24話【炎の剣】
やっと描けました。ただ、月曜と火曜もまだテストなんですよね……
終わったら描こう!
僕はルシアの腕力(もちろん技術も使われていると思う)によって押さえ付けられ、一切の行動を制限されており、もうかなり追い詰められていると言っていい状況だった。
──一見そういう風に見えるのだが、実際のところ追い詰められているのは、僕の動きを完全に封じ込めている彼女であるの間違いないだろう。
彼女は自分で自分の首を絞めたのと同義だ。
日溜毬ひまわりが背後に居る時点で、馬乗り拘束術は、僕を縛るものではなく、技をかけたルシア本人を縛るものへと変貌しているから。
僕とのタイマン対決ならば、この拘束術は大変効果的なものではあったが、後ろから攻撃を仕掛けられる可能性が大いにある今では、もはや自爆システムだった。
だって、後ろの敵に対応するには、僕の拘束を解く必要があり、それが解かれたならば僕はすぐに反撃に転じられる。後方の敵を迎撃しようと、敵の拘束を解いたら、その敵にやられた──なんて間抜けな話にはしたくあるまい。
それより、まあ、とにかく、この絶対的な不利な戦況において、ルシア・デインズが二人の包囲網を突破できたのは、それはもう、僕が──僕達が勝ちを確信し、信じられないほどに──不覚にも油断していたと言うより他はないだろう。
油断大敵。
本当ならば、僕達が変に話し込まななけりゃ(こんなときに何で話し込んでんだよという話になるが)、余裕綽々に余裕綽々を演じてなけりゃ、足をすくわれるようなことはなかったろうに。
「動いたら殺します」
ひまわりは、見た目のキュートさとは裏腹に、とてつもなく冷たい表情を、とてつもなく冷たい声で、脅しをかけた。
キュートなくせに無関心極まりない顔をしているのは、位置関係上ルシアには見えることはないだろうけれど。
「僕も……できれば、君を殺したくない。むしろ友好関係を結びたいとも思ってる。さっきまで戦っていたわけだし、戯れ言に聞こえるかもしれないけれど、これは嘘偽りのない本心からの言葉だよ」
今相手取っている人物が男なら、容赦ないことをやったり、ひまわりにそれをやらせていたと思うのだが、つくづく女の子に優しい僕なのであった。
それにしても、女の子にまたがられて、迫られるように手首を押さえ付けられる図。その後ろに立つ、ヤンデレの女の子(僕を好きだという設定)。そんな修羅場のように考えると、この図はなんとシュールなことか。
笑いが出てくる。
「何を笑っているんですか、気持ち悪い。お兄さんも一緒に殺してしまいますよ」
君は本当にヤンデレだったのか……?
いや、殺人=ヤンデレだなんて方程式は、僕的には否定したいし、存在しないと思っているが。
それにヤンデレと言うのは、そんな危険に思えるようなものではなく、むしろ愛らしいほどに、自分を重く想ってくれているいい子だ。
ひたすらに、全力で、懸命に、貪欲に、愛してくれているだけなのであって、決して悪ではない。
まあ、とにかく──つまりは、
「──はっはっは、むしろ大歓迎だ。僕は君の愛情を全力で受け取るよ、その愛がどんなに狂気的で、猟奇的で、常軌を逸したものだとしても」
「お兄さんは本当に何を言っているんですか、急に何かしらの何かしらに目覚めたんですか?」
「僕は前からこんな風だったよ。隠していただけで」
「駄目ですよね、それ。隠していただけだなんて、そんなの後付け設定の言い訳にもほどがあります」
「僕、女の子はとても好きだから、女の子について思考している描写が割とあったと思うんだよね。だから後付けしたわけでも何でもない」
「お兄さんって真面目そうな見た目ですけれど、常軌を逸した思考パターンしてますね」
「どこがどう逸してるんだよ。まあ、確かに、条規を逸することはよくあるけれど」
「国から追放されてください」
「嫌だね」
「て言うか、こんな寒いやり取りやってる暇はないんですよ。こんなことやって喜ぶ人なんて一人としていないでしょう」
「僕は喜んでるぜ。この喜びに悦びを感じてる」
とは言いつつも、心の中で咳払いをして、本題に移ろうとする僕だった。
早く話を終わらせないと、いつルシアの仲間達がやって来るか分からない。
「それで本題だけれど」
「こんな状況で随分と仲良く会話してるじゃん」
「……嫉妬かな?」
「はぁ!? ち、ちげぇよ! そんなことあるわけねえだろ?! 勝手なこと言ってんじゃねぇ!」
「言葉遣いがちょっとでいいからおしとやかになってくれると、僕ももう少しは扱いを考えられるものだけれどね。もう少し女らしくした方がいいんじゃない?」
「う、うるせえな! 俺だって好きでこんな風に振る舞ってるわけじゃねえんだよ! この盗賊団のリーダーとして……俺は強くあらないといけないんだよ」
「…………まあ、それは君の勝手な都合なわけで、僕の勝手な都合からすれば、せっかく可愛い顔をしているのにもったいないよ、と言う話になるわけだが」
何ナンパしてやがんだ、この変態──と言わんばかりの形相のひまわりが見えた。
言い訳をさせてもらうなら、一応精神攻撃も兼ねているつもりなのだ。
「ほんとに残念だよ、可愛いのにさ」
「か、かか……可愛いって言うな!」
震えるような声で、顔を紅潮させながら叫ぶルシア。
こうやって見ると本当に、可愛い、美しい女の子で、顔と顔が近い距離で話し合えるのも何かの縁だと思えてきた。
「まあいいや、時間をかけてゆっくりと直せばいい」
「こ、こいつ……、て言うか本題に移れよ!」
「そうだね、君が無駄に話しかけてくるから」
「いやお前だろ」
「思い出してくれよ、どう考えても君だったろ」
「お前だ」
「君だ」
「…………」
「…………」
ガンッ! と地面に何かを叩き付けたような音がする。
……ひまわりがステッキで地面を──さながら竹刀を持った鬼教師のように、叩いたのであった。
「いいから早くしてくれません?」
「あ……ああ、ごめんなさい」
僕は目線をチラチラさせて謝る。
「はぁ……それじゃあ、本題に移るよ。多分、この建物のどこかに、様々なところからの盗品を保管している場所があるだろ? それを教えてほしいんだ」
「金が目当てか?」
「うん、それが第一の目的だね。後は、街の人々に貢献してやろうとも思ってる」
「私達の金を根こそぎ奪って、この団を潰そうってはらか?」
そんなところだろう。別に潰さなくてもいいっちゃ、いいのだけれど。
「そうなるかな」
「金のことは確かにそうだが。俺達をどうにかしたところで、街に貢献できるわけじゃないと思うぜ。それに、あんな腐った街なんざに貢献する必要もないだろ」
「腐った街って……そんなこと言われるような街だったかな……」
確かに良すぎることもないだろうが、現代よりはよっぽどいい街だと思ったんだけれどな……、ああ、そうか、僕は他の世界から来たからそういう風に感じるだけで、元からこの世界に居た人からすれば、この世界は十分腐りきっているものなのだろう。政府がおかしいとかそういうことかな?
「……あー、そうか、もしかしてお前雇われ兵か? 偶然やって来た傭兵もどきが、街の首長の命で俺達の盗賊団をぶち壊しに来たと? だったら、この街について全く知らねぇのも納得がいくってもんだ」
「それは勘違いだよ。僕はただ一泊でいいから、宿に泊まれるお金が欲しいだけさ。決して、誰かに頼まれたから来たってわけじゃない」
「……まあ、今さらどうでもいいことだがな」
それじゃあ、そろそろ倉庫として使ってる部屋を教えてもらおうかな──と、言ったときだった。
「──お前らは馬鹿だよ、さっさと俺を殺しておけばいいものを。アホみたいにペラペラくっちゃべってよ」
「なんだ君は喋ることを否定すると言うのか?」
「別にそんなことは言ってねぇよ。否定どころか、今の俺にとっては最高だ。お前らが一生懸命に口を動かしているのは、俺にとってはチャンスでしかないってことだよ」
「は?」
同時に、ひまわりが僅かに、ピクッと動いた。訝しげな顔である。
「言っている意味が分からないね、追い詰められているのは君だろ? この状況にはチャンスも何もない。僕が行うのは取引でも、交渉でも、一方的な話し合いでもない、ただの命令だ」
「だからさ、こんな風に喋っているときだって俺のチャンスになってるのが分からないのか? お前はこれで終わりだと思っているんだろうが──命があるなら、時間があるなら、それはピンチですらない」
「…………」
「まあ、ありがとよ。お前と話せてよかった」
糸を張るには、十分すぎる時間だったぜ?──と悪い笑みを浮かべ、舌を出すルシア。そして彼女は、僕の両の手首から手を離し、立ち上がったのだった。
「あ、あれ?」
「何故……動けません……」
ルシアが僕の拘束を解けば、その時点でルシアを挟み撃ちするというシチュエーションが生まれていたはずだったのに、僕は愚か、ひまわりすら体を動かせていない。
「こいつをゆっくりと、気付かれないようにお前らの手足に伸ばしてやった。少し時間はかかったがな」
ルシアは片手を上げてひらひらとさせる。
その手には、とても細い、簡単に千切れてしまいそうな鋼糸が伸びていた。あの階段に仕掛けられていたようなものと同じだ。
「まさか、君は……」
迂闊だった……勝ったと思って、思い込んで、警戒を怠っていた。僕は本当に馬鹿だ……。
顔を動かして見てみると、僕の手足には鋼糸が括りつけられているようで、どういう理屈か床に縫い付けられているようだった。
ひまわりもひまわりで、四つん這いのような格好で……見る限り、足だけ床と縫い付けられているみたいである。
「まあ、安心しろよ。殺しはしないと言ったろ? ……それでも念の為に、両腕くらいは頂いておくがな」
ルシアは魔法か何かで、鋼糸の鞭を作り出す。割と太めな物が出てきた。
ヒュン、スパンッ! と風を切り、何かに打ち付ける音。鞭の試し振りだろう。
「痛くないように、一瞬で焼き切ってやるから心配するな」
ルシアがそう言うと、鞭が一気に大炎上。それと同時に僕は体全体で、その熱を感じ取る。脂汗が止まらなくなってしまう。
鞭は、まるでアニメにでも出てきそうな炎の剣で、かなりの規模の炎を纏っていて、腕だけを焼き切ることなんてできずに、僕の全身を焼き尽くしてしまうんじゃないかと思うほどだった。
追い詰められているのは僕達だったようで……。
絶体絶命の状況で僕がやれることは一つだけだった。
「ち、ちょっと待って! 少しでいいからちょっと待って!」
「なんだよ? 遺言か? そんなの言っても誰にも伝えねえぞ」
「本当にちょっと待て! 遺言って殺す気なのかよ!」
「死ぬかもしれない可能性の方が高いしな」
「殺さないと言いつつも、殺傷能力高い技を使うの本当にやめてくれ!」
「で、何? もう待たねぇぞ」
残された僅かな時間に僕がやれることなんて、そりゃもう一つしかない。
僅か数秒で行えるその行動には、どんなときだって失敗を笑い話に変えるような力を持つ。
すなわち、謝罪である。
「やー本当に、悪いことをしたと思っているんです。ごめんなさい、許してください。もう何も悪さはしないのでお願いします、逃がしてください。僕には残された父と母と妹が居るんです、本当にお願いします。僕が居なくなったら、妹はもう一人じゃ生きていけなくなる。妹がたった一人でこれから先どうなることか」
「いや、今父と母が居るって言ったろ」
し、しまった……焦りに焦り過ぎて矛盾したことを口走ってしまったようだ!
「あ、いや、その、父と母は……出掛けてるので……」
「帰ってくるだろ」
「とにかく! 駄目ですかね? 許してくださいませんかね?」
「無理だ」
「だよね」
獄炎を纏う鞭が一気に振り下ろされた。
今回は鋼糸の魔法だったり、やっと、ファンタジーらしい炎の魔法(炎の剣、炎の鞭)を出せました、、
盗賊との戦いは後、一話か二話で終わる?のかもしれません。
三章のタイトルである、異世界の天使達、完全に放置中ですね。元々、盗賊戦がすぐに終わる予定だったので……
三章のタイトルを思いきって、『盗賊との戦い』みたいなのに変えるのもありですかね(笑)
長々とすいません。語り癖あるもので……




