25話【最後の戦い】
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こんなときになんだが、僕は二つの銃型の神器(片方はもしかするとただの鑑賞用の物かもしれない)を持っているのだけれど、あまり目立った活躍がないような武器である。
かなりの攻撃範囲の威力を持ちつつも、色んなわけあって上手く使えなかったりしたのだが、これは僕の実力不足と言ったところだろう。
さて、そんなリボルバーを模した神器は、超威力の魔弾を発射する以外にも能がある。
それは一度、経験したことのある力。
持ち主に戦い続けろと言わんばかりの『超超回復能力』だ。
一度、上半身の半分を失った僕だが、この回復能力によって何事もなかったかのように今を生きている。
まあ僕の言いたいことは、業火を纏いし鋼鉄の鞭に、身を焼き、切り裂かれようとも、痛いだけで何の問題もなかったということ。
「──あっづああああああああ!!」
右腕を焼き切られた瞬間、全身を鉄板で焼かれたんじゃないかというくらいの熱さと痛みを感じた。
感覚が麻痺したせいか、腕が胴から離別したせいか、熱さと痛みは瞬間で消え去るが、この狂気的なまでの激痛は忘れられない思い出になった。
多分これから僕は、火を見るたびに『ちょっとやめて、痛い痛い』だなんて、身を焼かれる幻覚痛に悩まされるのだと思う。
最悪じゃないか……、できれば、もう火は見たくない。
「うぐ……うう…………」
炎は一気に僕の身を包むが、神器のパワーがあっという間にそれを消火した。
「は!?」
これは刹那の出来事。
ルシアは、腕を切り裂かれ、全身を焼き尽くされるはずだった僕の体から、火の粉すら散っていないことに気付き、状況に合わぬ素っ頓狂な声を上げた。
と言っても、僕の胴体と別れを告げた右腕は、神器の視点からすればもう僕の一部とは言えないらしく、めっちゃ燃え上がってた。
すごく熱くて暑いんだけれど。て言うか、こっちに燃え移りそうで怖い。
「にしてもマジ死にそう」
誰が言うまでもなく、当然のように再生した右腕は、わざわざ炭になりかけている元の右腕と同じ場所に再生するなんてことはなく、自由の名の下に生まれたのだった。
「な、何が起こって……!」
目の前の現実離れした──いや、魔法も十分現実離れしているが、そんな光景を見せられたルシアの動揺よそに、僕は急いで懐からナイフを取り出す。
どこに入れていたのかは秘密。
とにかく、僕はナイフを使って左腕を縛る鋼糸を切りにかかる。
「切れなくもないが……堅パン並に堅すぎる……!」
やっぱり堅パンだったらすぐに切れそうだな、と思いながら、僕は刃を鋼糸に付け、何度も擦るようにする。ノコギリで木材を切るかのように。
これは時間がかかる。
そして時間がかかるなら、相手が待ってくれるはずがない。
「何が起こってるのは知らないけどよ、逃がしはしねぇぞ!!」
ルシアは、再度炎の鞭を振り上げてタメを作る。
「少しでいいから待てぇぇぇええ!!」
僕は無茶な要求を彼女にする。
「無理に決まってんだろうがよ!」
鞭が振り下ろされるとき、それを止めたのはひまわりの道具による打撃だった。
四つん這いの状況ながら、ひまわりはステッキを片手で握り、そしてルシアの膝の部分に向けて横殴り。ヒットした部位を正確に表すなら膝の皿の真横だが、あのステッキ思った以上に硬い物らしく、皿でなくてもかなりのダメージを与えたようだ。
その証拠として、ルシアが片膝を地に付け、やられた方の膝をぎゅっと押さえていた。
ルシアの今にも悲鳴が漏れそうな表情を見て興奮──じゃなくて、時間稼ぎになると確信し、僕は作業に移る。
ほんの二、三秒で、左腕を縛る鋼糸はブチっと切れた。
「切れた!」
だが、もう足の方の鋼糸を切断するのは無理だ! 間に合わない。
「お兄さん! ナイフを貸してください! 投げて!」
と、ひまわりから。
僕は咄嗟に反応して、ナイフを投げる。ひまわりの命を狙うかのように飛んでいくナイフを、彼女はどういう技術なのか、刃の部分を指で挟んで掴まえた。
少しミスすれば、指が吹っ飛ぶかもしれないのに、なんてアホなことを……投げろと言われて躊躇なく投げた僕もアホかもしれないが。
「つまり」
僕の役目は、ひまわりが拘束を解くまで時間稼ぎをすること。
「おりゃ!」
僕は上半身を起こし、近くで膝を付いているルシアに抱き付いた。変な意味はなく、動きを封じる為に! 胸が当たってる!
──そして腕の腕力だけで、床にねじ伏せた。
今の僕の体勢からしたら、いささか変なシーンだっただろうが、そんなことは今気にすることじゃない。
「くそ、何をするっ!」
僕の真横に倒されたルシアは、反抗するように、組み付いてきた。
すると、ついさっきと同様のシチュエーションになる。彼女が僕の上にまたがってきたのだ。
「今度こそ!」
叫ぶルシア。彼女の拳が燃え盛っていた。炎のパンチってか?
「ごめん!」
女の子を殴りたくなんてなかったが仕方がない。
僕は思いっきりルシアの頬をぶん殴った。
と言うのは、ちょっと嘘で、本当は思いっきり平手打ちをかましただけだ。同じことかな……。
いや、グーで殴るよりよっぽどいいだろう?
だって、どっちにしろ、
「へっ、甘いな」
防御されたわけだし。
「くっ……」
「うおらっ!」
ルシアが炎の拳で僕を攻撃しようとしたとき、ちょうど鋼糸の切断が終了したらしいひまわりが、ルシアの後ろで立ち上がっていた。
「お待たせしました」
そう言って、幼女がお姉さんの頭に狙いを定めて、ステッキをフルスイングする姿に、幼い故の残酷さを垣間見る。
まあ、ひまわりは幼女のくせに妙に大人びているけれど。そう言うと、彼女を幼い人間と言うには違う気がしてくる。
ひまわりがステッキを振り抜くととても鈍い音が響いた。後、何かが沈むような音。
ルシアが、まるで頭をライフル弾に撃ち抜かれたかのように、何の受け身も取ろうともしない風に倒れた。
力なく倒れるその姿は、意識がないみたいで、ステッキによって頭を陥没させられたのでは? と感じされられた。
「こ、殺したのか?」
「手加減はしてませんけれど……どうでしょうかね?」
「……まあ、死んだのなら死んだでいい」
「そうですね。あー、ナイフをお返ししておきます」
ひまわりが僕にナイフを差し出し、それを受け取る。
「うん、ありがとう」
「殺さない方が良かったですか? 見た目気に入ってたみたいじゃないですか」
「まあね、確かに可愛いかったね。けれど、今の僕は君一人で十分かな」
「私を可愛いとおっしゃってくれるので? それは嬉しいですね」
「……小さい子はあまり好きじゃないけれど、君みたいな幼女離れした有識者は大歓迎だよ。不思議と大人の美女と話している気分になれるしね」
「最悪の理由です。せめて、大人の美女ではなくて、大人の女性という括りにしておいてくださいよ。可愛ければいいってもんじゃないでしょうに」
「正直に言うと、僕は可愛ければ何でもいいのかもしれない」
「無差別女食い星人ですか」
「無差別女食い聖人だね」
「無差別に食い散らかしてる時点で聖人だなんてあり得ませんって」
「確かに一理あるなぁ……」
まあ今は、とにかくここから出たい。
何かもう疲れた。宿代はいらないから早く休みたいんだ。
と、ひまわりの顔を見ると、そういうわけにも行かずに、僕はルシアの懐をまさぐる。
お金は持ってないかと。今後に使える道具はないかと。
「何で抱き付いているんですか」
「え?」
「おい」
「ごめんごめん」
たまに敬語じゃなくなるよな、と思いながら僕はルシアの体を探る。今度はそれを体に抱き付いたりはせずに。
胸が柔らかいな。かなりでかい。……でかい。
「いや、だから、何で今度は胸を触っているんですか」
「うぇっ?!」
ば、バレた? 見えないようにしていたはずなのに!
「何で胸を揉んでいるですか」
「はぁ!? それはないって! 触ってるだけで揉んだりなんかしてないって! 勝手な憶測だけで話すのはやめてくれよ」
「触っているのも揉んでるのもそう変わらないと思うんですよね」
「まあね」
「真面目にやってくださいますか」
「うん」
今度こそと僕は身体検査に移る。
チャリチャリしている小袋を見つけた。中身は──どうやら金貨とか銀貨とかのようだ。異世界のお金らしいが……どれくらいの価値があるのだろう……。高い価値だと正直助かるのだが。
……ちょっと待てよ……話変わり、戻るけれど、何だか僕が女の子の死体と戯れるのが趣味みたいな、犯罪者──変態みたいになってないか?
最悪じゃないか。
うわぁ、僕ってそんな風に見えてたのか……何かやだなぁ……。
「僕は常識あるノーマルな人間──と言うわけで、こういうのがあったんだけれど、これってどのくらい価値があるわけ?」
僕は振り向き、後ろに居たひまわりに小袋を突き出した。
「おお、金貨もあるし……純金貨が一枚混じってるじゃないですか。中々リッチな盗賊だったらしいですね」
「で、どのくらいの価値が?」
「そうですね、全部で…………、安い宿なら三ヶ月は余裕で持つくらいはあります」
「そりゃ良かった、当分は安泰だね」
「ですね──」
ひまわりが相槌打ったとき、彼女はその小さな体で僕を抱き寄せたのであった。唐突にそんな伏線も振りもなく、突然に出来事に僕は一瞬思考が停止する。
すぐに思考が再回転を始め、愛の告白なのではと考えるけれど、『いや、ひまわり限ってそんなことはないだろうな』と言う考えに至り、その可能性は捨てた。
すると、そういう思考を捨ててコンマ数秒後の僕の後ろで、炎の柱が伸びた。恐らく、その場に居たら、それに貫かれていたであろうと確信できるほどの、炎の槍だった。
「うわぁぁ! 熱っ!」
「お兄さん下がって! ……まだ生きていたようですよ」
ひまわりが抱擁を解いて、そう言う。
炎の柱は、ルシアを守るようにして、周りに展開され、これじゃ近付きようもない。
て言うか、生きていたのか。
良かった……これで僕の、女の子の死体と戯れたと言う事実が消え去る。
僕が変態染みた犯罪者ではないということが証明されたわけだ。いやはや、助かった。生きてて良かった。
「逃げるか?」
「多分、無理だと思います。ここは諦めて戦いに勝つことを考えましょう」
「分かった。……これが終われば、美味しいもの食べて、少し高い宿にでも泊まろうぜ。お金は全然あるんだろ?」
「ええ、それいいですね、ナイスアイディア。今日はもうたくさん頑張ったので疲れました。美味しいものを食べて元気だして、いい寝床で眠りについても罰は当たらないですよね」
「当たらないさ。それじゃあ、頑張ろうぜ。こいつを倒していい夢を見よう……な?」
そして、炎の柱が消えた。
最後の戦いの火蓋が切って落とされたのであった。
ついに……盗賊とのラストバトル突入!
ちなみに異世界のお金事情を……
現代で言うとどのくらいかというものです
銅貨 10円
純銅貨 100円
銀貨 500円
純銀貨 1000円
金貨 10000円
純金貨 100000円




