコスチュームを纏った、頭部を失った魔法少女『シヴァ』らしき人物の腹部を、手術器具のような物で弄っていたのだった。


 日輪と同じセクシーな服装の女の子は、嬉しそうに、息遣い荒く、狂ったようにして笑っていた。


 ひまわりから聞いて、魔法少女『シヴァ』の目印にでもしようと思っていた『赤い』コスチュームは、もう飛沫した血液で染まった色なのか、元々の色だったのか、僕には分からない。


 そして女の子は懐から小斧を取りだし、この場面には合わない随分と可愛らしい声で薄く笑って、腹の内蔵に一気に振り下ろした。


 血飛沫(ちしぶき)が舞い、内蔵が飛び散り、辺りを赤く染めた。


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