22話【上には上がいる】
関係ないですけれど、僕はヤンデレ好きなので、作品の中にヤンデレのキャラを出してみたいなーとか思っています。
とにかく今までの道中。盗賊本拠地襲撃作戦を企み、攻めこみ、敵に見つかったり、罠に引っ掛かったりと、様々なことがあったが、今の今までは極めて良好と言える結果である。
未来に起きることを何も考えないのであれば、僕の行った行動は全て最善で最適で最高の選択だったと思う。
ただ、自分の未来を──次のことを考えるなら、やってしまった感がとても強い。
脅しのためにわざわざ存在を知らしめるような武器を使ったり、サウンドトラップという敵を集めるような罠に掛かったり、さすがに酷い顛末である。
まあ、盗賊と戦ったり、罠に四苦八苦したり、矢継ぎ早にイベントが起きてしまったので、対処しきれなかったというのもあるだろう。
結局のところ何が言いたいかと言うと。
敵を呼び寄せてしまうようなことをしたのは、随分とお粗末なことだったということ。
不幸中の幸い。
幸運と言えるのかどうかも怪しい、僥倖に巡り会えたことだろう。
その不幸中の幸いとは、目の前に現れた敵がいきなり攻撃を仕掛けないでくれたことだと僕は思う。
「──よっす」
肩を叩かれた。そして後ろからの呼び声。
ここで僕が過剰な反応を起こさなかったのは、敵ならこんな風にフレンドリーな挨拶をしてこないだろ、と言う浅はかな考えからだ。
体は向けずに、首を回し顔だけ後ろに向けてみる。
けれど、誰も居なかった。
「!?」
僕はすぐに前へ向き直した。
「ははは、騙されたか? 後ろに居るかと思ったら前に居る、面白いだろう? 俺の特技さ」
本当に、後ろに居るかと思ったら前に居るので、ギョッとなるようにびっくりしてしまった。
て言うか、俺なんて一人称を使っているから、男だと思ったが──いや、確かに女っぽい声色ではあったが。
目の前に居るのは女の子じゃないか!
それもとびっきりの美人さん。
なんともセクシーな女の子である。
思わず僕は、
「え、えっと、寒くないないのか? そんなエロい格好をして」
キョドってしまったというのが正しいだろう。
「ぶはっ! あはははははは、いきなりそんなことを言うなんて、面白いなお前。別に寒くねぇし、エロくもねぇよ」
いや、寒そうだ。絶対に寒いだろう。それにエロい。
だって、へそ出してるし、胸部は大きな胸を強調するような造りだし。
下は下で、太ももの半分くらいまでしか覆えていない、かの有名なホットパンツみたいなものだし。
露出高くてエロい、こんな人世の中に居ていいのかよ。
それに金髪碧眼って──どこぞの漫画キャラだよ!
おっぱいでかいな、おい。
「あー、それならいいんだけれど。ほら最近は寒くなったりしているし、あなたはとても美しいお方だから体に悪いんじゃないかと思いまして」
実際美人だ。
金髪碧眼に顔にスタイルが完璧だなんて、最高すぎる。
無意識に口説き始めてしまいそうだ。
「な、なんだよ、美しいだなんて──そんなの初めて言われたぜ。ありがとよ」
素直に感謝される僕。照れたように鼻の下を擦る彼女は、とても魅力的見えた。
「俺は自分でも思うんだけど、ちょっと乱暴なところが──って違う! そんな話をしてるんじゃない!」
流されやすいタイプかな?
「いいかよく聞け。俺の名前はルシア・デインズ! ここの盗賊団のリーダーなわけなんだが──これはお前の仕業か! 答えろ!」
やはり、ここに居るんだから当然と言うべきか。盗賊だった、しかもリーダー。嫌な奴に出くわしたものだと思ったけれど、流されやすいタイプっぽいので、案外簡単にこの場を切り抜けられそうだと思う自分がいる。
「つーかよ、せっかく作った罠をこんな風に台無しにされるわ、仲間をボコボコにされるわ、隠れ家に穴を開けられるしよう。何なんだお前は? 何をしにここにきたんだよ」
一つだけ、言わせてもらうなら、罠は僕を足止めするのに役に立っていたので、台無しと言うには違う気がするぞ。
「何のためにここまで来たんだよ? 答えろ! 悪人め!」
そりゃあんたら盗賊も同じだろ。
むしろ僕は善人だ。
「……そうだね、今夜の宿代くらい貸してくれないかなぁ、なんて思っちゃって、あはは」
「笑ってんじゃねぇ」
「…………」
静かな怒りを感じて、僕はすぐに黙る。
どうやら、女性のご機嫌を取っている場合ではなさそうだ。当たり前だ。
「正直に言わせてもらうと、別にそれと言った用も無いんだよ。何となくここに来たって感じかな? ほら、今日は月がよく見えると思ってさ」
全然、正直に言ってない僕である。
「それ本当か?」
怪訝な顔をしつつも、僕にこうやって訊いてくるあたり、信じてくれそうな感じである。
信じてくれたらありがたいのだが、それはそれで可哀想な気がする僕なのだった。
「ま、まあ……」
「嘘を付くな! ただ月を見に来ただけなら、こいつらをこんな風に殺す理由なんてないだろ!」
「ちょっと待って、この人達死んでいないから」
「さては、お前は俺達の保存してある物品を奪って行こうってんだな? そして兵糧攻めでも企んでやがるか!」
物品を奪おうとしたのは確かだけれど、兵糧攻めなんて全くしようとしていない。
て言うか、少々物を盗られたくらいじゃ、食糧不足に陥るほどの金銭不足になんてならないだろう。
「月を見ようと思ったら、急にこいつらに襲われたんだ! 正当防衛だよ、正当防衛! それによく見てみろよ、こいつら生きてるんだから」
おそるおそると言った感じでルシアが彼等の体を触る。
「むぐぐ、確かに死んじゃいないみたいだな」
はぁ、と溜め息をつき、ルシアが言った。
「仕方がない、俺達の仲間が無礼な真似をしてすまなかったな。俺から謝っておくよ」
え?
まさか彼女は、盗賊のアジトで月見をしていたら急に襲われました──なんて虚言を信じたのか?
こうなったら行けるところまで行くしかない。
この騙されやすい──ではなくて、信じやすい性格を利用して、エロい方面のイベントへと向かう────わけでもなくて、より僕が得する方面へと誘導すべきである。
「……気を付けて、こいつら誰かの魔法に操られているみたいだ!」
もはや妄言。
僕は倒れた盗賊達を指差して言った。
果たして、こんな行き当たりばったりの嘘八百に騙される人間は、
「そ、そんな……一体誰がそんなことを……」
普通に居た。
それにしても、淑女のたしなみの一つとして、言葉遣いを綺麗にすれば、ルシアはかなりの大物女優にでもなれそうだと、僕は勝手に妄想を始めていた。
仲間を心配する、焦っているような表情でいる彼女を見たら、そう思うのも仕方のないことである。
ともかく、それは置いておくとして。
仮に僕が漫画やアニメの主人公ならやってはいけないことを今からやる。やってはいけないと言うか、セオリーから外れた、と言う感じかな?
女の子を騙して一団体を破滅に導こう! という至って暴力的なプランを思考した僕なのであった。
多分、やれる。この短いやり取りで分かった。
ルシアはとてつもなく扱いやすい人間だ。いい意味で。
「精神操作の魔法じゃないかと僕は思うんだけれど」
「『洗脳魔法』? まさか、何のために」
「目的は分からないが、この盗賊団を内側から壊すためとかかな……?」
「くっ、分からないなら──今はとにかく仲間達の洗脳を解かないと」
「でも、もうこの人達は、もう元に戻る可能性は……」
「そんな……そんなことない! 絶対にこいつらは元に戻る!」
「…………分かった。僕も手伝うよ」
「ああ、頼む!」
と、ここで雰囲気がどうも固まった気がした。て言うか、ルシアが僕を睨んでいるんだけれど……何で?
鬼のような形相で睥睨しながらルシアは言った。と言うか、叫んだの方が、表現としては近いかもしれない。
「──って、んなわけあるかァァァ!!」
まさかの展開。
饒舌に、流暢に、口を動かし、とんとん拍子で進んでいた会話だったのに、感動的なシーンにはたどり着けなかった僕とルシア。
感動シーンと言うのは、仲間を殺したくないけれど殺さなくてはならない、みたいなシーンである。
何にせよ、こんな流れに流されに流されまくりそうな彼女を、騙す騙さない以前に、嘘だということが気付かれていたみたいだ。
「思わずよ! ちょっと、話の流れに乗っかかって、ノリに乗っちまったけどよう。操られるだとかどうとかの話が嘘だってことぐらい分かるっつーの!」
なんと、ルシアは僕の、至って単純な三文芝居に付き合ってくれていたと言うのか。
これが現代なら、こんなアホみたいな茶番に乗ってくれる人間はさぞかしもて囃されそうだ。
「わ、分かっているなら、初めからそう言ってくれればよかったのに……無駄な時間を使っちゃったよ」
「お前は随分と舐めた真似をしてくれたな! 仲間の命は無駄にしない! 絶対に敵を討ってやる!」
「待ってくれ、さっき説明しただろ。君の仲間は死んでないんだよ。そんな躍起にならなくてもいいじゃないか」
「うるさい! 嘘をつくな! そうやって生きていると油断させて俺を殺す気だったんだろ!」
「殺す気なんてないって! それにさっき生死を確認してたじゃん、それでホッとしてたじゃん!」
「それはお前の魔法か何かで偽装しただけだろ?」
こ、こいつ……勝手に騙されてやがる……。
この捏造された嘘も見破れよ……。
「許さないからな、本当に許さないからな」
ぶっ倒してやる!──とルシアが、女の子にはアレな表現だが、野生のイノシシのように獰猛な突進を仕掛けてきた。
僕は一対一の近接戦闘なら、最強(素手VS素手に限るが)だと自負している。謙遜ではなく割とマジで。
現代の格闘技のなんたるかを知る僕は──いや特に志があったわけでもないが──全ての格闘術の動きを身体に刻んでいた。
そんな油断もあったのだと思う。突っ込んできた勢いを利用して、ルシアを一回転させてやろう、と軽い気持ちで技をかけようとしたときだった。
グワッ、と僕の視界が急転換。
気付けば、いつの間にか建物の天井が、五階の床が見えていた。
背中に走る、どこかにぶつけられたみたいに骨の芯まで響くような痛み。
「え……?」
「へっ、弱っちい野郎だ」
一回転したのは僕だった。
そう、一回転させようとしてさせられてしまった辱しめを受けたのは、何を隠そうこの僕なのであった。
「嘘……」
まさか……という心とは裏腹に、彼女のカウンターに感嘆したように声を洩らした僕。
ルシア・デインズ。
思ったより強敵だ!




