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異世界物語 僕と魔法幼女の大冒険  作者: 猿野リョウ
第3章【盗め戦え!盗賊との決戦!】
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26話【業火の中の決着】

 炎のカーテンが消え、よろめきながらもその場に立っているルシアの姿が露見した。よく見ると頭から血が流れているのが分かり、ステッキによってかなりのダメージを負っていたのが分かった。


「こりゃ剣呑な雰囲気だよな……」


 僕は呟き、ひまわりに囁く。


「あのときのように……僕が突っ込んで、君が援護だ。まだ使える魔法はあるだろう?」

「一応あります。ないと言うのは私の沽券に関わりますからね」


 それならいい。

 ここはルシアが体勢と態勢を整える前に早期決着を求める。頭を鈍器で殴られたにも関わらず、闘志満々によろめきつつも立ち上がっているところに悪いが、まず立たせない気持ちでやらせてもらおう。


 仮に僕の接近より早く彼女が立ち上がり、僕を炎で焼き尽くそうが、神器の回復能力があるので怖くもなんともない。


「行くぞ!」


 掛け声を合図に、ひまわりも魔法の準備に取りかかり、僕はルシアの懐へと飛び込んでいく。


 今の彼女の状態なら軽い投げ技一つで気絶へ持ち込めるはずだ。古流柔術や合気道を僕なりに混ぜてアレンジした『接触した瞬間に投げる』荒業を使えば、ナイフを突き出すよりも速く仕留められる。


 残り二、三歩の間合いに入ったときだった。

 ルシアが言う。


「『原子熱線(アトミックレイ)』」


 ボソッと聞こえたそれに何かを思うこともなく、と言うよりも、この間合いなら今さら魔法で攻撃はされないだろうと言う感じで、何かを思う必要がない。


 一歩の間合い。


 ルシアの左腕が原色の赤そのものに光った。


 そして、腕から細い赤い光線が──いや、熱線が発され、それは僕の左太ももを貫く。ジュッ、と僕の脚が焼ける音。


 太ももに直径数センチの穴が空いた。何もない空虚な穴である。

 痛みと身の焦げる臭いに悶絶しかけるが、ひまわりの補助魔法のお陰かすぐに痛みは引き、辛うじて悲鳴を上げることはなかった。


 だが、僕はルシアの目前、手の届く距離でしゃがみこんでしまった。


「……な、何で……」


 これは熱線に対してではなく、回復能力に対してだった。左足に穴を空けられて右足しか使えなくなった状況だと言うのに、全く再生してなかったのだ。依然として左足は大きな損傷状態にある。


 何で再生しない!?

 回復能力は有限なのか? それとも連続使用が不可能ってことか?

 くそ、予定外だ……想定外だ……。


 跪く僕を見たひまわりは、戦える様子ではないことを理解したのだろう。戦えない僕にサポートする意味など欠片もない。彼女自身が動き出す。


 超人な幼女だった。

 僕の全力疾走よりも速いであろうスピードでルシアに接近、跳ぶのが好きなのか、跳躍してステッキを構える。


「ふっ!」


 僕の頭上に位置するひまわりは、居合い斬りのようにしてステッキを振り抜いた。


 ルシアはそれに瞬時に対応し、先ほどの炎のパンチならぬ炎の手刀を作り、ひまわりのそれと相討った。


 結果はステッキの惨敗。

 剣士と剣士の戦いのように鍔迫り合いを起こすことなく、包丁で豆腐を切るかのように、簡単に一刀両断されたのである。


 そして手刀から握りこぶしへと変形。

 炎のパンチがひまわりを打ち抜き、その体相応の勢いで吹っ飛び、僕もひまわりと言う人間砲弾に巻き込まれ、一緒にぶっ飛ばされた。


「ひ……ひまわり、大丈夫か?」

「一応……防御しましたから……」


 綺麗な切断面を残して、上半分を失ったステッキは、そのまた半分に位置する部分を、破壊されていた。今度はまさに折れていると言った感じで、炎のパンチを防いだことによる破壊だと分かった。


「汚い折れ方だな……」

「命が助かっただけましです。この棒で防がなきゃ、私のお腹に大きな穴が空いてましたよ」

「棒って……ステッキじゃあないのか?」

「折れた時点でこんなものただの棒ですよ。勇者が持つには似合わないシュールな木の棒ですよ」

「ひのきの棒ねぇ……まあいいけれど、どうするんだよ」


 廊下の向こうまで殴り飛ばされた僕達。恐怖を運んでくれる足音を立てながら歩いてくるルシア。


「僕、足がイカれて動けないんだよね」

「頭は元からイカれてましたよね」

「…………」

「仕方ありません、私に任せてください。所詮は傷を負った小娘です、私の相手じゃないです」

「君の方がよっぽど小娘なんだよな……」

「なにか?」

「なにもないよ、気にしないで」


 空が飛べなくなるのはきついですが、リミッターがなくなるという意味合いではいいことでしょう──とひまわりが呟く。


「リミッター?」

「ステッキって私の力を抑える役割を持っていたんですよ」


 マジで? いつも力を抑えてたのか? それなのに割と強いイメージあったけれど……。


「それ初耳」

「そりゃそうでしょう? 言ったことないですし、言おうとも思ってなかったんですから」

「言っておけよな……そっちの方が作戦とか立てやすいじゃん……この襲撃だってもっとうまくいってたかも」

「あり得ませんね、それは」


 そう言ってひまわりが立ち上がると、ルシアは足を止めた。


「まだ立てんのかよ、内蔵をぶっ壊せたと思ったんだがな」

「残念、生憎あなたがぶっ壊せたのはこのステッキだけですよ」


 嘲笑(ちょうしょう)して挑発するひまわり。

 その挑発に乗ってしまったのか、ルシアの眉間にしわが寄る。


原子熱線(アトミックレイ)!」


 ノーモーションからの魔法。ひまわりを指差すルシアの右腕から熱線が放たれた。まるでレーザーのように迫るそれに対して、ひまわりの行った行動は、口を動かすことだった。


「──『強制地獄送還(レパトリエーション)』」


 魔法の詠唱なのだろうか? それが唱えられた瞬間、ひまわりの目の前の空間が歪んだ。


 ──ただそれだけだった。

 それだけの、歪むだけの、魔法。


 そして熱線が歪みに接触したとき、熱線は止まった。


 なんと言うべきか……、遮られているような感じで、簡単に例えるなら──庭の花にホースで水をやっていたら、急に仕切り板を置かれて水を防がれたみたいな──そのくらい拍子抜けする、何とも言えない光景だったのだ。


 防がれた熱線はまるで消えているような……消滅しているような──て言うか、あの歪み自体がどこかに繋がるトンネルのようだった。


「ば、バカな!」


 ルシアが驚愕の表情を浮かべる。

 表情に恐怖の意が刻まれるが、彼女は一歩も引かずにむしろ一歩を踏み出した。


 そして無言で、またまたノーモーションで原子熱線(アトミックレイ)を発動する。

 熱線の今度の狙いは、強制地獄送還(レパトリエーション)に守られたひまわりの、斜め後ろで横たわる僕だ。


「もらった!」


 やばい! 今の這いずって進むことしかできない僕には、あの速さで襲ってくる熱線を避けることは不可能だ!


 だが、ひまわりは焦りの一つも見せずに、


「ああ、無駄ですよ」


 と言う。


 熱線が僕を心臓近くを貫こうとしたとき、僕を守るようにして目の前に歪みが出現した。

 彼女と同様、歪みは熱線から僕を守ってくれる。


「そ、そんな……」


 ルシアはショックを隠しきれないようだ。

 だって、明らかに無理ゲーだもんな。

 多分この歪みの前じゃあ、どんな攻撃も無に帰す。

 僕を攻撃できれば、ひまわりに焦りが生まれたり、そうでなくとも人質を取ることはできたかもしれないが、歪みをどこにでも創れるのなら……もう彼女に勝ち目などない。


 何をどんな風に攻撃したって、ひまわりが歪みという仕切り板を張るのだ。何も届きやしない。


「ひまわり……こんなのあるなら──本当に最初から言っておいてほしかったな」

「すいませんね。ある日を(さかい)にできれば未来永劫使いたくはないと思ってた魔法ですしね……。他にもたくさんそんな魔法があるんですが……」

「なんだよそれ……怖いな」


 この歪みと同じレベルの魔法を、まだまだ有していると言うのか?


 二言三言のやり取りをしていると、ルシアが叫んだ。


「まだだ……まだ終わってない!!」


 もう、終わりだろう……。


「負けを認めなよ、ルシアちゃん。これ以上やっても労力の無駄遣いで、何の得にもなりゃしないよ。ひまわりのお陰で勝利した僕は、本来こんなこと言うべきではないのかもしれないけれど、君の勝ちの可能性はもう零だ。逆に僕の──ひまわりの勝ちの可能性は百だ。敗北は喫しているよ……戦力の、魔法の力の差がありすぎる、君の炎じゃ、ひまわりの作る板きれ一つ壊せはしない。もう諦めてくれ」


 そんな風に長々と喋る僕。

 できるならこんな若い女の子に怪我なんてさせたくない。

 でも、もしひまわりと戦えば、ルシアは大怪我だけじゃ済まないかもしれないのだ。


「俺がよ……これだけだと思ってんのか? 俺の炎がこの程度だと思ってんのか? だったらそれは間違いだ! 俺はまだ、終わりを見せてなんかいねぇ! 俺の本気はまだだ!」


 うおおおおおおおおおおお──と女の子らしからぬ、けれど美しい声色で絶叫するルシア。


「『十字焔惑星(グランドクロスファイア)』──────!!」


 魔法名を叫んだ。

 魔法の発動を開始した。


 ルシアはまだ戦う気だ。

 彼女を中心に魔方陣がいくつも展開される。久し振りに魔方陣を見たんだが──という思いを一気にかき消すように、炎が広がる。


「うわっ」

「すごい火力ですね……」


 ルシアの周りが一気に炎上を始める。ひまわりも感心したように、うんうんと頷く。そんな場合じゃないだろ!


「お、おいよせ! このままじゃこの建物が燃え尽きて、崩れてしまうぞ!」


 僕はルシアに呼び掛けるが、反応は一言も、一文字もなかった。


 視界の中を埋めていくのは炎。だんだんと赤い世界が彩られていく。熱気がすごい、息も辛い、このままじゃ数分ももたずに僕達は炎に包まれるだろう。

 少しすれば建物全体が灼熱地獄に変わる。


「くそ、今までの魔法で燃えなかったってのが不思議なくらいなのに……こんな古い建物だと、すぐに全体が燃え尽きるぞ」

「早く出るしかありませんが──」


 ──ルシアが居るから無理だ。彼女は僕達の脱出を頑なに拒み、妨害してくるだろう。

 そんなルシアが言葉を放った。


「行くぞ! これが俺の最強の魔法だ────!」


 絶叫──再度の絶叫と共に、作られた巨大な十字の炎。調整をしたのだろうか、廊下の大きさぎりぎり目一杯に作られていた。


 熱風を巻き起こしながら迫るそれを見て、僕はひまわりに呟く。


「後ろに居てくれ……」


 僕に任せろ──と、僕は神器を取り出す。

 リボルバー型の神器。ここがもう崩れると言うのなら、これを使ってもいいだろう。

 僕だっていいところを見せたいのだ。


「照準は炎に……」


 銃口を迫り来る十字の炎に向けて、僕はトリガーを引いた。


 足が使えないので、上半身だけ起こし、座ったような状態で、極太レーザーに例えられる魔弾を放った。


 光線が十字架ならぬ十字火とぶつかる。

 刀と刀、剣と剣、ではなくて、魔法と魔法の鍔迫り合いが始まる。

 とんでもないほどの轟音を辺りに響かせながら、魔弾と炎は押し合い────そして、


「いけ────!!」


 珍しく僕は叫ぶ。


 魔弾と炎の中心で、強烈な爆発と、衝撃音が鳴り響いた。爆風によって、僕の髪が揺れる。


「…………」


 結果はどちらが勝つでもなく、引き分け。


 相殺した。

 どちらともがどちらともの威力を受け止め、結果としてどちらともが消えた。


「まあ、悪くはない」


 僕はそう言う。


「まあ、悪くはないですね」


 ひまわりがルシアの居る方向を指差す。

 僕がそっちを見ていると、炎の檻の中、ルシアは力尽きたように、膝からガクッと崩れ落ちた。


「魔力を使いすぎたんでしょうね……それはもう空っぽになるほどに」


 ふむ、引き分けと言ったが、どうやら結果だけ見ると僕の勝ちらしい。


「お兄さんにしては上出来だと思いますよ」


 幼女が僕に向かって微笑んだ。まるで大人の美しき女性の慈愛溢れた笑みを見たようだった。


「うん……ありがとう」


 それじゃあ……焼け死ぬのも──仮に回復能力が復活して、焼け続けるのも嫌なので、迅速に脱出を始めよう。


「あの子、焼け死んでしまいますね。後味悪いですし、連れ帰りましょう」

「え?」


 いきなりそんなことを言うので、僕は言葉を失った。


「……いや、彼女は盗賊だぜ? 連れ帰ったとして、目を覚ましたら、いつ命を狙われるか分からないぞ?」

「縛って繋いでおけばいいでしょう。後、私達ほとんど収穫がないじゃないですか……。だから、盗賊のリーダーの命を握っておけば、今後の保険になるんじゃないかと思って」

「どういう保険だよ……」

「賞金首とか」

「考えがひどすぎる!」


 まあ……いいか。

 僕もルシアを殺したくないのは本当だしね。

 いつか賞金首で処刑されることになっても、それは彼女の自業自得だ。いくら可愛くても、体を張ってまで助けようとは思わないし、思いたくない。

 犯罪者を助けていることになるんだし──まあ、それならここから連れ帰ると言うのも、助けているのと同じと言えるのだが。


「ちなみにひまわり、今日の君は中々にすごかったよ。初めて君のことをすごいと思ったし、可愛いと思ったし、かっこいいと思ったし、憧れるし。正直惚れかけた」


 ちなみにロリコンじゃない。


「そうですか……私もお兄さんは中々にかっこよかったと思いますよ。……まあ、そこら辺の人よりも、ちょっとだけですけれどね」


 ベーっと舌を出すひまわり。


「ははは、ありがとう」

「それじゃあ、帰りましょうか」

「ああ、熱くて敵わないよ……ここ」

「ダイエットにいいんじゃないですか?」

「僕は太ってないし、ダイエットどころか、この場所じゃ焼き肉にされてしまうわ!」


 こうして、僕達は盗賊の本拠地襲撃作戦を終えたのであった。

盗賊編終幕!

次回より、三章タイトルの話がやっと始まります!

本当に長くなりすぎてすいません!


この編について、感想くださるとうれしいです!

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