20話【天空からの襲撃!】
少し間が空いてしまいました──。
最低でも週に二回は更新したいですよね……
「さてと、今からどう攻め込もうかな」
三つの死体を馬車に隠したところで、僕は思い付く。
「……て言うか、攻め込む必要がないような……、積み荷から金目の物を貰っていけばいいだけじゃないのか?」
「それは思い付きませんでした。私達の目は節穴だったようです」
「僕も君の考え方に感化されすぎて、控え目な考えに至らなかったようだ」
「それって私が過激な考え方してるって言いたいんですか?」
「どうだろうね。どっちにしろ、これで無駄な殺生はしなくてもよくなったわけだ」
「無駄な殺生ですか……。お兄さんは殺しについてどう思っているんですか? 人殺しは理由があっても駄目と言うような人ですか? 無駄な殺生ではなくても殺しなど駄目だと言うタイプですか?」
そんな質問。急に、そんな真面目な質問を問いかけてきたひまわり。僕は少しびっくりしたけれど、黙ることなく答えた。
「…………僕は、人を殺すことに対して、道徳的な何かを思ったりすることはあまりないね。だって、僕が人を殺すときは、それは殺すべきときだったからなんだろうし。意味もなく人の命を無下にはしないよ」
「意味があれば……そのときは躊躇はしないんですか」
「躊躇はするかもしれない。けれど、それだけだろうね。躊躇はするけど殺すことに対して抵抗はない。そんな感じ」
「お兄さん、私よりよっぽど物騒ですよ」
「……それはない」
「ありますよ。物事の選択肢で、街の人々の虐殺というルートがあるとして、それが目的を達する上で最適な選択ならば、迷わずそれを選ぶんですよね」
「…………そうだね。そうかもしれない」
実際にはどうするか分からない。
虐殺と言うと、やはり数百、数千を殺害する意味合いがあると自分で解釈してるのだが、そんな大量の命を奪うというのは罰が当たりそうで怖い。恐い。
まあ、逆に言えば、それだけなんだけれど。
でも、この異世界に生きる人達の全てを──僕はまだ知らない。
現代のような人々なら虐殺なと躊躇なくやれるだろうけれど、いい人達だらけだと言うなら、良識ある善人の集まりだと言うなら、躊躇も抵抗もあるかもしれない。
「そんなお兄さんだから、そんなにあなただからこそ、信用できるかも──と、私は思うのでしょうね」
お姉さんよりは……ね?──と、ひまわりが言う。
「僕はいつの間に、月夜より信用が深くなっていたんだ?」
「あくまでお姉さんよりはです。私はお姉さんのことを全く信用していなかったので、お兄さんもやはりその程度ですよ」
これは本音なのか、それともただのツンデレなのか。
判断しかねるところだった。
「こんな話はやめて、金品を頂きましょうか。早く水を浴びて、柔らかい床で寝たいですから」
水浴びって言うのは、現代のお風呂のことだとして、柔らかい床はベッドのことか?
て言うか、普通にベッドって言えよ。
「だな。……せっかく死体を隠して、布まで被せたのに──」
その他もろもろ愚痴りながら、僕は布をスッと取った。
のは、いいのだが……判断を間違えたようだ。とんでもない失態を犯してしまった。
「──ひまわり、やっぱりこの作戦は駄目だ」
積み荷の中には確かにお金になりそうな物はあった。あったのだけれど……。
「……物資が全部、血で汚れてる」
安易に、深く物事を考えずに、思慮深く行動しなかった結果。死体から溢れる血液が、物品を赤黒く染めていた。
中には食料品もあったし、宝石のような物もあったけれど、血で汚れてしまえばどちらも売り物にはならないだろう。
とても、とてつもなく残念だが、僕達は今考えられる最適の選択をしなければいけなくなった。
もちろんそれは、馬車の積み荷を奪うというものではなくて──盗賊の本拠地襲撃である。
「これはやっちまったですねぇー」
お茶目に言い放つひまわり。
フラグは立ってなかった、とは言えない。完全に頭が回らなかった自分自身の責任だ。
「仕方ない……やるしかないだろ。盗賊達に見つからないように金品を奪うしかない」
見つかれば、戦闘は絶対に避けられない。
これもまたフラグなのかもしれないが……。
「あー、こんな狭苦しい荷車じゃなくて、幌くらいの空間があれば、一部は汚れずに済んだんだろうけれど……」
幌なんて人を運ぶわけでもないのに使ったりしないよな。
……そこは人の好みか。
「まあまあ、落ち込まないください、どっちにしても結果は変わりません。少し時間を無駄にするだけですよ」
「うん……そうだね」
ひまわりの補助系魔法があれば、何とかなるか。
そう、僕は楽天的に考えてみる。楽天的に考えたかった。
「こうなったら意地でも盗賊の集団を壊滅させてやる」
「本気ですか……? 壊滅なんて、本当に無駄な労働にしかなりませんよ。私達にメリットはほとんどありませんし」
「人がやる気出したときに、それを削ぐようなこと言わないでくれよ!?」
はぁ、と溜め息をつきながら辺りを見回してみる。
辺りは真っ暗。森の中だった。
森の中だと意識した瞬間、身体中に小さな虫がまとわりつくような気持ち悪い感覚がして、気分が落ち込んだ。虫のうるさい鳴き声が聞こえるので仕方のないことではあるが。
それにしても、奥の方に明かりが見えたのだが、あそこに盗賊達が居るのだろうか。
「暗いし、森の木々が邪魔でよく見えないや」
と、僕が奥へと進もうとしたとき。
「報告が遅いな」
「……馬車をほったらかしてどこ行ってんだか」
進もうとした方向から、二人の盗賊がやって来たのだ。
これは失念していた。仲間と落ち合うなんて可能性だってなくはないはずだったのに。
僕は、バッと、森の茂みへと飛び込む。全力全身全霊のヘッドスライディングである。枝などに引っかかり擦り傷切り傷などができてしまったが、問題はない。
ちなみにひまわりは馬車の後ろに張り付くように隠れている。
「……おい、今なにかいなかったか?」
「暗くてよく見えねえよ。なんか狐でもいたんじゃねえのか?」
へっ、この無能盗賊の無能っぷりで助かった。
それにしても狐とか出るんだ。
異世界だから強力なモンスターとして生きていたりするのかな……。
相手は松明などの明かりを持っていないので、こっちが不審な音を立てたりしない限りは認知されないだろう。
逆に僕も話し声が聞こえなければ気付かなかったと思う。
「そこら辺に隠れて驚かせようとしてんのか?」
「まさか。あの輸送係の三人はそんな性格じゃねえよ」
確かに三人は隠されてはいるな。そして多分、意図せず驚かせてしまうはずだ、死体だから。
まあ、驚かせる暇なんてやらないけど。
「ひまわりのやつは大丈夫かな……」
ボソッと呟いて、注意深く馬車を見ると、いつの間にか張り付きではなく、馬車の下へと潜り込んでいた。
あれは気付かないな……。本当に注意深く見ないと。
黒色の法衣──黒色のコスチュームが効果をなしているようで、暗闇に紛れているようだった。
ひまわりが僕に向かってステッキを振ってくれなければ気付かなかったと思われる。
「とりあえず荷物を持ち逃げされてないか確認しようぜ」
「そうだなー、めんどくさいけど見とくか」
盗賊が馬車に近付いた。
刹那──僕は茂みから飛び出し、音もなく……とは言えないが、できる限り足音が出ないように走る。
そして、盗賊二人との距離は僅か数メートル。
そこまで近づけば、気付かれないわけもなく、一人が「ん?」と振り向いた。
「おやすみ」
僕はそう言って、跳んだ。走り幅跳びみたいに。
走った勢いそのままに跳んで、振り向いた盗賊に突っ込んだ。
そして頭を掴み、疾走の勢いがプラスされた、叩きつけ。
僕は盗賊の頭を馬車へと叩きつけてやった。
バキャッ! と、馬車が少し破損する音がした。音に紛れて盗賊の頭が割れる音がする。物騒なものだ。
「うわっ! なんだお前は!」
突然の急襲にもう一人の盗賊は驚愕の表情を浮かべる。
だが、それは一瞬のことで、盗賊が手を僕に突き出すと、光が見えた。
「直雷!」
雷系魔法! なんて存在はあるかどうかは置いておくとして、いや聞いた気がしなくもない。
とにかく、バチっと音を立てて、電撃が襲いかかってきた。
茂みに飛び込んだときのように、僕はバッと躱す。そのまま前転するように着地。
「魔法か、嫌なもの持ってるな」
盗賊はほとんどのやつが魔法を使えないんじゃないのかよ。
「見たところ魔法は使えないみたいだな、お前! 残念だが、俺の勝ちだ!」
ボルトシュ──そんな、言いかけの言葉が彼の最後の言葉だった。
後ろからひまわりが盗賊を殴ったのだ。ステッキで殴られた盗賊はよろめく、そんな隙を僕は見逃さない。
「残念だけれど、魔法が使える使えない以前に、あなたの負けは決まっていました。背後を取られている時点で」
そして、ナイフを盗賊の首を切り裂いた。血が吹き出る。
「──ありがとう、ひまわり」
「いえいえ、どういたしましてです」
「……もう死体は隠さなくていいよね?」
「あー、そうですねー、いいんじゃないですかね。どっちにしろここから離れたら、荷物確認の体で死体を見られてしまうでしょうから。ずっとここに居るわけにもいきませんしね」
だな。じゃあもう放置でオーケーということで。
「それじゃあ行こうか。明かりの方へ向かって」
∮∮∮
僕達は明かりがはっきりと見え、かつ、隠れることのできる茂みの中に居た。
そこには、廃墟という言葉がぴったりの五階建ての建物があった。植物や苔が絡み付いていて、いかにもな。
何に使っていたのかは分からないけれど、森の中にポツンと立てられてある物件。街の公認のものとは言えないのではなかろうか。
問題はそこではなくその物件を囲むようにたくさんの見張りが居たことである。
さすがは盗賊の『本拠地』。
「いやはや、中々シビアな陣形を組んでいるよね。二人だけじゃごり押しは無理そうだ」
「一応、ここらの地域の盗賊の本拠地ですからね。守りが甘い方がおかしいですよ」
「やっぱり静かに潜入するのが一番だろうけれど、できればどこに盗品が保存されているのか知りたいな」
一階から五階の全てを踏破するのはめんどうくさいし、時間もかかるからリスクが大きい。
「……そうだ、空から侵入しましょうか」
と、ひまわりが両手を合わせて言う。
「どうやって?」
「もちろんステッキです。高度の高い飛行は持続性がないんですが、屋上に行くくらいなら楽勝です。かなり高い位置から近付けば、地上から目撃されることもないと思いますよ」
ふふふ、と笑いながら答える彼女。
「ああ、いい案だ。今まででもっともまともで一番いい案だよ」
誉め言葉だ。だけど何だか不満げな顔をするひまわり。
「じゃあ乗せておくれよ、ひまわりさん」
機嫌を良くしてもらうために、さん付けで名前を呼んだが、意味はなかったようで、
「さっさと乗ってくださりますか?」
ちょっと半ギレの半ギレ状態だった。
「うん、ごめん」
ひまわりがステッキにまたがり、次に僕がまたがる。
前々から思っていたのだが、幼女の持つステッキなので大きさがそれ相応で、二人乗りがけっこう辛い。
猛スピードで飛行されたら振り落とされること間違いないだろう。
その辺のところは、ステッキの伸縮機能とかがあればいいのだけれど。
「じゃあ飛びますよ」
ひまわりがそう言うと、僕が意を決する暇もなく、ギュンっと空へと射出されるように飛び立った。
空へと地面と垂直に移動していて、ステッキも地面と垂直。つまりすごく大変な体勢でいる僕。
下に居る盗賊達が米粒のように見える高さまで到着したところで、垂直移動が停止される。
無茶な飛行の結果、僕はステッキに腕一本でぶら下がっている状態だった。
「は、早く下ろしてくれー!」
情けないかもしれないが、至極当然の反応と言えよう。
──ともかく僕達は無事、屋上へと到着した。敵から見つからなかったのは、上空から攻めてくるなど夢にも思っていなかった、ということなのだと思う。




